最強魔法師の壁内生活

雅鳳飛恋

文字の大きさ
134 / 141
対抗戦編

第17話 懇親会(五)

しおりを挟む
 ◇ ◇ ◇

 懇親会が盛上りを見せる中、一人の男性が壇上に姿を現した。
 気配がなく、会場にいるほとんどの人は気づいていない。

 壇上の中心に立った男が口を開く。

「――みなさん、懇親会を楽しんでいますか?」

 男性の声は鼓膜に残り安心感を与えてくれる低くて渋い声だった。

 突然室内に響いた声に驚きの声がこだまする。
 ジルヴェスターとレアルは気づいていたので平静だが、一緒にいる面々は驚いていた。

「いま私が声を発する前に、私の存在に気がついていた人は数人しかおりませんでしたね」

 男性は数人に視線を向ける。
 目が合ったジルヴェスターは肩を竦めた。

「つまり私が襲撃犯だった場合に対応できたのは、その数人だけということになります」

 男性の言葉に場が騒然となる。
 務めて穏和な口調だが、言っていることは辛辣だ。魔法師として未熟と言っているに等しいのだから。

「とはいえ、みなさんはまだ学生です。少しずつ魔法師としての自覚を養ってください。焦りは禁物ですよ」

 優しい笑みを浮かべる。
 その笑みには人を惹きつける不思議な力があった。

「挨拶が遅れましたが、私は魔法協会本部長のマクシミリアン・ローゼンシュティールです」

 壇上の男性――マクシミリアンが名乗ったことでざわめきがより大きくなる。

 マクシミリアンの名を知らない者はほとんどいない。
 魔法協会の本部長は、魔法協会のナンバースリーである。支部のトップである支部長よりも本部長の方が立場は上だ。本部長よりも上位の地位は会長と副会長しかない。

 魔法協会の重役が現れたのだ。騒然となるのは道理だろう。
 しかもマクシミリアンは三十八歳の若さで本部長の座まで登り詰めた才人だ。

「本来は別の者が来る予定でしたが、無理を言って変わってもらいました」

 穏和な笑みに、会場にいる大勢の者の視線が釘付けになる。

 懇親会では主催を務めている魔法協会の者が登壇して激励するのが恒例になっているが、例年ならマクシミリアンほどの大物が来ることはない。なので、今は正に異例の事態である。

 彼は本部長という魔法協会の重役を務めているが、腰が低くて穏和な性格だ。
 お陰で生徒たちは過度に緊張することなく話に耳を傾けることができている。

 収拾がつかない事態になっていたらどうしていたのだろうか、と思いながらジルヴェスターは冷めた視線を向けて静観していた。

 ジルヴェスターとマクシミリアンは面識がある。だからこその冷めた視線だ。
 視線の意味は、「本部長なのにフットワーク軽すぎだろ」という呆れの表れだった。

「相変わらず本部長は年齢不詳だね」

 イザベラが苦笑する。

 面識があるからこその言葉だ。
 普通は簡単に本部長に会えたりはしないのだが、さすがは魔法師界の名門であるエアハート家の令嬢だ。エアハート家だからこそ会う機会があったのだろう。

 マクシミリアンは白い肌をしており、肩に掛からないくらいの長さの茶髪が特徴だ。少し癖がありカールしているが、丁寧にセットしてあって清潔感がある。

 長身でスラっとしているのでスーツが良く似合う紳士だ。
 実年齢よりも十歳ほど若く見える為、年齢不詳と言われることが多い。

 魔法師としても優秀であり、文武を兼ね備えた頼れる男だ。
 人望が厚く、将来的には魔法協会の会長の座に最も近い人物とも言われている。

「せっかくみなさんが楽しんでいる場を長話で遮るのは野暮なので、一言だけ私から言わせてください」

 マクシミリアンは会場にいる生徒たちを見回してから続きの台詞を紡ぐ。

「今は純粋に対抗戦を楽しんでください。仲間やライバルと楽しく切磋琢磨することで成長できると私は思っています。もちろん魔法師としての自覚は忘れないでくださいね」

 最後には年甲斐もなくウインクをする。
 実年齢よりも若く見える外見の所為で違和感がなく、女性陣の心を鷲摑みにしていた。
 優れた魔法師故の整った顔立ちも影響している。

「それではおじさんは退散しますので、みなさんは引き続き懇親会を楽しんでください。ただし、羽目を外しすぎないように気をつけてくださいね」

 そう言うとマクシミリアンは壇上から降りて出入口へと足を向けた。
 すれ違う生徒一人一人に声を掛ける気遣いを自然と行えるあたりが、人望を集める所以ゆえんなのかもしれない。

 マクシミリアンが会場から退室すると、室内の盛り上がりが戻っていく。

「まさか本部長が来るとはなー」
「そうだね。僕も驚いたよ」

 アレックスが後頭部で腕を組みながら呟くと、レアルが相槌を打った。

「本部長って、めっちゃイケメンなんだね」
「若く見えるけど、三十八歳なんだよ」
「――え!?」

 レベッカは本部長に会ったこともなければ見掛けたこともない。――マクシミリアンだと気づいていないだけで、遠くから見掛けたことはあるかもしれないが。
 少なくとも本人と理解した上で会ったのは今回が初めてだ。
 故に、「イケメンだな~」と軽い気持ちで眺めていた。
 だからこそイザベラが口にした言葉に驚いて目を見開いている。

「三十手前くらいだと思ってた……」
「人を見た目で判断してはいけないってことよ」
「だね~」

 シズカの指摘はもっともだ。
 人を見掛けで判断すると痛い目に遭うこともある。
 何より相手に失礼だ。

「ま、今は懇親会を楽しもうぜ」
「今回ばかりはあんたに賛成」

 反目し合うことの多いアレックスとレベッカだが、珍しく同意見のようだ。

「みんなも一緒にね」

 レベッカの声掛けに一同が頷く。

 他校と交流できる貴重な機会だが、結局は仲良しグループで同じ時を過ごすことになるのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

湖畔の賢者

そらまめ
ファンタジー
 秋山透はソロキャンプに向かう途中で突然目の前に現れた次元の裂け目に呑まれ、歪んでゆく視界、そして自分の体までもが波打つように歪み、彼は自然と目を閉じた。目蓋に明るさを感じ、ゆっくりと目を開けると大樹の横で車はエンジンを止めて停まっていた。  ゆっくりと彼は車から降りて側にある大樹に触れた。そのまま上着のポケット中からスマホ取り出し確認すると圏外表示。縋るようにマップアプリで場所を確認するも……位置情報取得出来ずに不明と。  彼は大きく落胆し、大樹にもたれ掛かるように背を預け、そのまま力なく崩れ落ちた。 「あははは、まいったな。どこなんだ、ここは」  そう力なく呟き苦笑いしながら、不安から両手で顔を覆った。  楽しみにしていたキャンプから一転し、ほぼ絶望に近い状況に見舞われた。  目にしたことも聞いたこともない。空間の裂け目に呑まれ、知らない場所へ。  そんな突然の不幸に見舞われた秋山透の物語。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...