最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

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対抗戦編

第11話 説明(三)

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 ◇ ◇ ◇

 訓練室を後にしたジルヴェスターは、ランチェスター学園の敷地内にある図書館にいた。

 数々の蔵書が本棚に並べられているが、ジルヴェスターは見向きもせずに素通りする。
 辺りに目を向けると、椅子に腰掛けて読書している者、自習室で勉強している者、談話室で談笑している者などがいた。

 ジルヴェスターが求めているのは対抗戦関連の書物だ。
 過去の記録が載っている物や、ルールや歴史などが記されている物など様々ある。
 出版社が発行している物もあれば、ランチェスター学園が――主に文芸部や新聞部――独自に作成した記録本もある。

 ジルヴェスターは今回仕方なく対抗戦に出場することになったが、出るからには真剣に取り組むつもりでいた。
 しかし、残念ながら彼は対抗戦について無知であった。
 故に、対抗戦に関する書物に目を通しておこうと思ったのだ。

 ジルヴェスターは読書が好きなので普段から図書館を利用している。
 なので、目当ての書物の在処は把握しており、足取りが軽い。

 目的の場所に辿り着くと、そこには先客がいた。

「――副会長」

 ジルヴェスターは周りの迷惑にならないように小さな声で呼び掛ける。

 先客は副会長のサラであった。
 書物を読み込む姿が彼女の知的な印象と相まって美しい。

「ヴェステンヴィルキス君ですか」

 サラは手元の書物から顔を上げる。

「目的は同じみたいですね」

 そう言ってサラは一歩横に移動し、対抗戦関連の書物が並んでいる棚の前のスペースを空ける。

「そのようですね」

 ジルヴェスターは苦笑しながらサラの横に並ぶ。
 そして本棚に目を向けて、手に取る書物を選別する。

「生徒会の仕事は大丈夫なんですか?」
「会長の確認が必要な書類以外は全て処理済みです」
「さすがですね。仕事が早い」

 会長であるクラウディアは訓練室で油を売り、サラに仕事を丸投げしている。
 故に、ジルヴェスターはサラが図書館にいても問題ないのかと疑問を抱いた。

 だが全く問題ないようだ。
 書類仕事を苦にしないサラには造作もないことであった。
 ちゃんと自分の職務をこなした上で図書館に赴いている。

「そういえば――」

 ジルヴェスターは本棚に目を向けながらおもむろに口を開く。

「副会長は対抗戦に出場しないんですね」
「ええ」

 サラは対抗戦の出場選手に選ばれていなかった。

「辞退しました」

 いや、正確に言うと候補には選ばれていたし、クラウディアを筆頭に何人も推薦していた。
 しかし、サラには出場する意思がなかった。

「私は作戦スタッフと技術スタッフに専念します」

 対抗戦に参加するのは出場選手だけではない。
 作戦や訓練内容を考案する作戦スタッフと、出場選手のMACを調整する技術スタッフも選抜されて参加する。

 サラは作戦スタッフと技術スタッフにも選ばれており、そちらに専念する為に出場選手としては辞退していた。

「そもそも私は戦闘向きの魔法師ではありませんし、研究者肌なのでサポートする立場の方が性に合っているのですよ」

 魔法師が全て戦闘向きとは限らない。
 治癒魔法が得意な魔法師もいれば、性格的に不向きな者もいる。

 魔工師を養成するのも魔法協会と国にとっては重要課題だ。
 また、魔法師はそれぞれ専属の魔工師にMACの調整を依頼していることが多い。
 だが、それだと学生同士が競う対抗戦でプロの魔工師が調整したMACを用いることになる。

 実家が魔法師の名門である生徒の方が腕の良い魔工師に調整を頼むことができるが、それだと公平ではない。
 なので、公平を期す為に生徒が技術スタッフとして参加することになっていた。
 それに魔法工学技師を志す者が活躍できる舞台にもなっている。

「なるほど」

 納得して頷いたジルヴェスターは気になった書物に手を伸ばす。

「副会長なら選手としても活躍できると思いますが」

 サラは魔法師として申し分ない実力を有しているとジルヴェスターは見ている。
 
 それでも本人の意思を無視して無理強いすることはできない。
 クラウディアたちもサラの意思を尊重して辞退を受け入れたのだろう。

「ありがとうございます」

 笑みを零すサラ。

「ヴェステンヴィルキス君は技術スタッフにも選ばれているので大変ですね」
「本当は技術スタッフとしてだけ参加したかったんですが……」

 嘆息して肩を竦めるジルヴェスターには哀愁が漂っている。

 そのまま二人は互いに書物に目を通しながら会話を続ける。

 ジルヴェスターは選手としてだけではなく、技術スタッフとしても参加が決まっていた。
 主に一年生のMACの調整を担当することになっている。

 技術スタッフとして参加することは元々前向きだった。
 MACを弄れるのは研究になるし、趣味も兼ねているので技術スタッフは最高の立場だ。

 だが作戦スタッフと技術スタッフは二、三年生が務めるのが通例になっている。
 にもかからずジルヴェスターが技術スタッフに選ばれたのは、サラが強く推薦したからだ。
 その推薦にクラウディアも賛同したことにより、一悶着ありながらもジルヴェスターは技術スタッフに選ばれた。

 サラはジルヴェスターが一級技師であることを知っている。
 クラウディアに至っては、『ガーディアン・モデル』の開発者であることを知っている。
 二人がジルヴェスターを技術スタッフに推薦したのは確たる理由があった。

 しかし、一年生を技術スタッフに据えたことは今まで一度もない。
 故に当然反対意見の方が強かった。 

 そこでジルヴェスターが一級技師のライセンスを有していることを伝えた。
 すると面白いくらいに反対者がいなくなり、むしろ賛成派に回ったくらいだ。
 結果あっさりとジルヴェスターの技術スタッフ入りが決定した。

「技術スタッフとしての役目が気晴らしになるといいですね……」

 サラが横目で同情の眼差しを向ける。

 ジルヴェスターは不承不承ながら出場するのに、彼女は出場を辞退している。なので、申し訳ない気持ちになってしまう。
 せめて技術スタッフとして参加することが有意義なものになればいい、と祈ることしかできなかった。

 そんなサラの心情を察したジルヴェスターが苦笑する。

「そうですね。技術スタッフとして楽しませてもらいますよ」

 様々なMACを弄れることで溜飲りゅういんを下げることにした。

「たまにはクラブにも顔を出してくださいね」
「ええ、近いうちに顔を出します」

 ジルヴェスターはサラが部長を務めている魔法研究クラブに入部している。
 あまり活動には参加していないが、一応部員の一人だ。
 ちなみにオリヴィアも入部している。

 サラとしては一級技師のジルヴェスターには積極的に参加してほしいのが本音だった。
 しかし無理強いはしない。一級技師としての仕事もあるだろうと配慮しているからだ。

「お待ちしていますね」

 サラが微笑む。

 怜悧れいりで冷静なサラは普段あまり表情が変化しない。
 無表情ではないが、表情が変化するのは珍しい。
 その彼女が微笑む姿には神秘的な美しさがある。

 二人はその後も会話を交えながら書物に目を通すのであった。
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