11 / 102
第1章
11話 今までで1番孤独で温かい誕生日
しおりを挟む翌朝、スミは朝食も作らずベッドから出なかった。
「スミ、体調でも悪いの?俺もう行くよ」
スミは裕二の顔を見ずに頷いた。
「あっ‼︎それと今日は取引先と会って飲みに行くと思う。遅くなるから」
そう言って裕二は家を出た。
女と会うくせに‼︎嘘ついて…
今までのことは全部嘘ついてたのね…
スミは何もする気が起きず、夕方までベッドに入っていた。
今日は2月20日…私今日、誕生日なんだ…
なのに…なのに…
20時になり、スミはいつものコンビニへ行き外でビールを飲んでいた。
そこに酔っ払った中年の男性がスミの所へ寄って来た。
なっ、何この人…
「姉ちゃん、こんな所で1人で飲んでるのか?」
「…はい」
「もっといい所で俺と一緒に飲もうぜー」
「…遠慮しときます」
「いいだろ。おぉ!姉ちゃんスタイルいいね~行こうよ。2人っきりで飲めるとこに」
男はスミの肩に手を回し連れて行こうとする。
「やめて下さいっ‼︎」
「いいから黙ってついて来なっ」
「いやっ、離して下さいっ‼︎」
すると後ろから誰かが、スミから男を離した。
「何だ‼︎」
「嫌がってるでしょ」
シュンだった。
「あっ…」
「誰だテメェ‼︎邪魔すんなっ」
男はシュンに殴りかかろとすると、シュンは男の腕を掴んだ。
「うっ…」
「俺の女だ。やめろ」
「そ、そうだったんですね。すみませんでした」
男は走って逃げて行った。
「大丈夫ですか?」
「はい…ありがとうございました。でもどうして…」
「ちょうど車で通ってたら見かけたので」
「そうでしたか…助かりました」
「あっ…さっき俺の女とか言ってすみませんでした」
「いいですよ。ハハ…」
「そんな格好で1人で飲んでたら、また声かけられますよっ」
「え…?」
あ…ちょっとスカート短か過ぎたかな…
「僕も一緒に飲んでいいですか?」
「でも車じゃ?」
「家に置いて来ます。すぐ戻って来ますのでここに居て下さい」
「わかりました」
シュンは車に戻り、家に向かって行った。
スミはビールが無くなり、自分とシュンの分2本買いにコンビニに入った。
10分後、シュンが息を切らしながら戻って来た。
「走って来たんですか?」
「はっ、はいっ」
「アハハ」
「どうしました?」
「いいえ…あ、ビールどうぞ」
「買ってくれたんですか?ありがとうございます」
喉が渇いていたシュンは勢いよく飲んだ。
「あの…ちょっと聞いていいですか?」
「何ですか?」
「こんなとこで飲んで楽しいですか?」
「え⁈そ、そうですね…でもそれを言うならスミさんだって」
「楽しいっていうか落ち着くんです。嫌なことがあった時、ここで飲むと自然に落ち着いてくるんです」
「じゃあ…この前も今日も、嫌なことがあったんですね…」
「…そうですね。ハハ…」
シュンは何も聞かず黙っていた。
「…こんな日に1人だなんて」
「こんな日?」
「私…今日、誕生日なんです」
「え‼︎そうなんですか⁈」
「なのに…裕二は…」
裕二の事を考えると辛くなり、スミは下を向いた。
「スミさん…」
「あ、何かすみません」
「スミさん、これから予定あります?」
「え?特に何も…」
「じゃ、ちょっとついて来て下さい」
シュンはスミを連れて10分ほど歩き、入り込んだ場所にあるお洒落な雰囲気のお店の前で止まった。
「ここは?」
「飲み直しましょう。実は外、寒かったんです。中で飲み直しましょう。ご馳走します」
「え…はっ、はい…」
シュンはスミの手を引き中へ入った。
感じの良い店内だった。
シュンは店長らしき人の所へ行き、しばらくしてスミの所へ戻って来た。
「どうしたんですか?」
「注文してきました」
「え?わざわざ言いに行ったんですね」
「はい」
2人のテーブルにシャンパンと料理が運ばれてきた。
「シャンパンですか⁈」
「はい。乾杯しましょ」
「はい。乾杯」
「乾杯!お誕生日おめでとうございます!」
え…だから…シャンパン…
「あ…ありがとうございます」
「適当に頼んだから食べて下さいね」
「はい!家の近くにこんないいお店があったなんて知らなかったです。社長さんはよく来られるんですか?」
「前に1回だけ来たことあります。また行きたいと思って、行かずのままでした」
「近いし、奥さんと来たらいいじゃないですか」
「妻はこういう所、好きじゃないから」
「…そうなんですね」
「あの…気になってたんですけど…」
「え?」
「僕のこと社長さんって呼ぶのはやめません?」
「あっ、すみません。嫌ですか?」
「は、はい…ちょっと…下の名前でいいですよ。シュンで」
「シュンさん?」
「はい。僕もスミさんって下の名前で呼んでるし」
「わかりました」
そして2人が飲みながら食事をしていると店内が真っ暗になった。
「えっ、停電⁈」
すると音楽が流れ出し、奥から店員がローソクを刺したケーキを持ってスミの前に置いた。
えっ…こっ、これって…
「お誕生日おめでとうございまーす‼︎」
「火、消して下さい」
「は、はい」
スミがローソクの火を吹き消すとお店の中が再び明るくなり、他のお客さんからの拍手が鳴り響いた。
「スミさん、改めて…おめでとうございます」
「…ありがとうございます」
お店に入って早々シュンが店長の所に何か言いに行ってたことを思い出した。
この為にシュンさん、お願いしに行ってたんだ…
スミは久しぶりにこんなに祝ってもらって嬉しくなり、気付いたら涙が出ていた。
「ス、スミさん?どうしました⁈」
「…嬉しくて」
「スミさん…あっ、ワイン飲みましょうか。赤ワイン、ケーキに合うんですよ」
「…はい」
8
あなたにおすすめの小説
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
軍人伯爵に復讐するはずが・・・
ほのじー
恋愛
【完結】元国の英雄で伯爵×復讐に燃える家庭教師のヒストリカル・ラブ・ロマンス!!
かつて国の英雄で提督だったガイルは今や酒と女に溺れていた。彼のせいで兄や仲間を失ったにもかかわらず彼は生きていたのだ。片目を失い引退した彼は領地に籠り、心を閉ざしていた。そんなある日、姪の家庭教師を雇うことになる。
新婚だった夫が戦争で亡くなった原因はかつて国の英雄ガイルであると情報を手にするサラ。復讐するために彼の姪の家庭教師として働きはじめるが、なぜか彼に惹かれていく・・・
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる