佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴

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ジャズの面影とたこ焼き屋

3.謎の声

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 聞き耳頭巾ずきん……というのは、どうやら昔話に出てくる“不思議な道具”らしい。

 昔話ではこれを耳の所まで深く被ると動物達の声が聞こえて来るというのだが、今回はそうではないらしい。丈牙曰く、これを被れば周囲の音がよく聞こえるようになるのだとか。あまりにも胡散うさん臭い話ではあったが、学校での噂の出どころが解らない限りは、和祁も安心して異界に渡る事が出来ない。

 そんな訳で、和祁はクラスの中でも噂に一番詳しそうな女子たちのグループに目を付けて、頭巾を被るかどうしようか迷っているのだが……。

(これ、店長の言う通り本当に“誰も頭巾を被ってるを気付かない”状態に見えるのかな……。嘘だったら俺すっげえ変人に見えそうなんだけど……)

 転校して一か月程度、学校に馴染めず誰にも話しかけずにそっと気配を消している和祁が、いきなり変な布袋を被り始めたら、周囲はどう思うだろうか。
 ぼっちというより変人に見られて、余計に遠巻きにされるかもしれない。
 それは流石に勘弁して欲しいがだからといってやらない訳にも行かないだろう。

 異界の事が公になるより、学校でのマイナスに限りなく近い自分の立場を犠牲にした方が何倍もましである。仕方ないかと気持ちを切り替え、和祁は鞄から聞き耳頭巾を取り出すと……。

(あ、そうだ。耳まで被るってのが“決まり”なら、別に頭にかぶる必要はないんだよな……? じゃあ、コレでいけるかも!)

 頭巾の頭を入れる所を広げて、和祁はクラスで孤立している人間が良くやる、机に突っ伏して腕で顔を隠しながら眠るポーズをとる。
 そうして、腕の中で顔から頭巾をかぶり耳まで覆った。
 こうすれば誰にも気付かれず周囲の話を聞けるのではなかろうか。

 そんな小賢しい知恵だったが……意外にも効果は有ったらしく、周囲の音が一気に耳に雪崩れ込んできた。

(うわっ! うるっさい!?)

 どっと流れ込んで来た音に思わず目をつぶると、今度は音が消える。
 どうやらこの頭巾は音を振り分けられるようだ。

(……今更だけど、店長はなんでこんな昔話の中の道具を持ってたんだろう)

 妖術が掛かっているのかは知らないが、こんな性能のいい不思議な道具が昔にも存在していたなんて、青い狸が出してくれる未来の道具も真っ青だ。
 というか、実在していること自体が驚きである。
 まあ、妖怪がいるのなら、昔話の遺物が存在していてもおかしくは無いのだが。

(しかし……聞き耳頭巾って、メジャーなお話だよな? こんな場末の街になんでそのお話しのモノがあるんだろう)

 通学途中に一応検索して調べてみたが、頭巾の昔話は佐世保とは何の関係も無なかった。もしかしたら、誰かに譲られた品なのかもしれないが……それにしても、人間だか妖怪だか判らない丈牙の手に渡る経緯が解らない。
 まあ、異界に住んでいる時点で人間であろうが「普通じゃない」ことには変わりがないのであろうが。

(……じゃなくて。今は話を探らないとな)

 余計な事を考えていた自分を叱咤して、和祁は耳を澄ませる。
 自分の聞きたい情報を探れるようにうまく頭巾を操作していると――不意に、耳に話し声が聞こえてきた。

『ねえ知ってる? 佐世保駅からの異界へ行く方法』
『ええ? なっちまだその話してんの?』
『当たり前じゃん、気になんない?』
『そりゃ面白いとは思うけど……ただの噂だし、ありえないでしょ』

 いつもの女子たちの話し声とは違う。と言う事は、どこか別のクラスだろうか。
 和祁は未だにクラスメートの名前もぼんやりとしか覚えていないが、しかし自分のクラスに「なっち」と呼ばれる女子生徒はいなかったはずだ。
 注意深く聞いていると、その「なっち」と呼ばれた女子生徒は難しげな声を出して唸った。

『う~ん……。でもさあ、万が一本当だったら面白く無い? 地元にそんな変な噂がポッと出て来たんだよ? 私は確かめてみたいけどなあ』
『確かめるって言っても、結局行けなかったんでしょ』
『ウッチーがね。でも、私納得いかないんだよな。もしかしたら、肝心なトコロが抜けてるから行けないんじゃないかって』
『ナニソレ』

 あまり興味が無さそうな相手に、「なっち」は必死になって自分の説の正しいさをまくしたてる。

『他のクラスの子にも聞いたんだけど、不思議な事にこれってみんな途中で方法を忘れちゃうんだよ。何か有ったはずなのに思い出せないの。で、私その事が凄ーく気になったから、噂を誰から聞いたか色々聞いてみたんだけど……それが、誰から聞いたのか解らないのよ!!』
『えぇ? そんな事ってある? 誰か嘘ついてるんじゃないの?』
『そんなはず無いわよ。だってネットで探してもこんな話出てこないもの。絶対に誰かが言い出したはずなのよ。でも、私が辿れたのは一年生のクラスまでで……』

 ――――その後は、延々と同じような話の繰り返しになり、変わり映えがしない世間話になってしまったので、和祁はもう頭巾から顔を話そうとした、が。

『どうして解らないのかしら』

 誰か違う声が聞こえて来て、和祁は目を見張った。

(なんだ? なんだ、この声……)

 再び耳を澄ませると。

『カンナ、あせるな。我々が焦ってもどうにもならん』
『解ってるけど……最後のやり方がどうしても解らないのよ……! アレが解らないと、この街の【異界】に行けない……!』

 異界……。

(い……異界、だって……?!)

 この声が誰かは解らない。
 しかし何故【異界】を知っているのか。あの場所は「忘れられた存在達」の場所で誰も知らないはずだ。そう考えて、和祁は「いや」と思い直した。

(あの【地下異界商店街】に入れないって事は、この女の子の声は【異界】のことは知ってても、佐世保のソレにどう入るのかは知らないんだ)

 丈牙は以前「形は違うが、各地に【異界】がある」と言っていた。
 と言う事は、この声の主は別の場所の【異界】を知っているのだ。佐世保にも【異界】が在るという情報を知っていたとしても不思議ではない。
 だが、だとすると……――

(この声の主って……妖怪と何かつながりがあるってこと……?)

 そう、和祁が思ったと同時。

『どうしても……探さなきゃ行けないのに……』
『ふむ……最早、手段は選んでいられんな……』

 もう一人の、やけに低い声が、そう呟いたと同時。

「――――ッ!」

 始業のベルが聞こえて思わず顔を上げる。
 タイムリミットだ。
 だが、和祁はしばらく顔を上げたままで動けなかった。

(しゅ……手段は選んでいられないって……)

 一体、何をするつもりだ。
 問いかけたくても、その後何度頭巾を被ってもあの声は聞こえなかった。












※次回更新は水曜日の夜です
 
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