最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

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対抗戦編

第3話 勉強会(三)

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 ◇ ◇ ◇

 放課後になると一年A組の教室で勉強会を開いた。
 参加メンバーはジルヴェスター、ステラ、オリヴィア、アレックス、イザベラ、リリアナ、レアル、レベッカ、シズカの九人だ。

 前回の試験では全員上位の成績を残している。

 一度前回の試験結果の順位を整理しよう。

 実技
 一位・ジルヴェスター
 二位・レアル
 三位・シズカ
 四位・イザベラ
 七位・アレックス
 九位・ステラ
 十一位・リリアナ
 十五位・オリヴィア
 十七位・レベッカ

 筆記
 一位・ジルヴェスター
 二位・オリヴィア
 三位・リリアナ
 五位・イザベラ
 七位・シズカ
 八位・レアル
 十二位・ステラ
 二十二位・レベッカ
 三十一位・アレックス

 総合
 一位・ジルヴェスター
 二位・レアル
 三位・イザベラ
 四位・シズカ
 八位・ステラ
 十位・リリアナ
 十二位・オリヴィア
 十七位・アレックス
 二十一位・レベッカ

 以上のように九人は学年でも上位の成績を残している。

 みんな元々優秀なので勉強は滞りなく進んでいた。
 時折わからない箇所をジルヴェスターやオリヴィアなどに尋ねるくらいだ。

「ジルは勉強しなくていいのか?」

 みんなが真面目に勉強している中、ジルヴェスターは一人だけ読書に興じていた。 
 それがアレックスは気になった。

「ああ。全て頭に入っているからな」

 ジルヴェスターは本から目を離さずに答える。

「マジかよ。さすが首席殿は違うな」

 余裕綽々としているジルヴェスターの態度にアレックスは溜息を吐く。

「ジルくんは一度見聞きすれば完璧に覚えてしまうのよ」
「――は?」

 オリヴィアが軽い調子で言うと、アレックスは呆気に取られてぽかんと口を開いた。

「なんか人として備わっているスペックが違うよね」

 話を聞いていたレアルが苦笑しながら呟く。

「完璧は言いすぎだ」

 ジルヴェスターは活字の羅列から目を離して顔を上げると、至極真面目な表情で訂正する。

 いくらジルヴェスターでも見聞きしたことを全て瞬時に記憶することは不可能だ。
 見聞きしたことを自分の意思に関係なく記憶してしまうと、さすがに脳の許容量を超えてパンクしてしまう。――それでも常人とは比較にならないほどの記憶力を有しているのだが。

「俺だって忘れることはあるし、興味のあることを優先的に覚える」

 脳は記憶領域が壊れないように、勝手に取捨選択して記憶を整理してくれている。なので、しっかりと覚えていることもあれば、忘れてしまっていることもある。

 本人が大事だと思っていることや興味のある事柄に関してはしっかりと覚えており、逆に切り捨ててもいいと判断したことは優先的に覚えないようにしてくれたり、忘れさせてくれたりするので、自分の脳は中々気が利くと思っていた。
 お陰でジルヴェスターの脳は壊れないで済んでいる。

「ジルくんにも人間味があって良かった」
「人間だからな」
「ふふ」

 レベッカが揶揄からかうような口調で言うと、ジルヴェスターは肩を竦めながら冗談交じりに答えた。

 確かにあまりにも完璧すぎると機械のようで不気味に感じるかもしれない。
 その点、自分の興味を優先したり欠点があったりすると人間味を感じられる。

「レベッカ、イチャついていないで手と頭を動かして」
「――イ、イチャついてないけど!?」

 隣に座っているシズカに指摘されて慌てふためく。

「勉強しないならもう教えないわよ」
「ひえ」

 レベッカは苦手科目をシズカに教えてもらっていた。
 シズカは前回の試験で筆記七位の成績を残しているので、教えを乞う相手としては申し分ない。

「見捨てないでよ~」
「はいはい」

 突き放すような言い方をされたレベッカは反射的にシズカにしがみつき、胸に顔をうずめる。
 当のシズカは溜息を吐くが、レベッカを引き剥がそうとはしない。

「ふふ、仲良しですね」
「そうだね」

 真面目に勉強していたリリアナが二人のやり取りを見て微笑むと、隣にいるイザベラも笑みを零した。

「ほら、二人を見習って」
「は~い」

 シズカは黙々と勉強しているリリアナとイザベラに視線を向けながらそう言い、レベッカを促す。

「飼い馴らされてるペットかよ」

 アレックスが率直に思ったことを口走ると――

「わたしより筆記の順位低いあんたはペット以下ね」

 間髪入れずにジト目を向けながら言い返すレベッカであった。
 
「……」

 正鵠せいこくる指摘にアレックスは何も言い返すことができず、顔を引き攣らせながら黙り込んでしまう。
 彼も友人に教えを乞う身だ。しかもレベッカより筆記の順位が下なのは偽らざる事実なので、否定も反撃もできなかった。
 
「アレックス……」

 あわれみの籠った眼差しを向けるレアル。

「その目はやめてくれ……」

 居た堪れなくなったアレックスは目を背けて肩を竦めた。

「レベッカならかわいいペットだな」
「ええ!?」

 様子を見守っていたジルヴェスターが唐突に呟く。
 単語だけ見ると中々に酷い言葉だが、言われた本人は赤面して照れていた。

(――キュンとした! わたし、もしかしたらマゾかもしれない……!)

 不意打ちを食らったレベッカは足腰の力が抜けてしまっている。
 ゾクゾクしている胸中に、自分の新たな性癖を垣間見た気がした。

「いや、他意はない。ただ純粋に愛らしいと思っただけだ」

 ジルヴェスターは言い方が悪かったと思い補足を口にする。

「ジルくん、レベッカのこと口説いてる?」
「そんなつもりはなかったんだが……」

 オリヴィアは呆れて溜息を吐き、若干棘のある口調で尋ねる。
 どうやら照れているレベッカの様子に思うところがあったようだ。

「天然ジゴロ」

 我関せずを貫いて勉強に集中していたステラは、視線を手元に固定したままぽつりと呟くと――

「オリヴィア、ここ教えて」
「んーと、ここはね――」

 興味を失くしたかのようにオリヴィアに教えを乞う。
 ステラの頭の中は対抗戦のことで埋め尽くされている。だが、勉強を終えれば実技の練習ができるとやる気に満ちていた。

 実技試験は対抗戦の選手選考に影響があるから練習を怠らずに結果を残したいのだろう。

「……」

 言った後は放置するステラの態度に、ジルヴェスターは肩を竦めるしかなかった。

 その後も照れるレベッカを茶化しながら勉強会は進んでいく。
 仲がいいのは微笑ましいが、果たして身になったのであろうか。
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