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プレイン共和国、絶えた希望の妄執編
3.ヤバい場所でのヤバい話
しおりを挟む色情教の大聖堂は、ゴシック建築にも似た細かい装飾が施されており、あまりにも直球な教義を支持する宗教の割には、かなりの荘厳さを醸し出していた。
プラクシディケ様……いや、シディ様(そう呼んで下さいと言われた)曰く、元々この大聖堂は壮大なハリボテ……つまり、敵を騙して足止めする為だけに建てられた“中身がカラッポ”な建物だったらしいのだが、そこに色情教が住みついた事により、本格的に改装されて今に至るのだという。
たしかに……そう言われてみると大部屋が多くて区切りがおおざっぱだし、教会と言うよりは宿泊施設に近い感じがするな。内装は非常に親しみやすい……。
「元々、色情教はこの国で“レジスタンス”と呼ばれた反政府組織の残党……穏健派の首領が作ったものです。彼は武力ではなく平和的な思想で改革をすべきだと考え、思想に賛同する人々を募ってここに総本山を置いたのですよ。ですので、宗教的な建築ではなく、彼らが元々従事していた職業に基づく内部構造になっているのです」
要するに、宗教とはまるで縁のなかった人達が作った宗教だから、なんか作業場というか、宿屋っぽい感じのデザインになってしまったって事だ。
そう言われてみると、アットホームな感じがしてくるな。
男女ともに物凄いきわどい正装をしてるし、なんなら全裸で歩いてきたりするし、ドアの向こうからアンアン聞こえて来るけど、それ以外は別に変な所はないし……。
……無いよ。うん。変な所は無いったら。俺は何も見てないし聞いてません。
さっきの全裸とか喘ぎ声ももう忘れたから! はいもうやめやめ!
いやー、さすがはこの国の重鎮シディ様。知的な美女もたまらんよね!
「そんな奴らの本拠地に、十二議会の議員様が居てもいいのかい?」
しかし、そんな美女の妖艶さをオッサン達は何とも思わないようで。
移動の途中でブラックが訊くと、シディ様は俺達を振り返り、悪戯好きな猫のように目を細めて笑った。
「私は“中立派”ですから。抑圧は必要ですが、押さえつけ過ぎるとモノは少なからず反発します。我々金の曜術師は、それを充分に理解しているはずなのです。であれば、幾許かの保護も必要かと」
「ふーん? ま、僕達に害が無ければなんでもいいけどさ」
「ふふふ……はっきり言う方ですね」
ブラックの心底興味なさそうな言葉にも、シディ様は苦笑するだけだ。
でも内心怒ってたらどうしよう……ああすみませんすみません、こいつ他人の事に心底興味が無いだけで、根は良い奴なんです……良い奴なのか?
「ああ、ここなら大丈夫でしょう。術を掛けてあるので防音もバッチリですよ」
そう言いながら、シディ様は奥まった場所にある厳つい鉄の扉を開く。
密談する為の場所かなと思って素直に足を踏み入れると。
「~~~~~!?」
「うわっ、すごいなこの部屋」
「本当にここは教会か? 拷問部屋か何かじゃないのか?」
俺は部屋に入った瞬間思わず飛び退いてしまったが、ブラックとクロウは素直に入って行く。シディ様まで平然としているので、一瞬俺が間違ってるのかと思ったが、いや絶対そうじゃない。絶対俺の方が正常だ。
だって、あ、あの部屋の中って……。
「ツカサさん大丈夫ですか? すみません……開いてる部屋で防音設備が有る所は、この部屋しかなかったもので……」
「ツカサ君早くおいでよ~、話出来ないよ~?」
「う、うううう…………」
顔がカッカしてくる。
あ、あんな部屋、エロ漫画で死ぬほど見たってのに、でも、現実で見ると物凄くてどうしても気後れしてしまう。いや、俺としてはそれが当然だと思いたかった。
だって、だってさあ! SMプレイルームとかに「どうぞ」って案内されたら、誰だって赤面したり青ざめたりするよなあ!?
なのにどーしてあいつらはっ!
「ほらほらツカサ君、おいでってば」
俺の足が進まないのに業を煮やしたのか、ブラックが部屋を出て俺に近付いてくる。腕を引かれるが、体が動かない。そんな俺に、ブラックはにっこりと笑うと……耳に顔を近付けて、低い声で囁いた。
「早く入らないと……僕も期待しちゃうよ? ツカサ君が、あんないやらしい道具で犯される所を想像して、興奮しちゃったんじゃないかってさぁ……」
「――――っ!!」
はっ、入ろう、すぐ入ろう今入ろう気にせず入ろう!!
