3 / 66
ようこそ地下異界商店街へ
3.謎の世界と喫茶グレイブス
しおりを挟む一つ目小僧に大きな狼、耳の長い人間に、着物を着てはいるが髪の毛すべてが蛇の美女。それに、そもそも「人」の姿で無いものも多い。
六つ足の人当たりの良さそうな蜥蜴なんて見た事もないし、人間サイズの巨大なクモなんて地球上に存在するはずがない。
やはり壮大なドッキリではないのかと疑いたくなったが、しかしあんなに滑らかに動くクモの足や、周囲に舞っている人魂のような光は、和祁のようなただの一般人を騙すシロモノにしてはあまりにも精巧すぎる。
仮にアレを用意するとしたら、製作費は億単位になるかもしれない。
その辺りを考えると、やはりこれは現実と思った方が良いのだろうか。
夢かとも考えたが、そこはもう目覚めるのを待つしかない。とにかく、これは現実なのだ。となると……このチュジンという種族の黒猫も……。
「あの……チュジンさん」
「なんだカズキ」
「もしかして、貴方もここにいる人達の仲間……?」
恐る恐る問いかけると、黒猫は少し首をひねったが二本足で立ちあがり、ぽむんと己の長毛に覆われた胸を叩いた。
「俺、チュジン! 扬子江の近い、住むしてた誇り高き種族!」
「そんなオッスオラゴ○ウみたいな説明されても……」
それにヤンツーチャンという地域も良く分からない。しかし、響きからしてどうも中国語かそれに類する言語のように思える。
とすると、この猫は中国の珍しい猫……いや、妖怪なのだろうか。
(まあ、あすこはパンダとか山に住んでる仙人とかいっぱいいるし、喋る黒い虎柄の猫も探せば居るのかも知れない……妖怪と決めつけるのはどうかな)
国土が広ければそれだけ様々な種類の生物が存在するだろう。
そうは思うが、先程の不可思議なオーラや現象を思うと、やはりこの猫も「生物」ではなく「妖怪」ではないかと思えてくる。
というか、十中八九妖怪だろう。猫が二本足で立って胸を叩くとかありえないし。
(今してるポーズを考えたら、チュジンは間違いなく妖怪なんだろうな……)
チュジンという存在が良く解らないが、地域を絞ってスマートフォンで検索すれば見つかるだろうか。そう思い、無意識にズボンを探ろうとした和祁に――背後から、聞いた事のない声が降りかかってきた。
「おやまあ、隔世門に異変が起こったからと確認しに来てみたら、侵入者は人間とチュジンだなんて……珍しい組み合わせだね」
「ァウ?」
「え…………」
振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
歳は三十前後と言った所だろうか。毛量のせいか鳥の巣頭に見える蓬髪に、肩幅はあるがひょろ長そうな体躯で、褪せた抹茶色のエプロンを着用し、大きな眼鏡をかけた妙な風体だ。しかし、和祁は相手の様子に特段おかしなことが無いのを見て、おやと眉を顰めた。
「あの……あなたは、人間ですか……?」
自分でも変な事を聞いていると思うが、この状況では仕方のない事だ。
相手もそう思ったのか、人の良さそうな穏やかな笑みで笑って手を差し出した。
「まあ、そう言う所かな。僕の名前は瀧沙丈牙。そこの猫君は貙人だね。そして君は……奥城和祁君」
「えっ……なんで俺の名前を……」
思わず目を見やると、相手は鳶色の瞳に何やら言い知れぬ光を浮かべて、ふっと目を細めた。
「まあ、まずは僕の店に来ると良い。君達も初めての事で疲れただろう?」
飲み物をご馳走するよ、と引っ張り上げられて、和祁はどうした物かと黒猫を見やる。そもそも、ここに来たのはこのチュジンという猫に連れられてきたからだ。
帰り道も解らないのに、今この猫から離れる訳にはいかない。
どうするのかと二本足で立ちあがっている猫を見つめると……彼は少し不満げに眉間に皺を寄せたものの、和祁の方にひょいと飛び乗って来て、丈牙と名乗った男を見上げた。
「うん。情報、ほしい。くれる、する、いく」
「ああまだ日本語に慣れてないのか。まあ大丈夫。いずれ慣れる。……さ、二人とも行こうか。道端で話すより落ち着くから」
そう言いながら歩き始める中年に、和祁は慌てて付いて行く。
足の歩幅が違う相手に戸惑いながら早足で並走すると、周囲の店の物やすれ違った“妙なもの”達が物珍しそうに和祁を見つめて来た。
何かを言うという事はないものの、それぞれがヒソヒソと話し合っている。
(うう……こういうの苦手なんだよなぁ……)
転校初日もこうだったし、今も学校ではこんな風に周囲でヒソヒソされている。
恐らく和祁が学校ではほとんど喋らず一人で過ごしているが故に、クラスメートは気味悪がったり話のタネにしているのだろうが、音が耳に届く範囲でそうやってヒソヒソと会話をされると、やはり良い気分ではない。
人と話すのが苦手で未だにクラスに馴染めない和祁も悪いのだろうが、しかし、人の性根とは急に変わるような事はないものだ。
数十年友達が出来なかった和祁は、もはや同年代の人間と話す事すら出来ず、受け答えも「あ」とか「うう」とか言ってしまうのだから、話しようもない。
友達が欲しくても、こんな状態では人も近寄って来なかった。
(I妖怪だろうがなんだろうが、結局人間と同じなんだなあ……)
そう思うと何だか“妙なもの達”にも親近感が芽生えてきて、和祁は少しだけ緊張を解く事が出来た。切ない事をされて緊張が解れるというのもおかしな話だが、自分達とは違う存在が人間と同じ感情を持っていると解ると、親近感が湧いて恐怖が無くなるのかも知れない。
そんな事を考えながら歩いていると、丈牙がある店の前で止まった。
「着いたよ。さ、入って」
「えっ。あ……入って、って……ここ、喫茶店……ですか?」
古めかしい木枠とタイルで装飾された外観に、蔦のように美しく整えられた金属の支えにぶらさがった釣り看板。
店の窓の下には食品サンプルを並べたレトロな見本があって、ここが一目で飲食店である事が理解出来た。しかし……。
「ジャズ……喫茶、グレイブス?」
ジャズは英語なのに、店名はカタカナだ。自体も白地でかなり古臭い。
そういえばこの空間にある店は、どこもそこはかとなく懐かしい感じの店構えだ。まったく妙な世界だなと思いながら、和祁は猫と共に店の中に入った。
中は落ち着いたインテリアで統一されており、薄暗い照明と飴色の鈍い光を放つ木製の椅子や調度品が店の雰囲気を醸し出すのに一役買っている。
それに、店の中にはコーヒー豆の香りが微かに漂っていた。
今までこんな店に入った事が無かった和祁は、思わずまた緊張してしまう。
丈牙はそんな和祁にくすりと笑うと、カウンターの中に入って和祁を呼んだ。
「さあ、ここに座って。飲み物は何が良い?」
まずは落ち着こう、と促されて、和祁は背の高い椅子に少し苦心して座る。
チュジンの黒猫も隣の席に行儀よく座った。
「じゃあ、まずは注文を聞こうか。僕のおごりだ、なんでも頼むと良い」
→
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる