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対抗戦編
第8話 責任(四)
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「俺は見掛けたことも会ったこともないが、魔法師としてそれほど優れているのか?」
「そうね――」
ジルヴェスターの問いにレティは顎に手を当てて考え込む。
少しの間だけ沈黙が場を支配するが、すぐに考えが纏まって徐に口を開く。
「特級魔法師として相応しい才能があるのは確かよ。ただ、現状は才能に胡坐をかいて、力任せに魔法を行使しているってところかしらね」
エレオノーラは恵まれた魔力量とセンスだけで特級魔法師になった。
なんの努力も苦労もしていない。
故に技量は乏しい。
「お前と相対したらどうなる?」
「あの娘は手も足も出ないわよ」
「そうか」
「いくら私が一線を退いているとはいえ、まだ耄碌していないわ」
レティは考える間もなく即答した。
同じ特級魔法師でも実力差が存在する。
少なくともエレオノーラではレティに敵わない。
「いろいろ話したけれど、あなたにフェトファシディスさんの鼻っ柱を圧し折ってほしいのよ」
レティは真剣な表情でジルヴェスターのことを見つめているが、どこか申し訳なさそうにしているのが垣間見える。
世話になったジョアンナの為にできることをしたいという想いと、あまり目立ちたくないというジルヴェスターの気持ちを天秤に掛けて葛藤しているのだろう。
「自分より優れた者はいないと勘違いしているフェトファシディスさんが、年下のジル君に敗れたら考えを改めるのではないかと思ったのよ」
「なるほど。事情は理解した」
ジルヴェスターは眉間に皺を寄せて考え込む。
レティの頼みなら叶えてやりたいが、できることなら波風を立てるようなことはしたくない。
非常に悩ましい問題であった。
「ジョアンナさんにも提案したら賛同してくれたわ」
「プリム女学院の学園長としていいのかそれは……」
ジルヴェスターが出場するということは、ランチェスター学園の優勝が現実味を帯びる。
ジョアンナは学園長としてプリム女学院の優勝を願うところだろう。
しかし、優勝を逃してでもエレオノーラに冷水を浴びせてやりたいのかもしれない。
「ジョアンナさんには、まだ若いフェトファシディスさんを預かっている責任があるのよ」
十代で将来性しかないエレオノーラを生徒として預かっているジョアンナには責任がある。
彼女を心身共に一人前の魔法師に養成する責任だ。
エレオノーラは魔法師界だけではなく、国中から期待を寄せられている。
国を守護する要の特級魔法師だからだ。それも若いとなれば、今後長期的に国を壁外の脅威から守ってくれる。
ジョアンナは現在プリム女学院に通っている生徒から対抗戦優勝という栄誉を奪ってでも、エレオノーラを矯正しなくてはならないと判断した。
非情だが、エレオノーラ一人の価値を鑑みれば仕方がない決断だろう。
それがエレオノーラのことを預かる学園長としての責任だ。
「その際にあなたの正体を明かしてしまったのはごめんなさいね」
「それは別に構わん。お前が必要だと思ったのならな」
正体を勝手に明かしたことを申し訳なく思っていたレティが頭を下げるが、ジルヴェスターは全く気にしていなかった。
彼はレティのことを信頼しているので、彼女が必要だと思って明かしたことなら責める気は微塵もなかった。
「ふふ、ありがとう。ちゃんと内密にするよう釘を刺しておいたわ」
ジルヴェスターの信頼が伝ってきたレティは嬉しそうに微笑む。
「それで、俺がエレオノーラを叩きのめせばいいんだな?」
ジルヴェスターは溜息を吐いてからレティに確認を取る。
溜息には重たい物を吐き出すかのような重々しさがあった。
「ええ。お願いできるかしら?」
「ああ。気は進まないが、俺にも第一席としての責任があるからな」
ジルヴェスターは苦虫を噛み潰したような顔つきで頭を掻く。
平穏な学園生活を死守する為に目立ちたくはないが、第一席としてエレオノーラのことを野放しにはできなかった。
特級魔法師であるエレオノーラが、反魔法主義者から反感を買うような事態になっては目も当てられない。魔法師界全体の問題に関わるからだ。
