世にも奇妙な僕物語

マオウ

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第一話 マラソン

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真由美は、兼業主婦の45歳だ。午後4時に家に帰ると、いつものように動きやすいトレーナーに着替え、マラソンに出かけた。中2の佑介に「走りに行ってくる」と一言声をかけたが、反抗期なので、返事がない。もうすぐ自立する佑介に嬉しさもあったが、寂しさもあった。
 真由美は勢いよく玄関のドアを開け、庭で準備体操を始めた。体もじゅうぶんほぐれてきたところで、真由美は走り始めた。今日は風が強いので、もう4月なのに、冷たい風が顔に当たり、痛い。もう2㎞ぐらい歩いただろうか、道の端に何か落ちているのを見つけ、立ち止まった。少し変な形をしている。しかし、どうせ誰かの落とし物だろうと、真由美はまた走りだした。あの落とし物は何だろう。だんだん考えていくうちに、真由美の足は一瞬止まり、気づくとさっきの落とし物の場所に戻っていた。あの落とし物は腕時計だったのだ。しかし、普通の腕時計ではなく、カラフルな色をしておりメカニカルな感じだ。タッチパネルのようなものも付いている。真由美はちょうど何時か知りたかったうえに、少しその時計に興味があったので、手に取ってみた。すると、時計はしゃべりだした。
「ようこそ。ウォッチーズへ。」

それだけ表示されると、タッチパネルにいくつかの項目が表示された。

今、何をしていますか。
・食事
・仕事
・マラソン
・お風呂       

とのことだ。当然今私がしているのはマラソンなので、マラソンの項目を押してみると、またタッチパネルに文字が表示された。

「10㎞走るごとに、プレゼントをあげちゃいます!ぜひ頑張ってください。」

と表示された。プレゼントとは何だ?と思ったが興味本意で今日は10㎞という長い距離に挑戦してみた。すると、

「あなたは10㎞走りました!プレゼントを送ります。」

え?どこにプレゼントを?と真由美は思った。何だか不気味だったので今日は帰ることにした。
 家に帰ると、佑介が私に「宅急便来てたよ」と冷たい声で一言言った。ここ最近、私は通販などで何も頼んでいない。もしかして...と思い、ガムテープを無理やり引きちぎった。すると、その箱の中には、手紙が入っていた。
「真由美さまへ。ウォッチーズからのプレゼントです。」
と書いていた。どれがプレゼントだろうと段ボールの中をもう一度あさってみると、一通の封筒が入っていた。もう真由美の中に「迷い」という文字はなく、封筒を開けてみた。するとそこに入っていたのは、真由美が大好きな「太陽ボーイズ」のコンサート招待チケットだった。それはすごく手に入れにくいものだった。真由美は目玉が飛び出すほどおどろいた。何でこんなものが入っているの?ウォッチーズはなぜ私の住所を知っているの?ウォッチーズって何者?しかし、チケットが手に入ったことは確かだ。絶対にコンサートに行こうと思った。
 次の日、真由美はすぐに会社の偉いさんに有給休暇を取らせてもらった。
 そして、待ちに待った「太陽ボーイズ」のコンサートだ。思いきり楽しもうと思い、応援のうちわまで作った。会場に入ると、他のファンで混雑しており、自分の席に行くまでに時間がかかったが、無事コンサートが始まるまでには席につけた。コンサートが始まってからは「太陽ボーイズ」に夢中で何も覚えていなかった。
 一週間ほどたって、また真由美はマラソンに出かけた。もちろんあの時計もつけてだ。また10㎞走ると、ウォッチーズからの通知が来た。またプレゼントが送られたらしい。
 急いで家に帰ると、今度のプレゼントは「太陽ボーイズ」握手券だった。すごく嬉しかった。それから真由美は毎日あの時計をつけながら10㎞走ることにした。
 ある日は食事券、ある日は商品券、ある日は図書券だった。どれも真由美がとても欲しかったもので、すごく嬉しかった。しかし、不幸はすぐそこに来た。

佑介が死んだ。

ずいぶん前から心臓が悪かったのだという。真由美は悲しみに耐えきれず、毎日泣いた。仕事も食事もせず、ただ泣き続けた。
 1日ぐらい泣いただろうか。ようやく涙を抑えられた。佑介を思い出そうと佑介の部屋に行った。入ったのは何年ぶりだろう。入ろうとしても「入るな!」とよく言われたもんだ。部屋に入ってみると、佑介の勉強机に一通の封筒が置いてあった。その封筒には大きいきれいな佑介の字で「遺書」と書いてあった。真由美は涙を全力でこらえながら、その中に入っていた手紙を読んだ。

「お母さんへ
いつも食事、洗濯、掃除、すべて僕の分までやってくれてありがとう。実はウォッチーズのプレゼントをお母さんに渡していたのは実は僕だったんだよ。最後にお母さんのために何かしたかったんだ。僕は前から心臓が悪かったんだ。お母さんに言えていなくてごめんね。僕はお母さんが大好きだったよ。けんかもいっぱいしたけど、お母さんを嫌いになったことなんて、一度もなかったよ。今までありがとね。 佑介」

手紙の最後には佑介の涙でにじんでいた。



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