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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
11.聖属性は大抵白い1
しおりを挟む「ブルーパイパーフロッグは、アランベール帝国とハーモニック連合国の国境近くに出現したと言う、特殊な蛙族モンスターだ。その昔、国境の山の麓に存在する“雨月の森”には、数多くの蛙族が生息していたらしいんだが……その中に、ある日巨大な青色の蛙が現れて、全ての蛙族のモンスターを操り、近隣の村に強襲を仕掛けて多大な被害を巻き起こしたんだ」
アンナさんが去った後、ブルーパイパーフロッグの事を詳しく聞く為に、俺達はカエル達と共にブラックの話を拝聴していた。
それにしても、さすがは無限の蔵書を管理する「導きの鍵の一族」、昔一度だけ読んだきりの伝承も完璧に覚えていて、俺達に詳しく教えてくれるなんて。
ブラックはあんまり凄いと思ってないみたいだが、立派な能力だよなあ。
俺も記憶力は良い方だと自負しているが、ブラックみたいに知識を全部覚えてて活用できるって訳じゃないから、そう言う所は素直に尊敬するよ。
それに、覚える努力は間違いなくブラックの自主的な力だろうし……チート能力みたいに「ナビとかが教えてくれる」とか、「好きな時に知識の泉から情報を引き出せる」みたいな事じゃないのが本当に凄い。
俺絶対チートしないとムリだわ。今だってナビとか欲しいもん。
……まあ、ナビが居ると酷い場面を視姦される事になるから、今となってはナビが居なくて良かったと思ってるけどね!
……話が逸れたな。とにかく、今の俺達はクラッパーフロッグらと一緒に野外授業を受けているのだが……しかし不思議な感じだな、カエル達と授業なんて。
でも爬虫類は嫌いじゃないし、ロクショウという超絶に可愛い相棒が居る俺にとっては、大きなアマガエルもラブリーな動物だ。彼らは大人しいし、ある程度の意思疎通は出来るしね。
草の上に座ってブラックせんせーの話を聞きつつ、俺は手を上げて質問した。
「その被害って……例えばどんな?」
「食料の強奪をしたり、家畜や人を捕えて食べたり、軍曹蛙の食糧の世話をさせるために下僕にしたり……まあ、色々だね。とにかく奴は狡猾で、歩兵をばらまいて混乱させてはいやらしい戦法で人族を翻弄しまくったんだ」
「だが、今はもうそのカエルの話を聞かないと言う事は、結局冒険者か何かが退治したんだろう?」
クロウの言葉に、ブラックは欧米の人のように肩を軽く上げ竦めて降ろした。
「ま、そう言うところだね。それ以来、軍曹蛙と対峙した冒険者の話は伝承として語り継がれてたって訳だけど……。“伝承になった”って部分で解るように、ブルーパイパーフロッグはその一匹以降、出現してないんだよ。……少なくとも、人族の大陸ではね。だから、まさかボスとして現れたなんて驚きでねえ……」
「それも“邪神の気まぐれ”なのかな」
「多分ね。まあ、ブルー一匹で良かったんじゃないかな。伝承によると、別の地域で似たようなカエルが出たって事で、後からレッドだのグリーンだの付け加えた話もあったしねえ。アレも“邪神の気まぐれ”でポップしたボスだったのかも」
「なるほど……俺達が知らないだけでスポーン・サイトって沢山あるんだな……」
俺の良く読んでたチート小説の中でも、ダンジョンマスター系とかゲーム要素が強い話だと、リスポーンポイントだの無限湧きだのって言う単語が沢山出て来るが、実際現実で説明されるとすっごく妙な感じがするな。
目の前のカエル達が生物らしく普通に繁殖している所から考えても、ボスはこの世界ではかなり特殊な存在に思える。
まるで、そこだけゲームみたいな……。
いや待て、そもそもゲームはファンタジーを主体にして作られた物なんだから、無限湧きだって魔法的解釈をすれば、この世界ではありえる事になるのかも。
唐突に現れたのだって、あの、あれだよ、ダンジョンものの説明でよくある「他の土地からワープさせてダンジョンに組み込んでる」っていう奴では?
