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革命戦争編(親世代)
四十六話 毒薬の売人は西にいる。
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夜襲から三日経った。
あれ以来、スラムには一度も兵が来ていない。
次はいつ王国兵が襲ってくるのか、住人たちは怯えている。
傭兵たちはそういう状況に慣れているが、ただの一般人はそういうわけにはいかない。
ファジュルと仲間が『何かあったら必ず守る』と声をかけてまわり、なんとか平静を保ってくれている。
反乱軍がここにきてからの日数なら、すでに七日経っている。
七日の間に反乱軍はスラム全体を確認し、見取り図を作り上げた。
住人全員には街から最も遠い南側に避難してもらい、戦闘が起きても巻き込まれることがないよう配慮している。
次に王国兵が来るなら複数箇所からだとジハードが予想をし、町からスラムに繋がる道全てに傭兵を隊長とする部隊を配備していた。
そんな折、アスハブが果物と一緒に紙片を持込んできた。
『ガーニムが毒薬を取り寄せる、気をつけろ』
ヨハンは畳まれた紙片を広げ、目を疑った。
アスハブは渡されて持ってきただけで、開けていないようだ。キョトンとしている。
「どうしたんす、先生」
「……いや。いつもありがとう、アスハブ。助かるよ。上役の方にお礼を伝えておいてくれ」
「へへへ。おいら、先生の役に立てたんなら嬉しいっす。戦えないけど、反乱軍の皆さんのこと応援してますからね!」
軽く頭を下げ、仕事に戻っていった。
彼の言うように、戦闘職でなくともできることはある。食料をもらえるのは最高の支援だった。
ヨハンは反乱軍の主要メンバーを招集し、この紙片を見せた。
「このあたりで毒薬の売買を行う町があるとするなら、王都の西にあるスハイル領でしょう。この三日襲撃がなかったのは、毒を取り寄せるのに時間がかかっているためと考えられます」
「スハイル……たしか、武器の売買が収入源の貴族だな。そこから毒だけを買うとは考えにくい。武器も仕入れていると考えるのが妥当か」
ファジュルが目を細める。
王都からスハイル領を往来するには、あのオアシス付近を通るのが効率がいい。他の道にもオアシスがないこともないが、荷車で行くのに不向きな道なのだ。
となると、ガーニム側の人間が拠点付近を通ることになる。
「ファジュル様。あちらに残っているメンバーに警戒を呼びかけるべきでしょう。スハイル領はそれなりに遠い。運び人は必ず、あのオアシスで一旦水を得る」
ジハードが進言する。
王命で重要なものを運ぶなら、商人たちは確実に護衛を連れている。大荷物、大人数での移動ならオアシスで休む。
運悪く雨が降ってしまえば、テントを建てるよりはと、雨をしのげる洞穴《・・》……ファジュルたちの拠点に入ってしまうだろう。
あそこはその昔、盗賊が隠れ家にしていた場所。普通の人が好んで住む場所ではない。
住むとしたら、ワケアリの人間。
怪しまれるのは目に見えている。
ディーが率先して名乗りを上げた。
「じゃあボク、あっちの拠点に戻ってイーリスたちに警戒するよう伝える。敵方に見つかっちゃった場合のことを考えて、何人か一緒に来てくれる?」
「俺も行く。ルゥが危険な目に合うかも知れないなら、行かないと」
ファジュルに続いて、サーディクとエウフェミアが挙手した。
「貴族や商人の護衛なら、きっとあたしらと同業者だ。顔見知りならなんとか話をつけられるかもしれない。説得に応じてくれるかどうかはわからないけど、やらないよりはマシでしょ」
「エウフェミアが行くならオレも」
こうして、ディー、ファジュル、サーディク、エウフェミアが警戒のためオアシスの拠点に戻ることに決まった。
商人たちが武器や毒を運ぶ……オアシスの拠点で何事もなく終わっても、その先にも問題がある。
王都に届いたなら、それは再び戦闘が起こることを意味する。
