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3話 念願の人との約束
しおりを挟む家に帰った久美子はモヤモヤしていた。
(ホンユさん、もしかして私に気が…まさかね。ただの挨拶のハグだよね…)
そう自分に言い聞かせていた。
それから毎日、スジンとホンユからメールが届くようになった。
1週間後。スジンから食事に誘われた久美子は、仕事を終えると約束の場所へ向かった。
お店を探すが見つからずウロウロしていると、スジンがやって来た。
「スジンさん!」
「ゴメン!分かりにくいところだから迷うんじゃないかと思って、ここで待ってた。行こう。すぐそこだから」
着いたところは奥に入り込んだ隠れ家的なお店だった。
「個室じゃなくて大丈夫なんですか?」
「ここは俺の事務所関係者しか入れない店だから」
「そうなんですか⁈そんなお店なんですね」
「今日はみんな忙しいから、誰も来ないと思う。来たとしても、社員ぐらいだろうから」
そう言うと、スジンは注文し始めた。
「明日は仕事休みだろ?ワイン、ボトルで頼もうか」
「はい。いいですよ」
料理とワインが運ばれ、乾杯した。
「俺、毎日メールしてるけど、ウザくない?」
「ウザいだなんて…ただ、何でこんなに良くしてくれるんですか?」
「分からない?何故か」
「え…」
「とりあえず飲もう!そのうち分かるから」
(もしかしてスジンさん…私のこと…)
前に洋子が言っていたことを思い出した。
あっという間にワインのボトルが空になった。
「スジンさん、ペース早すぎじゃないですか?」
「そぉ?久美ちゃんも飲んで。もう1本頼もう」
「あっ、はい。スジンさんはお酒好きなんですね」
「そうだね。弱いんだけど…」
(弱いのか…大丈夫かなぁ…)
「そういえば、ホンユから連絡とかはないよね?」
「…一度、飲みに行きましたよ」
「そ、そうなの⁈」
(あいつ…)
すると店のドアが開き、誰か入って来た。
「いらっしゃいませー、チスンさん」
(え…)
チスンがお店に入って来た。
(う、うそ…)
久美子の心臓がヤバいくらいドキドキし出した。
スジンは驚き、思わず声が出た。
「チ、チスン…⁈」
スジンの声を聞いたチスンが、私たちの席に近付いて来た。
「スジンさん、来てたんですね」
「あ…ああ」
チスンは久美子を見る。
目が合った久美子は恥ずかしさのあまり下を向いた。
「チスン、お前1人か?」
「はい」
「こっちで一緒に飲む…か?」
チスンは断ると思い、スジンはわざと聞いた。
「え、でも、お邪魔じゃ…」
久美子を見ながら言った。
「そっか」
「全然っ。大丈夫です!」
「く、久美ちゃん…?ハハハ…一緒に飲むか」
「じ、じゃあ…」
念願のチスンに会えて舞い上がる久美子。
残念そうなスジンと、少し戸惑うチスンだった。
「まっ、飲もうぜ」
改めて3人で乾杯した。
(ヤバい…カッコ良すぎて、まともに顔が見れない…)
「スジンさん、ワイン2本目ですか?大丈夫です?」
「大丈夫だよ。それよりお前、今日は忙しいはずじゃ?」
「はい。順調に進んで、予定より早く終わりました」
「そ、そうか…」
チスンはチラチラと久美子を見る。
「あの…聞いていいですか?」
「え?」
「スジンさん、こちらの方は?」
「あ、あの…申し遅れました。久美子と言います」
「日本の方?」
「そ、そうなんだよ。最近こっちに住み始めたんだ。ね、久美ちゃん?」
「はっ、はい」
チスンはそれ以上、2人のことを詮索しなかった。
スジンは3本目を飲み干し、4本目のワインを頼んだ。
「初めて見ましたよ。こんなに飲んでるスジンさん…」
「俺だってこのくらい飲めるよ。お前たちも飲め」
「飲んでますよ」
「久美ちゃん、可愛いだろ!」
「ちょっ、ちょっとスジンさん!」
「久美ちゃんと出会えたのも、憎たらしいけどホンユのおかげなんだよ」
「ホンユ?え?どうやって知り合ったんですか?」
「久美ちゃん、説明してあげて」
久美子は知り合うまでの流れを話した。
「すごいだろ?」
「はい…」
「まぁ、お前だったら考えられないことだろうな…冷酷だもんな」
「はい?冷酷って…僕がですか?」
すると、トイレに行こうと席を立ったスジンが倒れ込んだ。
「スジンさん‼︎」
チスンはスジンを抱えて、2階のフロアに運び、しばらくして戻って来た。
「スジンさんは?大丈夫なんですか?」
「2階に仮眠部屋があるので、寝かせて来ました。飲み過ぎたんですよ」
「そ、そうですよね」
2人っきりになってしまい、再び緊張する久美子。
「飲み足りないんじゃないですか?」
「は、はい…」
本当はお腹いっぱいだったが、チスンともう少し同じ空間にいたくて嘘をついた。
「スジンさんいないけど、大丈夫ですか?飲みます?」
「飲みます!」
チスンは優しく笑いながら、ボトルを頼んだ。
(幸せ過ぎる…あの…あのチスンと…今こうして一緒に飲んでるなんて…夢みたい…)
久美子は頑張って平常心を保っていた。
それから1時間ほどで2本のボトルを空けて、さらにもう1本注文した。
「お酒、強いんですね」
「そんなことないです。チスンさんの方こそ…」
「強い方だと思うけど、ワインはあまり得意じゃないので、今日は酔ってるかも」
たまに可愛い表情をするチスンに、久美子は見惚れていた。
「今さらなんですけど…僕のこと知ってます?」
「知っていますよ。もちろん!」
「ドラマで?」
「はい!演技力…素晴らしいですよね」
「本当?ありがとう」
チスンの大ファンだということを言いたかったが、我慢した。
「テルミーコールミーのドラマが一番好きです!」
「そうなんだー?」
「いつか、あのイルミネーションの場所に行ってみたいな~」
「あそこなら車で行ける距離ですよ」
「はい。でも…車持ってないし、まだ土地勘ないから地下鉄に乗るのも自信がなくて…」
「…それなら、今度連れて行ってあげましょうか?」
「…え⁈」
「あ、でもスジンさんに怒られるか…」
「そんなことありません‼︎」
「スジンさんとは何も…ないの?」
「ないです!ないです!」
「そっか…じゃあ今度案内しますね」
「めちゃくちゃ嬉しいです‼︎ありがとうございます‼︎」
(やった‼︎やった‼︎)
心の中で久美子は叫んだ。
「いつ頃にしましょうか。できたら人が少ない時間帯がいいから、夜遅めの方がいいんですけど…それでもよければ」
「大丈夫です。チスンさんの都合のいい時で」
「じゃあ、スケジュール確認して、分かり次第連絡します」
(連絡するっていうことは……♡)
チスンは、紙とペンを取り出して申し訳なさそうに久美子に渡した。
「あの…番号、書いてもらっていいですか?」
「はっ、はい」
「ありがとうございます」
(そっか…チスンは警戒心が強いからって言ってたもんな…番号交換する訳じゃないんだ…)
非通知で連絡が来ることを、少しだけ残念に思ったが、チスンに連れて行ってもらえることを考えると、喜びを隠せなかった。
チスンは久美子の喜ぶ笑顔を見て、いつの間にか心が癒されていた。
チスンが呼んでくれたタクシーに乗り、久美子は家に帰った。
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