1 / 32
第一章 都合のいい女と憧れの女性
第1話 悪い男
しおりを挟む
「――もう一回する?」
裸でベッドに横たわる俺の腕の中で身動ぎして見上げた彼女が、目線を合わせながら吐息を多分に含んだ声でそう囁いてきた。
「物足りないのか?」
「ちょっとだけ……」
俺と同じように全裸の彼女は恥じらい気味に頷く。
「それに氷室君が物足りなさそうだったから」
「そう見えたか?」
「うん」
自覚がなかったので彼女の指摘に目が点になってしまった。
「やっぱり……わたしじゃ満足できない?」
彼女は絹のような艶がある黒い瞳で、窺うような眼差しを向けてくる。
その瞳は不安で揺らぎつつも、俺のことを心配してくれている温かみがあった。
「いや、そんなことはない」
俺は反射的に首を左右に振っていた。
「ごめん……意地悪なこと訊いちゃったね」
俺の嘘っぽい否定の仕方が悪かったのだろう。
寂しそうな表情になった彼女は申し訳なさそうに目を伏せてまった。
彼女の様子に言葉が詰まってしまった俺は、なんて声をかけるべきか必死に思考を巡らせる。
その間はお互いに沈黙し、室内を暖めてくれているエアコンの音だけが場を満たしていた。
いつもは全く耳に入って来ないようなエアコンの音が、今は非常に気まずい雰囲気を作り出す厄介な存在に成り下がり、疎ましく感じてしまう。
「有坂には感謝してる」
散々悩んだ挙句、俺の口から出てきたのは、そんなありきたりな言葉だった。
俺の胸に顔を埋める彼女の髪を優しく撫でるが、決して誤魔化そうとしているわけではない。
指が髪に引っ掛からない肌触りの良い艶のある黒髪は汗で少しだけ湿っていた。
「ううん。わたしのほうこそ感謝してるよ。わたしのわがままでこの関係を続けてくれているんだから」
幸いにも俺のありきたりな言葉で彼女が気分を害することはなかった。
しかし、首を小さく左右に振る彼女の言葉に、俺はチクりと胸に棘が刺さったような痛みを感じた。
互いに裸でベッドに横たわって身を寄せ合っている俺たちは、既に二回行為に及んでいる。
時間を置かずに二回戦に突入し、俺は胸の奥底に鬱積したもやもやを吐き出すように果てた。
包み込むように受け入れてくれる彼女と、それに甘える俺は、乱れた呼吸を落ち着かせるためにピロートークに興じていたのだ。
そんな状況で言うことではないかもしれないが、俺と彼女の関係は決して健全なものではない。
「俺もお前の好意に甘えてるからな」
「ならお互い様ってことだね」
髪を撫で続ける俺の言葉に、彼女は微笑みながら返答した。
彼女は先程まで心配と寂しさを内包した表情をしていたが、今は顔に影が差していない。どうやら本心から笑みを浮かべているようだ。
その事実に俺はほっと胸を撫で下ろす。
別に彼女に嫌われたくないから安心したわけではない。
彼女のことは可能な限り無下に扱いたくないからだ。
「お互い様か……」
そう呟いた俺は、自分の腕の中で微笑む彼女の姿を眺める。
本人が望んでいることとはいえ、俺は彼女のことを都合良く利用しているにすぎない。
罪悪感が全くないわけではないし、世間一般的な価値観に当てはめると褒められた関係ではないことは自分でもわかっている。
きっと彼女もわかっているはずだ。
この関係をずるずると続けるのは互いのためにならないということを……。
それでも俺と彼女は今の関係を解消することはないだろう――いや、できないんだ。
「どうしたの?」
つい考え込んで口を閉ざしてしまった俺のことが気になったのか、彼女は横になったまま器用に首を傾げた。
「いや、俺は幸せ者だな、と思っていたんだ」
「なんで?」
掛け布団で隠れている彼女の瑞々しくて引き締まった張りのある尻を撫でる。
沈み込む指を押し返すほどの弾力がありつつも、迎え入れるような包容力も備えている柔らかい尻を無遠慮に堪能するが、彼女に嫌がる素振りは一切ない。
目を細めながら緩んだ口元で疑問を投げ掛ける様を見るに、むしろ喜んでいるようだ。
「有坂みたいな男なら誰もが憧れる美少女を独り占めしているからな」
「ふふ、大袈裟だよ」
本当は違うことを考えていたのに誤魔化してしまう俺は悪い男なのだろう。
だが、口にした言葉は嘘偽りない本心だ。
有坂はクラスカーストの上位に君臨するような派手で目立つタイプではないが、透き通るような白い肌、均整の取れた体躯と長くてスラっとした手足、手入れの行き届いた光沢のある黒髪を新鮮で清楚な印象を与えるロングのクラシカルストレートにしている紛うことなき美少女だ。
それこそ清純派女優として銀幕の世界で活躍していてもおかしくないほど、彫像のように端整な顔立ちをしている。
