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イスタ火山、絶弦を成すは王の牙編
7.知らない内に色々と動いている
しおりを挟む※また遅れて申し訳ない…_| ̄|○
結局あの後、べろべろと舐め回されてクロウの唾液だらけになってしまった俺は、分割払いを懇願してようやく身を離して貰った。
昨日のクロウはどうしてか物凄く意地を張っていて、なかなか俺を解放してくれなかったのだが、本当にどうしちまったんだろうか。
あんまり我慢させちゃったから、反動が来たのかな……なんにせよ、クロウだって寂しかったのは確かなんだろうから、これからは俺も気を付けなくちゃな。誰だって仲間外れは嫌だろうし、それにクロウは自分に関係なくたって俺達に協力してくれてるんだ。その思いやりに応えるためにも、出来るだけクロウを労わろう。
うん、まあ……労わるって言うか……なんかこう、またブラックが怒りそうな事になるような気もするけど、そこは仕方ないか。
こういうのは長引かせたら余計に拗れるだけだし、クロウが表に出してくれた今の内にスッキリさせておかなくっちゃ。
……という訳で、出し疲れてかグッスリ眠って体力を回復した俺は、翌朝再び集合した時にブラックに怒られるのを覚悟でその事を話したのだが……何故かブラックはクロウの首根っこを引っ掴まえて離れた所に連れて行くと、別段怒る事も無くごにょごにょと何やら話し始めた。
途中途中で俺をチラチラと見て何事か喋っていたが、やがてクロウがコクコクと頭を動かして頷くと、ブラックはようやくこちらに近付いてきた。
何の話かはよく解んなかったけど……まあ、怒られなかったなら良いか。
クロウの「食事」に関しては、危険が無く休憩できそうな所でなら良いとお墨付きを貰った。……なーんかいつもよりアッサリだったけど、一体何なんだろうか。
そう言えばラスターもアドニスも今日は静かだな。
いつもなら、ブラックがダラダラしてるだけで「早くしろ」なんてネチネチ嫌味を言ってくるってのに。俺が知らない間に仲良くなったんだろうか?
そういえば昨日は四人別々の部屋だったから、俺がクロウと……ゴホン。ええと、寝ている間に酒盛りでもして仲良くなったのかもな。それならいいんだけど。
まあともかく、そんなこんなで色々と気になる所は有ったが、諍いが無いなら良いかと思い直して俺は今日もまた五人で馬車に乗って、街道を走る事となった。
王都シミラルからパーティミル領に行くには、国境の砦へと続く大きな街道を暫く走り、それから、わき道にそれるように少し小さな道へと入る必要がある。
元々田舎として認識されていた国の端っこ近くにあるパーティミル領は、観光客が多く訪れる今となっても、領地自体はほのぼのとした田園風景が広がる場所だった。
前に一度来た時に見た風景も、とても長閑で俺の婆ちゃんの田舎を思い出すような感じの領地に見えたなあ。まあ……ぶっちゃけとりたてて金持ちと言う訳ではない。
だから、街道も昔のままなのである。
どうしてそうなるのかと言うと、それは簡単。領地が微妙な地域にあるからだ。
パーティミルは国境に面する領地のように国に優遇されている訳でもないし、本当に微妙な位置にあるまったく何事も無い平和な領地だ。
国境には近いが警備の任を負うほどの距離では無く、また国境の砦へと続く大きな街道からも離れている。他の領地よりも石高が有ると言う訳でも無いし、この領地にある街や史跡なども積極的に名が挙がるほどの知名度も無かった。
今はゴシキ温泉郷があるけど、街道は古いままだって言うんだから、おそらく長い間ヒルダさんの領地は地味ながらも堅実に生きて来たんだろうなあ。
パーティミルの領主は一般的な貴族の位である「三等権威」地位に居て、そこまで絶大な存在と言う訳でもなかったので、街道もちょいとしたミニサイズのままだったわけだ。
でも、本当なら今頃は街道が拡張される予定だったらしい。
……それも、彼女の息子であるゼターがとんでもない事をしちゃったから、街道を拡張する話も立ち消えになって、温泉郷以外の土地は今も元気がないんだって。
パーティミル領に着く前に馬車の中でそんな話をラスターから聞いて、俺は本当に今回の話の内容をヒルダさんに伝えようと言う決定にならなくて良かったと思った。