オイゲンは腕組みしながら言う。
「そっちは任せる。俺たちは引き続きこっちを警戒する。たぶんバカ王は、毒を手に入れたら井戸か水路に撒くつもりだぜ」
「オイゲン。なぜそう思うのか聞いても?」
ヨハンが問うと、オイゲンは肩をすくめる。
「千人の兵の武器全部に毒を塗るのと、毒ビン一つ水路に投げ込むの、どっちが楽だ? 手間なしでたくさん殺せる方法なら、俺達が飲む水に毒を盛ることだろ。普通ならそんな倫理観ぶっ壊れたことしねぇが、先日の襲撃方法を考えるとやりかねねぇな」
「なるほど。毒死で人数が減ったところを、総力で叩く……」
人が生きるのに水は必要不可欠。飲まないと生きていけない。
一帯の飲用水に毒を盛られれば反乱軍以外の人間も死ぬ。
「毒は水に混ぜれば無色透明。誰が毒を撒いたかなんてわかりゃしねぇからな」
反乱軍を殺すためなら、無関係の人間が死ぬ方法を選ぶ。サーディクがガーニムのやり口に嫌悪感をあらわにする。
「ちくしょー。ガーニムの野郎、きたねぇ手を使いやがるぜ」
「確実に勝つためなら、汚いも綺麗もねーよ。俺も護衛任務でそういう目に遭う。やられる前に背後から斬るし、目潰しもやる。イズティハルの国王は、王様より傭兵のほうが向いていそうだな」
まるでオイゲンがガーニムをかばっているようにも聞こえるが、ただの事実だ。
これは競技試合などではない。規約も正義もそこにはない。
「盛り場の店主は俺たちの味方だからな。話を通して、水だけはもらえるようにしておく。毒を撒くこと自体を止められるわけじゃねーが、渇き死にだけは免れるだろう」
盛り場に確保してもらえば、最低限の飲水だけはなんとかなる。けれど反乱軍の人数はそこそこいるため、何日も耐えられるものではない。
毒の被害が出る前に先制してかたをつけられるなら、それに超したことはない。
「ジハード。スラムの警備は任せる。俺たちは俺たちで、運び屋を止められないかやってみる。みんなも、あとは頼んだ」
「承知しました、ファジュル様。ご武運をお祈りしております」
ファジュルは即座に武器と防具の支度を整え、ディー、サーディク、エウフェミアを連れて出立した。
あれ以来、スラムには一度も兵が来ていない。
次はいつ王国兵が襲ってくるのか、住人たちは怯えている。
傭兵たちはそういう状況に慣れているが、ただの一般人はそういうわけにはいかない。
ファジュルと仲間が『何かあったら必ず守る』と声をかけてまわり、なんとか平静を保ってくれている。
反乱軍がここにきてからの日数なら、すでに七日経っている。
七日の間に反乱軍はスラム全体を確認し、見取り図を作り上げた。
住人全員には街から最も遠い南側に避難してもらい、戦闘が起きても巻き込まれることがないよう配慮している。
次に王国兵が来るなら複数箇所からだとジハードが予想をし、町からスラムに繋がる道全てに傭兵を隊長とする部隊を配備していた。
そんな折、アスハブが果物と一緒に紙片を持込んできた。
『ガーニムが毒薬を取り寄せる、気をつけろ』
ヨハンは畳まれた紙片を広げ、目を疑った。
アスハブは渡されて持ってきただけで、開けていないようだ。キョトンとしている。
「どうしたんす、先生」
「……いや。いつもありがとう、アスハブ。助かるよ。上役の方にお礼を伝えておいてくれ」
「へへへ。おいら、先生の役に立てたんなら嬉しいっす。戦えないけど、反乱軍の皆さんのこと応援してますからね!」
軽く頭を下げ、仕事に戻っていった。
彼の言うように、戦闘職でなくともできることはある。食料をもらえるのは最高の支援だった。
ヨハンは反乱軍の主要メンバーを招集し、この紙片を見せた。
「このあたりで毒薬の売買を行う町があるとするなら、王都の西にあるスハイル領でしょう。この三日襲撃がなかったのは、毒を取り寄せるのに時間がかかっているためと考えられます」
「スハイル……たしか、武器の売買が収入源の貴族だな。そこから毒だけを買うとは考えにくい。武器も仕入れていると考えるのが妥当か」
