佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴

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ジャズの面影とたこ焼き屋

13.忘れ去られた顔

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「おい晴之はるゆき、そこにいる二匹はなんだ」

 不機嫌そうな低い声でそう言いながら入ってきた相手は……顔が、ない。
 というか、首から上が黒の混ざった濃い紫色のもやのような物で覆われている不可思議な男が、そこに立っていたのだ。

(な……なん、だ、この人……)

 首から下は成人男性とまるきり変わりがない。というか、彼と相対しているハルユキとほぼ同じ体格だ。来ている服は違うが、双子と言えなくもないだろう。
 だが、頭の部分が不可解過ぎる。何故靄に覆われているのか。彼が丈牙だと言うのであれば、何故ハルユキと同じ顔ではないのか。

 訳が解らなさすぎて、和祁は絶句するしかなかった。
 そんな中、一人……いや一匹だけ冷静な速来が、ちたちたと床を鳴らしながら丈牙に近寄って、興味深そうに髭を動かしながら相手を見上げた。

「お前が丈牙か」

 猫の体格に見合わぬ人間の若者のような低い声に、丈牙らしき相手は靄を動かし速来の方へと声を放った。

「なんだ、お前は。猫又……違うな。どこのものだ?」
「俺は貙人チュジン、誇り高き虎の種族だ」

 出会った時よりも流暢になった言葉で話す速来だが、丈牙らしき相手はその単語にもピンと来ていないらしく、靄がゆっくりと動いている頭の部分を傾げた。

「聞かん種族だな。……晴之、またおかしなものを連れ込んだのか」

 呆れたように言う声は、そう言えば聞き覚えが無くも無い。
 だが、その声は和祁がいつも聞いている丈牙の声とは少し違う。どちらかと言うとハルユキの方が現在の丈牙と同じだ。

 しかし、どうして丈牙の顔がこんな風になっているのか。

(昔は顔がもやだったとか……? いや、でも、それなら店長も何か言うよな。じゃあ、俺達にはこう見えてるってだけで、本当はハルユキさんと同じ顔なのかも……。ああ解らん、店長が居れば説明してくれたんだろうけどなぁ)

 もしかしたら、時限門じげんもんで過去にやってくると、自分と親しい人間の顔はこう見えると言う制約が有るのかも知れない。けれども、こう言う風になるのなら、丈牙も説明してくれているはずなのだが。全く持って原因が解らない。

 悩んでいると、丈牙らしき人物の靄の顔がゆっくりと上に動いた。

「ところで……お前はなんだ?」
『え……』
「さっきから、俺の顔を見て妙な顔をしているが……お前は、俺の顔が“何”に見えている……?」

 どこか、いぶかしげな声。
 今までよりも低い声音に思わず硬直すると、相手は一歩こちらに歩み寄った。

「まさか、お前…………」

 その次の言葉を吐こうと、丈牙らしき人物の顔の靄が動いたと同時、ハルユキが何事も無いかのように声を被せて来た。

「……彼も、お前の顔が靄に見えとるっちゃろうな、丈牙」

 ハルユキの言葉に、和祁と丈牙は同時に「えっ」と声を漏らす。
 だが、ハルユキは優しい笑みを崩さぬまま続けた。

「きっと彼も高い霊能力を持っとるったい。お前が顔を偽装できんとは、本当に久しぶりじゃなかね?」

 面白そうにクスクスと笑うハルユキに、丈牙……らしい、相手は、バツが悪そうに頭を掻くと、顔の靄を不満そうにぐるぐると渦巻かせた。

「チッ……。まあいい、不都合が無ければ俺は行くぞ。おい良いか、そこの浮遊霊と訳の分からん妖怪。一応ここは俺の縄張りだ。大人しくしてないと消すからな」
『ヒェッ……』
「口の悪さだけは変わらん」

 速来が不機嫌そうに目を細めるのに、丈牙も同じように靄を歪めて流しつつ、また外へと出て行ってしまった。
 一体何をしに来たのか訳が解らないが、とにかく助かった。
 何故かホッとしてしまった和祁に、ハルユキは先程と同じように笑いながら謝った。

「いや、申し訳ないね和祁君。丈牙は遥か昔に自分の顔を忘れてしまったらしくて、いつもああしてぶすっとしとうとばい」
『え……』
「おい。さっきモヤと言ったが、俺にはお前と同じ顔に見えたぞ」

 驚く和祁を余所に、速来は不思議そうに首を傾げる。
 ハルユキはそんな速来をカウンターに乗せると、笑顔のままで説明した。

「それは、丈牙が浄玻璃じょうはりの鏡……相手が見たいと思っとうモンを映し出せる能力ば使って、顔を変えてるからさ。だけん、恐らく他の人達には僕達が見ている顔とは全く違う顔に見えていたりするかもしれんね」
「ウム……? 照魔鏡しょうまきょうのようなものか?」
「ちょっと違うかな。照魔鏡だったら、丈牙の正体がバレてしまうけん」

