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囚われの親子編
第37話 勧誘(四)
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「良かった……安心しました」
フィローネはほっと胸を撫で下ろす。
だが、一安心したことで疑問が浮かび上がった。
「あの、それで、私がスカウトされたこととどう結び付くのでしょうか?」
弟の事情はわかった。
自分たちの置かれている境遇をレイチェルたちが知っているのも理解した。
しかし、それと自分がスカウトされることになんの関係があるのか? と思い至った。
「それも順に説明しますね」
「はい」
慌てなくてもレイチェルはしっかりと説明するつもりだ。
まず、時間稼ぎをする為に偽装用の遺体を用意する。
これは今もフェルディナンドが動いてくれている。
「グランクヴィスト様まで……!!」
再び大物の名前が登場してフィローネは瞠目する。
まさか最古参の七賢人であるフェルディナンドまで尽力してくれているとは思いもしなかった。
自分の想像以上に大事になっているのだと認識を改め、尽力してくれている人たちに対する感謝の念が堪えなくなる。
遺体を用意した後、レアルは母を連れてシノノメ家に匿ってもらう。
シノノメ家は仁義を重んじる気質をしている。彼等だけではなく、東方から逃れてきた民族は総じて仁義に厚く、その気質は末裔にも引き継がれている。
そしてシノノメ家には手練れの門下生が数多くいる。何よりもシノノメ家の一門は全員師範代相当の実力を有しているので侮れない。
門下生の中には政財界や魔法師界の中枢で活躍している者もおり、各界への繋がりが強い。
いざとなったら心強い後ろ盾になってくれるだろう。シノノメ家の令嬢の友人に関わる問題なので尚更だ。
「それは心強いですね。私にもシノノメ家に縁のある知人がいるので安心です」
シノノメ家の一門に限らず、門下生にも仁義を重んじるように説いている。
門下生の知人がいるなら、その気質に触れる機会があるだろう。それだけで信頼度に違いが生まれる。
これでレアルと母の安全は確保できる。
そこで残る問題はフィローネだけだ。
「いくら七賢人と言っても、特級魔法師の部下には軽率に手出しできませんからね。それが『守護神』の部下ともなれば尚更です」
「なるほど。つまり私をスカウトするのは、『守護神』様の庇護下に置く為というわけですね」
「その通りです」
「合点が行きました」
フィローネは話を聞いて自分がスカウトされた理由を理解した。そして納得もした。自分の身を守る為にスカウトしてくれたのだと。
自分の実力が認められたわけではないとわかり少し残念な気持ちになったが、何よりも厚意が嬉しかった。
良く知りもしない下っ端のことを気に掛けてくれているのだ。それも誰もが憧れる特級魔法師にである。それだけでも望外の喜びだ。
そして自分がスカウトを受けることで弟の負担を軽減させることができる上に、自分の身まで守ってもらえる。しかも特級魔法師の部下にもなれるのだ。
何一つとして断る理由がなかった。
「私としてはお受けしたいと思っておりますが、日頃お世話になっている友人に相談する時間を頂けないでしょうか?」
フィローネには自分の身を案じて自宅に居候させてくれていて、魔法師としても共に活動してくれている友人がいる。
自分だけ特級魔法師の部下になり、「はい、さようなら」とはいかないだろう。なので、友人にはちゃんと事情を説明しなくてはならない。何よりも恩のある友人には筋を通すべきだ。
「ヘレナ・ブランソンさんですね」
「ご存じでしたか」
「ええ、もちろんです」
フィローネが世話になっている親友の名は――ヘレナ・ブランソンという。
ジルヴェスターがレアルからヘレナの名を聞いていたので、事前に知らされていたレイチェルも把握していた。
「構いませんよ。友人に不義理は働けませんからね」
「ありがとうございます」
友人に事情を説明する時間くらいはある。
二人でしっかりと話し合うべきだ。
「それともう一つ」
「なんでしょう?」
首を傾げるフィローネ。
今回はフィローネをジルヴェスターの部下としてスカウトするだけではなく、もう一つ別の用件があった。
「もしスカウトを受けてくださるのなら、イングルスさんには『守護神』の内弟子になって頂きます」
「……」
レイチェルと言葉を交わしている内に場の雰囲気に慣れ、緊張が解れてきていたフィローネは、再び思考が停止してしまう。
それでもレイチェルは構わずに説明を続ける。
「正直、今のイングルスさんでは『守護神』の部下として実力不足なのは否めません」
下級三等魔法師であるフィローネでは、特級魔法師の部下として活動するには実力が伴わない。
それはフィローネ自身も理解していることだ。
「そこで、『守護神』が直々にイングルスさんを鍛えます」
