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第一章 都合のいい女と憧れの女性
第1話 悪い男
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「――もう一回する?」
裸でベッドに横たわる俺の腕の中で身動ぎして見上げた彼女が、目線を合わせながら吐息を多分に含んだ声でそう囁いてきた。
「物足りないのか?」
「ちょっとだけ……」
俺と同じように全裸の彼女は恥じらい気味に頷く。
「それに氷室君が物足りなさそうだったから」
「そう見えたか?」
「うん」
自覚がなかったので彼女の指摘に目が点になってしまった。
「やっぱり……わたしじゃ満足できない?」
彼女は絹のような艶がある黒い瞳で、窺うような眼差しを向けてくる。
その瞳は不安で揺らぎつつも、俺のことを心配してくれている温かみがあった。
「いや、そんなことはない」
俺は反射的に首を左右に振っていた。
「ごめん……意地悪なこと訊いちゃったね」
俺の嘘っぽい否定の仕方が悪かったのだろう。
寂しそうな表情になった彼女は申し訳なさそうに目を伏せてまった。
彼女の様子に言葉が詰まってしまった俺は、なんて声をかけるべきか必死に思考を巡らせる。
その間はお互いに沈黙し、室内を暖めてくれているエアコンの音だけが場を満たしていた。
いつもは全く耳に入って来ないようなエアコンの音が、今は非常に気まずい雰囲気を作り出す厄介な存在に成り下がり、疎ましく感じてしまう。
「有坂には感謝してる」
散々悩んだ挙句、俺の口から出てきたのは、そんなありきたりな言葉だった。
俺の胸に顔を埋める彼女の髪を優しく撫でるが、決して誤魔化そうとしているわけではない。
指が髪に引っ掛からない肌触りの良い艶のある黒髪は汗で少しだけ湿っていた。
「ううん。わたしのほうこそ感謝してるよ。わたしのわがままでこの関係を続けてくれているんだから」
幸いにも俺のありきたりな言葉で彼女が気分を害することはなかった。
しかし、首を小さく左右に振る彼女の言葉に、俺はチクりと胸に棘が刺さったような痛みを感じた。
互いに裸でベッドに横たわって身を寄せ合っている俺たちは、既に二回行為に及んでいる。
時間を置かずに二回戦に突入し、俺は胸の奥底に鬱積したもやもやを吐き出すように果てた。
包み込むように受け入れてくれる彼女と、それに甘える俺は、乱れた呼吸を落ち着かせるためにピロートークに興じていたのだ。
そんな状況で言うことではないかもしれないが、俺と彼女の関係は決して健全なものではない。
「俺もお前の好意に甘えてるからな」
「ならお互い様ってことだね」
髪を撫で続ける俺の言葉に、彼女は微笑みながら返答した。
彼女は先程まで心配と寂しさを内包した表情をしていたが、今は顔に影が差していない。どうやら本心から笑みを浮かべているようだ。
その事実に俺はほっと胸を撫で下ろす。
別に彼女に嫌われたくないから安心したわけではない。
彼女のことは可能な限り無下に扱いたくないからだ。
「お互い様か……」
そう呟いた俺は、自分の腕の中で微笑む彼女の姿を眺める。
本人が望んでいることとはいえ、俺は彼女のことを都合良く利用しているにすぎない。
罪悪感が全くないわけではないし、世間一般的な価値観に当てはめると褒められた関係ではないことは自分でもわかっている。
きっと彼女もわかっているはずだ。
この関係をずるずると続けるのは互いのためにならないということを……。
それでも俺と彼女は今の関係を解消することはないだろう――いや、できないんだ。
「どうしたの?」
つい考え込んで口を閉ざしてしまった俺のことが気になったのか、彼女は横になったまま器用に首を傾げた。
「いや、俺は幸せ者だな、と思っていたんだ」
「なんで?」
掛け布団で隠れている彼女の瑞々しくて引き締まった張りのある尻を撫でる。
沈み込む指を押し返すほどの弾力がありつつも、迎え入れるような包容力も備えている柔らかい尻を無遠慮に堪能するが、彼女に嫌がる素振りは一切ない。
目を細めながら緩んだ口元で疑問を投げ掛ける様を見るに、むしろ喜んでいるようだ。
「有坂みたいな男なら誰もが憧れる美少女を独り占めしているからな」
「ふふ、大袈裟だよ」
本当は違うことを考えていたのに誤魔化してしまう俺は悪い男なのだろう。
だが、口にした言葉は嘘偽りない本心だ。