ファジュルが目を細める。
王都からスハイル領を往来するには、あのオアシス付近を通るのが効率がいい。他の道にもオアシスがないこともないが、荷車で行くのに不向きな道なのだ。
となると、ガーニム側の人間が拠点付近を通ることになる。
「ファジュル様。あちらに残っているメンバーに警戒を呼びかけるべきでしょう。スハイル領はそれなりに遠い。運び人は必ず、あのオアシスで一旦水を得る」
ジハードが進言する。
王命で重要なものを運ぶなら、商人たちは確実に護衛を連れている。大荷物、大人数での移動ならオアシスで休む。
運悪く雨が降ってしまえば、テントを建てるよりはと、雨をしのげる洞穴《・・》……ファジュルたちの拠点に入ってしまうだろう。
あそこはその昔、盗賊が隠れ家にしていた場所。普通の人が好んで住む場所ではない。
住むとしたら、ワケアリの人間。
怪しまれるのは目に見えている。
ディーが率先して名乗りを上げた。
「じゃあボク、あっちの拠点に戻ってイーリスたちに警戒するよう伝える。敵方に見つかっちゃった場合のことを考えて、何人か一緒に来てくれる?」
「俺も行く。ルゥが危険な目に合うかも知れないなら、行かないと」
ファジュルに続いて、サーディクとエウフェミアが挙手した。
「貴族や商人の護衛なら、きっとあたしらと同業者だ。顔見知りならなんとか話をつけられるかもしれない。説得に応じてくれるかどうかはわからないけど、やらないよりはマシでしょ」
「エウフェミアが行くならオレも」
こうして、ディー、ファジュル、サーディク、エウフェミアが警戒のためオアシスの拠点に戻ることに決まった。
商人たちが武器や毒を運ぶ……オアシスの拠点で何事もなく終わっても、その先にも問題がある。
王都に届いたなら、それは再び戦闘が起こることを意味する。
オイゲンは腕組みしながら言う。
「そっちは任せる。俺たちは引き続きこっちを警戒する。たぶんバカ王は、毒を手に入れたら井戸か水路に撒くつもりだぜ」
「オイゲン。なぜそう思うのか聞いても?」
ヨハンが問うと、オイゲンは肩をすくめる。
「千人の兵の武器全部に毒を塗るのと、毒ビン一つ水路に投げ込むの、どっちが楽だ? 手間なしでたくさん殺せる方法なら、俺達が飲む水に毒を盛ることだろ。普通ならそんな倫理観ぶっ壊れたことしねぇが、先日の襲撃方法を考えるとやりかねねぇな」
「なるほど。毒死で人数が減ったところを、総力で叩く……」
人が生きるのに水は必要不可欠。飲まないと生きていけない。
一帯の飲用水に毒を盛られれば反乱軍以外の人間も死ぬ。
「毒は水に混ぜれば無色透明。誰が毒を撒いたかなんてわかりゃしねぇからな」
反乱軍を殺すためなら、無関係の人間が死ぬ方法を選ぶ。サーディクがガーニムのやり口に嫌悪感をあらわにする。
「ちくしょー。ガーニムの野郎、きたねぇ手を使いやがるぜ」
「確実に勝つためなら、汚いも綺麗もねーよ。俺も護衛任務でそういう目に遭う。やられる前に背後から斬るし、目潰しもやる。イズティハルの国王は、王様より傭兵のほうが向いていそうだな」
まるでオイゲンがガーニムをかばっているようにも聞こえるが、ただの事実だ。
これは競技試合などではない。規約も正義もそこにはない。
「盛り場の店主は俺たちの味方だからな。話を通して、水だけはもらえるようにしておく。毒を撒くこと自体を止められるわけじゃねーが、渇き死にだけは免れるだろう」
盛り場に確保してもらえば、最低限の飲水だけはなんとかなる。けれど反乱軍の人数はそこそこいるため、何日も耐えられるものではない。
毒の被害が出る前に先制してかたをつけられるなら、それに超したことはない。
「ジハード。スラムの警備は任せる。俺たちは俺たちで、運び屋を止められないかやってみる。みんなも、あとは頼んだ」
「承知しました、ファジュル様。ご武運をお祈りしております」
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