最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

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囚われの親子編

第33話 吐露(五)

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 ◇ ◇ ◇

 話を終えたジルヴェスターとレアルは魔法協会支部を後にして、リンドレイクの街中に繰り出していた。
 現在の時刻は正午を過ぎた辺りだ。

 レイチェル、ミハエル、フェルディナンドにそれぞれ頼み事をした。
 ミハエルには引き続き隊を率いて見回りを行ってもらうように頼み、フェルディナンドにはマーカスに事情を説明することと、偽装用の死体を用意することを頼んだ。
 レイチェルにはまた別の用件を命じている。

 ミハエルは現在進行形で行っていることなので何も問題はない。
 フェルディナンドには死体の用意を可能な限り急いでもらう必要があるが、彼に任せておけば何も心配はいらないだろう。
 レイチェルへの命令は何事もなければ明日には済ませられるはずだ。

 とにもかくにもジルヴェスターとレアルは時間が空いてしまった。
 レアルの心情をおもんぱかって気分転換でもさせてやろうと思い散策に赴いていたのだ。――効果があるかはわからないが。

 特にどこかの店に寄るでもなく、商業区のメイン通りを目的もなく散策していた。男二人なのでウィンドウショッピングを楽しむということもない。
 賑わっている雰囲気を味わうだけでも気が紛れるだろうという考えだ。

 リンドレイクは商業の中心地だけあり、近代的な建物が多い。
 旧商業区は昔ながらのおもむきがあり、建築物も煉瓦や石材を用いて建てられている。対して新商業区と呼ばれるエリアは、近代的なビルやショッピングモールが建ち並ぶ。

 居住区も旧居住区、新居住区と呼ばれるふたつのエリアに分かれており、邸宅の建築様式が異なっている。
 ちなみに、魔法協会支部は旧商業区と新商業区のちょうど中間地点にある。

 そして現在、ジルヴェスターとレアルの二人は新商業区にある最も高層な商業ビルにいた。
 シンボリックセンターという名の商業ビルには、様々な企業及びブランドの店舗が入っている。MAC関連の店、アパレル、雑貨屋、書店、飲食店、日用品を扱う店などだ。

 二人が書店から出て、自動階段エスカレーターに乗って下の階へ降りていく。

 ――『自動階段エスカレーター』は魔法具の一つである。
 仕組みは機械に専用の術式を刻んだ魔晶石と魔力を溜めておくことのできる魔有石を埋め込み、送信機をオンにすることで魔力を溜め込んだ魔有石に振動による信号を送り、自動階段エスカレーター本体が受信機となり内蔵されている魔有石が魔晶石へと魔力を送ることで術式が発動する仕組みだ。
 ビル内の自動階段エスカレーターの送信機は全て制御室に設置されている。

 この自動階段エレベーターはジルヴェスターが開発したものだ。
 彼の収入源の一つであり、懐事情を豊かにしている。

「――あれ? ジルくん?」
「レアル君もいるわよ」

 階下に到着したところで、自動階段エレベーターと店舗の間の通路から二人の名を呼ぶ声が聞こえた。
 ジルヴェスターとレアルが声のした方へ視線を向けると、そこにはレベッカ、シズカ、ビアンカの姿があった。――もっとも、ジルヴェスターは声を掛けられる前から三人の存在には気付いていたが。

 最初にレベッカがジルヴェスターの存在に気づき、遅れてシズカが反応していた。

「レベッカはジルくんのことで頭一杯だから」
「――ふ、二人は何しているの!?」

 ジルヴェスターのことしか目に入っていなかったレベッカにビアンカがツッコミを入れる。
 すると、レベッカは誤魔化すように慌てて男二人組に問い掛けた。

「レアルくんは忙しかったはずだよね?」

 レアルは春季休暇に入る前にレベッカに誘われていた。その際に多忙を理由に保留にしている。
 後日改めて断りを入れたが、普通なら自分の誘いを断ったはずなのに何故商業ビルにいるのか? という心情になる。しかも友人と一緒なら所用とも思えないだろう。嘘を吐いて誘いを断り、友人と遊びに来ていたのかと思われても仕方がないことだ。――レベッカ本人は、彼女の大きな器故に全くそのようなことは気にしていなかったが。