有坂はクラスカーストの上位に君臨するような派手で目立つタイプではないが、透き通るような白い肌、均整の取れた体躯と長くてスラっとした手足、手入れの行き届いた光沢のある黒髪を新鮮で清楚な印象を与えるロングのクラシカルストレートにしている紛うことなき美少女だ。
それこそ清純派女優として銀幕の世界で活躍していてもおかしくないほど、彫像のように端整な顔立ちをしている。
クラスではあまり口数が多いほうではなく、積極的に輪に加わる性格でもない。
所謂、遠巻きに見つめられる高嶺の花というやつだ。
そんな彼女を俺は独り占めにし、ベッドを共にしている。
もし俺たちが肉体関係にあると学校の男どもが知ったら発狂すること間違いなしだ。
彼氏彼女の関係なら男たちは羨むだけで済むかもしれない。
しかし俺たちは恋人同士でない。
良く言えば友達以上恋人未満で、悪く言えばセックスフレンドになるだろうか。
俺はともかくとして、見た目や性格的に清楚な印象が学内で浸透している有坂が、彼氏でもない男とセックスしているとみんなが知ったらどうなるか、それは想像するのも恐ろしいことだ。
確実に俺は血の涙を流す男どもから目の敵され、女性陣には高嶺の花を誑かして汚す不埒な野郎として軽蔑されることだろう。
はにかむ有坂の美しくて色っぽい顔を見つめると、やはり俺は幸せ者だな、と実感する。
それと同時に、彼女のことを都合良く利用している悪い男だという事実にも気づかされてしまう。
俺が幼い頃から抱えている捨てられない感情を、有坂は知った上で全て受け止めてくれている。俺は彼女の気持ちを知っているのに、その想いにつけ込んで甘えているのだ。
元々は俺の鬱積したもやもやを吐き出すための気晴らしとして有坂と肉体関係を結ぶことになったが、それとは別に性欲も満たしたくなる。
故に、本当に情けなくて都合がいいことこの上ないが、「もう一回ヤるか」と有坂の耳元で囁いた。
「うん。氷室君は疲れているだろうし、次はわたしが動くね」
そう吐息交じり言った有坂は起き上がると、下半身を覆っている掛け布団を捲り、俺の腰に跨った。
有坂のシミ一つない透き通った裸体を見上げる俺は、自分のことを悪い男だと自覚しながらも彼女の包容力に縋るクズだ。
いや、もしかしたらセフレの関係を続けているうちに、彼女の魅力に憑りつかれてしまったのかもしれない。
高嶺の花として学内で一目置かれている美少女――有坂澪のことを一度は振っておきながら。
裸でベッドに横たわる俺の腕の中で身動ぎして見上げた彼女が、目線を合わせながら吐息を多分に含んだ声でそう囁いてきた。
「物足りないのか?」
「ちょっとだけ……」
俺と同じように全裸の彼女は恥じらい気味に頷く。
「それに氷室君が物足りなさそうだったから」
「そう見えたか?」
「うん」
自覚がなかったので彼女の指摘に目が点になってしまった。
「やっぱり……わたしじゃ満足できない?」
彼女は絹のような艶がある黒い瞳で、窺うような眼差しを向けてくる。
その瞳は不安で揺らぎつつも、俺のことを心配してくれている温かみがあった。
「いや、そんなことはない」
俺は反射的に首を左右に振っていた。
「ごめん……意地悪なこと訊いちゃったね」
俺の嘘っぽい否定の仕方が悪かったのだろう。
寂しそうな表情になった彼女は申し訳なさそうに目を伏せてまった。
彼女の様子に言葉が詰まってしまった俺は、なんて声をかけるべきか必死に思考を巡らせる。
その間はお互いに沈黙し、室内を暖めてくれているエアコンの音だけが場を満たしていた。
いつもは全く耳に入って来ないようなエアコンの音が、今は非常に気まずい雰囲気を作り出す厄介な存在に成り下がり、疎ましく感じてしまう。
「有坂には感謝してる」
散々悩んだ挙句、俺の口から出てきたのは、そんなありきたりな言葉だった。
俺の胸に顔を埋める彼女の髪を優しく撫でるが、決して誤魔化そうとしているわけではない。
指が髪に引っ掛からない肌触りの良い艶のある黒髪は汗で少しだけ湿っていた。
「ううん。わたしのほうこそ感謝してるよ。わたしのわがままでこの関係を続けてくれているんだから」
幸いにも俺のありきたりな言葉で彼女が気分を害することはなかった。
しかし、首を小さく左右に振る彼女の言葉に、俺はチクりと胸に棘が刺さったような痛みを感じた。
互いに裸でベッドに横たわって身を寄せ合っている俺たちは、既に二回行為に及んでいる。
時間を置かずに二回戦に突入し、俺は胸の奥底に鬱積したもやもやを吐き出すように果てた。
