51 / 66
ジャズの面影とたこ焼き屋
3.謎の声
しおりを挟む聞き耳頭巾……というのは、どうやら昔話に出てくる“不思議な道具”らしい。
昔話ではこれを耳の所まで深く被ると動物達の声が聞こえて来るというのだが、今回はそうではないらしい。丈牙曰く、これを被れば周囲の音がよく聞こえるようになるのだとか。あまりにも胡散臭い話ではあったが、学校での噂の出どころが解らない限りは、和祁も安心して異界に渡る事が出来ない。
そんな訳で、和祁はクラスの中でも噂に一番詳しそうな女子たちのグループに目を付けて、頭巾を被るかどうしようか迷っているのだが……。
(これ、店長の言う通り本当に“誰も頭巾を被ってるを気付かない”状態に見えるのかな……。嘘だったら俺すっげえ変人に見えそうなんだけど……)
転校して一か月程度、学校に馴染めず誰にも話しかけずにそっと気配を消している和祁が、いきなり変な布袋を被り始めたら、周囲はどう思うだろうか。
ぼっちというより変人に見られて、余計に遠巻きにされるかもしれない。
それは流石に勘弁して欲しいがだからといってやらない訳にも行かないだろう。
異界の事が公になるより、学校でのマイナスに限りなく近い自分の立場を犠牲にした方が何倍もましである。仕方ないかと気持ちを切り替え、和祁は鞄から聞き耳頭巾を取り出すと……。
(あ、そうだ。耳まで被るってのが“決まり”なら、別に頭にかぶる必要はないんだよな……? じゃあ、コレでいけるかも!)
頭巾の頭を入れる所を広げて、和祁はクラスで孤立している人間が良くやる、机に突っ伏して腕で顔を隠しながら眠るポーズをとる。
そうして、腕の中で顔から頭巾をかぶり耳まで覆った。
こうすれば誰にも気付かれず周囲の話を聞けるのではなかろうか。
そんな小賢しい知恵だったが……意外にも効果は有ったらしく、周囲の音が一気に耳に雪崩れ込んできた。
(うわっ! うるっさい!?)
どっと流れ込んで来た音に思わず目をつぶると、今度は音が消える。
どうやらこの頭巾は音を振り分けられるようだ。
(……今更だけど、店長はなんでこんな昔話の中の道具を持ってたんだろう)
妖術が掛かっているのかは知らないが、こんな性能のいい不思議な道具が昔にも存在していたなんて、青い狸が出してくれる未来の道具も真っ青だ。
というか、実在していること自体が驚きである。
まあ、妖怪がいるのなら、昔話の遺物が存在していてもおかしくは無いのだが。
(しかし……聞き耳頭巾って、メジャーなお話だよな? こんな場末の街になんでそのお話しのモノがあるんだろう)
通学途中に一応検索して調べてみたが、頭巾の昔話は佐世保とは何の関係も無なかった。もしかしたら、誰かに譲られた品なのかもしれないが……それにしても、人間だか妖怪だか判らない丈牙の手に渡る経緯が解らない。
まあ、異界に住んでいる時点で人間であろうが「普通じゃない」ことには変わりがないのであろうが。
(……じゃなくて。今は話を探らないとな)
余計な事を考えていた自分を叱咤して、和祁は耳を澄ませる。
自分の聞きたい情報を探れるようにうまく頭巾を操作していると――不意に、耳に話し声が聞こえてきた。
『ねえ知ってる? 佐世保駅からの異界へ行く方法』
『ええ? なっちまだその話してんの?』
『当たり前じゃん、気になんない?』
『そりゃ面白いとは思うけど……ただの噂だし、ありえないでしょ』
いつもの女子たちの話し声とは違う。と言う事は、どこか別のクラスだろうか。
和祁は未だにクラスメートの名前もぼんやりとしか覚えていないが、しかし自分のクラスに「なっち」と呼ばれる女子生徒はいなかったはずだ。
注意深く聞いていると、その「なっち」と呼ばれた女子生徒は難しげな声を出して唸った。
『う~ん……。でもさあ、万が一本当だったら面白く無い? 地元にそんな変な噂がポッと出て来たんだよ? 私は確かめてみたいけどなあ』
『確かめるって言っても、結局行けなかったんでしょ』
『ウッチーがね。でも、私納得いかないんだよな。もしかしたら、肝心なトコロが抜けてるから行けないんじゃないかって』
『ナニソレ』
あまり興味が無さそうな相手に、「なっち」は必死になって自分の説の正しいさをまくしたてる。
『他のクラスの子にも聞いたんだけど、不思議な事にこれってみんな途中で方法を忘れちゃうんだよ。何か有ったはずなのに思い出せないの。で、私その事が凄ーく気になったから、噂を誰から聞いたか色々聞いてみたんだけど……それが、誰から聞いたのか解らないのよ!!』
『えぇ? そんな事ってある? 誰か嘘ついてるんじゃないの?』
『そんなはず無いわよ。だってネットで探してもこんな話出てこないもの。絶対に誰かが言い出したはずなのよ。でも、私が辿れたのは一年生のクラスまでで……』
――――その後は、延々と同じような話の繰り返しになり、変わり映えがしない世間話になってしまったので、和祁はもう頭巾から顔を話そうとした、が。
『どうして解らないのかしら』
誰か違う声が聞こえて来て、和祁は目を見張った。
(なんだ? なんだ、この声……)
再び耳を澄ませると。
『カンナ、焦るな。我々が焦ってもどうにもならん』
『解ってるけど……最後のやり方がどうしても解らないのよ……! アレが解らないと、この街の【異界】に行けない……!』
異界……。
(い……異界、だって……?!)
この声が誰かは解らない。
しかし何故【異界】を知っているのか。あの場所は「忘れられた存在達」の場所で誰も知らないはずだ。そう考えて、和祁は「いや」と思い直した。
(あの【地下異界商店街】に入れないって事は、この女の子の声は【異界】のことは知ってても、佐世保のソレにどう入るのかは知らないんだ)
丈牙は以前「形は違うが、各地に【異界】がある」と言っていた。
と言う事は、この声の主は別の場所の【異界】を知っているのだ。佐世保にも【異界】が在るという情報を知っていたとしても不思議ではない。
だが、だとすると……――
(この声の主って……妖怪と何かつながりがあるってこと……?)
そう、和祁が思ったと同時。
『どうしても……探さなきゃ行けないのに……』
『ふむ……最早、手段は選んでいられんな……』
もう一人の、やけに低い声が、そう呟いたと同時。
「――――ッ!」
始業のベルが聞こえて思わず顔を上げる。
タイムリミットだ。
だが、和祁はしばらく顔を上げたままで動けなかった。
(しゅ……手段は選んでいられないって……)
一体、何をするつもりだ。
問いかけたくても、その後何度頭巾を被ってもあの声は聞こえなかった。
→
※次回更新は水曜日の夜です
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる