ダンナ様はエスパー？

第1章 甘い生活？

１０

（久志さんってば、私の事、子供だと思っているの？）
　何しろ彼は、灯里よりも一回り以上年上なのだ。
ジェネレーションギャップもあるのだが、ここまで離れていると、
むしろケンカにもならない。
彼にとって、おそらく珍しい生き物のような存在なのだろう。
だがこちらとしては、いつまでもこうして、子供扱いされるのは、
ちょっといただけないなぁ・・・
灯里はちょっと、ムッとした。

　だけど食べ物には、罪はない。
言われるままに、さらに箸を伸ばすと…
「うーん、この玉子焼き、美味しい！」
　ムスッとしていても、やはり食欲には勝てない。
ふんわりと、黄金色にきれいに焼けた玉子焼きは…
柔らかくて甘い。
その触感に、舌も喜んでいる…
思わず灯里の顔もほころぶ。
　彼の焼く玉子焼きは、彼女の好みを知り尽くした一品で、
彼女にとって、ドストライクの味なのだ。
ほどよく焦げ目もつき、黄金色の甘い誘惑。
その完璧なフォルムは、どんなに怒っていても、つい降伏してしまう
珠玉の一品なのだ。

「たくさん作ったから、お昼にでも食べてね」
ニコニコしながら言うので、さっき怒ったことも、すっかり
許せてしまうのだ。


「それにしても…その人…ホントにお隣さんなの？」
　まだ心配そうに、彼は灯里のことを見ている。
「うーん、メールボックスで確かめたんだけど…
　やっぱりお隣さんの名前だった」
　何しろ、その人がいなくなった後に、確かめに行ったから
間違いはない。
後は…人の名前をかたっていない限り…

「でも、名前をかたっていたら、わかんないよ」
早速、痛い所をついてきた。
彼はまだ、心配そうに灯里を見ている。
そんなことを言ってたら、不安でおちおち1人で出かけられない
ではないか！
彼女が黙って箸を動かすたびに、彼は今度は味噌汁を
注ぎに、キッチンに向かった。