クラスではあまり口数が多いほうではなく、積極的に輪に加わる性格でもない。
所謂、遠巻きに見つめられる高嶺の花というやつだ。
そんな彼女を俺は独り占めにし、ベッドを共にしている。
もし俺たちが肉体関係にあると学校の男どもが知ったら発狂すること間違いなしだ。
彼氏彼女の関係なら男たちは羨むだけで済むかもしれない。
しかし俺たちは恋人同士でない。
良く言えば友達以上恋人未満で、悪く言えばセックスフレンドになるだろうか。
俺はともかくとして、見た目や性格的に清楚な印象が学内で浸透している有坂が、彼氏でもない男とセックスしているとみんなが知ったらどうなるか、それは想像するのも恐ろしいことだ。
確実に俺は血の涙を流す男どもから目の敵され、女性陣には高嶺の花を誑かして汚す不埒な野郎として軽蔑されることだろう。
はにかむ有坂の美しくて色っぽい顔を見つめると、やはり俺は幸せ者だな、と実感する。
それと同時に、彼女のことを都合良く利用している悪い男だという事実にも気づかされてしまう。
俺が幼い頃から抱えている捨てられない感情を、有坂は知った上で全て受け止めてくれている。俺は彼女の気持ちを知っているのに、その想いにつけ込んで甘えているのだ。
元々は俺の鬱積したもやもやを吐き出すための気晴らしとして有坂と肉体関係を結ぶことになったが、それとは別に性欲も満たしたくなる。
故に、本当に情けなくて都合がいいことこの上ないが、「もう一回ヤるか」と有坂の耳元で囁いた。
「うん。氷室君は疲れているだろうし、次はわたしが動くね」
そう吐息交じり言った有坂は起き上がると、下半身を覆っている掛け布団を捲り、俺の腰に跨った。
有坂のシミ一つない透き通った裸体を見上げる俺は、自分のことを悪い男だと自覚しながらも彼女の包容力に縋るクズだ。
いや、もしかしたらセフレの関係を続けているうちに、彼女の魅力に憑りつかれてしまったのかもしれない。
高嶺の花として学内で一目置かれている美少女――有坂澪のことを一度は振っておきながら。
裸でベッドに横たわる俺の腕の中で身動ぎして見上げた彼女が、目線を合わせながら吐息を多分に含んだ声でそう囁いてきた。
「物足りないのか?」
「ちょっとだけ……」
俺と同じように全裸の彼女は恥じらい気味に頷く。
「それに氷室君が物足りなさそうだったから」
「そう見えたか?」
「うん」
自覚がなかったので彼女の指摘に目が点になってしまった。
「やっぱり……わたしじゃ満足できない?」
彼女は絹のような艶がある黒い瞳で、窺うような眼差しを向けてくる。
その瞳は不安で揺らぎつつも、俺のことを心配してくれている温かみがあった。
「いや、そんなことはない」
俺は反射的に首を左右に振っていた。
「ごめん……意地悪なこと訊いちゃったね」
俺の嘘っぽい否定の仕方が悪かったのだろう。
寂しそうな表情になった彼女は申し訳なさそうに目を伏せてまった。
彼女の様子に言葉が詰まってしまった俺は、なんて声をかけるべきか必死に思考を巡らせる。
その間はお互いに沈黙し、室内を暖めてくれているエアコンの音だけが場を満たしていた。
いつもは全く耳に入って来ないようなエアコンの音が、今は非常に気まずい雰囲気を作り出す厄介な存在に成り下がり、疎ましく感じてしまう。
「有坂には感謝してる」
散々悩んだ挙句、俺の口から出てきたのは、そんなありきたりな言葉だった。
俺の胸に顔を埋める彼女の髪を優しく撫でるが、決して誤魔化そうとしているわけではない。
指が髪に引っ掛からない肌触りの良い艶のある黒髪は汗で少しだけ湿っていた。
「ううん。わたしのほうこそ感謝してるよ。わたしのわがままでこの関係を続けてくれているんだから」
幸いにも俺のありきたりな言葉で彼女が気分を害することはなかった。
しかし、首を小さく左右に振る彼女の言葉に、俺はチクりと胸に棘が刺さったような痛みを感じた。
互いに裸でベッドに横たわって身を寄せ合っている俺たちは、既に二回行為に及んでいる。
時間を置かずに二回戦に突入し、俺は胸の奥底に鬱積したもやもやを吐き出すように果てた。
包み込むように受け入れてくれる彼女と、それに甘える俺は、乱れた呼吸を落ち着かせるためにピロートークに興じていたのだ。
そんな状況で言うことではないかもしれないが、俺と彼女の関係は決して健全なものではない。
「俺もお前の好意に甘えてるからな」
「ならお互い様ってことだね」
髪を撫で続ける俺の言葉に、彼女は微笑みながら返答した。
彼女は先程まで心配と寂しさを内包した表情をしていたが、今は顔に影が差していない。どうやら本心から笑みを浮かべているようだ。
その事実に俺はほっと胸を撫で下ろす。
