佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴

文字の大きさ
59 / 66
ジャズの面影とたこ焼き屋

8.昭和の女性1

しおりを挟む
 
 
 和祁かずき達が思わず振り返った先に居たのは――――和祁や神奈の基準から言えば、なんとも派手な女性だった。

 真っ赤な口紅に、ゆるく空気を含んだ眺めのソバージュ。イヤリングは大きく、アイシャドーも今の時代とは違って強い色味を持っている。
 恐らく彼女の年齢はまだ三十にも届いていないだろうが、しかし派手な化粧のせいかとてもそうは見えなくて、神奈などは思わず「えっ……」と絶句してしまっていた。

 さもありなん。恐らくこのチヨという女性が――――神奈の祖母の、若き姿なのだろうから。

(そ、そりゃそうだよな……俺の母さんだってこんなにバリバリな化粧はしないもん)

 神奈は年老いて落ち着いた祖母しか見ていないのだろうから、無理も無かろう。
 それを証拠に宗源火そうげんびはむしろ神奈のショックを受けた表情を心配しているし、この時代の女の容姿を知っている丈牙も別段驚いては居ない。
 今は素朴な化粧になった女性には、この時代の化粧は驚きでしかないのだ。

 和祁としても驚いたが、まあ、別段おかしな化粧でも無いので、十秒も見ればそういう女性もいるかと納得してしまった。インパクトのある顔付きにギラギラの化粧をしていると言う訳でもないので、妖怪と比べたら美女と言う事には変わりはなかったのだ。

(異界だと、目が飛び出てたり口が伸びてたりする凄い顔の妖怪もいるからなぁ……)

 あれを見てしまったら、もうちっとやそっとの化粧では驚かない。
 【異界】に馴染んでて良かったなと和祁はこっそり思ってしまった。

 そんな事を考えている和祁達を余所に、派手な女性――チヨは、ハイヒールの音を鳴らしてカツカツと屋台に近寄ってくる。

「あのねえおじちゃん、知らない人になんで私の話を……ッ」

 と、店主をなじろうとして、ふと丈牙じょうがの方を見た瞬間。彼女は絶句し、何故か赤面した。

(えっ!? な、なんだ、どうしたんだ!?)

 まさか丈牙に変な顔でもされたのだろうか、と慌てて二人の顔が見える場所に移動するが、しかし丈牙は別段妙な顔はしていない。
 それどころか目を丸くして、状況が呑み込めていないようだった。

 だが、神奈の祖母である若いチヨは、一歩後退あとずさり、しかし何かに気付いたのか倍速で丈牙に駆け寄って、その澄ました顔を下からじぃいっと睨みあげた。

「…………あなた……晴之はるゆきさん……じゃない、わよね……?」
「え?」
「ハルユキ?」

 和祁と神奈が聞き返すが、チヨはこちらには気付いていないようで丈牙だけを見つめている。
 だが、今度は「ハルユキ」という名前を聞いた丈牙が目を見開いた。

 けれども、丈牙は微妙な笑みを見せて、一歩チヨから離れる。

「あ、えっと……僕はそんな名前ではないよ」

 珍しく丈牙が焦っている。
 この陰険な中年がそうまでなるのも珍しいなと思っていると、チヨはその一歩を生めるようにまたハイヒールを鳴らして近付いた。

「本当に? じゃあ誰。晴之さんじゃないなら、誰だって言うの。まさか、あなた……」

 ――――妖怪じゃ、ないの?

 そう言わんばかりの真剣な表情になったチヨに、和祁は思わず丈牙を見たが――当の本人は、「大事ない」と言わんばかりに軽く笑みを浮かべて、冷や汗の垂れた場所を感付かれないように拭って柔らかい営業用の微笑みを浮かべた。

「そのハルユキという方は存じ上げませんが、僕はそんなに似ていますか? 生憎と、この街に来たばかりで勝手が解らず困っているのですが……」
「えっ……」

 その言葉に、たこ焼き屋台の店主が驚いたような顔をする。
 さもありなん、丈牙は今さっきまで、その「ハルユキ」と「チヨ」の事を聞いていたのだから。

 しかし、夜の街の屋台の店主ともなれば、事情のある相手だと察する事も容易なのだろう。すぐに何でもないような表情をすると、ただ黙ってたこ焼きを焼き続けた。
 神奈と同じく霊能力が有るという話だったチヨも、そんな店主の機微には気付かず、ただ丈牙を睨むように見つめて腰に手を当てていた。

「……本当に、関係ないのね?」
「ええ。その似ている方とやらを見てみたい限りで……僕に似た人がこの街にもいるんですね」

 そう言うと、チヨは呆れたように赤い唇から息を漏らすと髪の毛を指に絡めた。

「ハァ……その感じだと本当に違うみたいね……。ごめんなさい、ちょっと驚いちゃって」
「いえ、構いませんよ。ああ、ところであなたもたこ焼きを買いに来たのですか?」
「ええ……」
「だったら、お一ついかがですか。出来立てですから待つ必要も有りませんよ」

 包んで貰ったばかりのたこ焼きを見せると、チヨは少し戸惑ったが……小さく頷いた。

「えっ、頷いちゃうんだ」

 思わず驚いた神奈に、宗源火が目を細めてチヨを見やる。

『この時代の女はまだスレておらんからな』
「ナニソレ……ゲンさん、私達がスレてるって言いたいワケ?」
『ング……い、いや、そうではないが』
「ほ、ほら、二人とも、あ、あのっ、なんかっい、いっちゃったから、いかないと」
「にゃぁー」

 まだ上手く会話できない和祁を補助するように、丈牙と同じく生身である速来が鳴く。
 その合図にようやっと二人は喧嘩を止めると、既に細長い公園のベンチに座っている二人の所へと近付いた。

「あ、ありがと速来……」
「んむ。オレは和祁の相棒。助けるの当然」
「……うん。ホントにありがとな、速来」

 嬉しくて再び礼を言うと、速来は照れたように羽箒のような尻尾をくねくねさせた。











※ちょっと短いですね、すみません(;´Д`) 次も木曜日更新です
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...