最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

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入学編

第37話 クラブ(二)

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 ◇ ◇ ◇

 魔法実技クラブの見学を終えた四人は第一武道場を訪れていた。
 第一武道場に足を踏み入れた四人が最初に感じたのは、室内に籠った熱気であった。

「ここが剣術クラブの活動場所か」

 アレックスが呟く。

「剣術クラブも人気のあるクラブよね」
「そうだな。確か魔法実技クラブに次いで部員が多いと聞いたな」

 オリヴィアの疑問にアレックスが答える。

 アレックスが言う通り、剣術クラブは魔法実技クラブに次ぐ部員数を誇るクラブだ。
 武器の中でも刀剣類を用いる者が多いのも影響していると思われる。

 周囲にはジルヴェスターたちと同様に、見学に訪れている一年生の姿も多く見受けられた。

「あら? あそこにいるのはシズカよね?」

 武道場の中で見知った顔の人物を見掛けたオリヴィアが、目を凝らしながら声を漏らす。

「彼女はシノノメ家の御令嬢だからな。剣術クラブに籍を置いているのはなんら不思議ではない」

 ジルヴェスターがそう言うのと同時に一同がシズカへ視線を向ける。
 四人から視線を向けられるとさすがに圧を感じたのか、シズカは違和感の正体を探して振り向いた。

 そして四人の存在に気がついたシズカは、鍛錬を中断してジルヴェスターたちのもとへ歩み寄る。

「みんなは見学?」
「うん」
「ええ。そうよ」

 シズカの問いにステラとオリヴィアが肯定する。

「シズカは一人で鍛錬に励んでいたようだけれど、先輩に指導してもらったりはしないのかしら?」

 武道場では先輩に指導を受ける者や、模擬戦をしている者などの姿が見て取れた。
 そんな中、シズカは一人黙々と鍛錬に励んでいたので、オリヴィアは疑問に思ったのだ。

「それが……先輩たちにさじを投げられてしまって……。顧問の先生にも私だけ自由に鍛錬に励むようにと言われてしまったのよ」

 シズカは頬に手を当てて困った表情を浮かべる。

「それは仕方ないな。幼い頃からシノノメ家で鍛錬を積んできたシズカに指導できる者はそうそういないだろう」

 門下生の間でシズカの実力は師範代相当であると言われており、一族内でも師範代に相応しい実力と技量を備えていると認められている。

 だが、彼女は師範代の地位を与えられていない。
 それは彼女がまだ学生の身分であるからで、卒業さえすればすぐにでも師範代の地位を与えられると思われている。

 事実、シノノメ家の当主で総師範でもあるシズカの父は、何事もなければ卒業後に師範代にするつもりでいた。精神面での成長も待っているのかもしれない。

 そんな彼女に対して誰が指導できるというのか。
 下手に指導して悪影響になったら目も当てられない。

 故に、鍛錬に関してはシズカの自由に行うようにと認めざるを得なかったのだ。また、そのことに顧問教師や先輩、同級生にも不満や文句は何一つなかった。

 剣術クラブに籍を置いている生徒の大半はシノノメ家の門下生だ。顧問教師も門下生である。
 なので、シズカの実力を把握しており、認められてもいた。故に不満は生まれたかったのだ。

 何より、師匠の娘、または妹であるシズカに対して指導を行うなど、門下生の立場からすれば御免被りたいというのが偽らざる本音だろう。

 一部シノノメ家の門下生ではない生徒もシズカの実力を目の当たりにすれば、不満や文句など微塵も出てこなかった。門下生である生徒が認めているのも影響している。

「そもそもシズカの実力なら剣術クラブに入部する必要はないと思うが」
「そんなことないわ。鍛錬を怠るわけにはいかないもの。それに気兼ねなく鍛錬に励むことができる場所は貴重なのよ」
「確かにそうだな」

 日々の鍛錬を欠かすことはできない。
 一日休むと取り戻すのに三日は掛かると良く言うが、日頃から強い意志を持って日々取り組まなければ一向に向上することは叶わないだろう。

 鍛錬を行う場所も重要である。
 シズカの場合は実家が道場を開いているので困ることはないが、ランチェスター学園に入学した現在は寮生活を送っているので、実家の道場を利用することは物理的に不可能だ。

 その点、剣術クラブに籍を置いていれば第一武道場を利用することができ、鍛錬場所に困ることがなくなる。

 学園の敷地は広大なので、外などのどこか空いている場所を利用することはできる。
 しかし人目を気にせずに済み、誰かの迷惑になることもなく、気兼ねなく鍛錬に励む為に武道場を利用できるのは非常に魅力的なのだ。

 そうシズカに説明されたジルヴェスターは納得して頷いた。

「それじゃ鍛錬に戻るわね。みんなもゆっくりしていって」

 シズカは四人に一通り挨拶をすると鍛錬に戻る。

 一同はそのまま剣術クラブの様子をしばし見学すると、その後は様々なクラブを見て回った。

「――今日はこの辺にしよう」
「そうね」

 クラブ見学が一段落したところでジルヴェスターが中断を切り出すと、オリヴィアが頷いた。

 たった一日で全てのクラブを見学して回るのは物理的に不可能だ。途中で切り上げる必要がある。

「続きはまた次回」
「またみんなで行きましょうか」
「ん」

 ステラがクラブ見学の続きについて呟くと、次回もまたみんなで見学しようとオリヴィアが微笑みながら提案する。
 それに対してステラが笑みを返した。――わかる人にしかわからない些細な表情の変化だったが。

「まあ、焦る必要はないし、気ままに行こうぜ」

 いつも通り軽い調子でアレックスが言う。

 クラブには入部可能時期などは設けられていない。一年を通していつでも入部可能なので、焦って決める必要はない。そもそも必ずどこかのクラブに入部しなければならない決まりもない。

「それじゃ、また明日」
「またね」

 別れの挨拶を済ますとオリヴィアとステラは寮へと帰って行った。

「んじゃ、俺も寮に戻るわ」
「ああ」
「またな」

 アレックスはジルヴェスターに声を掛けると、軽い足取りで寮への帰路に着いた。

 男子と女子は別の寮なので、帰路に着く道は別々だ。
 それに寮は複数ある。グレードが異なるからだ。

 その点、ステラとアレックスは実家の経済力的にグレードの高い寮であった。
 オリヴィアもステラの父であるマークの厚意により、ステラと同じ寮を契約してもらっている。オリヴィアは遠慮したのだが、むしろマークから懇願されてしまったので受け入れざるを得なかった。

 主人に懇願されたら使用人としては無下になどできないだろう。どうかそばでステラの面倒を見てくれ、という魂胆が明け透けである。――もっとも、マークには隠す気など微塵もなかったし、オリヴィアは頼まれなくてもステラの世話を焼く気満々だったのだが。
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