別に彼女に嫌われたくないから安心したわけではない。
彼女のことは可能な限り無下に扱いたくないからだ。
「お互い様か……」
そう呟いた俺は、自分の腕の中で微笑む彼女の姿を眺める。
本人が望んでいることとはいえ、俺は彼女のことを都合良く利用しているにすぎない。
罪悪感が全くないわけではないし、世間一般的な価値観に当てはめると褒められた関係ではないことは自分でもわかっている。
きっと彼女もわかっているはずだ。
この関係をずるずると続けるのは互いのためにならないということを……。
それでも俺と彼女は今の関係を解消することはないだろう――いや、できないんだ。
「どうしたの?」
つい考え込んで口を閉ざしてしまった俺のことが気になったのか、彼女は横になったまま器用に首を傾げた。
「いや、俺は幸せ者だな、と思っていたんだ」
「なんで?」
掛け布団で隠れている彼女の瑞々しくて引き締まった張りのある尻を撫でる。
沈み込む指を押し返すほどの弾力がありつつも、迎え入れるような包容力も備えている柔らかい尻を無遠慮に堪能するが、彼女に嫌がる素振りは一切ない。
目を細めながら緩んだ口元で疑問を投げ掛ける様を見るに、むしろ喜んでいるようだ。
「有坂みたいな男なら誰もが憧れる美少女を独り占めしているからな」
「ふふ、大袈裟だよ」
本当は違うことを考えていたのに誤魔化してしまう俺は悪い男なのだろう。
だが、口にした言葉は嘘偽りない本心だ。
有坂はクラスカーストの上位に君臨するような派手で目立つタイプではないが、透き通るような白い肌、均整の取れた体躯と長くてスラっとした手足、手入れの行き届いた光沢のある黒髪を新鮮で清楚な印象を与えるロングのクラシカルストレートにしている紛うことなき美少女だ。
それこそ清純派女優として銀幕の世界で活躍していてもおかしくないほど、彫像のように端整な顔立ちをしている。
クラスではあまり口数が多いほうではなく、積極的に輪に加わる性格でもない。
所謂、遠巻きに見つめられる高嶺の花というやつだ。
そんな彼女を俺は独り占めにし、ベッドを共にしている。
もし俺たちが肉体関係にあると学校の男どもが知ったら発狂すること間違いなしだ。
彼氏彼女の関係なら男たちは羨むだけで済むかもしれない。
しかし俺たちは恋人同士でない。
良く言えば友達以上恋人未満で、悪く言えばセックスフレンドになるだろうか。
俺はともかくとして、見た目や性格的に清楚な印象が学内で浸透している有坂が、彼氏でもない男とセックスしているとみんなが知ったらどうなるか、それは想像するのも恐ろしいことだ。
確実に俺は血の涙を流す男どもから目の敵され、女性陣には高嶺の花を誑かして汚す不埒な野郎として軽蔑されることだろう。
はにかむ有坂の美しくて色っぽい顔を見つめると、やはり俺は幸せ者だな、と実感する。
それと同時に、彼女のことを都合良く利用している悪い男だという事実にも気づかされてしまう。
俺が幼い頃から抱えている捨てられない感情を、有坂は知った上で全て受け止めてくれている。俺は彼女の気持ちを知っているのに、その想いにつけ込んで甘えているのだ。
元々は俺の鬱積したもやもやを吐き出すための気晴らしとして有坂と肉体関係を結ぶことになったが、それとは別に性欲も満たしたくなる。
故に、本当に情けなくて都合がいいことこの上ないが、「もう一回ヤるか」と有坂の耳元で囁いた。
「うん。氷室君は疲れているだろうし、次はわたしが動くね」
そう吐息交じり言った有坂は起き上がると、下半身を覆っている掛け布団を捲り、俺の腰に跨った。
有坂のシミ一つない透き通った裸体を見上げる俺は、自分のことを悪い男だと自覚しながらも彼女の包容力に縋るクズだ。
いや、もしかしたらセフレの関係を続けているうちに、彼女の魅力に憑りつかれてしまったのかもしれない。
高嶺の花として学内で一目置かれている美少女――有坂澪のことを一度は振っておきながら。
1
あなたにおすすめの小説
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない
七星点灯
青春
雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。
彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。
しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。
彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる