異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ラゴメラ村、愛しき証と尊き日々編

  思ってもみないこと2

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「よーっす! ツカサ、アドニス、あと熊の旦那、元気にしてたかー?」

 でっかい荷物を背負って、ロサードが軽々と手を振る。
 先に到着して「ブラックは基礎をやり終えるまで帰って来れない」と報告してくれたクロウと共に、遠くに見えていた彼を待っていたのだが……近くで見るとやっぱり荷物が凄い。
 人間ってこんな牛一頭レベルの荷物背負えるんですねっていう感じだ……。

 しかし、俺が以外の大人たちは驚きもせず、ロサードとあいさつを交わしている。
 なんなら門番のカルティオさんも「オッ、兄ちゃんやるね!」ぐらいの勢いだ。
 異世界人ってやっぱ筋力が俺達とは全く違うのでは。

 ……まあ、その……筋トレ頑張ります……。

 そ、それはともかく、俺はロサードを家に招いた。
 とりあえずおもてなしをと思いつつ、リオート・リングに保存していたアマクコの実のジャムで作ったジャムクッキーや麦茶を出してロサードの長旅の疲れをねぎらう。

 すると、彼はターバンのような帽子を取って気を休めたような笑みを見せた。……ダークパープルの髪にエメラルドみたいな緑色の瞳は、相変わらずハデな見た目だ。でも本人が爽やか系のイケメンだからか、そこまで変に思えないから得だよなあ。
 俺がこんな色味だったら確実に「えっ、ダサッ」て言われてるわ……。

 己のルックスレベルの低さにしょんぼりしつつ席に座ると、ロサードはクロウと競ってクッキーをバクバク食いながら、目を輝かせて俺を凝視して来た。

「ちょっとツカサちゃん!! なにこれなにこのビスケット超うめーんだけど!? 待ってちょっとこれ作り方売って!?」
「えっ、い、いや、こういうのってオーデルにあるんでは……」

 ジャムクッキーって、ロシアクッキーとかって婆ちゃんが言ってたから、てっきり似たような国のオーデルにも有るとばっかり……いや、あの世界年中雪で果物が育たないから、そういうのも作れなかったって事なのか……?

「いやいやいやこんなのウチの国にないから! 絶対売れるって!」
「あ、でも、作り方が難しくって……バターとか結構使うし……」
「バター!? なにそれ! 教えて教え」
「ロサード、話が進まないでしょう? いい加減本題に入って下さい。それとも……この辺境の地に、一日滞在したいんですか?」

 冷めた声でアドニスがそう言うと、ロサードはすぐ大人しくなってしまった。

「わ……解った……すまんかったな、ツカサ……」

 ヒィ……た、助かった……。やはり親友と言う立場のアドニスは強いな。
 今回は真面目に話をして欲しいみたいだし、ちゃんと話が出来そうだ。ロサードの隣に座っているアドニスに心の中で礼を言うと、俺はクロウの隣の席に着いた。
 ブラックが不在なのはもう仕方がないから、とりあえずクロウ頼みで行こう。

 一息ついた所で、ロサードが唐突に頭を下げて来た。

「まず……最初に謝る。本当にすまなかった」
「え……」
水麗候すいれいこうから事のあらましは聞いた。……なんと詫びたらいいか……」
「あ、いや、ロサードが悪いわけじゃないんだし……」
「いや、下の不祥事は上の奴も一緒にケジメつけなくちゃなんねえ事だ……。あんなクソみてえな場所に物資を横流ししてた奴らを野放しにしてたなんて、番頭役筆頭ばんとうやくひっとうとして情けねえにもほどがある……。そのせいで、お前達だけじゃなく、一国に多大な被害を出しちまった……」

 心底悔しそうに言いながら、ロサードは俯く。
 その表情や声は、誰が聞いたって本気で後悔しているとしか思えなくて……俺は、ロサードに自分を責めるなと声を掛けた。

「自分を責めても何にもならないよ。それよりさ、俺はロサードに財団の中を正して欲しいな。だって、アンタは絶対に信頼できる奴だから……」
「ツカサ……」
「シアンさんだって、それを知ってるからロサードに俺達の事も話したんだ。アンタの事を信頼して、リュビー財団を正して欲しいって思ってる人が沢山居るんだよ。だから、今は自分の事を責めて苦しむより、前を見て欲しい。……そう、思うだろ?」

