桜ハウスへいらっしゃい!

daisysacky

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第15章  いのち短し 恋せよ乙女?

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「さ、立ちましょ」
 うつむいたままの佐伯さんに、待子は声をかける。
気が付くと、小さな男の子だけではなく、そのお母さんらしい人まで、
けげんな顔で、こちらを見ている。

「おかーさん、おかーさん、あのね!
 あのおねーさんがねぇー!」
 いきなり大きな声で、あの男の子が叫ぶので、ようやく気付いたように、
佐伯さんは顔を上げて、驚いたように立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
 少し離れた所から、その女性に声をかけられると、佐伯さんは頭を振り、
「あ、ホント、大丈夫です」
あわてて待子が言うと、ペコリと頭を下げて、佐伯さんをかばうように
「さ、行きましょ」
 今度は佐伯さんの背中に手をまわして、ゆっくりと電話ボックスの扉を押した。
 男の子はまだ、じぃっとこちらを見ている。
「ほら、邪魔でしょ!こっちへいらっしゃい」
その女性は、あわてて待子たちから目をそらすと、男の子を引きはがすように、
腕を引っ張る。
「えー」
不満そうに声を上げて、男の子は、その母親に引きずられて行く。
そのすきに、待子は電話ボックスから佐伯さんを引っ張り出すと、
「とりあえず、この公園の近くに、知り合いの家があるから、そこへ行きましょ」
そう言うと、ぐぃっと佐伯さんの背中を押した。

 電話ボックスの側の公衆トイレを離れ、ブランコとは反対方向へ
行こうとすると、
「あっ、自転車」
佐伯さんが小さくつぶやいた。
それなので、もう1度取って返すと、茂みの側で、横倒しになっている自転車を、
待子が代わりに起こすと、
「カギは?」と、手のひらを差し出した。

 ブランコの所では、まだ男の子がこちらを見ている。
その子をチラリと見ると、
「大丈夫よ、ゆっくり行きましょ」
かばうようにして、佐伯さんの背中を押した。
 相手方には、まだ電話をしていないけれど、まぁいいかぁ~と、
待子はチラリとそう思っていた。
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