包み込むように受け入れてくれる彼女と、それに甘える俺は、乱れた呼吸を落ち着かせるためにピロートークに興じていたのだ。
そんな状況で言うことではないかもしれないが、俺と彼女の関係は決して健全なものではない。
「俺もお前の好意に甘えてるからな」
「ならお互い様ってことだね」
髪を撫で続ける俺の言葉に、彼女は微笑みながら返答した。
彼女は先程まで心配と寂しさを内包した表情をしていたが、今は顔に影が差していない。どうやら本心から笑みを浮かべているようだ。
その事実に俺はほっと胸を撫で下ろす。
別に彼女に嫌われたくないから安心したわけではない。
彼女のことは可能な限り無下に扱いたくないからだ。
「お互い様か……」
そう呟いた俺は、自分の腕の中で微笑む彼女の姿を眺める。
本人が望んでいることとはいえ、俺は彼女のことを都合良く利用しているにすぎない。
罪悪感が全くないわけではないし、世間一般的な価値観に当てはめると褒められた関係ではないことは自分でもわかっている。
きっと彼女もわかっているはずだ。
この関係をずるずると続けるのは互いのためにならないということを……。
それでも俺と彼女は今の関係を解消することはないだろう――いや、できないんだ。
「どうしたの?」
つい考え込んで口を閉ざしてしまった俺のことが気になったのか、彼女は横になったまま器用に首を傾げた。
「いや、俺は幸せ者だな、と思っていたんだ」
「なんで?」
掛け布団で隠れている彼女の瑞々しくて引き締まった張りのある尻を撫でる。
沈み込む指を押し返すほどの弾力がありつつも、迎え入れるような包容力も備えている柔らかい尻を無遠慮に堪能するが、彼女に嫌がる素振りは一切ない。
目を細めながら緩んだ口元で疑問を投げ掛ける様を見るに、むしろ喜んでいるようだ。
「有坂みたいな男なら誰もが憧れる美少女を独り占めしているからな」
「ふふ、大袈裟だよ」
本当は違うことを考えていたのに誤魔化してしまう俺は悪い男なのだろう。
だが、口にした言葉は嘘偽りない本心だ。
有坂はクラスカーストの上位に君臨するような派手で目立つタイプではないが、透き通るような白い肌、均整の取れた体躯と長くてスラっとした手足、手入れの行き届いた光沢のある黒髪を新鮮で清楚な印象を与えるロングのクラシカルストレートにしている紛うことなき美少女だ。
それこそ清純派女優として銀幕の世界で活躍していてもおかしくないほど、彫像のように端整な顔立ちをしている。
クラスではあまり口数が多いほうではなく、積極的に輪に加わる性格でもない。
所謂、遠巻きに見つめられる高嶺の花というやつだ。
そんな彼女を俺は独り占めにし、ベッドを共にしている。
もし俺たちが肉体関係にあると学校の男どもが知ったら発狂すること間違いなしだ。
彼氏彼女の関係なら男たちは羨むだけで済むかもしれない。
しかし俺たちは恋人同士でない。
良く言えば友達以上恋人未満で、悪く言えばセックスフレンドになるだろうか。
俺はともかくとして、見た目や性格的に清楚な印象が学内で浸透している有坂が、彼氏でもない男とセックスしているとみんなが知ったらどうなるか、それは想像するのも恐ろしいことだ。
確実に俺は血の涙を流す男どもから目の敵され、女性陣には高嶺の花を誑かして汚す不埒な野郎として軽蔑されることだろう。
はにかむ有坂の美しくて色っぽい顔を見つめると、やはり俺は幸せ者だな、と実感する。
それと同時に、彼女のことを都合良く利用している悪い男だという事実にも気づかされてしまう。
俺が幼い頃から抱えている捨てられない感情を、有坂は知った上で全て受け止めてくれている。俺は彼女の気持ちを知っているのに、その想いにつけ込んで甘えているのだ。
元々は俺の鬱積したもやもやを吐き出すための気晴らしとして有坂と肉体関係を結ぶことになったが、それとは別に性欲も満たしたくなる。
故に、本当に情けなくて都合がいいことこの上ないが、「もう一回ヤるか」と有坂の耳元で囁いた。
「うん。氷室君は疲れているだろうし、次はわたしが動くね」
そう吐息交じり言った有坂は起き上がると、下半身を覆っている掛け布団を捲り、俺の腰に跨った。
有坂のシミ一つない透き通った裸体を見上げる俺は、自分のことを悪い男だと自覚しながらも彼女の包容力に縋るクズだ。
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