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入学編
第6話 散策(二)
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◇ ◇ ◇
雑貨屋を後にした三人は昼食を摂ることにした。
ちなみに、雑貨屋で購入した物は全てジルヴェスターが『異空間収納』に収納した。ステラとオリヴィアのマグカップは寮に戻ったら渡す予定だ。
入学式が終わった後に町を散策していた三人は今がちょうど昼時ということもあって、昼食を摂る店を探していた。
「ここはどうかしら?」
オリヴィアが見つけたのは町並みに溶け込んだ喫茶店だ。
「構わないよ」
ジルヴェスターがそう言うと、間髪入れずにステラが頷き、オリヴィアの提案に賛成した。
入店した三人は店内を軽く見回す。
店内はアンティーク調の骨董品や美術品が置かれ趣のある雰囲気を演出している。
席を案内されて移動すると、三人が使用するーブルの数席離れた席にはランチェスター学園の制服を着ている女生徒二人の姿があった。
その様子を一瞬横目で視認したジルヴェスターは椅子に腰掛ける。ステラとオリヴィアが隣に座り、ジルヴェスターが対面の位置だ。
各々メニューを注文すると、手持ち無沙汰になった三人は自然と会話に花を咲かせることになった。
「二人は最近、調子はどうだ?」
「私は水属性と氷属性は問題ないけど、それ以外は上手くいってない」
「私も得意な属性以外は手こずっているわ」
ジルヴェスターの言葉足らずな質問に、二人は戸惑うことなくしっかりと答える。
「そうか」
魔法には属性が存在する。
――『地』『水』『火』『風』『雷』『氷』『光』『闇』『聖』『呪』『音』『影』『木』『鉄』『無』の十五種類の属性に分類されている。
いくら魔法の素質があるとはいえ、全ての属性を扱えるわけではない。属性の適正は生まれた時点で決まる。その為、適正のある属性が多いほど、持って生まれた才能とも言えるのだ。
仮に複数の属性に適正があったとしても、全て同等レベルで行使できるわけではない。適正にも高い適正と低い適正が存在する。
例えば、水、火、雷、氷、無の五つの属性の適正があったとすると、この五つの属性から適正の高い順というものが必ず生まれる。火>雷>氷>水といった具合にだ。
但し、例外も存在する。それは無属性だ。無属性は魔法の資質がある者には等しく備わっている適正であり、得意不得意の差はあれど、全ての魔法師が適正を持っている。理由は解明されていないが。
この他にも魔法は存在するが、ここでは割愛する。
その為、ステラには水属性と氷属性の二つは特に高い適正が備わっているということになる。
「誰しも適正に壁は存在するからな。仕方ないと言えば仕方ないが、工夫と努力次第である程度は乗り越えることはできる」
自分の話を真面目に聞いている二人の様子を確認したジルヴェスターは、少々お節介を焼くことにした。
「例えばMACのチューニングを見直してみるといいかもな。成長と共に調整していたチューニングが合わなくなることもある」
「……なるほど」
「確かに最近はあまりチューニングしていなかったわね」
魔法行使の技術や術式を理解することばかりに注力していた二人は盲点だったと思い至る。
――『MAC』とは――魔法補助制御機の略称である。
MACに術式を保存し、魔法の発動を補助する機械だ。
魔法の行使自体にMACは不要だが、MAC抜きでは発動スピードが極端に低下し、制御難度も極端に上がってしまう。その上、魔法を行使するのには心身ともに負担が掛かる為――使用過多で最悪魔法が使えなくなったり、衰弱したり、死亡するリスクもある――実質的には魔法師にとって必要不可欠なツールだ。更にMACを介する事で能力を十全に引き出してくれる効果もある。
尚、国立魔法教育高等学校での実技試験もMACを使用した結果を評価対象としている。
魔法師の特徴を象徴する魔法発動補助具であり、使用者の特性に合わせたチューニングを始めとして、精密機械であるが故にこまめなメンテナンスを必要とする。その為、使用者や使用用途に合わせてカスタマイズできるエンジニアの需要が高い。
MACの形状は腕輪型、指輪型、武装一体型など多様であるが、大別して汎用型と単一型に分けられる。汎用型MACは全ての属性に対応しており、単一型MACは単一属性のみに対応していて発動速度に優れているのが特徴だ。
魔法師には――『魔法因子領域』という魔法師の持つ精神の機能の一部が備わっており、これが魔法という才能の本体である。
魔法師は魔法因子領域を意識的に使用するのではあるが、完全に認識することは現代では不可能であり、魔法を発動する過程を意識し制御する必要がある。その上、使用用途や使用強度及び範囲によって難度が変わる為、この過程に優れていればいるほど優秀な魔法師の証でもある。人間の精神の機能は未解明な部分が多く、魔法師自身にとってもブラックボックスであると言える部分だ。