部屋の中に手錠付きのベッドがあったり磔台があったり変な道具が壁に掛けられていても構うもんか、俺は椅子に座る、椅子に座るぞおおお!
何か椅子もドーナツちょっとかじったみたいな変な形してるけどな!
「ツカサ君、この椅子どういう使い方するか知ってる?」
「わーっ知らない知らない知らない! 早く話を進めましょうシディ様!!」
もうさっさと伝言を教えて貰ってこんな部屋出てってやる!
ブラックとクロウを両隣にしてなるべく見ないようにすると、俺は人型に見えるテーブル(何故か枷が付いてるが無視しよう)の向こう側に座ったシディ様に目を向ける。相手は何故か苦笑していたようだったが、笑みを収めて話し始めた。
「ふふ……。では手短に話しましょうか。……ああ、最初に言っておきますが、私はここの教徒ではありませんよ。ここに潜伏しているのは、貴方達を待つのに最適だったからです。……他の場所では、色々と話しにくい事でしたので」
「それは……マグナの伝言が……ですか?」
そう。そうなんだ。
『鍵蟲の主』は、誰でも無い……俺の友達であり、プレイン共和国で神童と持て囃されている金の曜術師……マグナ=ロンズ=デイライトだ。
ラッタディアで別れたっきりだったけど、忘れるはずなんてない。俺達は、マグナに沢山助けて貰ったんだから。
……でも、そのマグナが俺達に伝言が有るってどういう事なんだろう。
それに、どうしてシディ様に俺達の事を教えたのか……。
「あの……初めに聞いておきたいんですけど……シディ様は、マグナとどういう関係なんですか?」
「そうですね……この国での師匠と弟子と言った関係でしょうか。本当なら、マグナがここに来て貴方達に直接話すべきだったのですが、あの子もあれで色々とあって……。今の彼が信用できるのは、私しかいなかった。だから、私が伝言係になったのです。彼でなくて、ごめんなさいね」
そっか、確かマグナってこの国で作りたい物を作れなくて脱走したんだよな。
で、国中が泡を食ってマグナを探してた所に、ちょうど俺達が裏世界ジャハナムに潜入してマグナを助けだし、全てが丸く収まったと……。
……だけど、自分が望む研究が出来なかったマグナにとって、この国に帰る事は良い事だったんだろうか。求められてるとは言え、アイツは作りたくない物を延々造らされていたんだし……。
そう考えると急に不安になって、俺はシディ様に再度問いかけた。
「マグナは……元気でやってるんでしょうか」
俺のその言葉に何かを感じ取ったのか、相手は優しく微笑んで頷いた。
「おかげさまで、今は自分のやりたいようにやっているみたいです。……まあ、そのせいで、あの子はここに来られないんですけどね」
「せっかく国に帰ったのに、已むに已まれぬ事情で隠遁生活って事かい」
「そう言うことです。……残念な事ですが……今のこの国では、マグナの望む自由な道具を作る事は難しい。マグナのように優秀で、類稀なる能力を持つものであれば、尚更……。だから、隠れざるを得なかった。本当なら、あの子もここに来て、貴方に会いたかったでしょうにね」
「マグナ…………」
大丈夫なんだろうか、隠遁生活をしてるって事は、変な事をさせられてる訳じゃないんだろうけど……ちゃんとメシとか食ってんのかな。隠れすぎて病気になってたりとかしないよな……?
