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拾 棚機ノ章
拾ノ陸 おもいに晒される内面
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オーサキが『人の臭いがする』と言うので森の奥深くに向かうと、細い木の枝をたくさん重ねて半円形にした穴ーーおそらく何らかの妖怪の巣ーーの下に、着物を着た白骨がありました。
着物は十前後の子どものもの。破れたり裂かれたりはしていません。
政信は横たわる白骨にふれて検分します。
「父上から水無月に村の子どもが失踪したと聞いていたが……消えてひと月も経っていないのに、自然に死んでここまで骨がむき出しになるわけがない。野犬に襲われたならもっと破れたり汚れているはずだ」
「となると、サトリに食われたか。あれは肉食だからな」
「ええ。そして、食うのが野の獣ならば問題はないが、人の味を覚えてしまった妖怪は、何度も繰り返すようになる。これは早いうちに狩らないと、棚機の儀式どころか村が危うい。黒羽《くろばね》。おもいを探せ」
政信は烏を飛ばし、おもいの気配を探るよう言いつけます。
式神はひと声鳴き、空に消えていきました。
『きゅい! あたしたちも探すわ! いくわよタビ!』
『わかったよ姉ちゃん! おもい、みつける!』
オーサキとタビも、森の中にいきます。
一連の流れを、ナギは黙って見ていました。
おもいを見つけて退治する。それが今回の役目。
ナギは依頼を受けた身であり、それ以外の、村の風習に口出しする権利はありません。してはいけないのです。
口出ししてはいけないけれど、納得しきれない自分がいました。
考えを振り払うよう頭を左右に振って、フェノエレーゼに言います。
「すみません。おれも、あちらを探してみます」
政信とフェノエレーゼの了承を得る前に、行ってしまいました。
「今のナギは、一人で行動すべきではない。注意力が欠けている。政信。お前は一人で大丈夫だな」
ナギが一人になりたがっているのは感じましたが、フェノエレーゼは、強引にでもナギの守りにつくことにしました。
「フェノエレーゼさん、愚弟をよろしくお願いします。あんな粗忽者でも、亡くすと師匠が悲しむ」
「ああ」
ナギに憎まれ口をたたいたり、厳しいことを言うけれど、それは決して嫌いだからではないのだと、政信の表情と声音でわかりました。
政信の願いを背に、フェノエレーゼは一人で行ってしまったナギを追いました。
逃げ出すように二人から離れてしまい、ナギは自己嫌悪に陥りました。
政信は生け贄のことを知っていても凛として、きちんと割り切って妖怪退治に臨んでいるのです。
少女が村から逃げ出そうとするほど理不尽な儀式なのだと、理解していても。
「おれはやはり、甘いのか。でも、受け入れろなんて、そんなの」
理想だけで成り立つほど世の中がきれいではないことを、ナギは身を持って知っていました。
忌み子であったせいで、鬼の腕があるせいで、生まれた日に処分されようとしていたのですから。
背後から、枝を踏む音がしました。
「半妖の自分が憎いと、兄弟子のように割り切れない自分が弱くて嫌いだと、そう思っているな」
しわがれた声。穢れた気配。
こんなに近づかれるまで、気づけなかったなんて。政信に愚かと言われたのは、嫌味でも何でもない、ただの事実でした。
「強くなれない自分が嫌い、愚かな自分が嫌い、ケレド愚かで弱くて醜いそのままを、好きだと言ってくれた人が愛しい」
妖怪にさらけ出された自分の内面があまりにも醜くて、泣きくなります。
「アア、半妖を食うのは初めてだ。人間とも妖怪とも味が違うのだろうな。くけケケケキャ」
毛に覆われた腕に首をつかまれ、おもいの牙が近づいてきました。
着物は十前後の子どものもの。破れたり裂かれたりはしていません。
政信は横たわる白骨にふれて検分します。
「父上から水無月に村の子どもが失踪したと聞いていたが……消えてひと月も経っていないのに、自然に死んでここまで骨がむき出しになるわけがない。野犬に襲われたならもっと破れたり汚れているはずだ」
「となると、サトリに食われたか。あれは肉食だからな」
「ええ。そして、食うのが野の獣ならば問題はないが、人の味を覚えてしまった妖怪は、何度も繰り返すようになる。これは早いうちに狩らないと、棚機の儀式どころか村が危うい。黒羽《くろばね》。おもいを探せ」
政信は烏を飛ばし、おもいの気配を探るよう言いつけます。
式神はひと声鳴き、空に消えていきました。
『きゅい! あたしたちも探すわ! いくわよタビ!』
『わかったよ姉ちゃん! おもい、みつける!』
オーサキとタビも、森の中にいきます。
一連の流れを、ナギは黙って見ていました。
おもいを見つけて退治する。それが今回の役目。
ナギは依頼を受けた身であり、それ以外の、村の風習に口出しする権利はありません。してはいけないのです。
口出ししてはいけないけれど、納得しきれない自分がいました。
考えを振り払うよう頭を左右に振って、フェノエレーゼに言います。
「すみません。おれも、あちらを探してみます」
政信とフェノエレーゼの了承を得る前に、行ってしまいました。
「今のナギは、一人で行動すべきではない。注意力が欠けている。政信。お前は一人で大丈夫だな」
ナギが一人になりたがっているのは感じましたが、フェノエレーゼは、強引にでもナギの守りにつくことにしました。
「フェノエレーゼさん、愚弟をよろしくお願いします。あんな粗忽者でも、亡くすと師匠が悲しむ」
「ああ」
ナギに憎まれ口をたたいたり、厳しいことを言うけれど、それは決して嫌いだからではないのだと、政信の表情と声音でわかりました。
政信の願いを背に、フェノエレーゼは一人で行ってしまったナギを追いました。
逃げ出すように二人から離れてしまい、ナギは自己嫌悪に陥りました。
政信は生け贄のことを知っていても凛として、きちんと割り切って妖怪退治に臨んでいるのです。
少女が村から逃げ出そうとするほど理不尽な儀式なのだと、理解していても。
「おれはやはり、甘いのか。でも、受け入れろなんて、そんなの」
理想だけで成り立つほど世の中がきれいではないことを、ナギは身を持って知っていました。
忌み子であったせいで、鬼の腕があるせいで、生まれた日に処分されようとしていたのですから。
背後から、枝を踏む音がしました。
「半妖の自分が憎いと、兄弟子のように割り切れない自分が弱くて嫌いだと、そう思っているな」
しわがれた声。穢れた気配。
こんなに近づかれるまで、気づけなかったなんて。政信に愚かと言われたのは、嫌味でも何でもない、ただの事実でした。
「強くなれない自分が嫌い、愚かな自分が嫌い、ケレド愚かで弱くて醜いそのままを、好きだと言ってくれた人が愛しい」
妖怪にさらけ出された自分の内面があまりにも醜くて、泣きくなります。
「アア、半妖を食うのは初めてだ。人間とも妖怪とも味が違うのだろうな。くけケケケキャ」
毛に覆われた腕に首をつかまれ、おもいの牙が近づいてきました。
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