佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

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3.謎の世界と喫茶グレイブス

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 一つ目小僧に大きな狼、耳の長い人間に、着物を着てはいるが髪の毛すべてが蛇の美女。それに、そもそも「人」の姿で無いものも多い。
 六つ足の人当たりの良さそうな蜥蜴なんて見た事もないし、人間サイズの巨大なクモなんて地球上に存在するはずがない。

 やはり壮大なドッキリではないのかと疑いたくなったが、しかしあんなに滑らかに動くクモの足や、周囲に舞っている人魂のような光は、和祁かずきのようなただの一般人をだますシロモノにしてはあまりにも精巧すぎる。
 仮にアレを用意するとしたら、製作費は億単位になるかもしれない。

 その辺りを考えると、やはりこれは現実と思った方が良いのだろうか。
 夢かとも考えたが、そこはもう目覚めるのを待つしかない。とにかく、これは現実なのだ。となると……このチュジンという種族の黒猫も……。

「あの……チュジンさん」
「なんだカズキ」
「もしかして、貴方もここにいる人達の仲間……?」

 恐る恐る問いかけると、黒猫は少し首をひねったが二本足で立ちあがり、ぽむんと己の長毛に覆われた胸を叩いた。

「俺、チュジン! 扬子江ヤンツーチャンの近い、住むしてた誇り高き種族!」
「そんなオッスオラゴ○ウみたいな説明されても……」

 それにヤンツーチャンという地域も良く分からない。しかし、響きからしてどうも中国語かそれに類する言語のように思える。
 とすると、この猫は中国の珍しい猫……いや、妖怪なのだろうか。

(まあ、あすこはパンダとか山に住んでる仙人とかいっぱいいるし、喋る黒い虎柄の猫も探せば居るのかも知れない……妖怪と決めつけるのはどうかな)

 国土が広ければそれだけ様々な種類の生物が存在するだろう。
 そうは思うが、先程の不可思議なオーラや現象を思うと、やはりこの猫も「生物」ではなく「妖怪」ではないかと思えてくる。
 というか、十中八九妖怪だろう。猫が二本足で立って胸を叩くとかありえないし。

(今してるポーズを考えたら、チュジンは間違いなく妖怪なんだろうな……)

 チュジンという存在が良く解らないが、地域を絞ってスマートフォンで検索すれば見つかるだろうか。そう思い、無意識にズボンを探ろうとした和祁かずきに――背後から、聞いた事のない声が降りかかってきた。

「おやまあ、隔世門かくせいもんに異変が起こったからと確認しに来てみたら、侵入者は人間とチュジンだなんて……珍しい組み合わせだね」
「ァウ?」
「え…………」

 振り向くと、そこには一人の男が立っていた。
 歳は三十前後と言った所だろうか。毛量のせいか鳥の巣頭に見える蓬髪ほうはつに、肩幅はあるがひょろ長そうな体躯で、褪せた抹茶色のエプロンを着用し、大きな眼鏡をかけた妙な風体だ。しかし、和祁は相手の様子に特段おかしなことが無いのを見て、おやと眉を顰めた。

「あの……あなたは、人間ですか……?」

 自分でも変な事を聞いていると思うが、この状況では仕方のない事だ。
 相手もそう思ったのか、人の良さそうな穏やかな笑みで笑って手を差し出した。

「まあ、そう言う所かな。僕の名前は瀧沙たっさ丈牙じょうが。そこの猫君は貙人ちゅじんだね。そして君は……奥城おくしろ和祁かずき君」
「えっ……なんで俺の名前を……」

 思わず目を見やると、相手は鳶色の瞳に何やら言い知れぬ光を浮かべて、ふっと目を細めた。

「まあ、まずは僕の店に来ると良い。君達も初めての事で疲れただろう?」

 飲み物をご馳走するよ、と引っ張り上げられて、和祁はどうした物かと黒猫を見やる。そもそも、ここに来たのはこのチュジンという猫に連れられてきたからだ。
 帰り道も解らないのに、今この猫から離れる訳にはいかない。

 どうするのかと二本足で立ちあがっている猫を見つめると……彼は少し不満げに眉間に皺を寄せたものの、和祁の方にひょいと飛び乗って来て、丈牙と名乗った男を見上げた。

「うん。情報、ほしい。くれる、する、いく」
「ああまだ日本語に慣れてないのか。まあ大丈夫。いずれ慣れる。……さ、二人とも行こうか。道端で話すより落ち着くから」

 そう言いながら歩き始める中年に、和祁は慌てて付いて行く。
 足の歩幅が違う相手に戸惑いながら早足で並走すると、周囲の店の物やすれ違った“妙なもの”達が物珍しそうに和祁を見つめて来た。

 何かを言うという事はないものの、それぞれがヒソヒソと話し合っている。

(うう……こういうの苦手なんだよなぁ……)

 転校初日もこうだったし、今も学校ではこんな風に周囲でヒソヒソされている。
 恐らく和祁が学校ではほとんど喋らず一人で過ごしているが故に、クラスメートは気味悪がったり話のタネにしているのだろうが、音が耳に届く範囲でそうやってヒソヒソと会話をされると、やはり良い気分ではない。

 人と話すのが苦手で未だにクラスに馴染めない和祁も悪いのだろうが、しかし、人の性根とは急に変わるような事はないものだ。
 数十年友達が出来なかった和祁は、もはや同年代の人間と話す事すら出来ず、受け答えも「あ」とか「うう」とか言ってしまうのだから、話しようもない。

 友達が欲しくても、こんな状態では人も近寄って来なかった。

(I妖怪だろうがなんだろうが、結局人間と同じなんだなあ……)

 そう思うと何だか“妙なもの達”にも親近感が芽生えてきて、和祁は少しだけ緊張を解く事が出来た。切ない事をされて緊張が解れるというのもおかしな話だが、自分達とは違う存在が人間と同じ感情を持っていると解ると、親近感が湧いて恐怖が無くなるのかも知れない。

 そんな事を考えながら歩いていると、丈牙がある店の前で止まった。

「着いたよ。さ、入って」
「えっ。あ……入って、って……ここ、喫茶店……ですか?」

 古めかしい木枠とタイルで装飾された外観に、蔦のように美しく整えられた金属の支えにぶらさがった釣り看板。
 店の窓の下には食品サンプルを並べたレトロな見本があって、ここが一目で飲食店である事が理解出来た。しかし……。

「ジャズ……喫茶、グレイブス?」

 ジャズは英語なのに、店名はカタカナだ。自体も白地でかなり古臭い。
 そういえばこの空間にある店は、どこもそこはかとなく懐かしい感じの店構えだ。まったく妙な世界だなと思いながら、和祁は猫と共に店の中に入った。

 中は落ち着いたインテリアで統一されており、薄暗い照明と飴色の鈍い光を放つ木製の椅子や調度品が店の雰囲気を醸し出すのに一役買っている。
 それに、店の中にはコーヒー豆の香りが微かに漂っていた。
 今までこんな店に入った事が無かった和祁は、思わずまた緊張してしまう。

 丈牙はそんな和祁にくすりと笑うと、カウンターの中に入って和祁を呼んだ。

「さあ、ここに座って。飲み物は何が良い?」

 まずは落ち着こう、と促されて、和祁は背の高い椅子に少し苦心して座る。
 チュジンの黒猫も隣の席に行儀よく座った。

「じゃあ、まずは注文を聞こうか。僕のおごりだ、なんでも頼むと良い」









 
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