改訂版 草凪ときつねの思い出ごはん。

ちはやれいめい

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ねこまたの章

12 ねこまた 小町が望む思い出のごはん

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 夏のアツい日、雪路にかんゆうされてやってきたのは、ネコのあやかし、だった。
 ようかい系アニメやようかい大辞典なんかに必ずのっている、ねこまた。

「いやぁ、わがはいたちあやかしものの声を聞くことができるニンゲンがまだこの時代にもいるなんて、うれしいものですな。さすがは草凪の子孫」

 見た目はかわいいミケネコなのに、おとしよりみたいなはなし方をする。

「ふつうは話せないの? 雪路も私たちと話してるのに何も言わなかったよ」
「だれもが話せるわけではない。そなたと父君は草凪の血すじであろう? 草凪の血は、ヒトの中でもとくにあやかしと話す才能にめぐまれておる。母君も、おそらく何代か前にどこかのあやかしはらいの血が入っているのだろう」
「そうなんだ」

 ようは、私たちが雪路や小町に話しかけていても、ほかのだれもこの声を聞きとれないってことらしい。
 なんかの、あやかしとえんのある血じゃないと声が聞きとれないなんて、マンガみたいだ。

 

 父さんと母さんは店の仕込みがあるから、とりあえず私だけで小町の話をきくことにした。

 小町は居間のざぶとんの上で前足を折りたたんでまるまった。
 タタミとネコとざぶとんってすごくなじむ組み合わせなんだな。何年も前からここにいるかのように見える。

「お茶でも出したほうがいいのかな?」
「いんや。わがはい、あついものは好まん」
「へぇ。ねこまたってネコ舌なんだ。じゃあ冷たいむぎ茶にするね。外あつかったでしょ」


 うちはこの時期、冷ぞう庫にむぎ茶を作ってある。


 小皿にむぎ茶を入れて出すと、小町は前足をむぎ茶につけてひとくちなめる。

「ほほう。ひんやりしてうまいのう」

 お気に召したようで、むぎ茶はあっという間に空っぽになった。

「それで、小町はなにを食べたいの? その食べものの見た目、味、おぼえているかぎり教えてほしい」

 ヒントをたくさんあつめておくのは大事。
 わからないままだと、雪路みたいにじょうほう不足すぎて迷走しちゃうからね。

「わがはいが食べたいのは、甘いものだ。冷たくて、白くて、甘い。さいこうのゼイタクだと、分けてくれた人は言っていた。近ごろあついひがつづくから、またあれを食べたくなったのだ」

 冷たい・白い・甘い

 牛乳プリン? バニラアイス? それとも白あん系のヨウカン? フルーツポンチのナタデココ?
 だめだ、ヒントが大ざっぱすぎて当てはまるものが多すぎる。
 メモをとる手が止まってしまった。

「…………も、もっと、他にない?」
「ない。なやむほどのことなのか?」
「いや、こんなヒントだけで探せって言うの???」
「わしのカレーを作ってくれたではないか」
「今回のは無茶ぶりがすぎるよ!」

「わがはい時間はあるからな。できるまでこのやしきで待つことにしよう。良きにはからえ」 


 なんであやかしはみんな、ドラマのおとのさまみたいなはなし方をするかな。

 そんなわけで、小町が求める冷たくて白くて甘いもの探しがはじまった。


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