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囚われの親子編
第38話 勧誘(五)
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「そんな! 畏れ多いです!!」
思考が追い付いたフィローネは慌てて両手を振って恐縮する。
「『守護神』に指導してもらえる人は滅多にいませんし、弟子を取ったことすらありません。非常に貴重で名誉なことなので、この機会をみすみすの逃してしまうのはもったいないと思いますよ」
ジルヴェスターに限らず、特級魔法師が直接指導を施すことは中々ない。しかも弟子を取るのは更に珍しい。
積極的に弟子を取る魔法師はいるが、特級魔法師ともなると取る弟子の基準が高くなる。見込みのある者の中でも更に厳選されてしまう。
故に、恐縮しきりのフィローネにとっては千載一遇のチャンスなのである。
特級魔法師第一席の弟子は誰もが手にしたいと願う立場なので、余程の事情がない限り断る者はいないだろう。
「外弟子ではなく内弟子なのは、イングルスさんのことを守る上で都合がいいからですね」
弟子の待遇は二通りある。
それは内弟子と外弟子だ。
内弟子は師匠の自宅に住み込むので、指導を受ける機会が増えるのに加え、食住が保障される。その代わりに師匠の自宅で雑用などをこなさなくてはならない。
そして、外弟子は通いの弟子だ。
内弟子と違い指導を受ける機会が減り、食住の保障はされないが、自宅での雑用を免除される。もちろん指導時の雑用は行わなくてはならない。
師匠によって指導法や課す雑用などには違いがあるので、あくまでも基準だ。
フィローネを内弟子待遇で迎えるのは、弟子にして鍛えたいのもあるが、最大の理由は守る為だ。
ジルヴェスターの内弟子として住み込むことで直接見守ることができ、尚且つすぐに駆けつけることが可能なので物理的に守りやすい。
また、特級魔法師第一席である『守護神』の弟子という肩書があれば、ビリーは軽率に手出しできなくなる。
弟子に危害を加えて師匠の怒りを買うことになるからだ。しかもその師匠が特級魔法師第一席ともなると、いくら七賢人でも自分の首を絞める結果になりかねない。
「私が『守護神』様のお宅で寝食を共にするなんて……畏れ多くて想像すらできません」
フィローネは顔を引き攣っている。
誰もが憧憬の念を向ける雲の上の存在と寝食を共にするなど、現実味のない話だろう。
「『守護神』本人は自分でなんでもこなせてしまう人なので、過酷な雑用はさせないでしょうから、そこは安心していいですよ」
「いえ、それは心配していないので大丈夫です」
レイチェルの言葉に、フィローネは両手を振って慌て気味に答える。
ジルヴェスターはどのようなことでもそつなくこなす。
手が足りない時は人を頼るが、自分の手さえ空いていればなんでも自ら行ってしまう。
内弟子の際、師匠によっては弟子に無体を働くことも屡あるので気をつけなければならない。
「強制はしませんが、この話を受けてくれると助かります」
レイチェルは安心させるように穏和な笑みをフィローネに向ける。
ジルヴェスターの部下になる件と、内弟子になる件を受けてくれると助かるのは本心だ。
ジルヴェスターの部下として同僚が増えれば、今まで一人で行っていたことが分担できてレイチェルの負担が減る。内弟子になることで鍛えられ、同僚が優秀になってくれれば更に負担が減る。
レイチェルにとっては願ったり叶ったりであった。
「私はお受けするつもりです」
表情を引き締めたフィローネは前向きに検討していた。
「一応、友人に話してからになりますが……」
ただ、恩のあるヘレナに筋を通してからの話だ。
心配せずともヘレナなら応援してくれるだろうとフィローネは思っている。
「なので、友人をこの場に呼んでも構わないでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
「ありがとうございます」
レイチェルが優しい笑みを浮かべながら頷くと、表情が緩んだフィローネは軽く頭を下げた。
この場にヘレナを呼び、レイチェルも交えて話をしてしまおうと考えたのだ。
その方がスムーズに話が進むだろう。
レイチェルの許可を得たフィローネは、ヘレナに念話を飛ばす。
左手首が一瞬光ったので、腕輪型のMACを用いて魔法を行使したのだと思われる。
そしてヘレナと一言二言言葉を交わすと、念話を解除した。
「すぐに来るそうです」
「では待ちましょうか」
ヘレナが来るまで少しだけ時間ができたので、フィローネはずっと気になっていたことを尋ねることにした。
「――あの、一つ尋ねてもよろしいでしょうか」
「もちろんです」
