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囚われの親子編
第50話 恩
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◇ ◇ ◇
四月五日の午前――政府中枢は混乱に包まれていた。
七賢人のビリー・トーマスがやつれた顔で登庁したかと思えば、突然自身の過ちを叫び始めたからだ。
全て自白し終えると、とても正常な精神状態だとは思えない狂乱ぶりで自身を裁くように懇願し始める始末であり、場は一層混沌と化した。
七賢人であるオコギーがタイミング良く現場に居合わせ、彼の判断で一先ずビリーは医務室に連れて行かれた。
そして現在は七賢人に緊急招集を掛け、全員が集まるのを『賢人の間』で待っていた。
「オコギー卿、待たせて申し訳ない」
最初に姿を現したのは、最古参の七賢人であるフェルディナンドであった。
「いえいえ、急でしたので仕方ありませんよ」
オコギーは恐縮した様子で答える。
同じ七賢人でも二十歳以上の年齢差があるので、彼は目上の者に対する礼儀を弁えていた。
席は円卓になっており、フェルディナンドは最奥の席に腰掛ける。
オコギーは扉に最も近い位置の座席に陣取っていた。
各々の席は決まっており、古参の者から順に奥の座席が指定席となっている。
フェルディナンドは事前にジルヴェスターから話を聞いていたので、混乱が起こることは予測していた。故に、迅速に登庁できたのだが、それは内緒である。
「全く、トーマス卿にも困ったものだな」
フェルディナンドが嘆息する。
「正直、私は戸惑っています……」
困惑顔のオコギーは言葉に詰まってしまう。
「卿はまだ七賢人としての在任歴が浅いので無理もないが、私たちを除いた七賢人はみな腐っておるぞ」
「そんな身も蓋もないことを……」
「事実なのだから仕方あるまい」
一切取り繕うとしないフェルディナンドの態度に、オコギーは苦笑するしかなかった。
オコギーの本名はジェイコブ・オコギーだ。
七賢人の中で最年少である彼は、老獪な面々と日々渡り合い気苦労を重ねていた。
フェルディナンドが良くフォローしてくれるが、他の面々には手を焼いているのが偽らざる現実だ。
また、薄々七賢人が腐敗していることには気がついていたが、改めてフェルディナンドが毒づくのを目の当たりにすると、今以上に認識を改めなければならないと思った。
「トーマス卿を裁くのは簡単だが、そんな容易に済ませられる話ではないのも頭が痛い」
「それには同意します」
ビリーの件に話が移行し、フェルディナンドが肩を竦めて愚痴を零す。
「明らかにトーマス卿に非があるとはいえ、彼奴が非魔法師である以上裁けば反魔法思想の者が黙ってはおるまい」
「トーマス卿自身の影響力も無視できませんからね」
大半の反魔法主義者は理解を示すだろうが、中には話の通じない輩も存在する。
一部の自分に都合のいいようにしか物事を判断しないご都合主義者が筋の通っていない抗議をするのが目に見えている為、ビリーを安易に裁くことができない。
放っておけば市民に危害を加えるのだから手に負えず、簡単に切り捨てるのは許されなかった。
「儂らが反魔法主義者に対する政策について腐心しておると言うのに……足を引っ張りおって」
以前グラディスとレイチェルに指摘された通り、フェルディナンドはジェイコブと共に反魔法主義者に対する対応を煮詰めていた。
それが今回の件で検討し直さなければならなくなり、遺憾千万であった。
「一先ずは謹慎処分が妥当と言ったところか」
「そうですね。その間に対策を模索すべきかと」
安易に切り捨てることが許されないのがもどかしい。
一度事態に対処する時間が必要だ。
「何より他の面々が協力的か否かも問われるな」
フェルディナンドとジェイコブを除いた七賢人が共同戦線を敷いてくれるとは限らない。
ビリーを追い詰めることが自分にとって不利になると判断した場合は、保身に走り妨害してくる可能性すらある。
