ゴールデンソルジャー

木村テニス

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「ア、アインさん、お怪我は」

「ない」

「ハミィ。俺にも怪我をしたかどうか聞いてくれ。でないと不公平だ。剣も心配してくれ」

 大鬼の死体の上に立つアインはザックから布切れを取り出し返り血を拭く。

「さてさて、ボスを倒したんだ。我は立派なお宝を希望する!」

「同感だ。お前を使ったマイナス・・・・分はキッチリ回収しないとな」

 慣れた手つきでヨシオの血を拭い。鞘に収める。

「三千五百ゴルドくらい気にするなよ小さい男め。俺のお陰で圧勝だったろ? やはり我が力は覇道の頂きに届きうる力なり」

「お前の呪い・・のせいで今日の宿代が飛んだのも覇道の頂だな」

「おうっふ! マジか? 今の俺らそんなに金なかったの? 野宿は嫌だ! モンスターの襲来に怯えながらの睡眠は百害あって一利無しだ! ふかふかのベッドを所望する!」

「お宝次第だ?」

「あの~さっきから、何のお話をしているのですか?」

 大鬼の死体から降りるアインは当然のように無視をし、主部屋の奥に歩を進める。

「ハミィちゃん。俺のことを知りたいんだろうが止めといた方がいい。知りすぎると火傷じゃ済まないぜ」

「は、はぁ」

 要領を得ないまま、ハミィはアインの後ろを付いていく。

「これは?」

 ハミィの驚く声にアインは一瞥を送ると躊躇せずに歩き出す。
 ボス部屋の奥の壁面に通路があり、そこは明かりがなく暗闇が広がるのみで奥は確認できない。

「アインさん? ヨシオさん?」

 通路の手前で立ち止まり二人を呼ぶが返事はない。
 反響した自分の声が返ってくるのみだった。

 後ろを見ると憤怒の形相のまま死に絶えた大鬼の残骸。
 今にも動きそうな迫力に気圧され、このまま此処にいるよりはと意を決し足を前に出す。

 暗く乾いた空気が喉の水分を奪う。
 先ほどから二人を呼んでも返事はない。
 不安に拍車が掛かるが今は歩くしかない。
 
「お~い、ハミィ~ちゃん」

 しばらくした後にようやくヨシオの声が聞こえ、大きな安堵と共にハミィは走り出す。
 やがて明かりが見えてくる。
 通路の奥は隠し部屋になっており五メートル四方の空間があった。

「これは?」

 嫌悪感が多分に含まれたハミィの声にアインが振り返る。

「この世界の在りようだ」

 壁面にある燻んだ蝋燭から、弱々しい明かりが灯された部屋はカビ臭く、夥しい量の人骨が床一面に広がっていた。
 足の踏み場もない程である。

「このダンジョンは外れみたいだな」

「そうだな」

 剣とアインの会話は短いものだった。
 なんの戸惑いも見せずにアインは人骨を踏みつけ部屋を視認しにいく。

「気持ちばかりの金と小綺麗な短剣が今回の報酬か」

「売ればいくらかマシになるさ」

 ヨシオの声は落胆していた。
 アインが人骨を掻き分け取り出したのはヨシオの言葉通りの物である。僅かばかりの金に小綺麗な短剣。
 アインはザックに収め再び人骨を掻き分けお宝を探る。

「あの! な、何をしているんですか? こ、この大量の骨はなんでしょうか? というかこの部屋は一体何ですか?」

 異様な光景である。
 少年は人骨を踏み砕きながら、又、掻き分け金を探す姿は倫理の欠片も感じない。
 ハーミアはようやく疑問を問いかける事ができた。

「この部屋はダンジョンマスターの部屋だよ。ハミィちゃん」

 答えるのは当然ヨシオ。

「おい!」

「いいじゃねぇかアイン。短い時間とはいえハミィとは苦楽を共にしたんだ、知る権利はあるだろ?」

 ヨシオの言葉を受けアインは素っ気なく——好きにしろ——と返した。

「この世界には多くのダンジョンが存在するんだよ」

「ダンジョンですか?」

「あぁ。あまり聞き慣れない言葉かもだけど、ハミィちゃんが今まで歩いてきた、あれがダンジョンだ。ダンジョンという言葉を聞くのは初めてだろ? どうしてダンジョンが世に知られていないか分かるかい?」

 ハーミアは顔を左右に振り返事をする。
 アインは金を探す作業に没頭する。

「果てのダンジョンに行きたい奴らが、その存在を隠しているんだよ」

 またしても聞き慣れない単語に、ハーミアの顔には疑問が張り付く。

「果てのダンジョンというのはこの世界のどこかにあると言われていんだ。そこのダンジョンマスターの部屋には金銀財宝、幻の武具防具、願いを叶える妖精。不老不死の薬。最強に慣れる仙薬。等々。人が願う全ての欲望が詰まっているんだよ!」

 ヨシオの嬉々とした声に、曖昧な相槌しか返せないハーミア。
 突拍子もない話故に、少しばかり反応に困っている。

「その反応は信じてないなハミィちゃん。これは本当だぜ! リアルガチってやつだよ。なぁ、アイン?」

「あぁ。本当だ」

 同意を求めた相手は素っ気なく返事を返す。
 その言葉に嘘の反応は見受けられない。
 
 ヨシオだけの話ならば妄想というオチで流せるのだが、こういった話の嫌いそうな——よくよく言えば非現実の話を信じなそうな雰囲気のあるアインが賛同した事で、信憑性は一気に高くなる。

「この事実を知れば世界中の夢追い人はこぞって、最果てのダンジョンを目指すだろうな。冒険者——っと、この世界だとソルジャー・・・・・か——ソルジャーなんてのが良い例だろ? 鉛級のやつらは金に汚いし、乱暴者だし、なんか臭いし。小判鮫よろしくの精神で、俺達の後とか追ってきそうだしさ——」

「階級の低いソルジャーの皆さんですと、確かにそうかもしれないですね」

 ハーミアは苦笑しつつ同意する。
 ソルジャーとは、荒事を生業にする腕自慢の者達を指す。
 正式な職業として容認されており。その仕事も様々だ。

 階級は、鉛級、銅級、銀級、金級、白銀級、白金級。黒金級と分かれている。
 銀級から下を下級、上を上級、などとも呼ばれ、黒金級に至っては世界で七人しかいないと言われている。

 要人の護衛に始まり、兵士の育成。獣、モンスターの排除。などがソルジャーの花形と言われる職業だ。
 これらは上級の仕事であり、下級は荷物持ち、薬草集め、等の仕事が主軸となっている。
 ヨシオの言う鉛級のソルジャーはそれこそ、街に蔓延るチンピラと変わりがないと言える。

 それらソルジャーを管理するものをこの世界では「ギルド」と呼ばれている。

「ヨシオさん? 誰に向かってソルジャーの説明をしているんですか?」

「え? あっと、ケフケフ。一応の必要事項だからさ。これこそある意味テンプレ的なもんだから必要かなって——ともかく! 俺とアインは最果てのダンジョンを目指しているんだよ! な?」

「そうだな」

 ハミィとヨシオの会話がまだ続きそうな事に辟易しながらも、アインは次々に金目の物を集め、背に担ぐザックに収納する。
 見た目以上の物を入れているが形状に変化がない。
 どうやらザックの中は多くの物を入れられる仕様となっている。
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