ダンナ様はエスパー？

第4章 まさかの奇跡…

３

「灯里、大丈夫か？」
　ようやく久志がたどり着いた時には、精算が終わったところだった。
「来なくてもいいって、言ったのに…
　もう帰るからって、連絡したのに」
困ったように、灯里がそう言うと、久志は「そうなの？」と聞きながら、
彼女に近付いた。
「それ、見てなかったよ」
ヘラヘラと笑って、携帯をポケットから取り出す。
おそらくは、メッセージを見る暇がないくらい、あわてて駆けつけて
くれたのだろう。

「母さん、ごめん」
　すぐに母親の方を向くと、久志は頭を下げた。
するとようやく自分のペースが戻ったのか、
「ホントよ！さっきも言ってたけれど、私が帰って来て、本当に良かったでしょ？」
誰もこのことに、触れようとはしないので、まるで自分の手柄のように、
自信満々な顔をして、母親はそう言う。
「あっ？あぁ～」
いつもは穏やかで、全く表情を変えない久志らしくなく…
とても取り乱しているのが、見て取れる。
（ワタシ…そんなに心配をかけたの？）
灯里は申し訳なく思う。

「あら、久志さん、カバンは？」
ふいに彼の様子が、いつもと違うことに気が付く。
「えっ」
彼はようやく、自分の手元に気付き…
「しまった！会社に忘れた…」
恥ずかしそうに笑う。
「あらっ！」
「もう…何やってるのかしらねぇ～」
ケラケラとお姑さんが笑う。
「そうだ、母さん…どうしてここにいるの？」
今気が付いた、という顔をして、久志が聞く。
「あらっ、灯里さん…まさか久志に、話していないの？」
「えっ？」
いきなり話を振られるとは思っていなかったので、灯里はふいに、
まだしていなかったことに、気付いた。