「奇遇だな」
「わたしたちはちょっと足を延ばして買い物にね」

 レベッカたちはシズカの実家に滞在している。シズカの実家があるレイトナイトはネーフィス区だ。
 そしてリンドレイクもネーフィス区にある。同区なので比較的近隣に位置する。
 三人は鉄道に乗ってリンドレイクまで買い物に訪れていた。

 レベッカは空色のオフショルダーシャツを着て肩を露出し、黒のハイウエストデニムスキニーパンツを合わせている。そして黒のショートブーツを履いており、派手すぎずない身形で自分の魅力を最大限生かしていた。

 シズカは黒のTシャツの上に同じく黒のジャケットを羽織り、白のスラックスを穿いている。黒のオープンバックパンプスを履き、仕事のできる大人な女性を思わせる装いだ。

 ビアンカは片方の肩が空いた黒のタイトワンピースを着て、紫のショートブーツを履いている。片方の肩のみ空いたアシンメトリーが色気を演出しており、落ち着いた雰囲気と色気を上手く両立させていた。

 三人とも自分の魅力を良く理解しているからこそ可能なコーディネートだ。

「ちょうどいい。少し頼まれてくれないか?」

 ジルヴェスターはレベッカの疑問に答えずにそう言った。

「いいけど、何かあったの?」

 女性陣三人は互いに目を見合せて疑問を浮かべる。

「少々事情があってな。数日こいつを預かってくれないか?」

 ジルヴェスターはレアルに視線を向ける。
 当のレアルは突然のことに驚いている。

「レアルくんを?」

 説明を省いたジルヴェスターの頼み事にレベッカは疑問を浮かべるしかなかった。

「構わないわよ」

 怪訝な顔をするレベッカを差し置いてシズカが了承の旨を告げる。

「助かる」

 シズカは雰囲気から詳しく説明できない事情があるのだろうと察した。
 しかもおそらく厄介事であり、説明しないのは自分たちは知らない方がいいことなのであろうと推測した。

 彼女は剣術の大家であるシノノメ家の令嬢だ。
 シノノメ家の一門として、世の中の綺麗な部分だけを見て生きていくことはできなかった。闇の部分に触れることも少なくない。
 また、門下生には様々な立場の者がいる。本人の意思に関係なく善にも悪にも触れざるを得ない環境で育った。
 故に、なんとなくだが雰囲気を察することができていた。

「シズカちゃんがいいなら私たちも問題ないよ~」

 ビアンカが間延びした口調で了承すると、レベッカも一拍遅れて頷いた。
 シズカの実家だ。確かにお邪魔している立場のレベッカとビアンカには、家人であるシズカが許可しているのに否を言う道理はなかった。

 その後はジルヴェスターもレアルも時間が余っていたので、女性陣と合流することになった。
 ジルヴェスターとレアルは親鳥の後を追う雛鳥のように女性陣について行くだけだったが、共にショッピングを楽しんだ。合間に昼食を済ませている。

 ジルヴェスターとしては同世代の友人と買い物することは滅多にないので、新鮮で楽しめた。――レアルは女性陣に気圧されて居心地悪そうにしていたが。

 女性陣が買い物に夢中になっている間に、ジルヴェスターとレアルは打合せをしていた。

 レアルはこの後一度ビリーの屋敷に戻って報告を済ませ、すぐに母を連れてシズカの実家に向かう手筈になっている。
 万が一ジルヴェスターたちの工作がビリーに勘付かれた場合は、レアルと彼の母の身に危険が及ぶ恐れがある。
 そこでシズカの実家に匿ってもらうことにしたのだ。

 そのことをシズカたちには説明していないが問題はない。
 シノノメ家道場には多くの腕利きがおり、心強い用心棒になる。
 シズカもジルヴェスターたちが厄介事に巻き込まれていると察してくれているので、不審者がいたら道場の者を率いて対応してくれるであろうと考えた。

 そうしてジルヴェスターはレイチェルから連絡が来るまでの間、四人と行動を共にしたのであった。
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