ああ気になる。でも、俺達にも使命があるし、遺跡の調査を放って置いてマグナを探しに行く訳にもいかないし……。
「ツカサさん、そんなに心配しないで。隠遁生活だけど、マグナは元気にやっていますから。……だから、私もここで悠長に貴方達を待っていたのですよ」
「あっ……そ、そうですよね! すみません……」
また感情を顔に出してしまってたのか、恥ずかしい……。
取り乱してすみませんと頭を下げると、シディ様は嬉しそうに笑った。
「本当に、マグナから聞いていた通りの子ね」
「え……」
「ああ、お話しが逸れてしまいましたね。では……貴方達をこの街に呼んだ理由と、マグナの伝言を手短にお話しします」
ふっと息を吐いて、シディ様は姿勢を正す。
その姿勢に思わず俺達も背を伸ばすと、相手はぽつりと話しだした。
「まず……貴方達をこの街に“避難”という名目で呼んだのは、まさにその通り。首都で落ち合うと危険があると思ったからです。……この国は、入国者の情報が全て首都に送られています。そのため、高い能力を有する曜術師が見つかれば、周囲がその人を無理矢理にでも引き抜こうとする。だから危険なのです」
「その話、砦の兵士からも聞いたな」
ブラックの言葉に、シディ様は物憂げな顔をして頷く。
「昔はこうでは無かったのですが……最近、この国の曜術師が突然に失踪すると言う事件が立て続けに起こっていまして……。そのせいで都市が混乱し、入国者の情報が首都の商人達や研究施設に流れたことで、彼らが旅人を強引に引き込んでしまう事件が多発しているのです。我々も対策しているのですが、全てが後手後手に回ってしまっていて……ですので、無用な事件を避けるために、この隔離された街……【アトスロシコン】に貴方達を避難させたのです」
「情報流出って……とんでもないね……」
「プレインは技術大国と聞いていたが、そんな国でもこうなるのだな」
呆れたような苦々しい声に、シディ様も沈痛な面持ちだ。
確かにとんでもないよなあ……。俺はそう言う事件に関わった事なんて無いけど、情報流出って聞くだけでゾッとするもん。
だって、知らない奴に俺の名前から住所から全部知られちまうんだぞ。
それを悪人に知られたら、勝手に名前を使って犯罪とか起こされちまうじゃねーか。女の子だったらストーカーもされかねないし怖すぎるって。
この世界では、「曜術師だから俺の会社に来い」って感じで拉致られるみたいだが、それもそれで恐ろしいよな。馬車馬のように働かされそうで嫌だわ。
「ほ、ほんとに首都に行く前に声をかけて貰えて良かったです……」
「……確かに……ツカサ君はすぐ拉致られそうだしなぁ……」
「ウム。オレ達が気を付けていても、ツカサはすぐ男を引き寄せて困る」
何言ってんの何言ってんのアンタら。
特にクロウ、そう言うコト言うのやめてね!
誤解されたら嫌なので、「本気にしないで下さいね」と言おうと思ったのだが。
「ええ、マグナからもそう聞いていたので、上手く接触できて本当に良かった」
「………………」
……マグナ、シディ様に俺の事なんて話したんだ……。
あんちくしょうの事だから、絶対失礼な説明の仕方しやがったんだろうな……。
色々と言いたい事はあるが、しかし俺が反応したら余計に会話が長引く。
こう言う時は無視が一番だと思い、必死に冷静さを取り戻すと俺は再びシディ様に向き直って、話を進めようと問いかけた。
「お、俺達をここに呼んでくれた意味は解りました! 事前にそれを説明するためだったんですよね! で、マグナの伝言ってなんですか!」
「ああ、そうそう……と言っても、長い言葉ではないんだけれど……」
そう言うと、シディ様は少し考えるように空に視線を走らせると、再び俺に向き直った。そうして。
「マグナが伝えて欲しかったのは……『南西に続く裏街道を通れ』って言葉だけ」
「え……」
「多分、首都から離れる道を通って欲しいって事なんでしょうけど……。それにしても、変な伝言よね。会いに来て欲しいとも、返事が欲しいとも言わないんですもの」
……確かに変だ。
伝言って、そう言う物じゃないよな。
何か確実に伝えたい事が有って、だから人に頼む。伝言はそう言う物のはずだ。
だとしたら……どうしてマグナはそれだけを伝えようとしたんだろうか。
……もしかして……裏街道に、アイツが本当に望んでる事があるのかな。
「南西なら、僕達の目的地にも近いんじゃないかな」
「……まあ、別段行かぬ理由も無い。通っても良いのではないか」
「うん……」
確かに、拒否する理由は何もない。
地図は買える所で買えばいいんだし、別に首都に行く理由は無いんだ。
マグナの言うとおりに、裏街道を通ればいいんだけど……。
「……ああ。もう日が暮れてしまいましたね。今日はひとまず、この教会に泊まると良い。彼らは少々変わった人達ですが、この国では珍しくお人好しで優しい人達ですから……きっと、歓迎してくれますよ」
シディ様がそう呟いて、笑う。
その言い回しは、まるでこの国が優しくない国だとでも言っているようだった。
→
※次はやらしいよ!
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