 和祁には二つの鏡のどちらがどう違うのかは解らなかったが、とにかく過去の丈牙は、相手の思考を読み取って、相手が納得するような顔を作っているらしい。

 何だかよく分からないが、まあ、あの靄みたいな顔が本当の顔だとするのなら、そのような術を使っているのも仕方がない。滅多に見せない「本当の顔」がバレたら、恥ずかしくて逃げたくもなるだろう。
 滅多に見せない物を不意に見破られたら、誰だって恥に思うものなのだから。

(でも……どうして過去の店長はあんな顔なんだろう……)

 先程ハルユキが「はるか昔に顔を忘れてしまった」と言っていたが……。
 まさか本当に、丈牙は妖怪か何かのたぐいなのだろうか。

「それより和祁君、今日はもう遅いから止まって行ったらどうだい?」
『えっ、あ、で、でも俺、帰る所が有るし……』
「そんな焦る事はなかよ。なに、丈牙だって嫌で出て行ったワケじゃなか。おおかた、和祁君に自分の術が通用しなくって驚いて出て行ってしもうたんやろうね。あと……僕がまたおせっかいを焼いとると思うて、面倒に巻き込まれんごと逃げたとか。だから、じきに帰ってくるやろ。君達のことば紹介すっとも忘れたし……」

 紹介。その言葉を聞いて、和祁はしまったと思った。
 そうだ、紹介されてしまったら、もしかするとタイムパラドックスと言う物が起こって、現在の自分達が消えてしまうかもしれない。

 自分達とかかわりのない相手と接するのは問題ないみたいだが、もし丈牙と知り合って名前を知られてしまったら、出会った時の自分と丈牙の関係に齟齬そごが生じて何か不都合が起きかねないではないか。
 そうなると、目も当てられない。

 丈牙はハルユキに会う事は許可したが、過去の自分に合う事に関しては何も言わなかった。だとすると、その状況を想定していなかったかもしれない。
 迂闊うかつな事はしてはならない。

(も、もう充分に情報は教えて貰ったし、ここいらが潮時かな……)

 とにかく、自分達の名前を丈牙に知られないようにしなくては。
 和祁は速来に目をやってお互いに頷くと、ハルユキに向き直った。

『あ、あの……やっぱり帰ります。お邪魔しました』
「そうかい……?」

 あからさまに残念そうな顔をするハルユキに良心が痛んだが、こればかりは仕方がない。和祁は自分達の事は丈牙にも言わないようにして欲しいと頼み込むと、彼が帰って来ない内にとそそくさとハルユキの店を後にした。

『はーっ、はー……はー…………な、なんとかセーフ……?』
「せーふ?」

 速来はイマイチ解っていないらしいが、とにかく逃げられたのだからそれでいい。
 最早もはや人通りも無く薄暗い、外だったが、やっと解放されたような気がして和祁は思いきり深呼吸をした。……と。

「やあ、情報は色々と掴めたようだな」
『ひっ! あっ、な、なんだ……店長か……』
「何だお前は。どうして怯える」

 背後から先程逃げて来た声に呼びかけられて、和祁は思わず跳び上がってしまう。
 だがそれも仕方のない事だ。現在の丈牙は、雰囲気や性格や言葉遣い以外は、まったくハルユキと同じだったのだから。

 ぜえぜえと息をしながらも、和祁は胸を抑えて振り向く。
 そこにはやはり、自分が見知った「店長」である丈牙が立っていた。

「その様子だと、昔の僕に会ったみたいだな」
『あ……なんだ、知ってたんですか……』
「予想はしてたからね。……まあ、いいさ。情報は手に入れたんだろう? だったら、一旦帰るぞ。いつまでもここに居たら、またややこしい事になるからな」
『は、はい……』

 丈牙もどこか余裕が無いような感じに見えたが、それは一刻も早くこの場から離れたいからなのか、それとも何か別の理由があるのか、和祁にはついぞ見当が付かなかった。









 
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感想 3

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みんなの感想(3件)

でんでこ
2019.01.13 でんでこ

こんばんは。ここまでとっても楽しく読ませていただきましたが、これからが本番なのですね!!!もうワクワクが止まりません(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク早く水曜日が来ないかなぁ。
和祺の決断、感動しました( ; ᯅ ; `)他人のことを本当に深く考えて、優しいが故に自分を押し込めてしまっていた和祺。やっと自分の居場所と本音を見つけられて良かったです、、!そしてそれを引き出してくれた丈牙さんと、周りのみんなの純粋な友情に涙腺がゆるんゆるんになりました(ˊᗜˋ)
これからの広がりが非常に楽しみです!!首をキリンにしてお待ちしています( *´꒳`*)