決して一枚岩ではなかった。
四月五日の午前――政府中枢は混乱に包まれていた。
七賢人のビリー・トーマスがやつれた顔で登庁したかと思えば、突然自身の過ちを叫び始めたからだ。
全て自白し終えると、とても正常な精神状態だとは思えない狂乱ぶりで自身を裁くように懇願し始める始末であり、場は一層混沌と化した。
七賢人であるオコギーがタイミング良く現場に居合わせ、彼の判断で一先ずビリーは医務室に連れて行かれた。
そして現在は七賢人に緊急招集を掛け、全員が集まるのを『賢人の間』で待っていた。
「オコギー卿、待たせて申し訳ない」
最初に姿を現したのは、最古参の七賢人であるフェルディナンドであった。
「いえいえ、急でしたので仕方ありませんよ」
オコギーは恐縮した様子で答える。
同じ七賢人でも二十歳以上の年齢差があるので、彼は目上の者に対する礼儀を弁えていた。
席は円卓になっており、フェルディナンドは最奥の席に腰掛ける。
オコギーは扉に最も近い位置の座席に陣取っていた。
各々の席は決まっており、古参の者から順に奥の座席が指定席となっている。
フェルディナンドは事前にジルヴェスターから話を聞いていたので、混乱が起こることは予測していた。故に、迅速に登庁できたのだが、それは内緒である。
「全く、トーマス卿にも困ったものだな」
フェルディナンドが嘆息する。
「正直、私は戸惑っています……」
困惑顔のオコギーは言葉に詰まってしまう。
「卿はまだ七賢人としての在任歴が浅いので無理もないが、私たちを除いた七賢人はみな腐っておるぞ」
「そんな身も蓋もないことを……」
「事実なのだから仕方あるまい」
一切取り繕うとしないフェルディナンドの態度に、オコギーは苦笑するしかなかった。
オコギーの本名はジェイコブ・オコギーだ。
七賢人の中で最年少である彼は、老獪な面々と日々渡り合い気苦労を重ねていた。
フェルディナンドが良くフォローしてくれるが、他の面々には手を焼いているのが偽らざる現実だ。
また、薄々七賢人が腐敗していることには気がついていたが、改めてフェルディナンドが毒づくのを目の当たりにすると、今以上に認識を改めなければならないと思った。
「トーマス卿を裁くのは簡単だが、そんな容易に済ませられる話ではないのも頭が痛い」
「それには同意します」
ビリーの件に話が移行し、フェルディナンドが肩を竦めて愚痴を零す。
「明らかにトーマス卿に非があるとはいえ、彼奴が非魔法師である以上裁けば反魔法思想の者が黙ってはおるまい」
「トーマス卿自身の影響力も無視できませんからね」
大半の反魔法主義者は理解を示すだろうが、中には話の通じない輩も存在する。
一部の自分に都合のいいようにしか物事を判断しないご都合主義者が筋の通っていない抗議をするのが目に見えている為、ビリーを安易に裁くことができない。
放っておけば市民に危害を加えるのだから手に負えず、簡単に切り捨てるのは許されなかった。
「儂らが反魔法主義者に対する政策について腐心しておると言うのに……足を引っ張りおって」
以前グラディスとレイチェルに指摘された通り、フェルディナンドはジェイコブと共に反魔法主義者に対する対応を煮詰めていた。
それが今回の件で検討し直さなければならなくなり、遺憾千万であった。
「一先ずは謹慎処分が妥当と言ったところか」
「そうですね。その間に対策を模索すべきかと」
安易に切り捨てることが許されないのがもどかしい。
一度事態に対処する時間が必要だ。
「何より他の面々が協力的か否かも問われるな」
フェルディナンドとジェイコブを除いた七賢人が共同戦線を敷いてくれるとは限らない。
ビリーを追い詰めることが自分にとって不利になると判断した場合は、保身に走り妨害してくる可能性すらある。
決して一枚岩ではなかった。
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