魔法の行使には心身ともに負担が掛かり、強力な魔法であるほど、強度や範囲を上げて行使するほど負荷が掛かる。その結果、使用過多で最悪魔法が使えなくなったり、衰弱したり、死亡するリスクに繋がってしまうのだ。
MACには『魔晶石』が埋め込まれている。
魔晶石は魔力に反応し、術式を保存することができる貴重な鉱石だ。
魔晶石を機械であるMACに埋め込み、魔力を魔晶石に送り込むことで保存してある術式を行使できる仕様になっている。
現在では魔晶石を人工的に生成することは不可能であり、自然に生成された魔晶石を採取するか、魔物から入手するしかない。
そして、魔法師にとって重要なMACの調整などを請け負うスペシャリストが存在する。
それは――『魔法工学技師』だ。
MACを含めた魔法機具の作成や調整などを行う技術者のことを指す。略称は『魔工師』または『魔法技師』。
魔法師に比べて社会的なステータスは低いものの、MACの調整一つ取っても魔工師の存在は不可欠であり、一流の魔工師の収入は一部の魔法師をも凌ぐほどだ。
魔法工学技師になる者は魔法師が大半だが、中には非魔法師も存在する。
魔工師にもライセンスが存在し、より階級の高い魔工師は信用や収入も高くなる。
魔法工学技師ライセンスは以下の通りだ。上位の階級から表記する。
一級技師
二級技師
三級技師
四級技師
五級技師
魔法師ライセンスと比べると簡素だが、そもそも魔法師と魔工師では絶対的な人数の差が存在する。故にこの五つの階級で充分事足りるのだ。
ちなみに、ジルヴェスターは左手の中指に嵌めている指輪型の汎用型MACを用いて『異空間収納』を行使している。
「一度魔工師に見て貰うといいかもな。なんだったら俺がやってもいいが」
「ん。そうする」
「一度専属の魔工師に見て貰うことにするわ。ジルくんにはまたの機会にお願いするわね」
「ああ。それが良い」
実はジルヴェスターは一級技師のライセンスを所持している。なので、自分がMACをチューニングすることを提案した。
ステラとオリヴィアは当然ジルヴェスターが一級技師のライセンスを所持していることは知っている。
二人はジルヴェスターの提案を断ったが、ジルヴェスターは当然のこととして素直に引き下がった。
専属契約を結んだり、お抱えとして家に招いたり、常連として依頼したりなど様々な形態はあるが、通常魔法師には依頼する魔工師は決まっている。
ステラの場合は魔法師である母が古くから懇意にしている魔工師に依頼している形だ。その縁でオリヴィアも同じ魔工師に依頼している。
命を預けているに等しいので、そう言った信頼関係で成り立っている魔法師と魔工師の間に、無理に割って入るものではないと心得ているジルヴェスターは大人しく引き下がったのだ。
雑貨屋を後にした三人は昼食を摂ることにした。
ちなみに、雑貨屋で購入した物は全てジルヴェスターが『異空間収納』に収納した。ステラとオリヴィアのマグカップは寮に戻ったら渡す予定だ。
入学式が終わった後に町を散策していた三人は今がちょうど昼時ということもあって、昼食を摂る店を探していた。
「ここはどうかしら?」
オリヴィアが見つけたのは町並みに溶け込んだ喫茶店だ。
「構わないよ」
ジルヴェスターがそう言うと、間髪入れずにステラが頷き、オリヴィアの提案に賛成した。
入店した三人は店内を軽く見回す。
店内はアンティーク調の骨董品や美術品が置かれ趣のある雰囲気を演出している。
席を案内されて移動すると、三人が使用するーブルの数席離れた席にはランチェスター学園の制服を着ている女生徒二人の姿があった。
その様子を一瞬横目で視認したジルヴェスターは椅子に腰掛ける。ステラとオリヴィアが隣に座り、ジルヴェスターが対面の位置だ。
各々メニューを注文すると、手持ち無沙汰になった三人は自然と会話に花を咲かせることになった。
「二人は最近、調子はどうだ?」
「私は水属性と氷属性は問題ないけど、それ以外は上手くいってない」
「私も得意な属性以外は手こずっているわ」
ジルヴェスターの言葉足らずな質問に、二人は戸惑うことなくしっかりと答える。
「そうか」
魔法には属性が存在する。
――『地』『水』『火』『風』『雷』『氷』『光』『闇』『聖』『呪』『音』『影』『木』『鉄』『無』の十五種類の属性に分類されている。
いくら魔法の素質があるとはいえ、全ての属性を扱えるわけではない。属性の適正は生まれた時点で決まる。その為、適正のある属性が多いほど、持って生まれた才能とも言えるのだ。
仮に複数の属性に適正があったとしても、全て同等レベルで行使できるわけではない。適正にも高い適正と低い適正が存在する。
例えば、水、火、雷、氷、無の五つの属性の適正があったとすると、この五つの属性から適正の高い順というものが必ず生まれる。火>雷>氷>水といった具合にだ。
但し、例外も存在する。それは無属性だ。無属性は魔法の資質がある者には等しく備わっている適正であり、得意不得意の差はあれど、全ての魔法師が適正を持っている。理由は解明されていないが。
この他にも魔法は存在するが、ここでは割愛する。
その為、ステラには水属性と氷属性の二つは特に高い適正が備わっているということになる。
