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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編
聖属性は大抵白い2
しおりを挟む※すみません、諸事情でちょっと短くなりました(;´・ω・`)申し訳ない…
「ツカサく~ん、シンジュの樹持って来たよー」
ブラックの声がしたので振り返ってみると、そこには……シンジュの樹の倒木を一人で肩に担ぐ、勇ましいクロウの姿が!
……っておい。お前ら二人で取りに行かせたのに、なんでクロウだけが担いでんだよ! そりゃ獣人の方が体力あるし、効率重視ならクロウ一人で運んだ方が良いだろうけど、付き合いってもんが有るだろ。お前もちったあ手伝ってやれよ!
二人で行かせたのだって、どっちか片方が残ってたら絶対変な事するって二人がまた喧嘩したからなのに、どうしてこうあのだらしないオッサンは自由人過ぎるかなあ……いや、クロウが納得してるんだったらそれでいいけどさ。
「今更だが、本当に軽いなこの倒木は。しかも何度落としても全く傷がつかない。とても丈夫で凄いぞツカサ」
「落としたんか」
「ごめんなさい」
ぐうう、熊耳伏せながら謝るのずるい、中年なのにかわいいずるいぃい……。
ま、まあ、素直にごめんなさいと謝った奴を怒るのは気が引けるし、無事だった物を指して怒るほど俺も几帳面じゃないし。絆されてない。絆されてないから。
とにかく、これで霧を晴らす準備は整ったわけだが……。
「なあ、そういえば、ブルーパイパーフロッグの弱点とかってないのか?」
今更な問いに、ブラックは眉を上げてうーんと首を傾げた。
「伝承では、英雄が号令の笛を真っ先に切り裂いたって書いてあったね。昨日の事から考えると、あの警笛をどうにかするのが最優先って事だと思う。どうもアレがカエルを操っているみたいだからね」
「えーっと……じゃあ、クラッパーフロッグみたいに喉を狙えばいいのかな?」
「喉笛って言うくらいだからねえ……。蛙族のモンスターなら体の構造はこいつらとそう変わらないだろうし、そこを突く事を第一に考えた方が良いだろう」
ブルーパイパーフロッグの情報は、どの図書館を浚ってもブラックの持っていた知識以上のものは出てこないだろう。
とすれば、今回は予想立てた事柄で挑むしかない。
不安が無いでもなかったが、引き受けてしまったのだから戦わねばなるまい。
ここで逃げては男が廃る。約束した事はちゃんと果たさねば。
俺達を頼りにしてくれているクラッパーフロッグ達の為にも、せめて一矢報いる程度は爪痕を残さなきゃ死んでも死にきれない。いや、死ぬ気はないけどね。
「とにかく、まずはこのシンジュの樹を霧の中で翳せばいいんだろう? 敵がよく見えるようになれば解る事もある。男は度胸、なんでもやってみるものだ」
そんなく○みそテクニックみたいな事言ってクロウったら。
だけどそうだよな、覚悟を決めたんだから後は勇気だけだ。
俺は深く頷くと、自分なりの緊張した表情でブラックを見上げた。
「ブラック、やってやろうぜ。こうなりゃ当たって砕けろだ」
「それは良いけど、ツカサ君は霧が晴れるまで“腐り沼”の所に来ちゃ駄目だよ」
「ぐぬぬ……」
普段は変態なくせにこういう時は真面目になりやがって……いや、それがまともな大人ってもんだけど。でもこう言う時だけ真剣に大人として接されると、なんか自分が弱いって事を突きつけられたかのようで辛い。
でもそれは事実で、俺はまだ全然ブラックやクロウには敵わないんだ。
悔しいけど……ここは従うしかない。
俺は俺で出来る事をやらなきゃな。下手に飛び出してブラック達の迷惑になんぞなりたくない。格好悪いし、なにより俺のせいで二人が怪我をしたら嫌だし。
倒木を抱えたクロウを先頭に、ブラック、俺と隊列を変え、俺達は小島を進む。クラッパーフロッグには沼の奥の方に隠れて貰い、俺は右方向へと曲がる休憩地点の島で待機する。ここから先は、ブラックとクロウの二人で進むのだ。
「ツカサ君、霧が晴れたら適宜僕達に支援を」
「隙が有ったらいつでも狙え。オレ達の事は構うな」
「う、うん」
なんだかんだで、こう言う事言うからずるいんだよな……。
俺が悔しがってるのを知ってて、派手に活躍できない事を引け目に思っている事を知ってて、俺にもやれる事が有るって教えてくれるんだ。
それが時々無性にもどかしく思えて、自分自身の使えなさに情けなくなる。
普段は同じ所に立ってるように思えるのに、やっぱり俺とブラック達には、明確な差が有るんだって……。
「…………駄目だ、そんな事を考えてたら余計に追いつけねーわ。俺は俺で、確実かつ最大限の“出来る事”をやらなくちゃ」
そうでなけりゃ、二人に申し訳ない。
俺は右腕にしっかりと固定している術式機械弓を手で擦ると、どんな事が二人にとって一番助けになる事なのか考えながら、二人の背中をみやった。
――薄霧の中に二人の姿が消えていく……と、思ったが、シンジュの樹の倒木を肩に担いだクロウが薄切りに倒木を触れさせた刹那。
「――――!!」
ぶわっ、と、音が立つほどの勢いで、クロウの周囲の霧が文字通り霧散した。
「う、うわ……ほんとに霧が消えていく……」
本当に当てずっぽうだったのに、ずんずん進んでいく度にシンジュの樹が周囲に立ち込めていた霧を蒸発させるように消えていく。
やっぱりあの霧は「魔」というモノだったのか……マーズロウに反応するから、もしかしてと思ってたけど、邪なものが霧になる事って本当にあるんだな。
クロウがぶんぶんと倒木を振り回すと余計に周囲が晴れて……って、なんかあの光景見た事有るな……なんか、あの、丸太が最強な漫画みたいな……。
「なんだこれは、面白いな」
「おわっ、ちょっ、ふ、振り回すな駄熊!!」
クロウ……実はかなり楽しんでる……?