だいぶ場の雰囲気に慣れ、既にレイチェルを相手にしても緊張が和らいでいたフィローネは、自分から声を掛けるのに勇気を少し振り絞るだけで済んだ。
「『守護神』様はどのような御方なのでしょうか? 私たちの為にこれほど尽力してくださるのが不思議でして……」
彼女の疑問はもっともだろう。
普通は暗殺未遂を犯すような者と、その家族に手を差し伸べたりはしないだろう。
相手が家族や友人なら助けようと奔走することはあるかもしれないが、どこの誰とも知れない下っ端の為に尽力してくれるのが不思議でならなかった。
相手が特級魔法師でなければ何か裏があるのではないか、と勘繰ってしまいかねない。
「そうですね……」
レイチェルはどう説明するかを思案する。
視線を少し下げてテーブルに焦点を合わせていたが、思考に耽る時間はあっという間だった。
すぐに目線をフィローネに戻して口を開く。
「それは本人に会えばわかりますよ」
一先ずこの場では濁しておくことにした。
レイチェルがジルヴェスターのことを始終『守護神』と呼んでいたのには理由がある。
まだフィローネが正式にジルヴェスターの部下になったわけではないからだ。
ジルヴェスターは特級魔法師として自分の名を公表していない。
これは本人とフェルディナンドの意向によるものだ。
つまり、まだ正式にジルヴェスターの部下になっていない者に正体を明かすことはできないということだ。
先に正体を明かし、後で部下になるのを断られたら機密を漏らしてしまうことになる。
「なるほど。納得しました」
確かに今の段階では自分に話すことはできないだろうと、説明を聞いたフィローネは得心した。
その時、扉をノックする音が鳴って室内にこだました。
「ヘレナですね」
そう呟いたフィローネはソファから立ち上がって扉へ向かう。
そして出迎える為に扉を開いた。
「――お待たせしました」
茶髪の女性――ヘレナが入室早々に敬礼する。
ヘレナは事前に上級二等魔法師であるレイチェルがいることをフィローネに伝えられていたので、失礼があってはいけないと礼節を尽くす。
「さ、まずは腰掛けてください」
「失礼します」
レイチェルに促されたヘレナは緊張しているのか動作が硬い。
フィローネとヘレナがソファに腰掛けたところで、レイチェルは改めて自己紹介をする。
そしてその後は、フィローネにしたような説明をヘレナにも行う。
話を聞いたヘレナは、驚愕して言葉にならない声を室内に響き渡るほどの声量で発し、更に膝をテーブルにぶつけてしまい悶絶する羽目になった。
フィローネに最初説明した時よりもヘレナの方が一段と大きなリアクションだったのは、二人の性格の違いが表れた一幕であった。
思考が追い付いたフィローネは慌てて両手を振って恐縮する。
「『守護神』に指導してもらえる人は滅多にいませんし、弟子を取ったことすらありません。非常に貴重で名誉なことなので、この機会をみすみすの逃してしまうのはもったいないと思いますよ」
ジルヴェスターに限らず、特級魔法師が直接指導を施すことは中々ない。しかも弟子を取るのは更に珍しい。
積極的に弟子を取る魔法師はいるが、特級魔法師ともなると取る弟子の基準が高くなる。見込みのある者の中でも更に厳選されてしまう。
故に、恐縮しきりのフィローネにとっては千載一遇のチャンスなのである。
特級魔法師第一席の弟子は誰もが手にしたいと願う立場なので、余程の事情がない限り断る者はいないだろう。
「外弟子ではなく内弟子なのは、イングルスさんのことを守る上で都合がいいからですね」
弟子の待遇は二通りある。
それは内弟子と外弟子だ。
内弟子は師匠の自宅に住み込むので、指導を受ける機会が増えるのに加え、食住が保障される。その代わりに師匠の自宅で雑用などをこなさなくてはならない。
そして、外弟子は通いの弟子だ。
内弟子と違い指導を受ける機会が減り、食住の保障はされないが、自宅での雑用を免除される。もちろん指導時の雑用は行わなくてはならない。
師匠によって指導法や課す雑用などには違いがあるので、あくまでも基準だ。
フィローネを内弟子待遇で迎えるのは、弟子にして鍛えたいのもあるが、最大の理由は守る為だ。
ジルヴェスターの内弟子として住み込むことで直接見守ることができ、尚且つすぐに駆けつけることが可能なので物理的に守りやすい。
また、特級魔法師第一席である『守護神』の弟子という肩書があれば、ビリーは軽率に手出しできなくなる。
弟子に危害を加えて師匠の怒りを買うことになるからだ。しかもその師匠が特級魔法師第一席ともなると、いくら七賢人でも自分の首を絞める結果になりかねない。
「私が『守護神』様のお宅で寝食を共にするなんて……畏れ多くて想像すらできません」
フィローネは顔を引き攣っている。
誰もが憧憬の念を向ける雲の上の存在と寝食を共にするなど、現実味のない話だろう。
