ゴールデンソルジャー

木村テニス

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「どんな願いでも叶えてくれる最果てのダンジョンですか。何だか夢がありますね」

「だろう! 正に男の浪漫ってやつだよ! 世が大航海時代なら俺はきっと海賊王を目指すね! 因みに俺の願いはね、人間の体を手に入れる事と、チーレムを手に入れる事です。嫁は十人は欲しいね!」

「はい。叶うといいですね」

「——あのさ、ハミィちゃんさ。分からない単語が出てきた時に笑顔で合わせとけば良い——みたいな空気を感じるんだけどさ、俺ちょっとだけ傷ついてるの分かる? 俺、ガラスノハートだから扱いは厳重にね」

「はい」

 ハーミアはヨシオの躱し方をすっかり身につけているようだ。

「アインさんはどうして最果てのダンジョンを目指しているんですか?」

 金貨を拾っていたアインの動きが止まる。
 ハーミアとアインの目が合う。
 ヨシオのお陰で幾分かはアインに慣れたがそれでも時折、息が詰まる雰囲気を発している。

「家族だ」

「え?」

「俺の叶えたい願いは家族を自由にさせる事だ」

「そ、そうなんですね——」

 ハーミアの言葉を待たずに、黙々と先ほどまでの作業に戻る。
 大きなすみれ色がその姿を捉える。

 (——てっきり、お金っていうと思ったのに)それがハーミアの素直な感想だった。

「えっと、じゃあ、ダンジョンという存在が公開されていないのは鉛級のソルジャーに知られないようにする為だったんですか? でもどうしてでしょうか? 未開の地や未知の存在を追求するのもソルジャーの仕事ですよね? それにどうしてヨシオさんとアインさんは、この事実を知っているんですか?」

「良い質問だぜハミィちゃん。どうしてダンジョンの存在が公表されていないか。そういった仕事を生業にしているソルジャーが知らないのか。答えは簡単だよ」

 ヨシオはわざとらしく間を作る。
 ハーミアは敢えてのり、沈黙を守りながら興味の文字を瞳に貼り付ける。

「この世界のトップ。レギオンス大帝国の皇帝様が、最果てのダンジョンに興味津々なんだよ」

 確かにその答えはあまりにも単純と言える。

 レギオンス大帝国は、この世界の七割を領土に収める国である。
 事実上世界のトップといえるレギオンス現皇帝が、ただ興味がある。というだけでダンジョンの存在が伏せられる。

 ——という事は逆説的に考えれば、それほどの力を持った国といえる。

「かの大帝国の歴代皇帝様方は、何代にも渡って最果てのダンジョンを求めている。もちろん現皇帝もだ。金銀財宝、幻の武具防具、願いを叶える妖精。不老不死の薬。最強に慣れる仙薬。何に興味があるのかは謎だけどな——」

 ヨシオの説明は続くがハーミアの耳には入ってこない。
 ハーミアが所属するグラディナ特殊養成機関は元をたどればレギオンス大帝国に仕える為に、教養と武芸を学ぶ場であるからだ。

 もしかしたら、グラディナ特殊養成機関という場所は最果てのダンジョンを探し当てる、または攻略する為に優秀な人材を育てる場ではないのか?
 ハーミアの思考は加速する。

「もしかして、この大量の——骨は」

「察しが良いぜハミィちゃん。そういう事だ! この人骨の山は帝国から派遣された人間の骨ってわけさ。この量だ。かなりの人間がこのダンジョンやダンジョンマスター、アインがヌッ殺した大鬼に食われたんだろうな。食われた人間はこの部屋に集められる。原理は不明だけど、そこを追求してもダンジョンは答えてくれる訳でもねぇし。なむなむ~」

 ハーミアは身震いをする。
 何か知ってはいけない——世界の秘密を知ってしまったような感覚に襲われたからだ。
 だが、もっと知りたいという知的好奇心が勝つ。

「あの、先ほどから耳にする。ダンジョンマスターというのは一体?」

「ダンジョンマスターはこのダンジョンを作った奴のことさ。どんな目的でそいつらがダンジョンマスターダンジョンを作ったのかは謎だけどな」

「そいつら。という事はダンジョンマスターは複数人いるのですか?」

「恐らくだけどな。俺は見た事はないけど、大帝国様が言うにはダンジョンマスターはいるんだってよ。ダンジョンマスターの目的は——」

「おい! 喋り過ぎだ。もう金目の物は無さそうだから出るぞ——」

 割と強い口調でヨシオとハーミアの会話は終わりを迎えた。

「じゃあ、とっとと此処から出ようぜ。そろそろお天道様を拝みてぇぜ」

 アインはヨシオの言葉に相槌をうつ、

「ハミィちゃん行こうぜ、さっさと、ダンジョンから抜け出そうぜ!」

「は、はい」

 一行は人骨だらけの部屋を抜け出し、ボス部屋へと引き返していく。
 戻る途中でハーミアは疑問の続きが気になり、アインの気に触れ無いように問いただす。

「あの、帝国しか知らない情報をどうしてアインさんとヨシオさんは知っているのですか?」

 ボス部屋まで戻ると、薄緑色の光源が等間隔で並ぶボス部屋はダンジョン内では一番明るい場所であり、
 故にハーミアはアインの顔がよく観察する事ができた。
 アインの漆黒の瞳には僅かばかりに興味が示されている事を感じとれた。

「ハミィちゃんは優秀だな。普通は大帝国様の秘密を知ればそっちに意識が持ってかれて、どうして俺らが此処にいるか。なんて興味なくなるのにな——」

 ヨシオの声もまた、軽薄さが薄れていた。

「俺とアインはさ——」

「犬だからだ」

 今まで二人の会話に関わらなかったアインが唐突にそれだけを告げた。

「い、犬ですか?」

「それ以上でもそれ以下でも無い」

「えっと——」

 アインはこれ以上は聞くな。という雰囲気をだす。
 ハーミアはそれにのまれ、言葉の真意を尋ねる事が出来なかった。

 ——あぁ、その通りだな。アイン。

 ヨシオは二人には聞こえ無い程度の声量でポツリと呟いた。
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