異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

33.確かめるためとは言いながら1

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   ◆



 目の前にいるアドニスが、部屋のドアを開ける。
 その音がやけに耳に煩く聞こえて、俺は思わず拳をぎゅっと握ってしまった。

「さ、ツカサ君どうぞ。ベッドに座って下さい」
「う……うん……」

 昨日まで自分が小まめに掃除してた空き部屋だったんだから、入るのに躊躇ちゅうちょする事なんてないんだけど……でも、今から何をするのか考えたら緊張してしまう。
 だって、俺は今から、オノレの問題点を解決するための話をするんだから。

 そう、俺が気絶してしまわないようになるための、策を。

「どうしました?」
「あっいや、ごめんごめん」

 アドニスに不思議そうに首を傾げられて、俺は慌てて一緒に部屋に入る。出来ればブラックが帰って来る前に済ませたい……。あっ、話し合いをする前に、ロサードは帰したぞ。ついでだからとゴーバルさんには頼めなかった物資などを注文して、今日の所は禽竜きんりゅうぞく族に頼んで地上へと送って貰ったのだ。

 相手もそこそこ忙しいので、これ以上滞在してもらうのも悪いしな。
 まあ、色々な用事を済ませて数日後にまた来てくれるらしいので、その時に改めてブラックにも会せてあげよう。……アナベルさんが許してくれたらの話だけど……。

 あと、クロウにはリビングで待機して貰っている。
 隣の部屋に待機されるのはなんか恥ずかしかったし、何よりブラックがいつ帰って来るのか解らなかったからだ。アドニスに「まず二人だけで話した方が良い」と言われたし、もし話が終わる前にアイツが帰って来たら、変な事をしていると誤解されるかもしれない。
 だから、こういう事をしているとすぐに説明できるように、クロウにはブラックの対応をお願いしているのである。

 幸い、クロウが「任せておけ」と快諾してくれたので、俺は憂いもなくアドニスと部屋に入った訳だが……。ああ、それにしてもドキドキする。俺の気絶癖がどうにかなるって、どういう事なんだろう。
 さっきアドニスが見せてくれた物で本当に解決するのかな。

 色々と考えつつも、まだ殺風景な部屋のベッドに素直に座る。
 すると、アドニスは椅子を持って来て俺と向かい合うように腰掛けた。

「では、まずは問診と行きましょうか」
「な、なんか医者みたいだな」
「薬師も同じような物ですよ。症状を事細かに聞いて、最善の薬を調合する。本来は、そう言う医者を補助するような存在のはずだったんですけどね……まあ、よほどの病でなければ回復薬ですぐに治ってしまうので、薬師も今は調合する者と言う意味のみになってしまいましたが」
「ふーん……木の曜術師って安定した仕事がある職業だと思ってたけど、出来たはずの事が出来なくなってたりするんだな」
「技術の進歩と言うのは痛し痒しですね」

 なんか俺の世界の大人みたいなことを言うなあ。
 でもまあ、その技術自体が「要らない」って訳じゃないし、素晴らしい技術なら持ってて無駄にならないんだから、廃れはしたけどまだまだ必要だよな。
 だって、俺みたいに必要とする奴が出て来るかも知れないんだから。

 その事を考えると何故かちょっと緊張がほぐれて来て、俺はようやく人心地ついたような感じがした。……そうだよな、アドニスも俺のために協力してくれてるんだから、ちゃんと話す事は話さないと。

 と言う訳で、俺は改めて失神した時の事を出来るだけ事細かに、覚えている限りのこと全部をアドニスに話した。
 えっちの時の事だけじゃなくて、俺が普通に曜術を放った時の事も含めて。
 アドニスは俺の話を真剣に聞いていたが――全てを話し終えると、少し悩むようにあごに手を当てた。

「ふむ……昨日聞いた時も思ったのですが……ツカサ君のその話、やはり少々奇妙な部分がありますね」
「奇妙な部分?」
「ええ……。どうも、ツカサ君が自分の意思で曜術を使った時と、あの男が摂取した時の量が違い過ぎるのではないかと……」
「それって……どういう事……?」

 どちらにせよ曜気が失われて失神したんだから、同じ事なのではないのだろうか。
 よく解らなくて首を傾げると、アドニスが手を差し出した。

「やってみた方が早いでしょうね。ツカサ君、手を握っても良いですか?」
「あ、う、うん」

 素直に手を握ると、アドニスは何故かぴくりと小さく体を動かしたが、すぐに俺の手を握り返した。

「ではまず……私が木の曜術の初級術である【グロウ】を発動する時の消費量を、君から奪います。決して失神はさせない量だと思うので、我慢して下さいね」
「お……おう……」

