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ファンラウンド領、変人豪腕繁盛記編
38.きみのことが1
しおりを挟む※都合上ちょっと短いです(;´Д`)すみません…
バター、砂糖、卵黄に香り付けのリモナの実の搾り汁と、ヒメオトシの果実。
混ぜて捏ねてリオート・リングの中で半刻ほど寝かせて、形を整えたらオーブン代わりの小さな窯でじっくりと焼き上げる。
今まで使って無かったが、リオルが居てくれたお蔭でなんとか火を入れて、思う通りに料理を作る事が出来た。
そうして、焼き上がったソレにあらかじめ付けておいた窪みに、ヒメオトシで作ったジャムを乗せれば、クッキーの完成だ。
ヒメオトシのジャムはトランクルで取り扱う為に作った物だが、イチゴにブルーベリーを加えたような独特の甘酸っぱさがあって、なかなか美味かったので俺用に作ってリオート・リングに入れておいたのだ。
砂糖がかなり入っているのにさっぱりしてるから、ブラックとクロウも美味しいって言ってくれてたし……少し温めた麦茶にこのクッキーならば、麦茶に砂糖を入れるのが常の二人でも美味しく食えるんじゃないかなと思ったんだけど……。
「こんなもん作って、元気になるかなぁ……あいつら……」
窯の温度や材料の配分で何度か失敗したせいで、ジャムのクッキーはたったの数十個になってしまったが……まあ、この枚数なら大丈夫だろう。
なんにせよ、バターがギリギリ足りてよかった……。
あ、因みに失敗作は俺とリオルとマーサ爺ちゃんで美味しくいただきました。
閑話休題。
リオルに気張ってらっしゃいよとエールを送られて、お盆にティーセット一式を乗せて台所から出動した俺だったが……どこに行けばいいのか迷う。
二人とも部屋に籠ってるかもしれないけど、そのまま部屋を訪ねて行くってのも、気分転換にならないと思うし……やっぱり少しは移動した方が良いよな?
だったらサンルームのあるリビングにでも誘い出すかと思い、まずはそちらへと向かう。テーブルを拭いてお盆を置くと、ふとサンルームの向こう側にある庭に、緑の木々が綺麗に整列しているのが見えた。
……は、畑を作ろうと思ってたのに、マーサ爺ちゃんとの植林が楽し過ぎて半面丸ごとカンランの木にしちゃったんだよな……しかも、俺の能力を使ったからか、カンランの実がもうたわわに実りまくってるし……。
いきなり木が生えたとかご近所さんが見たら驚くだろうが、今はほとんどの人が出払っているから大丈夫だろう。危なかったぜ。
って、そんな事考えてる場合じゃないな。
早くブラックとクロウを連れて来よう。
そう思ってリビングから出ると、丁度クロウが階段から降りて来るのが見えた。
「クロウ、待って!」
そう言って駆け寄ると、クロウは俺の方を向いて立ち止まった。
「ツカサ。どうした?」
「あ、えっと……あの……美味しいお菓子焼いたから、一緒に食べないかなって思って……どうかな」
「ああ、だから嗅いだ事のない甘い匂いがしたのか。だが、何故だ? 商品開発はもう終わったはずだが……」
「う……い、いや、ちょっと作り方思い出したから、その……作ったっていうか……」
そこ突っ込まないでくれよ。そりゃ、その、確かにアンタ達が元気になればって思って作ったお菓子だけど、バレたら恥ずかしいじゃないか。
だってそんなの、普通は女子がやる事で、男がやるにしても料理好きな男とか、その、少なくとも俺みたいなガサツな奴がやる事じゃないって言うか……とにかく、知られると恥ずかしいんだよ! 知られずに元気になって貰いたいの!!