「『守護神』本人は自分でなんでもこなせてしまう人なので、過酷な雑用はさせないでしょうから、そこは安心していいですよ」
「いえ、それは心配していないので大丈夫です」
レイチェルの言葉に、フィローネは両手を振って慌て気味に答える。
ジルヴェスターはどのようなことでもそつなくこなす。
手が足りない時は人を頼るが、自分の手さえ空いていればなんでも自ら行ってしまう。
内弟子の際、師匠によっては弟子に無体を働くことも屡あるので気をつけなければならない。
「強制はしませんが、この話を受けてくれると助かります」
レイチェルは安心させるように穏和な笑みをフィローネに向ける。
ジルヴェスターの部下になる件と、内弟子になる件を受けてくれると助かるのは本心だ。
ジルヴェスターの部下として同僚が増えれば、今まで一人で行っていたことが分担できてレイチェルの負担が減る。内弟子になることで鍛えられ、同僚が優秀になってくれれば更に負担が減る。
レイチェルにとっては願ったり叶ったりであった。
「私はお受けするつもりです」
表情を引き締めたフィローネは前向きに検討していた。
「一応、友人に話してからになりますが……」
ただ、恩のあるヘレナに筋を通してからの話だ。
心配せずともヘレナなら応援してくれるだろうとフィローネは思っている。
「なので、友人をこの場に呼んでも構わないでしょうか?」
「ええ、もちろん構いませんよ」
「ありがとうございます」
レイチェルが優しい笑みを浮かべながら頷くと、表情が緩んだフィローネは軽く頭を下げた。
この場にヘレナを呼び、レイチェルも交えて話をしてしまおうと考えたのだ。
その方がスムーズに話が進むだろう。
レイチェルの許可を得たフィローネは、ヘレナに念話を飛ばす。
左手首が一瞬光ったので、腕輪型のMACを用いて魔法を行使したのだと思われる。
そしてヘレナと一言二言言葉を交わすと、念話を解除した。
「すぐに来るそうです」
「では待ちましょうか」
ヘレナが来るまで少しだけ時間ができたので、フィローネはずっと気になっていたことを尋ねることにした。
「――あの、一つ尋ねてもよろしいでしょうか」
「もちろんです」
だいぶ場の雰囲気に慣れ、既にレイチェルを相手にしても緊張が和らいでいたフィローネは、自分から声を掛けるのに勇気を少し振り絞るだけで済んだ。
「『守護神』様はどのような御方なのでしょうか? 私たちの為にこれほど尽力してくださるのが不思議でして……」
彼女の疑問はもっともだろう。
普通は暗殺未遂を犯すような者と、その家族に手を差し伸べたりはしないだろう。
相手が家族や友人なら助けようと奔走することはあるかもしれないが、どこの誰とも知れない下っ端の為に尽力してくれるのが不思議でならなかった。
相手が特級魔法師でなければ何か裏があるのではないか、と勘繰ってしまいかねない。
「そうですね……」
レイチェルはどう説明するかを思案する。
視線を少し下げてテーブルに焦点を合わせていたが、思考に耽る時間はあっという間だった。
すぐに目線をフィローネに戻して口を開く。
「それは本人に会えばわかりますよ」
一先ずこの場では濁しておくことにした。
レイチェルがジルヴェスターのことを始終『守護神』と呼んでいたのには理由がある。
まだフィローネが正式にジルヴェスターの部下になったわけではないからだ。
ジルヴェスターは特級魔法師として自分の名を公表していない。
これは本人とフェルディナンドの意向によるものだ。
つまり、まだ正式にジルヴェスターの部下になっていない者に正体を明かすことはできないということだ。
先に正体を明かし、後で部下になるのを断られたら機密を漏らしてしまうことになる。
「なるほど。納得しました」
確かに今の段階では自分に話すことはできないだろうと、説明を聞いたフィローネは得心した。
その時、扉をノックする音が鳴って室内にこだました。
「ヘレナですね」
そう呟いたフィローネはソファから立ち上がって扉へ向かう。
そして出迎える為に扉を開いた。
「――お待たせしました」
茶髪の女性――ヘレナが入室早々に敬礼する。
ヘレナは事前に上級二等魔法師であるレイチェルがいることをフィローネに伝えられていたので、失礼があってはいけないと礼節を尽くす。
「さ、まずは腰掛けてください」
「失礼します」
レイチェルに促されたヘレナは緊張しているのか動作が硬い。
フィローネとヘレナがソファに腰掛けたところで、レイチェルは改めて自己紹介をする。
そしてその後は、フィローネにしたような説明をヘレナにも行う。
話を聞いたヘレナは、驚愕して言葉にならない声を室内に響き渡るほどの声量で発し、更に膝をテーブルにぶつけてしまい悶絶する羽目になった。
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