異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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遺跡村ティーヴァ、白鏐の賢者と炎禍の業編

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 ぶっちゃけた事を言うと、この世界の薬は大仰な機械が必要なモノでなければ、俺みたいな無知な高校生でもすんなり薬が作れてしまう。

 恐らく、俺の世界みたいに複雑な工程を重ねずともそのまま効能が現れるからなんだろうが、こう言う所が異世界っぽいなあと思ってしまう。
 まあ俺の考えてる異世界って、チート小説とかの異世界なんだけど。

 それもこれもやっぱ曜気ってものが作用してるんだろうか。
 俺としては楽しければ文句は言わないが、曜気を使えるだけでありとあらゆる薬を作り易くなるってのはちょっと不思議に思える。
 職業補正とか言って茶化して来たけど、技術も無いのに調合マスターとは少し……いや、かなりファンタジーだよな。こう言う所はつくづく異世界だ。

 しかし、今の俺にとっては大助かりな事に変わりはない。
 失敗するのも調合の醍醐味だいごみってやつだが、資源がとぼしい場合ならやっぱし成功確率が高い方が良いからな。という訳で、ティーヴァ村をもっさりと囲っている森に来た俺達は、材料であるアマクコとカエルバを探していた。

「ツカサ君、カエルバってどんな葉っぱー?」
「えーっと……スコップの掘る部分を縦に伸ばした感じの葉っぱ。ツクシみたいなのと一緒に生えてるから、分かり易いと思うんだけど……って、ツクシってこの世界にあるんだろうか……」

 森の中で思わず考え込んでしまった俺に、ブラックが気楽そうな声を寄越す。

「ツクシ? あるよー。春の月にだけ生えるよね」

 しかし反対に、クロウはキョトンとした顔で首を傾げていた。

「春の月にだけ生える植物があるのか? 人族の大陸は不思議だな……」
「あっ、地域差がこんな所で……。えーっとクロウ、ツクシってのはアレだ。長細い棍棒みたいな形の茎が映える野草の事だ」
「こ、こんぼう……?」

 ヤバイ、相手は多分棍棒が直接土から生えているイメージしか想像してないぞ。
 思わず眉根を寄せたクロウに、俺は慌てて説明を加える。

「あっ、お、大きさは俺の人差し指くらいだからな!? 俺の世界のツクシは、春の美味しい食材として人気なんだ。クロウぐらいの歳なら気に入るんじゃないかな」
「ム……そうか? おいしいのか」

 あ……熊耳が嬉しそうにピコピコしている……。
 やっぱり食べられる物となると嬉しいんだなクロウ……わかるぞ、うんうん。

 周囲に花を散らさんほどに上機嫌の雰囲気を纏ったクロウは、俺の説明を聞いて鼻息荒く地面を探し始めた。
 ま、まあ……カエルバが食えるとは言ってないんだが……それを言うとまたもやがっかりさせてしまいそうなので、アマクコの実でここは手を打って貰うか。
 あっちは生食できるみたいだしな。

 カエルバの採取はオッサン二人組に任せて、俺はアマクコの木が生えているだろう水気のある木がまばらな場所を探す。
 この森はそれほど大きくないので、迷う心配も無用だ。
 しばらくブラック達から離れて森を散策していると、村の裏手の森に土が湿った場所を発見した。どうやら、この辺りから水が湧いているみたいだな。村の水路の始点にも近いし、恐らく水路の水はここらへんから取ってるんだろう。

「となるとー……アマクコがこの辺りにあるはず~……」

 強く踏み込まないように注意しながら、ぬかるむ寸前の濡れた地面を歩く。
 野草もまばらだな……という所に差し掛かった時に、俺は目的の木を見つけた。
 茎は緑で葉っぱは薄く、背は低い。一見すると木には見えないが、ホオズキに似た小さな紫色の花と楕円形の赤い実は間違いなくアマクコだろう。
 近付いてみて、俺は改めて確信を持った。

「五角形の花に飛び出したおしべとめしべ、これで間違いないな」

 幸いアマクコの実は誰にも採取されて無かったようで、たわわに実っている。
 ありがたいなと思いながら、俺は周辺に生えている他のアマクコからも少しずつ実を頂いた。全部取っちゃうといかんので、必要な分だけね。

 アマクコの実というのは、解熱作用や精神安定の効果があるらしく、生食した時の味は中々に甘くておいしい。ただ、湿地に生えているからなのか味が水っぽいようで、俺の主観だが水分が多すぎるイチゴみたいな感じに思えた。
 ただ、これも酒に付けたり干したりすれば丁度いい塩梅になるらしいので、滅多な事が無い限り生食よりも加工した方が良さそうだ。

 あと中の種もわりと美味いとの事だったので、ってブラック達のおつまみにでもしてやろうかな。種だけ貰って置けば、俺が後で増やして携帯食にも出来るし。
 黒曜の使者の力サマサマだな、うむ。

 大豊作のアマクコの実を両手に軽い小山が出来るほど採取した俺は、ブラック達が居る所へと戻ろうとした。と。

「……ん?」

 村の方をふと見てみると、ひときわ大きな家……恐らく村長の家だろうが、そこに歩いて行く見覚えのあるローブの人々を見つけた。
 あれはもしや……ラトテップさんとブラウンさん……?

