佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

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ジャズの面影とたこ焼き屋

4.訪れるもの1

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   ◆



 幸い、今日は金曜日の夜で明日は学校が休みだったため、和祁は【異界】に行くのを翌日に延ばし、そのまま家へと帰る事にした。

 白い虎模様のある、長毛種の黒猫――速来はやきをスポーツバッグに入れて、電車に揺られながら最寄駅である早岐駅へと到着する。五月の終わりと言う事もあり日はまだ暮れておらず、周囲は明るい。
 少し考え事もしたかったので、和祁はそのまま歩いて自宅へと帰る事にした。

「カズキ、聞き耳頭巾はどうだった」

 車ばかりが行き交う大通りを歩いて帰っていると、バッグの中で大人しくしていた速来が隙間から顔を押しだす。
 人前では喋らないようにと言っているのだが、この街は通学時間以外はあまり人が通らない。見通しも良いしまあ良いかと思い、和祁は歩きながら学校での出来事を説明した。

「……と言う訳で、誰が話したかは解らなかったんだけど……」

 誰があの噂を流したのかはまだわかっていないが、【異界】の事を知って、探ろうとしている人間が居るのは間違いない。
 悪い人間ではないと良いのだがと眉根を寄せる和祁に、速来は難しそうな声で唸ると、鼻に皺を寄せた。

「噂の主が解らんのに、また余計な物事が付いて来たな。……しかし、そのカンナという女と喋っていた相手は誰だ? 明らかに普通じゃなさそうなのだが」
「そうだよな……なんか声は低い男の声だったけど……クラスメートかな……?」

 和祁がそう言うと、速来は少し考えるように口を閉ざし、不意にこちらを見上げた。

「妖怪かもしれんぞ」
「え?」
「そのカンナという女は【異界】を知っているのだろう? だとすると、相手が妖怪で今の俺と和祁のように話し合っているのかもしれん」
「なるほど……」

 確かに、その可能性はある。
 妖怪なんだから姿を消せるものもいるだろうし、いくら人間が「ひとならざるもの」を信じなくなったからと言っても、世の中にはまだ和祁のように妖怪の存在を確信している人間だってそこそこ存在するのだ。
 彼らの存在が、妖怪と言う存在を繋ぎとめているのかもしれないと思う程に。

 だから、少なくともこの佐世保……いや、長崎と言う曖昧な地には、まだ妖怪や怪物が潜んでいるのだ。そうなると、和祁の通う学校にも妖怪と通じている人間が居ても不思議はないのだが。

「でも、なんか……怖いんだよな……。二人とも焦ってたし、地下商店街に何かをするんじゃないかって心配で……」

 人気のない道に差し掛かると、速来はバッグからひょいと飛び降りる。
 家まであと少しの距離を一人と一匹で歩く形になると、速来は少し早足で和祁の前に出て、立ちふさがるようにくるりと振り返った。

「ならば、いっそのこと待ち伏せてみてはどうか?」
「えっ……」
「それほど【異界】に行きたい奴なら行かせてやればいい。なに、この街の【異界】が解らん程度の奴らに負けはしないだろう。あの街の妖怪達は」

 そう言われてみると確かに、そんな気もする。
 和祁が知り合った妖怪達は、みな一癖も二癖もある者達だ。それに、あの街には沢山の妖怪が住んでいる。何より相手も妖怪と知り合いなのであれば、友達になれるかもしれない。男友達より女友達が先、というのは、少々変な感じだが。

(まあでも、二人ともなんだか焦ってたし……良い人達だったら、助けた方が良いよな。疑うばっかりじゃ、友達なんて増えないもんな……)

 ひとりぼっちで過ごしていると、だんだん臆病になってくるものだ。
 だから、和祁もつい声の主達が【異界】に何かしないかと心配だったのだが……そんな風に考えているばかりでは、人と友達になどなれない。
 一歩、踏み出さねば。
 それを教えてくれたのも……この速来と、異界の住人達だった。

「安心しろ、カズキ。相手が悪い奴だったら俺が追い払ってやる」

 目の前で頼もしげに羽箒のような尻尾を振り上げる速来に、和祁は笑いながら力強く頷いたのだった。



 ――翌日。
 和祁は朝五時の列車に乗り、佐世保駅へと向かった。

 かなりの早起きをしたため少々眠かったが、いつ件の二人組が現れるか判らなかったので、致し方ない。何せ、和祁達には彼らの正体が解らないのだから。
 それゆえに、朝早く駅に到着する必要があったのだ。

 もし、彼らが早くから待ち伏せしているなら、人の少ない時間帯に行けば目星が付くかもしれない。自分達も、あまり人目を気にせず二人を【異界】へ案内出来ると考えたのである。

 幸い、佐世保駅の周辺は開けていて、和祁の行う事を隠れて全部みられる場所はそう多くは無い。速来に手伝って貰えば必ず見つけられるだろう。
 もしいないのであれば、夕方になるまで探せばいい。

 ちなみに、事前に母親と祖父には「朝市を見てみたい」と言って早朝に外に出る事を許可して貰っているので、怪しまれる事も無く家を出る事が出来た。

「とにかく、まずはウワサで言われている部分を実行してみて、俺を観察して来るような奴を探さないとな!」
「うむ、俺が周囲を見張っているから安心しろ」

 バッグの中の速来が、もそもそと動きながら周囲に目を光らせる。
 頼もしい相手に「頼む」と告げて、和祁はさっそく噂の部分を実行した。

 いつもと同じように、早岐駅から対岸の市営バスの停留所へと向かい、待合室とトイレの間の細い道を通ってバスターミナル側へと向かう。
 そうして、信号機を渡り、再び佐世保駅へと戻ろうとすると――――

「カズキ! 居たぞ、女がこっちを見てる!」
「えっ」

 速来の声に思わず身を竦めると、速来がバッグの中でもぞもぞと動く。

「あっ、こっちにやってくる……」
「ええ!?」

 一体誰が、と、周囲を見渡すと。

「あ……」

 バスターミナルの方向から……一人の少女が、こちらに歩いて来るのが見えた。

「あなた……っ、貴方もしかして、私と同じ……っ」

 あの時聞いた声と同じ、焦ったような声。
 ポニーテールを揺らしてこちらへと向かって来る少女は、必死な形相だった。











※次は土曜夜更新です
 
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