 言って、俺はアドニスを見やった。
 俺や……もちろん、親友のアドニスだって、ロサードが誠実である事は知っているだろう。だって、彼は俺達の為にオーデルでも色々と協力してくれたんだ。ちょっとガメつくて商人気質が強すぎる奴だけど、だからこそロサードは信頼できるんだ。

 その事は、きっとアドニスの方がよっぽど理解してるんじゃないかな。

「…………そうですね。目の前でメソメソ泣かれるよりも、有益な情報を持ってより良い集団を組織してくれた方がよほどマシです」
「お、お前なあ……」

 アドニスのさっぱりした言葉に、落ち込んでいたロサードが嫌そうな顔をする。
 だけど、その顔が本当に嫌悪している表情でない事はその場の全員が解っていて。
 そんな雰囲気に、ロサードは照れくさそうに頭を掻いて苦笑した。

「ちぇ……お前らには敵わねえなぁ……」
「そう思うなら、さっさと話して下さいね」
「む……わーってるっての。……まあ、なんか……悪かったな、ホント」
「いえ、もう良いっすよ」

 ロサードとアドニスのやりとりを見てると、なんだか自分の友達との会話を思い出して、心が温かくなる。やっぱり友達って良いもんだよな。

「じゃあまあ……今のところ、の話なんだが……」

 さっきの会話で安心したのか、ロサードはいつもの表情を取り戻すと、早速俺達に伝えようとしていた情報を話しだした。

 ――まず、リュビー財団からプレイン共和国に物資が秘密裏に運ばれていた件だが、これは末端の商会がやっているのではなく、どうも番頭役に食い込む誰かが指示をしていたのではないかとの事だった。

 リュビー財団は前述したとおり“商会の集まり”であるが、その組織図は意外と複雑で、頂点に財団を取り仕切る存在が居て、その下に財団本部直轄ちょっかつの特別組織と末端の商会をまとめる幾つかの大商会の頭(リュビー財団では番頭というらしい)がつどう組織がそれぞれ存在するのだという。

 ロサードは財団本部……つまり、この大商会などを更に取り仕切るリュビー財団のピラミッドの頂点近くに位置する役職に就いていて、普段は大商会の番頭達をまとめ上げているらしい。
 だから、番頭役筆頭なんだとか。

 ……で、そんな巨大組織であるリュビー財団なのだが、実際のところその機能は分散していて、大商会のひきいる商会や組織などの取りまとめは其々それぞれの大商会に一任しており、リュビー財団本部は彼らの報告などを聞いて、全体的な方針などを決めているんだって。だから、全部を把握してる訳じゃないんだそうな。

 うーん……?
 なんか、あれか、コンビニとかのフランチャイズなんとかって奴……?
 お店が有って雇われ店長が居て、その店長達をエリアマネージャーってのがまとめ上げて、更に上に統括役がいて、その統括役を本社が直接動かして指示を与えたりする……みたいな……。
 バイトでそんなこと聞いたような気がするぞ。
 なるほど、だとしたら、リュビー財団本部がこの「本社」みたいな事になるのか。

 基本はまとめ上げてる人からの報告だけしか聞かないから、末端に異変が起こっていても、その大商会が握り潰していたら見つからないって事なんだろうな。だから、それを考えると大商会の番頭が今回の取引を行っていた可能性が高いんだそうな。
 ロサードいわく「あれだけの量となると、大商会じゃねえとムリだ」との事で……。

 ちなみに、高価な鉱石が品切れ状態なのと、運び屋さん達がてんてこ舞い状態なのはどうなのかと聞いてみたら、そちらはリュビー財団名義で注文を受けている訳ではないらしく、もしかしたら、大商会の誰かがまた別に“闇商会”を立ち上げて、帳簿や取り扱う物品などに細工をして隠している可能性があるのではないかとの事だった。
 闇商会って……なんか凄い中二病漂う名前なんだが、まあ、一番解りやすいな……。