特級魔法師の知名度、影響力、責任は馬鹿にできない。
決して軽い地位ではないということを叩き込んでやり、特級魔法師としての自覚を持たせてやる。
それが第一席であるジルヴェスターなりの責任の果たし方であった。
「だが、みんなの見せ場を奪う気はない。俺がやるのは勘違い娘の教育だけだ」
「もちろんそれで構わないわ」
対抗戦の本戦に出場することは了承するが、それでも譲れない一線はある。
ジルヴェスター一人で戦力バランスが崩壊するのは間違いない。
彼一人で優勝を手にすることも不可能ではないだろう。
しかし、それでは他の出場者がせっかくの晴れ舞台で活躍する機会を奪ってしまう。
魔法協会や国に対するアピールも兼ねている場なのにだ。
対抗戦に出場する為に日々努力を怠らないこと、出場して活躍する為に万全の準備を整えることで魔法師としての成長に繋がる。
仲間やライバルと切磋琢磨することで向上心を養う。
その貴重な晴れ舞台をジルヴェスター一人に台無しにされては、他の生徒のやる気を殺いでしまう恐れがある。
そうなってしまっては魔法師を養成する機関としても、将来活躍する魔法師が数多く欲しい魔法協会や政府にとっても、意味のないイベントになってしまう。
ジルヴェスターにとっても自分が楽をする為に優秀な魔法師はいくらでもいて欲しいので、生徒たちには是非とも頑張ってもらいたいところであった。
故に、対抗戦ではエレオノーラの相手をする以外は手を出す気がなかった。
「ジェニングスさんもそれでいいかしら?」
「はい。ですが、ジルヴェスター様がどこまで介入するかは改めて検討しましょう」
クラウディアは頷いた後に懸念点を提示する。
「出場しているのにチームの一員として動かなかったら不自然ですから」
「そうだな」
ジルヴェスターがエレオノーラの鼻っ柱を圧し折る為に出場することを知っているのは、ジルヴェスター、オリヴィア、クラウディア、ジョアンナの四人だけだ。
もしかしたらジルヴェスターの行動が仲間にも観客にも不自然に映るかもしれない。
なので、チームの一員として最低限違和感のない行動を心掛けるべきだ。
あくまでも対抗戦は生徒たちが真剣勝負を行う場なのだから。
「そうね――」
ジルヴェスターの問いにレティは顎に手を当てて考え込む。
少しの間だけ沈黙が場を支配するが、すぐに考えが纏まって徐に口を開く。
「特級魔法師として相応しい才能があるのは確かよ。ただ、現状は才能に胡坐をかいて、力任せに魔法を行使しているってところかしらね」
エレオノーラは恵まれた魔力量とセンスだけで特級魔法師になった。
なんの努力も苦労もしていない。
故に技量は乏しい。
「お前と相対したらどうなる?」
「あの娘は手も足も出ないわよ」
「そうか」
「いくら私が一線を退いているとはいえ、まだ耄碌していないわ」
レティは考える間もなく即答した。
同じ特級魔法師でも実力差が存在する。
少なくともエレオノーラではレティに敵わない。
「いろいろ話したけれど、あなたにフェトファシディスさんの鼻っ柱を圧し折ってほしいのよ」
レティは真剣な表情でジルヴェスターのことを見つめているが、どこか申し訳なさそうにしているのが垣間見える。
世話になったジョアンナの為にできることをしたいという想いと、あまり目立ちたくないというジルヴェスターの気持ちを天秤に掛けて葛藤しているのだろう。
「自分より優れた者はいないと勘違いしているフェトファシディスさんが、年下のジル君に敗れたら考えを改めるのではないかと思ったのよ」
「なるほど。事情は理解した」
ジルヴェスターは眉間に皺を寄せて考え込む。
レティの頼みなら叶えてやりたいが、できることなら波風を立てるようなことはしたくない。
非常に悩ましい問題であった。
「ジョアンナさんにも提案したら賛同してくれたわ」
「プリム女学院の学園長としていいのかそれは……」
ジルヴェスターが出場するということは、ランチェスター学園の優勝が現実味を帯びる。
ジョアンナは学園長としてプリム女学院の優勝を願うところだろう。
しかし、優勝を逃してでもエレオノーラに冷水を浴びせてやりたいのかもしれない。
「ジョアンナさんには、まだ若いフェトファシディスさんを預かっている責任があるのよ」