「ふむ? あの時はなんか深刻そうだったけど、案外すぐ会えたな……」

 思わず声を掛けようかと思ったが、しかし声が出なかった。
 ……だって、村長の家に行くって事は恐らく商談か何かだよな。その出鼻をくじくのもな……。それに、俺達は今隠遁生活中だし……シディさんからの手紙が来るまでは、信頼できる人達以外に会う訳にはいかない。

 ブラウンさんに挨拶が出来ないのは残念だったが、まあ……遠くから見た限りでは元気そうだったし、それだけで充分か。生きてりゃまた会える日も来るよな。

 今はブラック達の所に戻るのが先だな、と考えて、俺は踵を返した。




 そんでもってつつがなく遺跡へと戻ると、俺は早速【鎮静丸】を作る事にした。
 今回はそこまで難儀な製法ではないので楽だ。ただし、熱しながら練る工程や薬を乾かすのは俺一人では難しかったので、ブラックとあの鍛冶屋の炉に助けて貰った。いやあ、ここが商業都市の遺跡で助かったよ。

 あとは乾かしてみて緑と白のまだらの丸薬になるのを待つだけなので、その間に俺は更に干しアマクコと種のおつまみを作る事にした。
 まあ、種抜いて分離してどっちも干すだけなので、一緒にやったってだけなんだけどね! でもこれは時間が掛かるので今はおあずけだ。
 今食べられないという事でブラックとクロウはションボリしていたが、こればかりは仕方ない。ちゃんと天日干ししないと、美味しく食べられないんだからな。

 でも待たせるのも何なので、代わりにアマクコのジュースを作ってみる事にした。
 アマクコの実は種ごと磨り潰して布でし、ちょっと煮詰める。こうすると余計な水分と何故か酸味が飛んでいくらしい。煮詰める時間によって酸味が残るらしいので、ほんのり後味に感じる程度に煮詰めて置いた。
 そこに蜂蜜と水を加えてジュースの完成だ。

「よーし、味も良い感じ! 飲んでいいぞー」

 ブラック、クロウ、マグナにジュースを満たしたコップを渡すと、三者三様でゴクゴクと飲み始めた。どうやら気に入ってくれたらしい。
 これでマズかったら絶対一口で喉が動かなくなるからな。三人とも自分に正直なので、取り繕おうとしてもどうしても正直な態度になっちゃうんだ。俺としてはマズいもんはマズいと言ってくれた方が楽なので助かるが、ブラック達は気まずい思いをしちゃうからな……。ま、上手くて良かったよ。

 しかし、マグナはなんだか目を輝かせてるが……もしや甘味が好きなんだろうか?
 いや、目の前で作られた料理の味を見て驚いてたのかも。

 ブラックとクロウが俺の料理をじっと観察するのはいつもの事だったが、意外にもマグナも料理に興味があるらしく、ジュースを作る様子をじっと見ていたからな。

 そういえば丸薬作る時もずっと見てたし、やっぱマグナ的には色々気になっちゃうのかな。遺跡でもそうだったけど、マグナは本当に好奇心旺盛だし。
 意外な事実だったが、なんにせよ喜んで貰えたのは嬉しいよ。

 ……遺跡に一人で引き籠ってるって言うから、食欲は有るのかとか寂しくないのかとか色々と心配しちゃってたけど、本当に元気そうで安心したよ。

 ここが「逃げ場所」じゃなかったら、もっと気楽だったのにな。

「しかし……野草の汁なんて飲めるのかと思ったら、美味いものだな」
「野草て。お前今まで何食ってたの」

 とんでもない言い方するなと眉間に皺を寄せると、マグナは何が悪いのか解らないような顔をして、目を少し見開いた。

「何って……御付おつきが出してくる料理だが」
「ツカサ君だめだよ、コイツ肉が何からできてるかも多分解ってないよ」

 ああやだやだと言わんばかりに俺に耳打ちするブラックに、流石にそれは無いだろうと俺は首を振る。

「おい、お前いくらなんでもそれは……」
「肉は肉じゃないのか? 何か他に形が?」
「…………」

 まじですかマグナさん。

「上げ膳据え膳か。位の高い者なら珍しくないな」

 クロウの言葉に、俺は片眉を寄せて腕を組む。
 位が高い……まあ、確かに幼い頃から神童だと持てはやされていたマグナだったら、お肉なんてステーキで出て来ただろうし、何よりマグナは研究室にずっと籠って作業してるような子だっただろうし……。
 しかし、まさか異世界でも「シャケは切り身のまま海で泳いでいる」と思ってる人に出会おうとは。

「マグナ……もしかして食べる事とか全く興味ない?」

 恐る恐る訊くと、相手は少し考えて目を瞬かせた。

「まあ、腹が膨れればそれでいいとは思うが」

 …………。
 そうか、マグナったら野草を食べないブルジョア生活を送って来たのか……。
 なんだそれ、何か凄く格差を見せつけられた気分だぞ。いやでも神童って言われる存在なんだから、逆に言えばワンパク出来なかった子って事だしうーん……。

「ええと……あれだ、人によって大事な物って違うよな!」
「ツカサ君、なんでこいつにはツッコミ入れないのさ」

 そ、それはその……あれだ。こういう話はややこしくなるからな!
 日本みたいに子供全員が似たような教育を受けてる訳じゃないんだから、肉が肉塊のまま存在していると信じる人だっているだろう。ブラックみたいに知識が豊富なのが特別凄いだけなんだよ。

 不満げなブラックをどうどうとなだめつつ、俺は苦笑交じりの笑みを浮かべた。

「とりあえずまあ、ここに居る間は色々な料理を作るからさ、良かったら食べ物にも興味を持ってくれよ」
「……そうだな。お前の作る料理は珍しくて勉強になりそうだ」

 何の勉強になるかは解らないが、まあ食事に興味を持ってくれたならヨシ!

 どうせ俺達も待つ事しか出来ないんだから、このくらいは建設的な事しないとな。










※次ちょっと注意かも
 
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