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しおりを挟む「なんなんですか! どうなってるんですか! ここはどこなんですか! っていうか無力な人間を置いて行くって、どれだけクソ野郎なんですか!!」
すっかり元のキャラを忘れ叫ぶハーミア。
「まぁまぁ、落ち着けって。お嬢ちゃん、にしても足速いんだな。まさかアインに追い付くなんてよ」
走り続けた二人は代わり映えしない場所に座り込んでいる。
アインは自分に追い付いたハーミアに怪訝な表情を向けている。
鍛え上げた肉体を誇る自分に華奢な女が付いてこられた。
なんなら一回追い抜いた事に不信感を露にしている。
何故あんなに速かった?
という抗議の目を受けたハーミアの回答は——死ぬ気になれば何でもできます! だった。
「一旦状況を整理したいので質問してもいいですか? ってかするから答えろ」
キャラ崩壊したハーミアが鬼の形相でアインに詰め寄る。
大丈夫かハーミア?
どんどんとキャラが崩壊に向かっているぞハーミア。
Qここはどこ?
Aカルディナ遺跡の地下ダンジョン。
Qなにそれ? そんなの聞いたこと無いけど。歴史上の大発見なんですけど。
A一般には知られていない秘密の場所ってやつ。
Q秘密の場所なのに何であなた達は知ってるの?
A何でもは知らない、知ってることだけ。
Qあなたは何者?
Aしがない冒険者と聖剣エクスカリバー。
Q何故ここにいるの?
A財宝がるので
Qどこにあるの?
A地下ダンジョンの主を倒すと貰えるらしい。
Qらしい?
A財宝はあったり無かったり、実際にこの目でみないと分からない。だがやってみる価値はある。
Q何故?
Aそこにロマンがあるからさ。
Qというか、ずっと聞きたかったんだけど、なんで剣が喋ってるの?
Aそこにロマンがあるからさ。
「もう十分だろ。このネックレスは貰っていくぞ」
自称エクスカリバーのQ&Aコーナーはアインの不快感満載の声で終了となる。
これ以上関わる気は無いとばかりに全身黒色の少年は背を向け歩き出す。
「待ちなさい!」
ハーミアの気丈な声がアインの背中に刺さる。
命を失う恐怖に数度直面したからか、覆っていた良い子の殻が破られたようだ。
だが立ち止まりもせず、振り返りもせず、雨にも負けず風にも負けず。そのまま歩きだすアイン。
この男もこの男で徹底的に意思はぶれていない。
その行動に、だろうな。と予想を立てていたハーミア。
――この人は私がどうなろうが全く興味が無い。でも私が助かるためにはこの人の存在が必要不可欠。だったら——。
短い時間だがアインという人物がどういう人間かをハーミアは理解した。
彼女の聡い部分が顔を覗かせる。
――揺さぶっただけだと弱いかな、だったら決定権をうやむやにさせる。その為に必要な言葉を絞り出せ私——。
グラディナ特殊養成機関首席の閃きが冴え始める。
そして今から言う言葉で、アインがどのような反応するか、それも理解した上で勝負に出た。
「そのネックレスは売れないわよ」
足が止まるアイン。計算通りと胸中で拳を掲げるハーミア。
「やっぱり売ろうとしていたのね。でも残念、青光石は保証書が無いと高値で買い取ってくれないわよ。市場には偽物が多いから売りに言っても二束三文で叩かれて終わり」
「青光石?」
「飾られてる青い石のことじゃねぇか?」
剣の言葉を受けポケットからネックレスをと取り出し、しげしげと眺めるアイン。
剣の言うとおりにネックレスの装飾部分には透明度の高い青い石が飾られている。
「あなた、お金が欲しいんでしょ? 私をこの場所から外に連れてってくれるのなら保証書を上げるわよ。何なら謝礼金も払うわ。どうかしら? 私にもう一度雇われてみない? 絶対に損はさせないから」
無言のアインに分の悪さを感じたハーミアは賭けに出る
「私の名はハーミア・イジー。グラディナ特殊養成機関首席の名に掛けて、約束は必ず守ると誓います! 信用が足りないと言うのなら、この魂に懸けても約束は守ります!」
決して卑屈にならず、いやらしくなく。
そしてなるべく好む言い方で告げた。
付随してしゅぴしゅぴと妙に手を動かし無駄に決めポーズをとるのも悪くない手だ。
狙い通りに事が運んでくれれば上出来。失敗したら二の矢を考える。
アインが頑なに動かない以上ハーミアはそれに縋るしか無かった。
ハーミアは目に力を込め、むむむ。と聞こえてきそうな勢いでアインを睨む。
アインはつまらなそうにハーミアを見た後、口を開こうとした瞬間に物体Xが割り込んできた。
「ひゃぁ~! おもしれぇ嬢ちゃんだぜアイン! 綺麗な見た目に反してなかなかの度胸だな、気に入った! 魂をかけるなんて言われちゃ男、いや! 漢の魂を揺さぶられるぜ! 俺はこの嬢ちゃんを信じるぜ。俺の名前は魔を切り裂く聖剣エクスカリバーだ。んでこっちの生意気な奴がアインだ。よろしくな嬢ちゃん」
「ありがとうございます! アインさんと魔を切り裂く聖剣エクスカリバーさんですね。よろしくお願いします。」
「あっ、うん。エクスカリバーたけでいいよ。魔を切り裂く聖剣、はいらないから」
金で揺さぶりをかけるだけではアインは動かない。
どうにか自分を守らせるようなスタンスで行くには、あと一押しが必要。
その一押しを喋る剣。自称エクスカリバーにやってもらう。
剣が好みそうな振る舞いや言動で琴線を刺激する。
二体一の構図にもっていき決定権をうやむやにする。
目論見通りに進んだ状況にニヤリと笑うハーミア。
アインは盛り上がる剣とハーミアを見た後にため息を吐く。
分かった上でのってやるという振る舞いで、ハーミアと再度の契約を交わした。
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