最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
16 / 141
入学編

第15話 選択科目(二)

しおりを挟む
 四人で話していると予鈴が鳴り、教壇横の扉が開いて一人の女性が入室してくる。
 その女性が教壇へ向けて歩を進め中央にある教壇に立つと、階段状になっている席へと向き直った。一度各席を見渡してから女性は口を開く。

「私はメルツェーデス・バウムガルトリンガーだ」

 そう自己紹介する女性は凛々しい佇まいをしている。
 白い肌をしており、鉛白えんぱく色のハンサムショートヘアと、空色の瞳が凛々しさを際立たせている。

 女性としては高めの身長でスタイル抜群だ。パンツスーツを違和感なく着こなしている姿は、如何いかにも女性から人気がありそうな、かっこいい大人の女性といった風貌をしている。

「一応、上級三等魔法師だ。これから一年間担任として諸君を指導することになるが、よろしく頼む」

 上級三等魔法師といえば、特級魔法師と準特級魔法師を除けば上から三番目の階級であり、魔法師の中でも精鋭中の精鋭であるエリートの証だ。

(上級魔法師の教師とは珍しいな)

 ジルヴェスターはメルツェーデスへ視線を向けて意外感を表す。

 中級以上の階級は上へ行けば行くほど人数が少なくなる。
 初級魔法師は所謂見習いのような立場なので、余程実力のない者でない限りは、ある程度魔法師として活動していればそのうち下級へと昇級できる。
 下級魔法師になって初めて一人前と見なされ、下級が最も人数の多い階級だ。
 中級魔法師は前線で活躍できる一線級の魔法師であり、人数の絶対数はここから減っていく。

 上級魔法師ともなれば最精鋭なので、教師にしておくのはもったいない人材だ。なので、上級魔法師の教師は珍しい。
 そもそも上級魔法師で教師になろうとする者自体が珍しいだろう。教師は比較的高収入の部類に入るが、上級魔法師は教師として働くよりも魔法師として活動した方が余程稼げる。

 国としてもできれば上級魔法師には教師ではなく魔法師として活動してほしいだろう。可能ならば積極的に壁外へ赴いてほしいはずだ。
 だが、未来の魔法師を育てるのも国としては重要な課題である。その点、上級魔法師でも教師として優秀な者ならば後進の育成に携わってもらいたいという思惑もあるので、上級魔法師の教員も一定数はいる。とはいえ絶対数は圧倒的に少ない。

「今日は諸君へ各種簡単なガイダンスを行う。しっかりと聞いておくように」

 メルツェーデスはそう言うと、一度生徒一同を見渡してから続きの台詞を告げる。

「我が校の授業科目は、一般教養以外は各自自由に選択できる」

 言語学、算術、歴史など一般教科はクラス毎に全生徒共通で行われる。一般教科以外は履修内容を各自自由に選択できる仕組みだ。自由な校風であるランチェスター学園だからこそのシステムだと言えるだろう。

「自分が学びたいことを積極的に学ぶのか、苦手な分野を克服する為に学ぶのか、自分の考えでしっかりと選択するように。決して友達と一緒がいいからなどというくだらない理由で選択しないように」

 学びたい分野も学びたい動機も人それぞれだろう。その点、各自自由に選択できるシステムは理に適っている。

 しかしメルツェーデスが言うように、友達と一緒が良いからなどというくだらない動機で選択されるのは困る。学校側にも生徒の側にも全く利点がないからだ。

「諸君はまだ若いので三年間は長く感じるかもしれないが、実際は三年間などあっという間だ。この期間に学んだことが将来に直結する。学生時代にもっと真面目に勉学に励んでいれば上級魔法師になれたのに、勉学を怠った結果、中級魔法師止まりだった、なんてこともあり得ることだ。若い時の成長力は侮れない。故に再三言うが、しっかりと考えて自分の意思で選択するように。迷った時はいつでも相談を受け付けるからな」

 若い時は時間が経つのを遅く感じ、逆に歳を重ねれば重ねるほど時間が経つのを早く感じるようになる。
 若い時に積んだ経験というのは後に多大な影響を与えるというのも事実だ。
 上級魔法師であるメルツェーデスが言うと説得力がある。

「最初のうちは興味のある科目を一通り受けてみるのもいいだろう。時間はあっという間に過ぎると言ったが、焦らずにしっかりと考えることが何よりも重要だ」

 確かに何事も焦ると良いことは起こらない。

「学内の施設も各自一度は事前に足を運んでおくように。場所がわかりませんでしたと言って授業に遅刻するのは言い訳にならないからな」

 学園の敷地は広大だ。
 授業を実施する各教室や施設の場所を事前にしっかりと把握しておく必要がある。

「次にクラブについてだ。クラブ活動も学生の内にできる貴重な場だ。加入するもしないも自由だが、是非とも悔いのない学生生活を送ってほしい」

 課外活動も学生生活を送る上で需要なファクターだ。
 メルツェーデスとしても、生徒たちには人生一度きりの学生生活を可能な限り悔いなく、満足できるように送ってほしいと思っている。

「各クラブは勧誘に必死だ。入学間もない時期は多少手荒くなることもあるので注意するように」

 勧誘は一年を通して可能であり、加入することもいつでも可能ではあるが、大抵の生徒は入学間もないうちにいずれかのクラブに入部する。なので、各クラブにとって今の時期は狙い目なのだ。

 今の時期は各クラブが勧誘に精を出して、多少行きすぎた行為に出ることも多々あるが、学園側としてはある程度は黙認している。これも生徒の自主性を重んじる校風故にだ。

「勧誘でトラブルに巻き込まれた際は生徒会や風紀委員、統轄連に相談するように」

 自主性を重んじる校風故に、学園の治安や風紀を守るのも生徒の役目だ。
 学園には生徒で構成された自治組織が四つある。その内の三つが生徒会、風紀委員会、統轄連だ。

 生徒会は生徒会長を筆頭に学園の自治を司る組織である。学園の治安を守る役割もあるが、主な職務は文官色の強い内容だ。

 風紀委員会は風紀委員長が長を務め、学園の治安を守る為に、校則違反者や不審者などを取り締まる警察と検察を兼ね備えた組織だ。業務内容柄、公正な判断を下せる人格者で、尚且つ戦闘面でも優れている者が選ばれる傾向にある。

 統轄連は正式名称をクラブ活動統轄連合と言い、組織のトップである総長を筆頭に各クラブを管理するのが主な職務だ。また、学園の治安を守る役目もあり、風紀委員会から助力を要請されることもある。

 学園の自治を司る組織はもう一つあるが、ここでは割愛する。

「ちなみに私は魔法実技クラブの顧問を務めている。興味のある者はいつでも歓迎するぞ」

 メルツェーデスは担任であるのをいいことに、自分の生徒たちに抜け目なく勧誘を行う。どうやら茶目っ気もある先生のようだ。

 その後もメルツェーデスによる諸々の説明が行われていく。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...