実力が伴わないなら鍛えてしまえばいい。至極単純な結論だ。
それを特級魔法師第一席であるジルヴェスターが直々に行う。
自分でやるのが最も効率がいい、というのがジルヴェスターの弁だ。
フィローネはほっと胸を撫で下ろす。
だが、一安心したことで疑問が浮かび上がった。
「あの、それで、私がスカウトされたこととどう結び付くのでしょうか?」
弟の事情はわかった。
自分たちの置かれている境遇をレイチェルたちが知っているのも理解した。
しかし、それと自分がスカウトされることになんの関係があるのか? と思い至った。
「それも順に説明しますね」
「はい」
慌てなくてもレイチェルはしっかりと説明するつもりだ。
まず、時間稼ぎをする為に偽装用の遺体を用意する。
これは今もフェルディナンドが動いてくれている。
「グランクヴィスト様まで……!!」
再び大物の名前が登場してフィローネは瞠目する。
まさか最古参の七賢人であるフェルディナンドまで尽力してくれているとは思いもしなかった。
自分の想像以上に大事になっているのだと認識を改め、尽力してくれている人たちに対する感謝の念が堪えなくなる。
遺体を用意した後、レアルは母を連れてシノノメ家に匿ってもらう。
シノノメ家は仁義を重んじる気質をしている。彼等だけではなく、東方から逃れてきた民族は総じて仁義に厚く、その気質は末裔にも引き継がれている。
そしてシノノメ家には手練れの門下生が数多くいる。何よりもシノノメ家の一門は全員師範代相当の実力を有しているので侮れない。
門下生の中には政財界や魔法師界の中枢で活躍している者もおり、各界への繋がりが強い。
いざとなったら心強い後ろ盾になってくれるだろう。シノノメ家の令嬢の友人に関わる問題なので尚更だ。
「それは心強いですね。私にもシノノメ家に縁のある知人がいるので安心です」
シノノメ家の一門に限らず、門下生にも仁義を重んじるように説いている。
門下生の知人がいるなら、その気質に触れる機会があるだろう。それだけで信頼度に違いが生まれる。
これでレアルと母の安全は確保できる。
そこで残る問題はフィローネだけだ。
「いくら七賢人と言っても、特級魔法師の部下には軽率に手出しできませんからね。それが『守護神』の部下ともなれば尚更です」
「なるほど。つまり私をスカウトするのは、『守護神』様の庇護下に置く為というわけですね」
「その通りです」
「合点が行きました」
フィローネは話を聞いて自分がスカウトされた理由を理解した。そして納得もした。自分の身を守る為にスカウトしてくれたのだと。
自分の実力が認められたわけではないとわかり少し残念な気持ちになったが、何よりも厚意が嬉しかった。
良く知りもしない下っ端のことを気に掛けてくれているのだ。それも誰もが憧れる特級魔法師にである。それだけでも望外の喜びだ。
そして自分がスカウトを受けることで弟の負担を軽減させることができる上に、自分の身まで守ってもらえる。しかも特級魔法師の部下にもなれるのだ。
何一つとして断る理由がなかった。
「私としてはお受けしたいと思っておりますが、日頃お世話になっている友人に相談する時間を頂けないでしょうか?」
フィローネには自分の身を案じて自宅に居候させてくれていて、魔法師としても共に活動してくれている友人がいる。
自分だけ特級魔法師の部下になり、「はい、さようなら」とはいかないだろう。なので、友人にはちゃんと事情を説明しなくてはならない。何よりも恩のある友人には筋を通すべきだ。
「ヘレナ・ブランソンさんですね」
「ご存じでしたか」
「ええ、もちろんです」
フィローネが世話になっている親友の名は――ヘレナ・ブランソンという。
ジルヴェスターがレアルからヘレナの名を聞いていたので、事前に知らされていたレイチェルも把握していた。
「構いませんよ。友人に不義理は働けませんからね」
「ありがとうございます」
友人に事情を説明する時間くらいはある。
二人でしっかりと話し合うべきだ。
「それともう一つ」
「なんでしょう?」
首を傾げるフィローネ。
今回はフィローネをジルヴェスターの部下としてスカウトするだけではなく、もう一つ別の用件があった。
「もしスカウトを受けてくださるのなら、イングルスさんには『守護神』の内弟子になって頂きます」
「……」
レイチェルと言葉を交わしている内に場の雰囲気に慣れ、緊張が解れてきていたフィローネは、再び思考が停止してしまう。
それでもレイチェルは構わずに説明を続ける。
「正直、今のイングルスさんでは『守護神』の部下として実力不足なのは否めません」
下級三等魔法師であるフィローネでは、特級魔法師の部下として活動するには実力が伴わない。
それはフィローネ自身も理解していることだ。
「そこで、『守護神』が直々にイングルスさんを鍛えます」
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