2019.01.14 御結頂戴

でんでこさん感想ありがとうございます~~!!( ;∀;)
そうなんです、こっから本番とかいう謎構成すぎて申し訳なさが凄いwww

今までは異界の中だけの話だったので喫茶店でご当地で云々…ていうのが
まったく出来なかったんですが、和祁がどちらも行き来できるように
なったので、やっとここから…って感じです!ヽ(*゚∀゚*)ノ
あああ嬉しいお言葉を言って下さる…!(*ノωノ)
和祁は今までずっと色んな事を諦めて来たような子だったので、今までは
わりと人に遠慮してしまうような感じでしたが、こちらも
やっと一歩っていう感じですね…引っ込み思案な部分があると、どうしても
人と接する時に自分が出せないって人は沢山居ると思うんですよね(;ω;)
純粋な妖怪達なら、なし崩しにそんな子も受け入れてくれるんじゃないかな
って思いながら書いてました…(*´ω`*)
相手の事が好きって所から友情って始まってると思うので、その好きを
素直に出せる妖怪達は書いてて私も楽しかったのでそう言って頂けて
嬉しいです~!!(ノ´∀`*)
ありがとうございますー!のんびり更新にはなりましたが、これからも
ご当地ぽくやって行きたいと思っておりますので
のんびり楽しんで頂けると嬉しいです!////

解除
でんでこ
2018.12.22 でんでこ

御結頂戴さん、こんにちは。
御結さんの作品、たしかな現実に裏打ちされていて、読んでいると情景がよく浮かび想像が捗ります。その一枠だけに収まらず、例えば喫茶店の前の通りは往来する妖怪達の進む道、商店街の更に細かいところまで浮かんできます。行間を想像するのがこんなにも楽しい小説、無料で読んでいていいのかドキドキします(°°;)
異世界日帰り漫遊記のほうも読ませて頂いています。ブレることのない安心感と定期更新、キャラクターの作り込みが素敵です。現在ドキドキの展開、、!こちらは更に人情味が強い身近なファンタジー、素敵です!章の最後の紹介も旅行がしてみたくなるような生の経験談で、わくわくしました。
長くなってしまった上に拙い文章で伝えきれないことが多々ありますが、つまりは御結さんの作品が好きで、いつも楽しみにしています、ありがとうございます、ということでした。
( ◜௰◝ )

2018.12.22 御結頂戴

でんでこさんこんにちはー!
あああありがとうございますめっちゃ嬉しいですぅうう!!
(´;ω;`)
ファンタジーな風景が物凄く好きで、ついついその辺りに力を入れて
アー!話が長くなったー!!!ってなることがよくあるんですが
そう言って頂けるともう滅茶苦茶嬉しいです…!
ここには存在しない風景を想像するのって楽しいですよね…!(*ノωノ)
私こそこんな素敵な感想を貰ってしまって良いのかと震えております…!!!
アアア!あちらの方も読んで頂けているなんて!!!何かもうこれと合わせると
ああこういうのが好きなんだなって察されそうで恥ずかしいwwwwww
でもでんでこさんに両方とも読んで頂けるなんて私は幸せ者です…!(*´ω`*)
こちらは私の好きな土地のお話しなので、まさにまったり身近ですw
妖怪との日常…的なお話しも好きなのです…///
オマケのメモ本当雑感すぎてすみませんwww
まともな商会は観光サイトがあるかなって思ってつい地味なことに…w
。゚(゚´Д`゚)゚。でんでこさん…!!そう言って頂けて私幸せでございます!!!
不純な動機で始めた黒猫ですが、こちらものんびり更新して行けたらと思って
おりますので、これからも読んで頂けると嬉しいです!
こちらこそありがとうございます!めちゃくちゃ元気でました!
がんばりやす!!!\\└('ω')┘//

解除
みゅみゅん
2018.12.04 みゅみゅん

お気に入りにさせてもらいました。
続きも楽しみです。

表紙の絵が可愛いですね(о´∀`о)

2018.12.04 御結頂戴

みゅみゅんさんありがとうございます…!(*ノωノ)
自分の好みのままに書き散らしておりますが、少しでも
楽しんで頂けたら嬉しいです!ヾ(*'∀`*)ノシ

絵も褒めて頂いてありがとうございます~!!。゚(゚´Д`゚)゚。
自作だし趣味の産物なので大丈夫かな…と不安だったのですが
そう言って頂けるととても元気が出ます!!\\└('ω')┘//

解除

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