最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
38 / 141
入学編

第37話 クラブ(二)

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇

 魔法実技クラブの見学を終えた四人は第一武道場を訪れていた。
 第一武道場に足を踏み入れた四人が最初に感じたのは、室内に籠った熱気であった。

「ここが剣術クラブの活動場所か」

 アレックスが呟く。

「剣術クラブも人気のあるクラブよね」
「そうだな。確か魔法実技クラブに次いで部員が多いと聞いたな」

 オリヴィアの疑問にアレックスが答える。

 アレックスが言う通り、剣術クラブは魔法実技クラブに次ぐ部員数を誇るクラブだ。
 武器の中でも刀剣類を用いる者が多いのも影響していると思われる。

 周囲にはジルヴェスターたちと同様に、見学に訪れている一年生の姿も多く見受けられた。

「あら? あそこにいるのはシズカよね?」

 武道場の中で見知った顔の人物を見掛けたオリヴィアが、目を凝らしながら声を漏らす。

「彼女はシノノメ家の御令嬢だからな。剣術クラブに籍を置いているのはなんら不思議ではない」

 ジルヴェスターがそう言うのと同時に一同がシズカへ視線を向ける。
 四人から視線を向けられるとさすがに圧を感じたのか、シズカは違和感の正体を探して振り向いた。

 そして四人の存在に気がついたシズカは、鍛錬を中断してジルヴェスターたちのもとへ歩み寄る。

「みんなは見学?」
「うん」
「ええ。そうよ」

 シズカの問いにステラとオリヴィアが肯定する。

「シズカは一人で鍛錬に励んでいたようだけれど、先輩に指導してもらったりはしないのかしら?」

 武道場では先輩に指導を受ける者や、模擬戦をしている者などの姿が見て取れた。
 そんな中、シズカは一人黙々と鍛錬に励んでいたので、オリヴィアは疑問に思ったのだ。

「それが……先輩たちにさじを投げられてしまって……。顧問の先生にも私だけ自由に鍛錬に励むようにと言われてしまったのよ」

 シズカは頬に手を当てて困った表情を浮かべる。

「それは仕方ないな。幼い頃からシノノメ家で鍛錬を積んできたシズカに指導できる者はそうそういないだろう」

 門下生の間でシズカの実力は師範代相当であると言われており、一族内でも師範代に相応しい実力と技量を備えていると認められている。

 だが、彼女は師範代の地位を与えられていない。
 それは彼女がまだ学生の身分であるからで、卒業さえすればすぐにでも師範代の地位を与えられると思われている。

 事実、シノノメ家の当主で総師範でもあるシズカの父は、何事もなければ卒業後に師範代にするつもりでいた。精神面での成長も待っているのかもしれない。

 そんな彼女に対して誰が指導できるというのか。
 下手に指導して悪影響になったら目も当てられない。

 故に、鍛錬に関してはシズカの自由に行うようにと認めざるを得なかったのだ。また、そのことに顧問教師や先輩、同級生にも不満や文句は何一つなかった。

 剣術クラブに籍を置いている生徒の大半はシノノメ家の門下生だ。顧問教師も門下生である。
 なので、シズカの実力を把握しており、認められてもいた。故に不満は生まれたかったのだ。

 何より、師匠の娘、または妹であるシズカに対して指導を行うなど、門下生の立場からすれば御免被りたいというのが偽らざる本音だろう。

 一部シノノメ家の門下生ではない生徒もシズカの実力を目の当たりにすれば、不満や文句など微塵も出てこなかった。門下生である生徒が認めているのも影響している。

「そもそもシズカの実力なら剣術クラブに入部する必要はないと思うが」
「そんなことないわ。鍛錬を怠るわけにはいかないもの。それに気兼ねなく鍛錬に励むことができる場所は貴重なのよ」
「確かにそうだな」

 日々の鍛錬を欠かすことはできない。
 一日休むと取り戻すのに三日は掛かると良く言うが、日頃から強い意志を持って日々取り組まなければ一向に向上することは叶わないだろう。

 鍛錬を行う場所も重要である。
 シズカの場合は実家が道場を開いているので困ることはないが、ランチェスター学園に入学した現在は寮生活を送っているので、実家の道場を利用することは物理的に不可能だ。

 その点、剣術クラブに籍を置いていれば第一武道場を利用することができ、鍛錬場所に困ることがなくなる。

 学園の敷地は広大なので、外などのどこか空いている場所を利用することはできる。
 しかし人目を気にせずに済み、誰かの迷惑になることもなく、気兼ねなく鍛錬に励む為に武道場を利用できるのは非常に魅力的なのだ。

 そうシズカに説明されたジルヴェスターは納得して頷いた。

「それじゃ鍛錬に戻るわね。みんなもゆっくりしていって」

 シズカは四人に一通り挨拶をすると鍛錬に戻る。

 一同はそのまま剣術クラブの様子をしばし見学すると、その後は様々なクラブを見て回った。

「――今日はこの辺にしよう」
「そうね」

 クラブ見学が一段落したところでジルヴェスターが中断を切り出すと、オリヴィアが頷いた。

 たった一日で全てのクラブを見学して回るのは物理的に不可能だ。途中で切り上げる必要がある。

「続きはまた次回」
「またみんなで行きましょうか」
「ん」

 ステラがクラブ見学の続きについて呟くと、次回もまたみんなで見学しようとオリヴィアが微笑みながら提案する。
 それに対してステラが笑みを返した。――わかる人にしかわからない些細な表情の変化だったが。

「まあ、焦る必要はないし、気ままに行こうぜ」

 いつも通り軽い調子でアレックスが言う。

 クラブには入部可能時期などは設けられていない。一年を通していつでも入部可能なので、焦って決める必要はない。そもそも必ずどこかのクラブに入部しなければならない決まりもない。

「それじゃ、また明日」
「またね」

 別れの挨拶を済ますとオリヴィアとステラは寮へと帰って行った。

「んじゃ、俺も寮に戻るわ」
「ああ」
「またな」

 アレックスはジルヴェスターに声を掛けると、軽い足取りで寮への帰路に着いた。

 男子と女子は別の寮なので、帰路に着く道は別々だ。
 それに寮は複数ある。グレードが異なるからだ。

 その点、ステラとアレックスは実家の経済力的にグレードの高い寮であった。
 オリヴィアもステラの父であるマークの厚意により、ステラと同じ寮を契約してもらっている。オリヴィアは遠慮したのだが、むしろマークから懇願されてしまったので受け入れざるを得なかった。

 主人に懇願されたら使用人としては無下になどできないだろう。どうかそばでステラの面倒を見てくれ、という魂胆が明け透けである。――もっとも、マークには隠す気など微塵もなかったし、オリヴィアは頼まれなくてもステラの世話を焼く気満々だったのだが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...