「誰しも適正に壁は存在するからな。仕方ないと言えば仕方ないが、工夫と努力次第である程度は乗り越えることはできる」
自分の話を真面目に聞いている二人の様子を確認したジルヴェスターは、少々お節介を焼くことにした。
「例えばMACのチューニングを見直してみるといいかもな。成長と共に調整していたチューニングが合わなくなることもある」
「……なるほど」
「確かに最近はあまりチューニングしていなかったわね」
魔法行使の技術や術式を理解することばかりに注力していた二人は盲点だったと思い至る。
――『MAC』とは――魔法補助制御機の略称である。
MACに術式を保存し、魔法の発動を補助する機械だ。
魔法の行使自体にMACは不要だが、MAC抜きでは発動スピードが極端に低下し、制御難度も極端に上がってしまう。その上、魔法を行使するのには心身ともに負担が掛かる為――使用過多で最悪魔法が使えなくなったり、衰弱したり、死亡するリスクもある――実質的には魔法師にとって必要不可欠なツールだ。更にMACを介する事で能力を十全に引き出してくれる効果もある。
尚、国立魔法教育高等学校での実技試験もMACを使用した結果を評価対象としている。
魔法師の特徴を象徴する魔法発動補助具であり、使用者の特性に合わせたチューニングを始めとして、精密機械であるが故にこまめなメンテナンスを必要とする。その為、使用者や使用用途に合わせてカスタマイズできるエンジニアの需要が高い。
MACの形状は腕輪型、指輪型、武装一体型など多様であるが、大別して汎用型と単一型に分けられる。汎用型MACは全ての属性に対応しており、単一型MACは単一属性のみに対応していて発動速度に優れているのが特徴だ。
魔法師には――『魔法因子領域』という魔法師の持つ精神の機能の一部が備わっており、これが魔法という才能の本体である。
魔法師は魔法因子領域を意識的に使用するのではあるが、完全に認識することは現代では不可能であり、魔法を発動する過程を意識し制御する必要がある。その上、使用用途や使用強度及び範囲によって難度が変わる為、この過程に優れていればいるほど優秀な魔法師の証でもある。人間の精神の機能は未解明な部分が多く、魔法師自身にとってもブラックボックスであると言える部分だ。
魔法の行使には心身ともに負担が掛かり、強力な魔法であるほど、強度や範囲を上げて行使するほど負荷が掛かる。その結果、使用過多で最悪魔法が使えなくなったり、衰弱したり、死亡するリスクに繋がってしまうのだ。
MACには『魔晶石』が埋め込まれている。
魔晶石は魔力に反応し、術式を保存することができる貴重な鉱石だ。
魔晶石を機械であるMACに埋め込み、魔力を魔晶石に送り込むことで保存してある術式を行使できる仕様になっている。
現在では魔晶石を人工的に生成することは不可能であり、自然に生成された魔晶石を採取するか、魔物から入手するしかない。
そして、魔法師にとって重要なMACの調整などを請け負うスペシャリストが存在する。
それは――『魔法工学技師』だ。
MACを含めた魔法機具の作成や調整などを行う技術者のことを指す。略称は『魔工師』または『魔法技師』。
魔法師に比べて社会的なステータスは低いものの、MACの調整一つ取っても魔工師の存在は不可欠であり、一流の魔工師の収入は一部の魔法師をも凌ぐほどだ。
魔法工学技師になる者は魔法師が大半だが、中には非魔法師も存在する。
魔工師にもライセンスが存在し、より階級の高い魔工師は信用や収入も高くなる。
魔法工学技師ライセンスは以下の通りだ。上位の階級から表記する。
一級技師
二級技師
三級技師
四級技師
五級技師
魔法師ライセンスと比べると簡素だが、そもそも魔法師と魔工師では絶対的な人数の差が存在する。故にこの五つの階級で充分事足りるのだ。
ちなみに、ジルヴェスターは左手の中指に嵌めている指輪型の汎用型MACを用いて『異空間収納』を行使している。
「一度魔工師に見て貰うといいかもな。なんだったら俺がやってもいいが」
「ん。そうする」
「一度専属の魔工師に見て貰うことにするわ。ジルくんにはまたの機会にお願いするわね」
「ああ。それが良い」
実はジルヴェスターは一級技師のライセンスを所持している。なので、自分がMACをチューニングすることを提案した。
ステラとオリヴィアは当然ジルヴェスターが一級技師のライセンスを所持していることは知っている。
二人はジルヴェスターの提案を断ったが、ジルヴェスターは当然のこととして素直に引き下がった。
専属契約を結んだり、お抱えとして家に招いたり、常連として依頼したりなど様々な形態はあるが、通常魔法師には依頼する魔工師は決まっている。
ステラの場合は魔法師である母が古くから懇意にしている魔工師に依頼している形だ。その縁でオリヴィアも同じ魔工師に依頼している。
命を預けているに等しいので、そう言った信頼関係で成り立っている魔法師と魔工師の間に、無理に割って入るものではないと心得ているジルヴェスターは大人しく引き下がったのだ。
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