中年で汚いおっさんニートが出産子育てする話し

沖田きょう

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おっさんニートと親玉モグルト_1

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  秋雨降るバス停で、俺はチベットスナギツネと出会った。肩から下げたスリングの中にはいたいけな赤子を入れ、右手には60枚入りのSサイズのオムツを一袋、左手には大量のお菓子と一冊のエロ本。スナギツネは腹を空かせている。母子の運命やいかに……。

「セールスならお断りですよ!」

「セールスだなんてとんでもない。ただ少し、当社の新薬について語りたいのです」

「会社に戻って可愛いワンコちゃん達と好きなだけ語り合ってください」

「……ところで奥さんは不妊にお悩みではありませんか?」

「ちょっと! 人の話し聞いてました?」

 どうやら人間とスナギツネでは会話が噛み合わないらしい。スナギツネは内ポケットから錠剤の入った小瓶を取り出すと見せびらかしながら話を続けた。

「見てください、この錠剤の純白の輝き。 綺麗でしょう? 欲しいでしょう?」

「要りません!」

 スナギツネには、スリングの中に居る赤ん坊の姿が見えないのだろうか? てか何故いきなり不妊の話!?

「この錠剤の名前は【芽殖孤虫錠E不妊治療薬】、近年その素晴らしい薬効から厚生労働省、はたまた世界保健機関からも注目されています」

「注目? 監視の間違いじゃなくて?」

「この錠剤を飲めば最後、たちまち可愛い子供達が母体の血肉を栄養源に無限に増殖するのです」

「何それ怖い! 要らない、要らない!!」

「……お気に召しませんか? I○I○や北の将軍様からも、既に予約注文が入っている当社期待の新薬なのですが」

「要りません!! 結局、セールスじゃないですか」

 オギャア、オギャア、オギャア、オギャア

 俺が語気を強めたせいだろうか? 赤ん坊が泣き出してしまった。

「お――よしよし、お腹減ったか?」

 流石にここで授乳する事は出来ない。赤ん坊の背中を軽く叩きながら体を揺らしていると、またスナギツネが話し掛けてきた。

「……かわいい赤ちゃんですねぇ。私、小さい子供が大好きなんですよ。特に赤ちゃんのプニプニな手足はたまりませんね」

 オギャア、オギャア、オギャア、オギャア

「お腹が空いたんですかねぇ? 泣き止みませんねぇ……ハア……ハア」

 スナギツネの息づかいが荒くなってきた。俺は咄嗟にスナギツネに背を向けて赤ん坊を隠した。

 オギャア、オギャア、オギャア、オギャア

「どれどれ奥さん、貸してみなさい。これでも私、保育士免許を持っているんですよ。」

「嫌です! 誰が息づかいの荒い変態スナギツネに、自分の子を渡しますか!!」

「奥さん、何をそんなに警戒しているんです? ほら、私の目をよく見てください。キラキラして、まるで聖母のような優しい目をしているでしょ?」

「…………」

(地球上で最も汚染されたカラチャイ湖やチタルム川のような淀んだヘドロみたいな目をしてる!!)

「…………」

(よく見たら、地球上で最も汚染されたカラチャイ湖やチタルム川のような淀んだヘドロみたいな目の中で、ウネウネした虫が泳いでる!!)

「嫌だ――! あなた怖い! 怖い、怖い」

「……奥さん!?」

「誰か助けて――!! 気持ち悪い! 怖い、怖い!!」

 俺は、今までに経験した事の無い凄まじい恐怖を感じて思いっきり叫んだ。

「誰か――! 誰か助けて――――!!」

「……何もそんなに怖がらなくても……」

「助けて――! 殺される――!! 犯される――――!!」

「……酷い……酷おおオオオオオオオオオォォワオオオオォオン……コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンココンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンフレークォワオオオオォオン…………」

「ギャアアァア!! キレたぁ!!」

「……ハア……ハア……すみませんね。つい興奮してしまって」

(嫌だ、ここに居たくない)

「そうだ、奥さん。実は当社では、治験モニターを募集してるんですよ」

「もう止めて! お願い許して!!」

 スナギツネはまた小瓶を取り出すと、蓋を開けて迫ってきた。

「あなたは何に怯えているんです? まるで、人間に獲物のナキウサギを取り上げられてお腹を空かせているのに、IUCNから低懸念と評価されたチベットスナギツネのように」

「止めて! 来ないで!!」

「大丈夫……怖くない、怖くない……」

(殺される!!)
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