十代で将来性しかないエレオノーラを生徒として預かっているジョアンナには責任がある。
彼女を心身共に一人前の魔法師に養成する責任だ。
エレオノーラは魔法師界だけではなく、国中から期待を寄せられている。
国を守護する要の特級魔法師だからだ。それも若いとなれば、今後長期的に国を壁外の脅威から守ってくれる。
ジョアンナは現在プリム女学院に通っている生徒から対抗戦優勝という栄誉を奪ってでも、エレオノーラを矯正しなくてはならないと判断した。
非情だが、エレオノーラ一人の価値を鑑みれば仕方がない決断だろう。
それがエレオノーラのことを預かる学園長としての責任だ。
「その際にあなたの正体を明かしてしまったのはごめんなさいね」
「それは別に構わん。お前が必要だと思ったのならな」
正体を勝手に明かしたことを申し訳なく思っていたレティが頭を下げるが、ジルヴェスターは全く気にしていなかった。
彼はレティのことを信頼しているので、彼女が必要だと思って明かしたことなら責める気は微塵もなかった。
「ふふ、ありがとう。ちゃんと内密にするよう釘を刺しておいたわ」
ジルヴェスターの信頼が伝ってきたレティは嬉しそうに微笑む。
「それで、俺がエレオノーラを叩きのめせばいいんだな?」
ジルヴェスターは溜息を吐いてからレティに確認を取る。
溜息には重たい物を吐き出すかのような重々しさがあった。
「ええ。お願いできるかしら?」
「ああ。気は進まないが、俺にも第一席としての責任があるからな」
ジルヴェスターは苦虫を噛み潰したような顔つきで頭を掻く。
平穏な学園生活を死守する為に目立ちたくはないが、第一席としてエレオノーラのことを野放しにはできなかった。
特級魔法師であるエレオノーラが、反魔法主義者から反感を買うような事態になっては目も当てられない。魔法師界全体の問題に関わるからだ。
特級魔法師の知名度、影響力、責任は馬鹿にできない。
決して軽い地位ではないということを叩き込んでやり、特級魔法師としての自覚を持たせてやる。
それが第一席であるジルヴェスターなりの責任の果たし方であった。
「だが、みんなの見せ場を奪う気はない。俺がやるのは勘違い娘の教育だけだ」
「もちろんそれで構わないわ」
対抗戦の本戦に出場することは了承するが、それでも譲れない一線はある。
ジルヴェスター一人で戦力バランスが崩壊するのは間違いない。
彼一人で優勝を手にすることも不可能ではないだろう。
しかし、それでは他の出場者がせっかくの晴れ舞台で活躍する機会を奪ってしまう。
魔法協会や国に対するアピールも兼ねている場なのにだ。
対抗戦に出場する為に日々努力を怠らないこと、出場して活躍する為に万全の準備を整えることで魔法師としての成長に繋がる。
仲間やライバルと切磋琢磨することで向上心を養う。
その貴重な晴れ舞台をジルヴェスター一人に台無しにされては、他の生徒のやる気を殺いでしまう恐れがある。
そうなってしまっては魔法師を養成する機関としても、将来活躍する魔法師が数多く欲しい魔法協会や政府にとっても、意味のないイベントになってしまう。
ジルヴェスターにとっても自分が楽をする為に優秀な魔法師はいくらでもいて欲しいので、生徒たちには是非とも頑張ってもらいたいところであった。
故に、対抗戦ではエレオノーラの相手をする以外は手を出す気がなかった。
「ジェニングスさんもそれでいいかしら?」
「はい。ですが、ジルヴェスター様がどこまで介入するかは改めて検討しましょう」
クラウディアは頷いた後に懸念点を提示する。
「出場しているのにチームの一員として動かなかったら不自然ですから」
「そうだな」
ジルヴェスターがエレオノーラの鼻っ柱を圧し折る為に出場することを知っているのは、ジルヴェスター、オリヴィア、クラウディア、ジョアンナの四人だけだ。
もしかしたらジルヴェスターの行動が仲間にも観客にも不自然に映るかもしれない。
なので、チームの一員として最低限違和感のない行動を心掛けるべきだ。
あくまでも対抗戦は生徒たちが真剣勝負を行う場なのだから。
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