 アドニスにも、グリモアが俺から無尽蔵の曜気を取り出せるって事は話してある。
 出会った頃のアドニスなら絶対教えられなかった事だけど、でも、今のアドニスには何も隠す事など無い。むしろ、聡明な相手には協力して貰いたいぐらいだった。
 だから、俺は信頼してアドニスに自分の弱点を曝したんだ。
 彼なら俺の事を絶対に悪いようにはしないって思ってたから。

 その俺の確信は確かだったようで、アドニスは真面目な顔をして少し目を細めると、軽く手に力を込めた。刹那、つないだ手から、俺の体を緑色の光が覆い始め……たが、今回は光のつるが出る事も無く、すぐに光が消えてしまった。

「……今度は、中級術である【ウィザー】……植物から曜気を奪って枯らす術です」
「えっ、い、いま【グロウ】発動してたの?」
「厳密に言うと、発動直前の“曜気を集中させる状態”で留めただけです。詠唱をしなければ、曜気はそのまま散って再び体内に取り込まれるか、大気に霧散します。この家で発動させる気は無いので、安心して下さい」
「はえ……」

 曜気ってそう言う風にすることも出来たんだ……。
 でも、これがなにを確かめる事になるんだろう。
 まあアドニスの事だから、絶対意味が有るんだろうけども。

「では、曜気を奪います」

 アドニスの手が、再び俺の手を軽く握る。
 すると、今度は俺の腕に見慣れた緑色の透明な光が現れ、いくつもの蔓として伸びあがり、腕に巻き付いて来た。
 さっきは出て来なかったのに、今はちゃんと“いつもの”が出て来たぞ……。

 驚いていると、ふっと体が軽くなってアドニスが息を吐いた。

「……違い、解りましたか?」
「う、うん……。もしかしてこれって……術の規模によって違うの……?」

 俺の答えに、アドニスは少し考えるように視線を空にやってから頷いた。

「いま曜気を使わせて貰った限りでは、概ねそういう事でしょう。……ですが、その通りだとすると、妙な事になるんですよねぇ……」
「妙って……何が?」
「通常、人族の一日の活動に於いて、体内に取り込まれる曜気の量は多くても中級術程度なんです。……つまり、君が気絶する条件が“術や性行為によって、規定量以上の曜気を奪われたため”であれば、本来は今のように正気で居られるはずなんですよ」
「え……」

 それって……どういうこと?
 や、やべえ、理解が追いついて行かない。

「君は気付いていないかも知れませんが、私は既に中級術を三度放てるほどの曜気を君から貰っています。ですが、体調におかしなことは無いでしょう?」
「……うん……別に変な感じはしないけど……」
「あの男が三日間毎日君と性行為を行ったとしても、恐らく今以上の曜気を失う事はなかったはずです。……ですが、君は毎回失神を起こすほどに曜気を消耗していた」
「それって……ブラックが異常ってこと……?」

 普通なら気絶しないはずだったって言うんなら、そう言う事だよな。
 ブラックは人一倍食いしん坊とかそう言う事なんだろうか。
 イマイチはっきりしない言葉に首を傾げると、アドニスも決めかねているようで、難しい顔をしながら空いている方の手で眼鏡を直した。

「……私にもまだ明確な事は言えませんが……恐らく君は“自分で曜気を使う時”は、よほどの巨大な術でない限りはもう気絶する事はないはずです。今の君の曜気を溜めこんでいる器が、どの程度成長しているのかは把握できていませんが……。ただ……失神するという事に関しては、あのブラックと言う男が規格外なのか、それともグリモアという称号に起因する何かなのかが、まだ掴めません」
「じゃあ……結局、気絶の理由はハッキリしないって事?」

 アドニスでも解らない事ってあるんだな、などと思っていると、相手はその言葉が悔しかったのか、不機嫌そうに眉を顰める。
 だが、すぐに真剣な表情に戻ると、今度は俺の手を両手で握って来た。

「ツカサ君、私としても今の状態は非常に気持ちが悪い。見えかけている謎が解けない時ほど、心が騒ぐことはありません」
「う、うん」
「私は、出来れば君の懸念を払拭したい。今後の我々の為にも。だから……」

 真面目な顔をして、じっと俺を見つめながら――――
 アドニスは、はっきりと言った。

「だから……私と一度、性行為をしてみませんか?」
「え……」

 せい、こうい、って。

 え…………ええええ!?














※挿入しはしませんが、ごちゅういを(;´∀`)
 
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