ゴールデンソルジャー

木村テニス

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 ロンと共にグラディナ特殊養成機関。兵士・騎士課の会議に到達する。
 数十人ほど収容する広い空間には机や椅子が等間隔に並び、既に多くの人数が集まっている。

 グラディナの兵士・騎士課の生徒と、ギルドから訪れたソルジャーの面々。
 各々、椅子に座っている者もいれば、談笑している者達とそれぞれ会議が始まるまでの時間を自由に過ごしている。

「ハーミア君。私は今回の討伐隊に編成されたリーマ先生と話しをしてくるから、少し待っていてくれないか? 座っていても構わないから」

 ロンはいつものように返事を待たずにリーマ教員へと挨拶しにいく。
 唐突に一人取り残されたハーミアは所在なさげに、一番角の椅子に座り待機していると方々から視線を感じた。

 この場にいる者達は何らかの武器や防具を見つけているにも関わらす、ハーミアはグラディナの制服を着用しているのみだからだ。
(——何だあの場違いな女は? 絶対そう思われているから早く帰りたい)
 などと考え、なるべく心を無にしていると見知った声で名前を呼ばれた。

「ハミィ? どうしてここにいるの?」

「アーミー! もしかしてゴブリン討伐に参加するの?」

「勿論。報酬も出るしね。グレックもいるわよ」

「そうなんだ。二人ならゴブリンなんて敵じゃないものね。それよりも——」

 ハーミアは周囲を見渡す。

「ねぇ、アーミー。ここにいる人全員ゴブリン討伐の人たちなのかな? 人数多くない?」

「そうなのよ! たかだがゴブリンの討伐なのにどうしてこんな大隊組まなきゃいけないのかね。しかもうちらだけじゃなくてソルジャーと連合だしさ。鉛級程度に何ができるんだか」

 アーミーは必要以上に大きな声を出し、ハーミアはその声に少したじろぐ。
 何故ならわざと、挑発するような言い回しであったからだ。
 その声に反応するのはもちろん。

「——おい。お嬢ちゃん。随分言うじゃねぇか。鉛級で悪かったな! 俺らの仕事に横槍入れてきたのはあんた達なんだぜ!」

 アーミーの侮蔑を含んだ言い回しに、ソルジャーの男が反応する。
 首から下げるネックレスは鉛色をしている為、とうぜん彼が鉛級という事になる。

 粗野な衣服に身を包み、 顎髭に触りながらアーミーに近づき睨み出す。
 人相の悪い男である、一般人ならば縮み上がるだろう。
 だが——。

「あら。ごめんなさい——」

 アーミーは微苦笑をしながら男の睨みに答えた。
 猫に似た大きな瞳がソルジャーを挑発する。

「私はてっきり鉛級だけじゃ、この依頼は厳しいと判断したから、ギルドから私達グラディナに応援を頼んだのだと思っていたけど。違ったのかしら?」

「はははっ。笑えねぇ冗談だぜ、なぁ皆⁉︎ 何か勘違いしてないかお嬢ちゃん? 俺らはあんたらのオママゴトに付き合ってやる形なんだぜ。場数も経験していないチャンバラばっかりやってる嬢ちゃんみたいな奴らに、本物の戦闘を教えてくれってグラディナ側からギルドに相談があったのが本当の顛末なんだぜ? 分かってるのかな~お嬢ちゃん?」