この世界に転移魔法があるのかどうかは知らないが、そう言う事ならポッと出て来たのだって納得できるよな。
案外ボスモンスターって魔族の国から転送された奴だったりして。
「ふむ……。たまに、獣人の国でも凶暴なモンスターが出た事が有ったが……そういう可能性もあったのか……」
「ベーマスにも出るんだ?」
「ああ、たまに見た事も無いようなモンスターがな。……一度調べてみる事も必要かもしれんな……ムゥ……」
そう言って腕を組み、いつになく真剣な無表情になるクロウ。ちょっと珍しいなと思ってじっと顔を覗き込んでいると、ブラックがオホンと咳をした。
「とにかく、相手がその伝承通りのモンスターだとすれば、ランク6は有るだろうし……下手に動いたら危険だ。しかも、霧の中に身を潜めて動かないから、【索敵】が使える僕は良いけど……ツカサ君は、霧の中じゃ戦う事なんて出来ないだろうしねえ」
「ぐぅう……返す言葉も無い……」
気の付加術でもっとも使われる【査術】という術の中の一つ、敵や特定の物をレーダー的な能力で探す【索敵】は、冒険者には必須の能力だ。
必須なんだけど……ブラックが規格外の範囲をレーダー出来るもんだから、俺はコイツにばっか頼っちゃって、未だにそれを勉強してないんだよなあ……。
本当は使えた方が良いんだろうけど、まだ自分の武器すらちゃんと扱えてない俺には高嶺の花って奴である。ホントは初歩の術なんだろうけどなー。
「ならば、どうする?クラッパーフロッグ達は操られる危険性が有るから、一緒に戦う事は出来んぞ。そうなると、俺達三人でランク6相当のボスモンスターと戦う事になってしまう。よほどうまい戦い方でないと、少人数では危ない」
クロウは部下というかお付きの兵士と言うか、そういう存在を多数引き連れていたから、団体戦に関しては一家言有るようだ。
でも、その通りだな。俺達は綺麗に前衛中衛後衛で役割が分かれててバランスが良いけど、でも俺はヒーラーを出来る訳じゃない。だから、消耗戦になるのは避けたいし、余計にバックアタックされないようにしなきゃいけないワケで……霧の中から出てこない相手を、どうやって引きずり出したもんかね……。
「ゲココ?」
「うーん、せめて弱点なんかが解ればいいんだけど……」
そう思って三人で悩んでいると……顎にヒゲの付いたクラッパーフロッグが、俺にズンズンと近付いて来た。
何事かと思ったら、俺のズボンのポケットを舌で軽く突いて来る。
「な、なんだこのクソガエル! カエルの分際でツカサ君に触るなんて……!」
「待て待て。なにか言いたそうだぞ、その……長老っぽいカエルは」
クロウの言葉に、俺は改めてカエルを見て目を丸くした。
長老……確かにそんな感じだな。
ポケットを突いてるって事は、中身に用が有るのかな? 何が入っていたっけと膨らんだポケットを探って取り出してみると、それは昨日作って置いたマーズロウの香り袋だった。
ああ、一昨日、ブラックに犯された後も必死こいて作ってたんだよな……。
「この香り袋が気になってたのか?」
目の前の長老ガエルに訊くと、相手はゲッコゲッコと妙な声を出して舌を上下に動かす。うむむ……これって、どういう反応なんだ。頷いてるって事?
よく解らん、好意的な事だけは解るが、何が言いたいのかはやっぱり解らん。
これが欲しいのかな?