軽いのに岩レベルで硬いし、霧を掃う効果もあるから、思わず振り回しちまうんだろうな……しかしあんなに楽しそうなクロウは珍しい。
後ろに居るブラックがめちゃくちゃ被害を被ってるが、まあ楽しそうに振り回したらどんどん霧が晴れていくし、おちゃめだと思って許してほしい。
そうこうしている内にクロウ達はどんどん進んで行き、霧を蹴散らしていく。
沼の水の変化は暴かれていき、やがて清らかさなど何もない毒沼と化した水と、そこに浮かぶ大きな陸地にクロウは辿り着き――丸太、いや倒木をぶんぶんと振り回して、周囲の霧を残らず消滅させた。
「うおおお! 全景が見える!」
俺達が昨日上陸した陸地はかなり広い。
毒々しい沼に浮かぶ全景は、まばらに長い草が生え細い木々がぽつぽつと植わっている陰気な大地だ。しかしその陸地の向こうには毒沼の色が見えており、そこもまた島である事が知れた。
だが、そこにモンスターの姿はない。広くはあるが、岸と陸地の間にはもう島はなく、どこにも隠れられるような場所は存在しなかった。
どこにブルーパイパーフロッグとしもべ達が潜んでいるのか。
そう思ったと同時――――毒沼の奥から、一気に三匹のクラッパーフロッグ達が跳びかかって来た!
「クロウ、ブラック!!」
思わず叫んだが、しかし、二人は慌てる事もせず……シンジュの倒木で二匹の蛙を叩きのめし、一匹は宝剣・ヴリトラで見事に喉を突いて斬り捨てた。
その立ち回りは、ほんの数秒。
俺が叫んだ瞬間にもう終わっていた。
「す、すご……」
しかし、歩兵が倒された事を知ったのか、相手の青軍曹は本格的にブラック達を敵とみなしたらしく、警笛を鳴らし始めた。
どこだ。どこで鳴らしているのか解らない。ブラック達も周囲を窺っているが、見つけられていないようだ。警笛の発信源は近くではないのか。
なら、ボスは遠くに居て高みの見物をしているって事……?
だけど周囲は森で、こちらの事を監視できるような視界の広さは無い。
探す間にも、警笛に操られているクラッパーフロッグが次々に陸地へ上がって来て、ブラック達を翻弄する。
魔を切り裂く白い丸……倒木は、魔に操られている相手にはとても有効なのか、クロウがぶつける度にカエル達はあまり言いたくない感じでばちーんとなって、血飛沫と共に沼へと落とされていく。
対するブラックも、単体への攻撃ながらも的確に相手の急所を突いており、血に塗れることなく華麗に舞いながらカエル達を退治していた。
ブラックがあの程度の敵の量で索敵が出来ないなんて事は無いだろうが、しかしブルーパイパーフロッグの居所が解らないと言う事は、相手はよほど上手く隠れているのだろう。
ブラック達ですら、大将の居場所が解らないなんて……。
このままだと消耗戦になるかも知れない。そうなったら、不利なのはこっちだ。
相手は水にも潜めるが、こちらは陸地で戦うしか術がない。歩兵に体力を奪われて隙が出来れば、確実に殺されてしまうだろう。
もっとも、あの二人がそんな事になるとは思えないが……何か怪我をして、毒を塗り込まれたりなんかする事は充分にあり得る。
そんなこと、絶対に許せない。
俺に出来る事は何かないだろうか。
弓を引くなんて命中率が低い行為ではない、なにか、確実にブラック達の助けになるようなこと…………。
「あ、そうだ……【アクア・レクス】…………!」
俺が使える、水の曜術の中でも最高位の術。
水の流れの全てを把握し、その性質すらも理解するあの術なら……もしかして、ブルーパイパーフロッグがどこにいるか解るかも知れない。
またあの脳みそを掻き乱されるような物凄い不快感を背負うのかと思えば、体が勝手に固くなったが……そんな事に構ってはいられない。
俺は水に手を浸すと、深く深呼吸をして水の曜気を探った。
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