異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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セレーネ大森林、爛れた恋のから騒ぎ編

20.そりゃまあお約束のシーンでありますが

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 あれは――――ブラックじゃ、ない。

 おぼろげな姿だけでもう分かる。ブラックは、あんな風に背筋を伸ばした走り方なんてしない。そこまで考えて、俺はふとある事に気付いた。

 ……クロウを攻撃をしたかもしれん相手が、まだ詳細を確認できない所に居る。
 と、言う事は……相手は……かなり腕の立つ人間か、曜術師って事か?

 ブラックじゃないとすれば、一体誰なんだ。

 木々にさえぎられて詳細が解らない間にも、またクロウに向けて何かが飛んでくる。
 しかしクロウはわずかに頭を動かす動きだけで「何か」をかわすと、さすがに今の状況では俺をからかうこともままならないと思ったのか、俺から手を放して素早くズボンを引き上げた。……よ、よかった……。

「ツカサ、木陰に隠れていろ」
「いいい言われなくても」

 クロウが離れて、相手を真正面に捉える。
 その隙に、俺はシャツを下に引っ張りながら木陰に隠れようとした。
 ……の、だが。

「――――ッ!!」

 振り返ったと、同時。

 俺の目の前に居たクロウが――――一瞬で、吹っ飛んだ。

「え…………」

 いまの、なに。
 なんか……なんか、見えた。クロウの体が後ろに吹っ飛ぶ前に、なんか、金色の何かが、クロウにぶつかってきて…………?

「くっ……クロウ……?」

 なんにせよ、相手は敵意をもって攻撃して来ている。
 それがクロウにぶち当たったという事は、もしかしたら致命傷を負っているかも知れない。頭が付いて行かないながらも、吹っ飛ばされた方向を慌てて見やると、そこには……仰向けに倒れたクロウの姿と、こちらに背を向けて鮮やかなマントをひるがえす何者かが立っていた。

 だ、だれ。誰だあいつ!?
 美しく光る金色の髪を一つに縛って、広い背中に流した……男。しかも、剣を握っている。マントの端から見える腕には銀色の手甲やガードが見えるので、相手が戦士や剣士である事が解るが……。

 だけど、こんな奴、知らない。
 こんな格好をしてるヤツって居たっけ? いやでも、顔が見えないから、もしかしたら服装の違う知り合いかも……けど、クロウを問答無用で吹っ飛ばそうとするような奴なんて知らんぞ俺は!
 とにかく、クロウに攻撃したんだからこいつはきっと敵だ!

 でも困った、俺今下半身すっぽんぽんも同然なのにぃいい……!
 ううっ、このままじゃ格好がつかない。だけど、クロウを助けなきゃ。

「く、くそっ……誰だお前……!」

 相手の気をこちらに向けようと、俺は破れかぶれで声を掛けた。
 とにかく、クロウが体勢を直す時間を稼がなきゃ。
 おい、こっち見ろよ。もしそのままクロウに剣を振り下ろしたら、迷わず曜術を使うからな。ぎったんぎったんにしてやんだからな!?

 ……でも、片手で曜術って使えんのかな。ヤバい、ヤバくないか俺。
 いやでも喧嘩吹っかけたのはあっちだし、ええいもうままよ!

 俺はいつでも曜術を使えるようにと、使い慣れた木の曜気を掌に集める。だが、相手が振り返るのに隙が出来る程の時間がかかる訳がない。
 こちらがやっと反応したと同時に、相手はこちらに振り返った。

「誰だとは酷いな、ツカサ」

 若々しく凛々しい、一発でイケメンだと解るイラッとする声。
 金の髪を風に靡かせて俺に向き直ったその顔を見て――――俺は、驚愕した。

「あ……お、まえ………………」

 きりっとした上がり眉に、切れ長の凛々しい目に嵌め込まれた美しい翡翠色の瞳。高い鼻梁は主張し過ぎず、そして……自信満々な性格を隠しもしない、口角が引き締まっている口元。紛う事なき、美形。
 忘れられるはずがない、その、顔は。

「ら……らす、たー……?」

 ……そう。
 俺達に攻撃を仕掛けて来て、つ、クロウを目にもとまらぬ速さで吹っ飛ばしたのは……なんと、この国の騎士団長であり、俺達とは色々と因縁のある美貌の貴族な勇者様(仮)である――――ラスター・オレオールだった。

 って、ちょっと待て。
 なんでお前が居る。どうしてここにいる何でこの状況で登場するうううう!!

「久しぶりだな。だが、数ヶ月合わなかっただけで忘れてしまうとは……ああっ、なげかわしいことこの上ない。お前は不潔な中年を見過ぎているせいで、この俺の神に約束された美貌を忘れてしまったのだな。まったく、だから迎えに行こうと思っていたのに……」

 ああ、これですよこれ。傲慢ごうまんさを隠しもしない自画自賛のラスター節……。
 実家に帰って来たような懐かしさだが、今はそんな事を言っていられない。てか今の状況がわけわからん。なんでここにラスターが居るんだ。
 と言うより、どうしてクロウを吹っ飛ばしたんだこいつはー!