「おい、アーミー。彼らあまり良い教育を受けていないから、難しい事を言ってやるなよ。もっと簡単に言ってあげなよ。かかって来いってさ」

 颯爽と現れたのは、グレックである。
 あいも変わらずキザな風貌ではあるが挑発の結果は十分と言って良い。

 グレックの挑発に粗野な格好をした男達が笑い合う。
 ざわ、ざわ。と空気が豹変する。
 グラディナ兵士・騎士。ソルジャー達はお互い睨み合う形となり対峙している。

 ハーミアはその間に座っている為に、非常に居心地が悪い。
 もうこのまま気配を消して、帰ろうかと思っていた時に助けが入る。

「何をやっているんだ! 学生を挑発してどうする。お前達の相手はゴブリンだぞ。無用な争いは意味がないだろう!」

 若い声である。

 一触即発の空気の中、堂々と発言する辺りがこの声の主の度量を物語っている。
 現に先ほどまでアーリーに凄んでいた男は、その声に媚びへつらうように答えた。

「そんな、クリスさん。このお嬢さんが俺たちソルジャーをバカにしてきましたので。少し状況を教えてやっただけですよ。挑発なんてしていませんよ」

 先程までの態度とは打って変わってである。
 男がペコペコと頭を下げる相手は、アーミーやグレックと同年代と呼んでいい年齢であった。

 白金色の髪に高級そうな絹の服をきており、腰には鞘に収まった剣が下げられている。
 その剣も一目で業物だと判断ができる。

「分かったから。席について大人しく待っていろ、もうすぐギルド職員とグラディナの教員の方が今回の昇格試験の手筈を説明する事になっている。それが終われば解散して明日の討伐に備える。今回は君たち鉛級が銀級への昇格の試験でもあるんだ。余計な揉め事は起こさない方が身の為といえるぞ」

 若いソルジャーの言葉を聞き、粗野な男達はそれぞれに返答し席へと戻っていく。
 どこか納得いかないグラディナの兵士・騎士課の生徒達にクリスは——お騒がせしてすみませんと言い。浅く頭を下げた後にソルジャー達が集まる席へと戻っていく。

「ふぅん。あれが白金の竜殺しか。どう見るグレック」

「噂に違わぬって感じかな」

「アーミー。グレック。あの人の事、知っているの?」

「やぁ! ハミィ! 今日も美しっ——」

「グレック邪魔。こんな所で口説くのはやめなさい。あっち行ってて!」

 最早連携のようにも見える二人のやりとり。
 またこのやりとりが見られて良かったと、ハーミアは心から思っている。

「知っているというか、有名人よ。ほら、あの人が座った席を見てハミィ」

 アーミーが目線で示した場所には、先程のクリスと呼ばれた男の両脇に二名の女性が座っていた。
 三名とも同じように白金の髪色をしている。

「史上最年少で白銀級になった兄弟姉妹けいていしまいのアンシュタイナーよ。一番右に座るのが長女のモニカ・アンシュタイナー。真ん中がさっきのクリス・アンシュタイナー。んで左に座るのが次女のレーナ・アンシュタイナーよ。たった三人で竜狩りを果たすとか化け物みたいな奴らよ」

「竜を、たった三人で——」

 ハーミアの思考はそこで停止した。
 竜は非常に高い知性と戦闘力を有しており、敵に回れば天災級の被害が出ると言われている。
 討伐するには、数百、数千、時には数万単位で隊を組んで討伐するのが基本とされている。

 それをたった三人で狩るというのは、最早人間の域をこえているのではないのか? ハーミアは単純にそう思った。
 興味の目がむくむく芽吹き、横目で三人を確認する。

 クリスは精悍な顔つきで腕を組んでいる。
 幼さが残る顔は非常に端正であり、さぞモテるだろうなと、ハーミアは察する。

 続いて長女のモニカに目が行く。
 長い髪の毛先を弄り、時折あくびをしている。
 美しい顔立ちをしており、同性のハーミアから見てもモニカの美しさに見惚れてしまう。
 おそらく着用している、胸元が大きく開いたドレスが原因だろう。
 思春期の少年辺りは赤面してしまうボリュームとなっている。

 そんなセクシーお姉さんがいるにも関わらず、粗野な鉛級のソルジャーは誰一人として彼女を見ようとしない。
 それが余計に怖くも感じた。

「——エッ⁉︎」

 次女に視軸を移動させた瞬間に目があった為に、ハーミアは思わす声を出してしまった。
 自分が見られるとい事を分かっていたかのような、そんな動きにどこか不思議な感覚に包まれる。

