最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
125 / 141
対抗戦編

第8話 責任(四)

しおりを挟む
「俺は見掛けたことも会ったこともないが、魔法師としてそれほど優れているのか?」
「そうね――」

 ジルヴェスターの問いにレティは顎に手を当てて考え込む。
 少しの間だけ沈黙が場を支配するが、すぐに考えが纏まっておもむろに口を開く。

「特級魔法師として相応しい才能があるのは確かよ。ただ、現状は才能に胡坐あぐらをかいて、力任せに魔法を行使しているってところかしらね」

 エレオノーラは恵まれた魔力量とセンスだけで特級魔法師になった。
 なんの努力も苦労もしていない。
 故に技量は乏しい。

「お前と相対したらどうなる?」
「あのは手も足も出ないわよ」
「そうか」
「いくら私が一線を退しりぞいているとはいえ、まだ耄碌もうろくしていないわ」

 レティは考える間もなく即答した。

 同じ特級魔法師でも実力差が存在する。
 少なくともエレオノーラではレティに敵わない。

「いろいろ話したけれど、あなたにフェトファシディスさんの鼻っ柱を圧し折ってほしいのよ」

 レティは真剣な表情でジルヴェスターのことを見つめているが、どこか申し訳なさそうにしているのが垣間見える。
 世話になったジョアンナの為にできることをしたいという想いと、あまり目立ちたくないというジルヴェスターの気持ちを天秤に掛けて葛藤しているのだろう。

「自分より優れた者はいないと勘違いしているフェトファシディスさんが、年下のジル君に敗れたら考えを改めるのではないかと思ったのよ」
「なるほど。事情は理解した」

 ジルヴェスターは眉間に皺を寄せて考え込む。
 レティの頼みなら叶えてやりたいが、できることなら波風を立てるようなことはしたくない。
 非常に悩ましい問題であった。

「ジョアンナさんにも提案したら賛同してくれたわ」
「プリム女学院の学園長としていいのかそれは……」

 ジルヴェスターが出場するということは、ランチェスター学園の優勝が現実味を帯びる。
 ジョアンナは学園長としてプリム女学院の優勝を願うところだろう。
 しかし、優勝を逃してでもエレオノーラに冷水を浴びせてやりたいのかもしれない。

「ジョアンナさんには、まだ若いフェトファシディスさんを預かっている責任があるのよ」

 十代で将来性しかないエレオノーラを生徒として預かっているジョアンナには責任がある。
 彼女を心身共に一人前の魔法師に養成する責任だ。

 エレオノーラは魔法師界だけではなく、国中から期待を寄せられている。
 国を守護する要の特級魔法師だからだ。それも若いとなれば、今後長期的に国を壁外の脅威から守ってくれる。

 ジョアンナは現在プリム女学院に通っている生徒から対抗戦優勝という栄誉を奪ってでも、エレオノーラを矯正しなくてはならないと判断した。
 非情だが、エレオノーラ一人の価値をかんがみれば仕方がない決断だろう。
 それがエレオノーラのことを預かる学園長としての責任だ。

「その際にあなたの正体を明かしてしまったのはごめんなさいね」
「それは別に構わん。お前が必要だと思ったのならな」

 正体を勝手に明かしたことを申し訳なく思っていたレティが頭を下げるが、ジルヴェスターは全く気にしていなかった。
 彼はレティのことを信頼しているので、彼女が必要だと思って明かしたことなら責める気は微塵もなかった。

「ふふ、ありがとう。ちゃんと内密にするよう釘を刺しておいたわ」

 ジルヴェスターの信頼が伝ってきたレティは嬉しそうに微笑む。

「それで、俺がエレオノーラそいつを叩きのめせばいいんだな?」

 ジルヴェスターは溜息を吐いてからレティに確認を取る。
 溜息には重たい物を吐き出すかのような重々しさがあった。

「ええ。お願いできるかしら?」
「ああ。気は進まないが、俺にも第一席としての責任があるからな」

 ジルヴェスターは苦虫を噛み潰したような顔つきで頭を掻く。

 平穏な学園生活を死守する為に目立ちたくはないが、第一席としてエレオノーラのことを野放しにはできなかった。
 特級魔法師であるエレオノーラが、反魔法主義者から反感を買うような事態になっては目も当てられない。魔法師界全体の問題に関わるからだ。

 特級魔法師の知名度、影響力、責任は馬鹿にできない。
 決して軽い地位ではないということを叩き込んでやり、特級魔法師としての自覚を持たせてやる。
 それが第一席であるジルヴェスターなりの責任の果たし方であった。

「だが、みんなの見せ場を奪う気はない。俺がやるのは勘違い娘の教育だけだ」
「もちろんそれで構わないわ」

 対抗戦の本戦に出場することは了承するが、それでも譲れない一線はある。
 ジルヴェスター一人で戦力バランスが崩壊するのは間違いない。
 彼一人で優勝を手にすることも不可能ではないだろう。

 しかし、それでは他の出場者がせっかくの晴れ舞台で活躍する機会を奪ってしまう。
 魔法協会や国に対するアピールも兼ねている場なのにだ。

 対抗戦に出場する為に日々努力を怠らないこと、出場して活躍する為に万全の準備を整えることで魔法師としての成長に繋がる。
 仲間やライバルと切磋琢磨することで向上心を養う。
 その貴重な晴れ舞台をジルヴェスター一人に台無しにされては、他の生徒のやる気を殺いでしまう恐れがある。

 そうなってしまっては魔法師を養成する機関としても、将来活躍する魔法師が数多く欲しい魔法協会や政府にとっても、意味のないイベントになってしまう。
 ジルヴェスターにとっても自分が楽をする為に優秀な魔法師はいくらでもいて欲しいので、生徒たちには是非とも頑張ってもらいたいところであった。
 故に、対抗戦ではエレオノーラの相手をする以外は手を出す気がなかった。

「ジェニングスさんもそれでいいかしら?」
「はい。ですが、ジルヴェスター様がどこまで介入するかは改めて検討しましょう」

 クラウディアは頷いた後に懸念点を提示する。

「出場しているのにチームの一員として動かなかったら不自然ですから」
「そうだな」

 ジルヴェスターがエレオノーラの鼻っ柱を圧し折る為に出場することを知っているのは、ジルヴェスター、オリヴィア、クラウディア、ジョアンナの四人だけだ。
 もしかしたらジルヴェスターの行動が仲間にも観客にも不自然に映るかもしれない。
 なので、チームの一員として最低限違和感のない行動を心掛けるべきだ。
 あくまでも対抗戦は生徒たちが真剣勝負を行う場なのだから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...