佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

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ジャズの面影とたこ焼き屋

 昭和の女性2

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 速来と共に丈牙達が座っている場所へと近付くと、すでに二人は打ち解けていたようで、何やら話しながら楽しそうにたこ焼きをつついていた。

 自分達は霊体のはずなのだが、たこ焼きの鰹節かつおぶしや少し甘さを感じるソースの香りが漂って来て、思わず腹を抑えてしまう。たこ焼きと言う物に特段飢えた事は無かったが、今は何故かとても食べたいと思ってしまっていた。それほどあの店主のたこ焼きが美味いという事なのだろうか。

 羨ましく思いながら丈牙とチヨを見ていると、チヨは先程の剣幕はどこへやらと言った様子で無邪気な表情で丈牙に話しかけた。

「そう! 佐世保に来てまだ数日なの」
「ええそうなんです。だからまだ勝手が良く解らなくて、怒られてばかりで……」

 気の弱そうな男を装って頭を掻く丈牙に、チヨは快活に笑う。

「あはは、この街のオトコの方言は強いもんね。私もここに来たばっかりの頃は、怒られてるんじゃないかってちょっとびっくりしちゃった。丁寧な話し方だと、方言も凄く優しくなるのに不思議だよね。九州の人ってそうなのかしら」
「あ、じゃあ、生まれは九州じゃあないんですね」
「うん。私は関西のほう。ちょっと呼ばれてここに来てたの。それにしても貴方なまりがないわね。もしかして、東京から来たの?」
「はは、大体みんなそう言いますけど、これはクセみたいなもので」

 丈牙があからさまに気弱そうな笑みを見せると、チヨは微笑んだ。

「わかるわ。田舎者ってバカにされるのって本当にカチンとくるものね。私だって、を治すのに苦労したんだから」

 チヨのその言葉に、神奈は不思議そうに首を傾げる。

「そっか、ウチがあんまり方言使わないのって、お婆ちゃんが標準語で話してたからなんだね。でも、方言ってそんなに田舎っぽいかな?」
『今は言葉の使い方で差別するような事は無いが、昔は言葉遣いもその人間の人となりを見るのに便利だったからな。都会にいれば自分も偉くなったと勘違いをする馬鹿者が、言葉で判断してよく人をからかっていたのだよ』
「い……今よりも、酷かったんですね」

 和祁にはからかわれたという記憶はないが、逆の事は経験した事が有る。
 方言が強い場所へ転校した時に、標準語の自分が妙な存在に思えたのか、物珍しげに見られた事が有るのだ。あの視線に悪意と言う物は無かったように思うが、しかしそれをからかう物はどこにでもいるだろう。

 今はテレビなどで色々な方言を取り上げられているためか、方言は田舎者の証と言う認識はほとんどなくなったように思うが、しかし「いじり」が消えた訳ではないのだ。
 むしろ、地方による特色を鼻高々に自慢して、顰蹙ひんしゅくを買う事が増えたかもしれない。

 時代が違っても、生まれた場所を使って人をからかう事は良く有る事なのだろう。

(うーん……故郷って良い物だと思うんだけど、良い部分も悪い部分もあるのかなあ)

 自分の生まれた場所さえ解らなくなっている和祁にとっては、よく解らない感覚だった。

 しかし、そんな物思いにふける和祁を余所に、生身の二人は話を続けていく。

「……そう、じゃあ君は仕事で佐世保に」
「ええ。ちょっと……事務みたいな物で……はい……。だ、だからちょっと遅くなる事もあって、今の時間に晩御飯代わりにってたこ焼きを買う事も有って……い、いつもはそうじゃないですよ? ちゃんとご飯を炊いてますから!」
「ははは、疑っちゃいないさ。でも、一人で夜道を歩くなんて危険じゃないかい?」

 霊能力者、という肩書きを初対面に名乗るものでは無いので、神奈の祖母が隠したのは解るのだが、しかし神奈は祖母の言葉に納得がいかないのか首を傾げていた。

豪傑ごうけつのお婆ちゃんがご飯……? 毎日外食か式神に作らせてたのに……?」

 どうやら神奈に負けず劣らずの女傑らしい。
 それとも、昭和の女というものは、こういうものなのだろうか。
 孫のいぶかしむような声にも気付かず、チヨはその後も丈牙と仲良く話し続けていたが、ふと腕の酷く小さな時計を見て、つぶらな目を更に見開いた。

「あっ……! いけない、もうお店閉まっちゃう……!」
「買い物かい?」
「あっええと、違うの。その……あ、そうだ。もし良かったら、また明日ここで会えないかな」
「え……あ、ああ、構わないけど……」
「そう、じゃあ私、これで! また明日ここでね!」

 そう言うと、チヨは慌てて立ち上がりヒールを鳴らして駆けて行ってしまった。

「今から用事でもあったのかな」

 呟くと、丈牙が大きな息を吐いて背を伸ばした。

「さあてね。……しかし、一つ分かった事が有る」
「え? な、なに?」

 “分かった事”が解らない和祁達が首を傾げると、丈牙はなんだか疲れたような表情で体を戻すと、くせっ毛でボサついている頭をガシガシと掻き回した。

「彼女が言っていた喫茶店は、僕の知人の店だ」
「じゃあ……もしかして、店長は昔彼女に会った事が?」
「いや、そうじゃない。だけど……こりゃまいったな……もしかすると、たこ焼きを作るだけじゃ君のおばあさんは満足しないかもしれんぞ」
「えぇ……?」

 それはどういう事なのか。
 いまいちよく解らないが、丈牙には解る事なのだろうか。

 他人の感情にはいまいち疎い和祢には、何故丈牙が困っているのかが解らなかった。










※次も木曜更新です
 
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