 次女のレーナは姉とは違い顔以外の露出を許していない。
 首から下は白い司祭服に身を包んでおり。見るからにヒーラー回復役の格好である。
 姉とは違い愛嬌を固めたような笑顔でハーミアに微笑みを送り視線を戻す。
 小動物のような愛らしい笑顔にハーミアの中にいる小さなおじさんがキュン死していた。

「そんな有名人たちがどうして、ゴブリン対峙に来ているのかしら?」

「多分だけど、あの人たちは審査官としてギルドから派遣されたんじゃない? 昇級試験とか言ってたし?」

 なるほどとハーミアは納得した時に、第三者の声が響く。
 アーミーの肩が大きく跳ねた。

「揉め事の原因はあなたですか? アーミー?」

 そこにはロン教員と、リーマ教員がいた。

「大丈夫かいハーミア君? 意味のない言い争いに巻き込まれてしまったようだね。直ぐに来られずに悪かったね」

「いえ、そんな、お気遣いありがとうございます。リーマ先生」

 謝罪するリーマ教員に、ハーミアはこちらこそと頭を下げる。

 リーマは法衣着る蛙である。

 仏道に身を置きながら、多くのモンスターを狩るという特殊な教員である。
 人間と同じように二足方向のリーマはアーリーを睨む。
 それは無機質な蛙の目である。

「資料を取ってきている間に揉め事が起きているなんて、早々に減点の対象かなアーミー君」

「あはははははっ。あ! 私、資料配るの手伝いますよリーマ先生!」

「やれやれ、評価はもう始まっている事を忘れないように」

 アーリーはリーマから資料を掴み、方々に配りに行く。
 ソルジャー同様、グラディナの兵士・騎士らも進級の課題という名目のもと、今回のゴブリン討伐を請け負うことになっている。

 という事実をハーミアは後ほどロン教員より説明を受けた。


 一呼吸置くと、スーツ姿に身を包んだ、女性のギルド職員が現れる。
 リーマ教員と軽く段取りを決めた後に点呼を取り出す。

 グラディナからは十ニ名の生徒達。
 ソルジャー側からは十一名の名が呼ばれ各々が返答をする。

 当然のようにアンシュタイナーの三名は名前を呼ばれていないので、アーミーの言う通り審査官として参加になるのだろう。

「ん? 一名おりませんね?」

 ギルド職員が資料を確認しながら再度点呼を取る、ソルジャー達は気だるげに返事を返す。
 やはり一人足りない。

「こちらはもう揃っていますが、いかが致します?」

「そうですね。始めましょう。時間が守れないようでは、昇級はなしと考えるのが妥当かと——」

 リーマ教員がギルド職員へと確認を取り、それに返答をしている最中に扉が勢いよく開き、ズカズカと無遠慮に侵入してくる者がいた。

 突然の事に誰しもその者に注目する。

 その者は、黒髪に黒目の少年である。
 着込む黒革の鎧やブーツまでも黒である為に全身が黒い。
 黒い服装と反するように少年の肌は嫌に白が目立つ。
 これまた反するように、背に担ぐ剣も全身黒色の少年と違い、金、青、赤、と妙に派手さが目立つ。ブレイド部分は黒い鞘に収まっている為、本来の姿を見ることはできない。

 少年は辺りを見渡した後に何事もなかったかのようにソルジャー側の席へ歩き、空いている席に座る。

「ア! アッ! アイ——」

「ちょっと、どうしたのよハミィ。急に立ち上がって変な声出して?」

「え? いや、あ、あ——すみまえん」

 周囲の視線が全て自分に向いていた事に気付き、顔を赤くしたまま席に座りなおすハーミア。
 顔を上げると、親友のアーミーが不安げな眼差しで見据えてきたので大丈夫とだけ返し、何事もないかのように振る舞う。

 だが、あのダンジョンで過ごした日々が脳内を駆け巡り、心臓の鼓動は張り裂けそうなほどである。

 黒い少年——を見る。

 何故だがこれから向かうゴブリン退治が唐突に、別次元の可能性を帯びてきたような感覚に陥り、ハーミアは座りながらも目眩を覚える。

 だが、それと同時に胸を熱くさせる高揚感もある事に自分自身で気付いていた。
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