 とにかく、それが本当なら一大事だとのことなので、現在それを調査中らしい。
 報告にはまだ少し時間が掛かるそうだ。

 ――でも、ギアルギンがそこまでさせてたって事は……商会にもなんらかの利益が有ったって事だよな……。俺が【機械】に組み込まれた際に発生する利益なのか、それともアイツが先に支払った利益なのかは分からないけど。

 ……そう言えば、俺達がラッタディアで巻き込まれた黒籠石についての云々はどうだったんだろうとロサードに問いかけてみると、そちらも予想外の情報だったのか、ロサードは慌てて藁半紙みたいな紙にメモを取りながら、調査すると言っていた。
 …………どうやら、リュビー財団本部には回って来ていない情報が、たくさん存在するようだ。

「クソッ……誰が止めてやがったのかは分からんが……いや……ちぃと見当は付くが……とにかく、そっちも今から手繰らせる。情報提供感謝するぞ。……しかし、考えて見りゃあお前達……財団と結構な縁があったんだなぁ……」
「え? そ、そう?」

 ロサードの言葉に思わず問い返すと、相手はうんうんと頷いた。

「だってよ、パルティア島は財団の支援地だし、黒籠石の一件なんかもそうだろ? それに、オーデル皇国では俺達とがっつり関わっちまったし……プレイン共和国でもそうだったしな」
「…………言われてみれば……」

 でも、ロクでもない事件だったな全部……。
 相手は世界を股に掛ける財団なんだから仕方がないような気もするけど。

「世界規模の財団って厄介だなあ……」
「まあそう言うなって。お蔭でウチの後ろ暗い部分も掘り出せそうだ。この際、きたねえ膿は片っ端から出してやるぜ。そうじゃねえと、うかうか旅商売もしてらんねえからな!」

 そう言いながら豪快に笑うロサードは、いつもの調子だ。
 とにかくまあ、元気になってくれて良かったよ。

 そう思っていると……ロサードは何かに気が付いたのか、そうだそうだと言いながら、大荷物を漁ってなにやら箱を持ち出してきた。

「おうおう、忘れるトコだったぜ……。商売っつったらこれだ! アドニス、お前の商売道具持って来てやったぞ」
「…………え?」

 思わず聞き返したが、ロサードは俺の声など聞こえなかったのか、アドニスにそのデカい箱をぽんと渡した。アドニスは、上機嫌でそれを受け取る。

「いやあ助かりました。どうせなら被験者をじかに見て確かめたいですからねえ」
「ひ、ひけんしゃ、って」
「もしやそれは、アレか。蔓屋つるやの道具か」

 今まで黙っていたクロウが、そこだけは確かめたいのか問いかける。
 すると、アドニスはにっこりと笑って箱を揺らした。

「ええ。早速確かめてみます? ツカサ君。ああ、観客が居ても別に構いませんよ」
「俺が構うわバカァアアアア!!」

 このっ、きっ、鬼畜! 鬼っ!
 なんでロサードが居る前でそんな事言うんだよ!
 つーかクロウもロサードもまんざらでも無い顔しないでください!!
 このままヤられたら俺がブラックにヤバい目に遭わされるだろうが勘弁して!

「た、頼むからやめろ!!」
「ははは冗談ですよ。まあ、この箱の中に玩具が入っているのは確かですが……別の物もちゃんと入っているので、安心して下さい」
「べ、別の物……?」

 なにそれ、やらしい道具じゃないだろうな。
 クロウにしがみ付いて警戒しつつアドニスを睨むと、相手はクスクスと上機嫌で笑いながら、箱を開けてある物を取り出した。

「それ……なに……?」
「これは、君の話を水麗候から聞いて、作ったものです。……私の、緑樹の力でね」
「え……」
「君の曜気の枯渇、もしかしたらどうにかなるかもしれませんよ」











※ロシアクッキー(ロシアケーキ)は日本発祥のクッキーらしいっすね…
 ジャム乗せクッキー自体は世界同時多発的だとは思うんですが
 婆ちゃんとかの言うジャムクッキー=ロシアというイメージは
 お菓子屋さんがそう名付けた所から来ているらしいです。
 
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