「……そうか……ツカサは優しいな。オレ達のために菓子を作ってくれるとは」
「はっ、ハァ!? なっなんの話!?」
「だがオレは大丈夫だ。確かに決めあぐねている事はあるが、気に病んだりはしていない。……それよりもブラックを慰めてやれ」
「へ……」
「ここ最近、悶々としているみたいだからな。どれ、オレが呼んで来よう」
そう言って、クロウは二階へと上がって行ってしまった。
確かに、クロウはいつも通りケロッとしてたけど……でも、本当に大丈夫なのかな。お菓子って聞いても甘い匂いがしても、耳をピクリとも動かさないなんて。
いつものクロウだったら、目を輝かせて「オレのお菓子は無いのか」と興奮気味に聞いて来ると思うんだけど……でもまあ、お腹が減ってないとかあるだろうし。
心配ないって言われたんだから、今は追っても無駄だよな……と思っていると、何やら二階からドタバタと音がして階段を一気にオッサンが駆け下りて来た。
お、おお……お前落ち込んでるってワリには元気だな……。
「つっ、ツカサ君っ、なっ、な、なにっ、何か用かな!?」
「え……えっと……俺の世界のくいもん作ったから、一緒に食べようと思って……」
俺の目の前に立ちはだかるブラックに気圧されつつそう言うと、相手は久しぶりに子供みたいに顔を輝かせた。
「ツカサ君の世界のお菓子!?」
「う、うん。作ってみたから……その……食べるかなって……」
「食べる食べる! ツカサ君どこっ、どこにお菓子有るの?」
「リビングに……」
「うはっ、早く行こう!」
言うなり俺の手を取って歩き出すブラックに、戸惑いながらついて行く。
ここ数日無理してるように見えたから結構心配してたのに、何だこの元気さは。空元気かと思って一瞬構えちゃったけど、全然違うじゃないか。
いやでも、ちょっと持ち直しただけかもしれないし……第一、元気が無かった時だって、俺に抱き着いてきたり甘えてきたりはした訳だし……。
やっぱり、これも無理してるのかな。
それともブラックもここ数日で吹っ切れたりしたんだろうか。
不思議に思いながらもリビングのドアを開けると、ブラックはワァッと声を出して、すぐさまテーブルに近寄った。
「あっ、これジャム? ジャムを乗せてるのはビスケットかな? でも、ツカサ君の世界の料理だからきっとアレより美味しいもんだよね! さっ、食べよ食べよ! ツカサ君も座って!」
ソファに腰を落とし俺を強引に引っ張って隣に座らせるブラックに、俺は何だか思わぬ行動をされたような感覚がして、ちょっと驚いてしまった。
いや、いつもの事だ。これはいつもの事なんだけど……なんだろう、何故だか、今の行動で、ブラックが無理して明るく振る舞ってる気がしてしまったのだ。
別に、陰りが見えたとかじゃない。
ブラックの表情も行動も、いつもならありえるなと思うような感じだ。
だけど……どうしても、自分のカンのような物が違うとしか言ってくれなくて。
嬉しそうに笑っているブラックの顔が……どうしてだか、ちっとも嬉しそうな顔に見えなくて……。
「ツカサ君、これ食べて良い!? ……ツカサ君?」
「あ……えっと……」
食べて良いぞと言えば、多分……ブラックはこのままクッキーを食べるだろう。
本当に喜んでいるのかどうか解らない顔で。
…………だけど、そんなの……。
「ツカサく……」
呼ばれて、俺は思わず相手の手に自分の手を被せていた。
ごつごつして固い、俺の手よりも広くて筋張った手。
いつもならこんな風に触れる事なんて無くて、というか、俺から、こんな風に焦ったみたいにブラックに触れる事なんて、ほとんど……。
「…………あの、さ」
でも、やらなきゃ。
ちゃんとブラックの事を考えるなら……やらなきゃいけないんだ。
俺は軽くその手を握ると、ブラックの顔を見上げた。
驚いて戸惑う様な顔をしている、相手の顔を。
「無理、しないで」
呟いた言葉に、ブラックの顔が強張る。
ああ、やっぱりそうだったんだ。
そう思うと胸が痛くなったけど、それ以上に、無理をしていたブラックが可哀想に思えて、俺は言葉を続けた。
「…………無理、しないでいいから……一緒に、食べよ……?」
もっと、違う事を言うつもりだった。
ブラックの緊張を緩めてあげられる、気の利いた言葉を言おうと思っていたんだけど……もう、それ以上の言葉が出てこなかった。
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