長老ガエルに香り袋を近付けてみると、相手は僅かに首を傾げて、香り袋を舌でべろりと受け取って水の中に入った。
しかし逃げることは無く、まるで俺達に「付いて来い」と言っているかのように、俺達の顔をじっと見詰めて来る。
「とりあえず……付いて行ってみようか?」
「そうだな」
小島はまだしっかりと残っているし、追うのは難しくないだろう。
香り袋が濡れないように舌を伸ばした長老ガエルを先頭に、クラッパーフロッグ達の大群を追って俺達も移動する。
しばらく歩いて行くと、右の方へと曲がる地点に来た。
右には……ブルーパイパーフロッグが潜んでいるのだろう、濃い霧が立ち込めた“腐り沼”がある。慄いたように足……いや水かきを止めるカエル達に、長老ガエルが「ゲコッ」と一言鳴くと、彼だけが霧に向かって進み始めた。
「お、おいおいおい! 駄目だって近付いたら! 操られちゃうよ!!」
慌てて追いかけて、もうすぐで沼が赤紫に染まり始める地点まで来る……という所で、ようやく長老ガエルは進むのを止めた。
おぉい……チキンレースがやりたいなら他の場所でやってくれよ……。
思わず溜息を吐く俺達に、ちらりと視線を向けると……長老ガエルは、体のどこに収納していたのかと思う程に舌をべろりと伸ばし、マーズロウの香り袋を持ったままで霧に舌を突っ込んだ。
「な、なんだ……?」
マーズロウの香り袋……魔を退けると言われているそれを、その霧に触れさせた瞬間――なんと、香り袋を掲げた所だけ、霧がぽっかりと消えてしまった。
まるでCGのように、円形の穴が開いている。お守り程度のアイテムだと思っていたけど、まさかマーズロウにこんな効果が有るなんて思わなかった。
……ん? と言う事は……あの霧って邪悪な物って事?
マーズロウって聖水の材料の一つだし……お守りに使われてるんだもんな?
「マーズロウの香り袋だけで霧が退いたってことは……聖水を振りかけたら、霧が消える可能性も有るのかな」
「聖水は神の祝福を受けた材料が入っているから、考えられるな」
うーむ有識者の発言は説得力がある。
そうだよな、マーズロウだけでこれほどに霧が晴れるんだから、邪悪な物を消し去る効果がありそうな聖水なら……いや、待てよ。
魔を退けるんだったら……もっと良いモノがあるじゃないか!
「ブラック、クロウ、ちょっと試したい事が有るんだけど!!」
「え? なに?」
「シンジュの樹、シンジュの樹を使うんだよ! あれだって、魔族を弱らせるんだ、なら、邪悪なこの霧も打ち払えるんじゃないか?!」
興奮してブラック達に訴える俺に、二人は一瞬「なるほどな」という驚いた顔をした。が、しかし、何故かすぐに顔をでれっと緩めて俺を見つめてきやがる。
なに、なにその顔。
折角俺が「すごーい!」って言われるナイスアイディアを思いついたのに、何でビックリ顔じゃなくてデレっとした顔をするんだよ!
「な、何その顔……なんでデレッとしてんの?」
今はそんな顔をする場面じゃないだろと見上げると、二人は顔を見合わせたが、両側から俺に近付いて、挟み撃ちにして来た。
「えー、だってさ~……」
「ツカサが興奮して、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらオレ達を見上げて来るのが、死ぬほど可愛かったなと思ったから、つい」
「ねえ」
…………は?
「ツカサ君はホント可愛いなぁ……ハァ、ハァ……」
「ツカサ……もっとその顔で見上げてくれ……」
「わーっ、わー!! こんな所で発情すんなー!!」
ほらもう長老ガエルが呆れてんじゃん! 話の腰折りまくったせいで、緊張感も無くなっちゃってんじゃんかー!
今からボスモンスターと戦わなきゃ行けないってのに、どうしてお前らはそう所構わず発情すんだ。あれか、つまんねーってか。真面目な話つまんねーってか!
普通反対でしょ、俺がつまんねーってダダこねる役でしょー!?
ああもうどうしてこの中年どもは悪い意味で自由なんだよぉお……。
「離れろ、離れろ変態っ! と、とにかくシンジュの樹だ、試してみるんだ!!」
二種類の魔の手から必死に逃れて喚くが、長老ガエルのぽかんと開いた大口は、しばらく元には戻らなかった。
……モンスターにまで呆れられる俺達って一体……。
→
※次は何の捻りも無く戦闘ですー。
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