「ラスター、お前どうしてここに……」

 居るんだ、と、続けようとした刹那。

「ツカサに近付くなぁあァアアアア!!」

 鼓膜を震わせるほどの怒声を発しながら、クロウがラスターに襲い掛かかった。

 だがラスターはクロウの拳を紙一重で華麗に避けて、地に手をつく事なく距離を取る。クロウの速さはかなりの物だったのに、それでもラスターは完璧にクロウの拳の挙動を読んでいた。

 そう。そうだ。こいつは腐っても勇者候補である王国最強の騎士団長……難儀な性格をしていても、イケメンな優男でも、ラスターの実力はかなりの物なのだ。
 だけど、クロウの拳を避けるなんて。
 もしかして、これが勇者の力量って奴なのか……!?

「ツカサを強姦しようとしていた下賤な獣人が何を言うか!! お前こそツカサの服を無理矢理に裂いて、何度も犯しただろうが! 許さんぞ下等生物が!!」

 待て待て待て、俺犯されてないって! 素股だし、合意の上だってば!!
 なんでそんな誤解をしてるんだと慌てたが……ふと、自分の股の間を見て、俺は何故ラスターが勘違いをしたか理解した。
 ……ああ、すげー量の精液ついてるもんね……どう見ても一回の素股で出した量じゃないもんね、これ……。で、でも強姦じゃないし、違うし!!

「下等生物……!? 力で敵わず小賢しい術で優位に立とうとする矮小わいしょうな人族が、誇り高き獣人族を愚弄するとはいい度胸だな……!!」
「貴様こそ俺を矮小など、無知蒙昧むちもうまいが過ぎる! 俺の華麗なる技で簡単に吹っ飛ばされた脆弱な獣が吠えても、何の話にならんなァ!!」
「グゥウウウウ゛ウ……!!」

 あ、あかん、クロウが本気で怒ってる。
 このままじゃ角が生えた本気モードになっちゃうよ。ラスターが弱いなんて事は絶対にないが、クロウの本当の姿が相手となると話が違う。あの姿で発揮される力は、まさに魔王レベルの凶悪さなのだ。

 もしクロウの力が爆発でもしたら、セイフトにまで迷惑が掛かってしまう。
 ど……どうにかして止めなくちゃ……。
 よし、こ、こうなったらもう、二人の間に入るしかない!

「二人ともストーップ!! たんま、たんまだって!!」

 出来るだけ大声で叫びながら、思い切って駆け出す。
 シャツの裾で辛うじて隠れているだけの下半身は気になったが、もうそれを恥ずかしがっている余裕はない。街の為にも喧嘩を止めなければ!!

「ツカサ!?」

 どっちの野郎も俺の名前を読んで驚くが、とにかく俺はクロウを背中でかばうと、目を白黒させて俺を見ているラスターに必死で訴えた。

「ラスター待って、頼むから落ち着いてくれよ! こいつは俺の仲間なんだっ、い、今のも、あの……こ、こいつの……そう、食事をさせてただけなんだよ!」
「は……!? しょ、食事……!?」
「なっ、そうだよなクロウ! だから頼むから落ち着いて……!」

 祟り神様ですかレベルに目を爛々とさせて見開いているクロウに向き直り、俺は牙を剥き出しにするほど上がった頬を両手で包む。そうして、表情を和らげようと必死に頬をモニモニと揉んだ。

 落ち着いてくれよ頼むから……と思っての行動だったが、俺の行動に戦意を失ったのか、それとも頬を揉まれるのが気持ち良かったのか、あれほどボワッと膨らんでいた熊耳の毛は穏やかになり、クロウは嬉しそうに俺を見下ろしていた。

 あ……よかった……これは有効だったか……。

「ツカサ……」

 嬉しそうな声を出して抱き締めて来るクロウに、俺は恥ずかしさを必死で堪えて、なすがままに体を委ねてやる。
 ラスターはそんな俺達の様子を見て、「どういう事か解らない」とでも言いたげにポカンと口を開けていたが……やっと、俺達が変な関係ではないと解ったのか、不可解そうな顔をしながらも剣を収めてくれた。

「なんだかよく解らんが……とにかく、強姦ではないんだな?」
「そ、そうそう」
「なら、その股の間の精液は何だ」
「……ええと…………その……」
「というか、お前ら……どういう関係だ。あの不潔な男はどうした?」
「…………」

 ……それも、説明しなきゃ駄目?
 いや、だめだ、それを説明すると多分ラスターは再びクロウに斬りかかるぞ。
 ええと、冒険者ギルドでの事と今の状況を話すのは抜きにするとしても……全部秘密ってのは、流石に許して貰えないだろうな。ラスターの性格なら、何が何でも聞こうとするだろうし……。

 仕方ない……クロウの食事の方法も含めて、一から説明するか……。









 
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