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迷惑な客と幻のデザート
12.妖怪と人間の共通点
しおりを挟むしかし、約束してしまったものは仕方がない。
ここは一度退散して、丈牙と話し合った方が良いだろう。そう思い、和祁が「準備してまた来る」と言うと、山の主は「逃げられないように、山童を一人付けるぞ」と返して、あの最初に出て来た言葉がしっかりしている山童を寄越してきた。
どうも山の主は和祁を山童達の世話係に欲しがっているようで、お菓子の美味さのうんぬんよりも、どうやって和祁を絡め捕ってやろうかという考えが感じられた。
山の主は、和祁達の対価が価値のある物だとは思っていないらしい。
その態度は無理からぬ事であったが、そこまで露骨に思惑を押しだされると、駆け引き慣れなどしていない和祁ではつい気後れしてしまう。
お付きの山童も、可愛いよりも先に「監視役」という役目がちらついてしまって、何だかぎこちない態度で接してしまっていた。
しかし、この状態でなんとか山の主に納得して貰わねばなるまい。
と言う訳で、和祁達は溜息を吐きながら異界への帰路を急いでいたのだが。
「……にーちゃん達、ごめんな。おらのとーちゃん、昔は人間と仲良くしてたけど、人が居なくなるにつれて、よそもの嫌いになっちまったんだ」
サーティンに背負われた子供の背丈ほどの山童が、悲しそうに俯く。
「なぜ余所者嫌いマスか?」
「とーちゃん、山の神様にちゃんとお礼して山を開いた、ここの人間達が好きだったんだ。でも、いつの間にかどんどん人が少なくなって、クルマってのがぶんぶん走るばっかで、みんな山のこと、忘れちまった。とーちゃんはそれが寂しくて、辛くて、知らない奴を遠ざけるようになっただよ。後からこの土地を捨てる奴らなんて嫌いだって。もう二度と信用しないって」
「そっか……」
イナマキが「人間には好意的だ」と言ったのは、確かだった。
しかしその情報は少し遅かったようだ。
(どんどん人が離れて行って、人を嫌いになったなんてなあ……)
人間と妖怪の関係する物語では、よくある話だ。
けれども、それは避けられない話題だった。何故なら、人とは必ず妖怪よりも先に死ぬものだし、土地を離れる事だってあるからだ。
人の一生は、あまりにも短い。妖怪達の生きる時間とは違うし、記憶していられる事や信じられる物にも限界がある。
だからこそ人は先へと進み、次第に過去の事を忘れて行くのだ。
例え、何かを置き去りにしてしまうとしても。
……だが、それはあくまでも人間の考えと生き方でしかない。
一つの場所に留まる妖怪達にとって、仲良くなった存在が二度と帰ってこない事は、とても辛い事だったのだろう。
和祁は幼い頃から親の都合で転校ばかりを繰り返していて、落ち着く暇も無く転々としていたので、土地に住む妖怪達の気持ちを完璧には理解出来なかったが――けれども、忘れられる事がどれほど辛いかは、身に沁みて解っていた。
(俺も、あの人には最後まで思い出して貰えなかったな。……おかげでもう、顔すらもぼんやりしてて、覚えてないや……)
あの人、という以外には呼びたくもない存在。
自分と母を連れ回した挙句に捨てて行った顔も忘れかけた相手だが、それでも和祁はその相手の事を思うと、胸が痛くて苦しかった。
何故そんな気を起こすのかは、和祁自身も解らなかったが。
(……サーティンも、実の母親に捨てられたのに、今もずっと母親の影を追ってるんだし……そう考えると……妖怪でも人間でも、悲しいって気持ちはそうそう忘れられるもんじゃないのかも知れないな)
そう思うと少しだけ心が楽になったような気がしたが、それはそれで何だか申し訳ないような心地にもなって、和祁は何も言えず空を飛び続けたのだった。
地下異界商店街に到着した頃には日が少し暮れかけており、商店街を照らしているふわふわと浮かんだ光の玉も、ほんのりオレンジ色に染まっている。
和祁はこの時間帯に店から出る事は無かったので、あまり気にしていなかったのだが……高い天井に集った無数の光の玉の色が変わると、地下世界でも夕日に照らされているように思えて来るから不思議だ。
商店街を好き勝手に浮遊するこの大量の光の玉の正体は未だに解らないが、この光があるから、地下商店街は地下という場所にも関わらずここまで明るいと思えるのだろう。
(……そういえば、ここが【地下】って事は……地上があるんだよな……? 地上ってどんな所なんだろう……)
和祁が店を出て向かう所と言えば、イナマキの食料品店やお銀と蔵子の居る“銀月食器店”くらいだ。まだまだ自分は余所者だし、丈牙にも「あまり出歩かないように」と釘を刺されているので、それを頑なに守ってヒキコモリのような生活を続けていたのだが、その辺りを考えるとちょっと気になってくる。
まあ、この世界の住民ではない和祁には見せられないのかも知れないが……。
そんな事を考えて、少し寂しくなりつつも店に帰って来た和祁達は、山童を丈牙に紹介してから、山の主に言われた事を洗いざらい話した。
丈牙は取引の内容に青筋を当てて静かに怒っていたが、しかし怒っていても仕方がないと判断したのか、深い溜息を吐くと頭を掻いた。
「はー……ったく、約束しちまったモンは仕方ない……。和祁、こうなったら相手を納得させるホットケーキを作るしかないぞ」
「でも……今のホットケーキだとちょっと違うんですよね? サーティンさん」
和祁が聞くと、サーティンは軽く頷く。
「んー……何て言うか、パサパサデシタ。私が彼女の家で食べたホットケーキは、もっとしっとりしてマシタネー」
「しっとり、か……」
「いや、待てカズキ。ほっとけえきを作るのは良いが、あの山の主はこの店に入るのか? 店が壊れるのではないか?」
カウンターの上で珍しくまともな事を言う速来に、和祁は思わず顔を歪める。
そう言えばそちらも問題だった。
山の主のあの巨体ではそれだけでもう店が満員だ。山童の入る隙間が無い。
もしや、店に行くと言ったのは自分の巨体で店を塞ぐためか。
「ふむ……その辺りは僕がなんとかしよう」
「え、店長が?」
「ああそうさ。昔の佐世保の人間は、“街”に行く時はめかし込んだもんだ。この地下異界商店街は、人間の街を元に作られている。相手が口約束を振りかざすのならば、こっちもルールで縛り付けてやらなきゃね」
悪だくみをしているように、丈牙がニヤリと笑う。
何を考えているのかは和祁には解らなかったが、こういう時の丈牙は怖い。
大人は本当に訳が解らないと思いながら、和祁は猫の姿の速来を抱き上げて、心を落ち着かせようと頭を撫でたのだった。
→
※今年は読んで頂きありがとうございました(*´ω`*)
この章が終わると来年はゆっくり更新になりますが、引き続き更新して
いきますので思い出した時にでも読んで下さると嬉しいです!
それでは良いお年を!(`・ω・´)ノシ
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