佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―

御結頂戴

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ジャズの面影とたこ焼き屋

  いつもの物がないだけで2

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   ◆



「そぉね……和祁君達は、チヨちゃんの事が気になって……」
『え、ええ……。その……俺達、彼女に助けて貰ったから、恩返しがしたくて。それで、彼女がここに来るって話を聞いて、うろちょろしてたんです』

 口から出まかせの言葉だったが、ハルユキはすっかり信じてしまったようで、和祁の言葉にふむふむと頷いていた。
 霊能力がある人でも、霊の嘘や本当は見抜けないらしい。

 しかし、今はそれがありがたい。
 こうなったら嘘を貫き通して、チヨに関する情報を何か教えて貰わねば。
 そう思い、和祁はごますりをするように手を揉みながら、ふよふよと浮きながら彼に近付いた。彼のところまで飛んでいくと、今まで俯瞰で観察していたハルユキの顔がはっきりと見えてくる。改めて近くで見ると、彼は本当に丈牙に似ていた。

(店長との違いって……性格や表情と、メガネくらい……?)

 大きくてやぼったい眼鏡と、朗らかな性格や表情。それは明らかに丈牙とは違う。人に対して温和な態度だと言う所も付け加えておくべきだろうか。
 とにかく、容姿以外は正反対だ。

(もしマジで双子だったとしたら、ここまでテンプレな正反対っぷりも珍しい……)

 ハルユキは丈牙の事を「弟」と言ったが、実際の所はどういう関係なのか。聞いてみたかったが、今それを問いかければややこしい事になるだろうと思い、和祁は訊くに訊けなかった。とにかく今は質問が先だ。

 和祁はすぐ傍に近寄って来た速来の背に手を乗せながら、慎重に地面に降りた。
 空中でずっと漂っていると、どう降りれば良いのか解らなくなるから不思議だ。
 少し苦心しながら地面に建つイメージをしつつ立ち上がり、不意にハルユキの方を向くと――相手は、こちらが余程心配だったのかこちらに手を伸ばしていた。

「あ……だ、大丈夫やったね。いや、幽霊やとに、そがんしっかり地面に立つっとは、珍しかよ。やっぱり、生きとるごたん子はパワーが違うとねえ」
『あ、あはは……』

 生霊です、とは言いにくい。
 笑ってごまかしながら、和祁は自分と速来のことを改めて自己紹介し、チヨがこの喫茶店に何をしに来ているのかと聞いた。

「ああ、チヨちゃんは関西からここに来とる事務員さんらしくてね。帰るのがいつもこの時間になるけん、タコ焼きばここで夕飯で食べて行くとさ。その時、僕もご相伴にあずかっとるってワケさ。……チヨちゃんは、あんたこ焼きは少ないって言うて、ひと箱と半分ば食べるっち言うとるけんね」
『へぇ~……』
「彼女の好きな地元のたこ焼きとよう似とるらしくてね。まあ、確かに夜店通りの屋台のたこ焼き屋は美味しかけど、彼女もよう毎日食べようよねえ」

 しかし、そうは言えどハルユキはちっとも嫌そうにはしていない。はははと笑って、まるでチヨの行動を好ましいとでも言うように話していた。
 そういう所も丈牙とはまったくの正反対だ。

「まあ……彼女は本当は霊媒師やって解っとうし……夜に帰ってくるのも、夜店通りで霊媒の仕事をしとるけんやけどね」
『知ってたんですか』

 言うと、彼は少し苦笑交じりで笑った。

「僕も同じような目ぇばしとるけん。……けど、チヨちゃんには隠しとるけどね。彼女には話せん事も有るし……それに、僕が“同じもん”って彼女が解らんのだったら、僕が話をするような事はせんほうが良いと思うたけん」
『そういうもんですか?』
「解らんと言う事は、解らんままで居る方が良かってことさ。……特に、こんがん妙な体質は特にね。……彼女には、僕の能力を見る必要がなかったってこと」

 よく分からないが、そういう世界では当たり前の事なのだろう。
 和祁は特に霊感が有る訳ではないし、今まで霊という物すらも見た事が無かったが、妖怪や神が居るのだとこの目でハッキリと見てからは、そういう物事も信じられる。
 本物の霊能力者と言うのも、自分達一般人とは違うことわりの中に生きているのだろう。

 しかし、そういう話をすると言う事は、逆にハルユキのほうは彼女の事を知っていると言うことなのだろうか。

(……よく分かんないけど……俺には俺が出来る事をやったほうがいいよな。萱谷木かややぎさんのお婆ちゃんがここで何を頼んでいたかとか、そう言うのを知れたら、俺の方でもなんとかお婆ちゃんを元気に出来るかもしれないし)

 自分には分からない事は多々あるが、しかしそれならば自分が解る事を一つずつ教えて貰えばいい。そんなわけで、和祁はハルユキに「この店で彼女が何を頼んだか」という事や、彼女が好きなものなどとにかく分かる範囲で教えて貰った。
 そんな事を続けていると。

「ふあ……カズキ、ねむいぞ」

 もはや遠慮する事も無くなった速来が、猫の口を大きく開けて牙をむき出しにしながら欠伸を一つ零す。
 そう言えばもう夜更けも夜更けだと言う時間になっており、気付けば外の景色も段々と灯りが落ち始めていた。

『あ……もう、さすがに帰った方がいいですよね……』

 これ以上ここにいては、閉店作業も出来ないし迷惑だろう。
 そう思って、ドアの方を見た和祁に、ハルユキは何かを思いついたように言葉を放って来た。

「あ、じゃあ、もうちょっとだけ待ってみたらどう? 弟が帰って来るからさ」
『え゛……あ、い、いや、ご迷惑ですし……』
「あいたくないぞ」
「まあまあそう言わずに……あっ、帰って来たよ」
『え!?』

 和祁が驚くよりも先に、カランとドアベルが鳴って何者かが入ってくる。
 背の高い、男。一瞬でそう思って、しかしその認識とは全く違う人物が入って来た事に、和祁は驚いて目を限界まで見開いてしまった。

「ん……? なんだ、がいたのか」

 そう言いながら入って来た……いや、帰って来た、相手。

『え……』
「なんだ、あいつは」

 その相手は、和祁が知っている人物ではなかった。








 
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