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ジャズの面影とたこ焼き屋
8.昭和の女性1
しおりを挟む和祁達が思わず振り返った先に居たのは――――和祁や神奈の基準から言えば、なんとも派手な女性だった。
真っ赤な口紅に、ゆるく空気を含んだ眺めのソバージュ。イヤリングは大きく、アイシャドーも今の時代とは違って強い色味を持っている。
恐らく彼女の年齢はまだ三十にも届いていないだろうが、しかし派手な化粧のせいかとてもそうは見えなくて、神奈などは思わず「えっ……」と絶句してしまっていた。
さもありなん。恐らくこのチヨという女性が――――神奈の祖母の、若き姿なのだろうから。
(そ、そりゃそうだよな……俺の母さんだってこんなにバリバリな化粧はしないもん)
神奈は年老いて落ち着いた祖母しか見ていないのだろうから、無理も無かろう。
それを証拠に宗源火はむしろ神奈のショックを受けた表情を心配しているし、この時代の女の容姿を知っている丈牙も別段驚いては居ない。
今は素朴な化粧になった女性には、この時代の化粧は驚きでしかないのだ。
和祁としても驚いたが、まあ、別段おかしな化粧でも無いので、十秒も見ればそういう女性もいるかと納得してしまった。インパクトのある顔付きにギラギラの化粧をしていると言う訳でもないので、妖怪と比べたら美女と言う事には変わりはなかったのだ。
(異界だと、目が飛び出てたり口が伸びてたりする凄い顔の妖怪もいるからなぁ……)
あれを見てしまったら、もうちっとやそっとの化粧では驚かない。
【異界】に馴染んでて良かったなと和祁はこっそり思ってしまった。
そんな事を考えている和祁達を余所に、派手な女性――チヨは、ハイヒールの音を鳴らしてカツカツと屋台に近寄ってくる。
「あのねえおじちゃん、知らない人になんで私の話を……ッ」
と、店主を詰ろうとして、ふと丈牙の方を見た瞬間。彼女は絶句し、何故か赤面した。
(えっ!? な、なんだ、どうしたんだ!?)
まさか丈牙に変な顔でもされたのだろうか、と慌てて二人の顔が見える場所に移動するが、しかし丈牙は別段妙な顔はしていない。
それどころか目を丸くして、状況が呑み込めていないようだった。
だが、神奈の祖母である若いチヨは、一歩後退り、しかし何かに気付いたのか倍速で丈牙に駆け寄って、その澄ました顔を下からじぃいっと睨みあげた。
「…………あなた……晴之さん……じゃない、わよね……?」
「え?」
「ハルユキ?」
和祁と神奈が聞き返すが、チヨはこちらには気付いていないようで丈牙だけを見つめている。
だが、今度は「ハルユキ」という名前を聞いた丈牙が目を見開いた。
けれども、丈牙は微妙な笑みを見せて、一歩チヨから離れる。
「あ、えっと……僕はそんな名前ではないよ」
珍しく丈牙が焦っている。
この陰険な中年がそうまでなるのも珍しいなと思っていると、チヨはその一歩を生めるようにまたハイヒールを鳴らして近付いた。
「本当に? じゃあ誰。晴之さんじゃないなら、誰だって言うの。まさか、あなた……」
――――妖怪じゃ、ないの?
そう言わんばかりの真剣な表情になったチヨに、和祁は思わず丈牙を見たが――当の本人は、「大事ない」と言わんばかりに軽く笑みを浮かべて、冷や汗の垂れた場所を感付かれないように拭って柔らかい営業用の微笑みを浮かべた。
「そのハルユキという方は存じ上げませんが、僕はそんなに似ていますか? 生憎と、この街に来たばかりで勝手が解らず困っているのですが……」
「えっ……」
その言葉に、たこ焼き屋台の店主が驚いたような顔をする。
さもありなん、丈牙は今さっきまで、その「ハルユキ」と「チヨ」の事を聞いていたのだから。
しかし、夜の街の屋台の店主ともなれば、事情のある相手だと察する事も容易なのだろう。すぐに何でもないような表情をすると、ただ黙ってたこ焼きを焼き続けた。
神奈と同じく霊能力が有るという話だったチヨも、そんな店主の機微には気付かず、ただ丈牙を睨むように見つめて腰に手を当てていた。
「……本当に、関係ないのね?」
「ええ。その似ている方とやらを見てみたい限りで……僕に似た人がこの街にもいるんですね」
そう言うと、チヨは呆れたように赤い唇から息を漏らすと髪の毛を指に絡めた。
「ハァ……その感じだと本当に違うみたいね……。ごめんなさい、ちょっと驚いちゃって」
「いえ、構いませんよ。ああ、ところであなたもたこ焼きを買いに来たのですか?」
「ええ……」
「だったら、お一ついかがですか。出来立てですから待つ必要も有りませんよ」
包んで貰ったばかりのたこ焼きを見せると、チヨは少し戸惑ったが……小さく頷いた。
「えっ、頷いちゃうんだ」
思わず驚いた神奈に、宗源火が目を細めてチヨを見やる。
『この時代の女はまだスレておらんからな』
「ナニソレ……ゲンさん、私達がスレてるって言いたいワケ?」
『ング……い、いや、そうではないが』
「ほ、ほら、二人とも、あ、あのっ、なんかっい、いっちゃったから、いかないと」
「にゃぁー」
まだ上手く会話できない和祁を補助するように、丈牙と同じく生身である速来が鳴く。
その合図にようやっと二人は喧嘩を止めると、既に細長い公園のベンチに座っている二人の所へと近付いた。
「あ、ありがと速来……」
「んむ。オレは和祁の相棒。助けるの当然」
「……うん。ホントにありがとな、速来」
嬉しくて再び礼を言うと、速来は照れたように羽箒のような尻尾をくねくねさせた。
→
※ちょっと短いですね、すみません(;´Д`) 次も木曜日更新です
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