最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
54 / 141
入学編

第53話 守護神(二)

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇

 ランチェスター学園の西門では攻防が繰り広げられ、東門近くの建物ではジルヴェスターによる蹂躙が行われている頃、レイチェルも行動していた。

「やっと見つけましたね」

 隣に控えるアビーが呟く。

 二人は反魔法主義団体過激派組織ヴァルタンの本部を遂に見つけた。
 ここに至るまで数々の拠点を制圧し、団員を拘束、尋問を繰り返すことでここまで辿り着いていた。

 そして二人は現在、ヴァルタンの本部を目視可能な距離にある建物の陰に隠れて様子を窺っている。

「ええ。中を探ります」

 頷いたレイチェルは、大腿部だいたいぶに取り付けているホルスターから短剣ダガーの武装一体型MACを抜き手に取ると、すかさず魔法を行使する。

 この短剣ダガーの武装一体型MACはジルヴェスターがレイチェル用に設計した物であり、彼女が最も得意にしている風属性の単一型に仕上げている代物だ。

 レイチェルが行使した魔法は――『空間探知エア・マップ』だ。

 この魔法は風属性の第四位階魔法であり、風の動き、声、音を風の流れに乗せて自身に届かせることにより、地形や生物の有無を探ることができる探知魔法だ。行使し続ける限り魔力を消費する。

 室外など風のある環境の方が能力を遺憾無く発揮できる魔法だが、室内でも問題なく使える。
 室内でも人が動けば空気が動く。その動きまで察知することができるので、生物がいる時点で見抜ける。窓が開いていれば尚いい。

 レイチェルは空間探知エア・マップでヴァルタンの本部を含む周囲を探る。
 彼女から凪ぐように風が出現すると、なごやかに舞い指定した範囲に風が広がっていく。

(……一人?)

 空間探知エア・マップは建物内の状況を知らせてくれて、中には一人の人間の存在が確認できた。

(いえ、本部に一人なわけ――)

 ランチェスター学園に襲撃を仕掛けている状況なので人手が足りなくなるとはいえ、まさか本部に一人で待機しているわけがないと思ったレイチェルはより注意深く探ろうとしたが、想定外の事態が起こり瞬時に空間探知エア・マップを解除する。

「――気付かれました!」
「え!?」
「どうやら相手を侮っていたようです」

 本部に座す相手はレイチェルが行使した魔法を察知したようだ。
 レイチェルが瞬時に魔法を解除したのはいい判断であった。あのまま魔法を行使し続けていれば自分たちの存在を完全に感知されてしまっていた。

「レイチェル様の魔法を察知したということですか!?」
「ええ。情けないことですがそうなります」

 アビーはレイチェルの魔法を察知した相手に驚愕した。
 優れた魔法師が行使する魔法は察知するのが難しい。それだけ優れた技量を有しており、精密な操作も可能だからだ。――高レベルの魔法師の中には、精密という言葉など知らないとばかりに力押しで済ませてしまう者もいるが。

 アビーにとってレイチェルは尊敬の念しか抱かない存在だ。それだけ上級魔法師という肩書は大きい。
 そんなレイチェルの魔法を察知した相手には驚愕するしかなかった。

「想定していたよりも手練れかもしれません。気を引き締めましょう」
「はい」

 二人は相手の実力に対しての認識を改める。

「幸い察知されただけで特定まではされていないはずです」

 レイチェルの感触では察知されただけで、行使した魔法や術者の存在、場所までは認識されていないと感じた。

「ですが、警戒を強めてしまったでしょう。このまま様子を窺っていたら逃げられてしまうかもしれません」

 不信感を与えてしまった場合、相手は警戒を強めて相応の反応を示すだろう。
 逃走、臨戦態勢、先取先攻など、取る手段は状況によって様々だ。

 しかし、空間探知エア・マップで探知した通りに相手は一人しかいないのであれば、逃走を選択する可能性が最も高い。一人でできることは限られる。冷静な判断を下せる者ならば逃走一択だろう。腕に自信のある者でない限りは。

「そうですね。突入しますか?」

 アビーの問いにレイチェルは一瞬考える。

「……そうしましょう。時間を掛けるほど相手が有利になります」
「わかりました」
「あの建物には裏口があるのを確認しました。アビーさんは裏手に回ってください。私は正面から行きます」
「了解です」

 レイチェルは空間探知エア・マップで探知したことで建物の間取りを把握しており、建物には裏口があるのを確認していた。
 アビーに裏手に回ってもらうことで挟撃し、逃走経路を潰す算段だ。

「くれぐれも深追いはしないようにしてくださいね」

 レイチェルの言葉に頷いたアビーは建物の裏手へと駆け出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...