だって、そんな状態で今も大変なのに、このうえ大事な観光地である火山に忌まわしき黒籠石が有るって知ったら、今度こそヒルダさん倒れちゃうよ。
まだパーティミル領にあるって解った訳じゃないし、今の所は黒籠石自体が有るかどうかも分からないんだ。悪戯に彼女を驚かせるわけにはいかないもんな。
正直……彼女にまた会うのは気が重かったけど、そこはもう仕方ない。
またあの時みたいに優しく出迎えて貰えたらいいんだけどなと考えていると、今のラスターの話を黙って聞いていたアドニスが不意に口を挟んだ。
「パーティミル領とやらの内情は解りましたが……何故その犯罪者の息子がいる母を今も領主に据えているんです? 人族の国では、犯罪者を輩出した一族は、他の者達もろとも追い立てられるのではないんですか」
その問いに、ラスターはよどみなく答える。
「そう言う場合もあるし、国家転覆を企んだのであれば……本来なら、ヒルダも領主の座から追われるのだが……。パーティミルに関しては色々と事情が有ってな」
「というと」
俺が言うと、ラスターは俺の方を向いた。
「パーティミル領のゴシキ温泉郷については、今は亡き先代当主が起こしたもので、その経営術を学んだものは今となってはもうヒルダしかおらん。ゴシキ温泉郷は王国の貴重な観光資源の一つだ。急に経営者を変えて廃れさせる事はならん。議会でも散々彼女の処遇について議論し合ったが……結局後を任せられるほどの有能な領主はいないと判断され、今回の決定になったのだ」
「優秀過ぎると厄介、とはよく言ったものですね」
アドニスのさらっとしているようで刺々しい言葉に、ラスターは溜息を吐く。
そうして、皮肉たっぷりの発言に恥じ入っているかのように腰を曲げた。
「いつの世も、突出した存在は厄介なものだ。そう、唯一無二の美貌と実力を持つ俺のようにな。存在感が有ればあるほど、失った時の損失は大きい」
「なんだコイツ」
「それに、彼女には夫を【勇者】を不十分な調査で客死させてしまった負い目があるし……なにより、パーティミル領の領民が減刑の署名を持って来ていたからな。陛下は彼女を今回だけ不問にするという結論を出し、領主に据えたままにしたのだ」
「無視か」
ブラック、ステイ!
隣の席で唸るオッサンのざりざりした顎を撫でて落ち着かせながら、俺はなるほどと頷いていた。……うん、あの、正直「なんで領主のままなの?」って事なんて俺はまるで考えもしなかったんだけど、そういう事だったんだな。
そっか、この世界って昔の西洋風な世界だから、一人がえらい罪を犯しちゃったら一族郎党皆処刑ってルートも居たって普通の物なんだね……。
……今更だけど、あの意地悪王がそういう所は近代的な思考で本当に良かった。
これが厳格な王様だとどうなっていただろう。
いや、今度だけは本当、貴族らしくない貴族ばっかりのライクネスに乾杯だわ。
しかしアドニスはそうは思っていないようで、渋い顔をしていた。
「なんというか……美談に見せかけて随分ゲスな話ですね。結局は国家の利益のために彼女を生かしておく決断をするなんて」
え。ゲス?
ゲスいの今の話。
よく分からなくてラスターを見ると、相手は何だか微妙な顔をしていた。
「民の為と言われれば、納得するしか無かろう。ライクネスも平穏を取り戻したとはいえ、国家が不正を働けば牙を剥こうと言う者が居なくなった訳ではない。一度暴動が起こってしまえば、その火種は延々と燻り続けるのだ。民の目を逸らす“なにか”が起こるまでは、大人しく波風を立てず動かねばならん」
「そんなに民衆が恐ろしいですか」
「ああ恐ろしいな。あの大事件が有ってからは貴族達もすっかり大人しくなって、誰も目立った事など行わなくなっているくらいだ」
まあ、うん、そりゃそうだよね……。
ゼターの手腕が異常だったとはいえ、一時期はとんでもない事になったんだ。あのとんでもない一件を体験していたら、そりゃ今は大人しくしてようってなるわ。
でも、意外だな。ラスターなら絶対そんなことは言わないって思ってたのに。自分より下等だって思ってる存在を素直に「怖い」と言い切れるなんて、どういう心境の変化なんだろう。やっぱラスターもあの一件でちょっと考えを改めたんだろうか。
色々と考えてしまったが、そんな事を離している内に旅程は過ぎ、予定よりも一日早い三日目についに俺達はパーティミル領にあるヒルダさんの屋敷に到着した。
街道が空いてたから、今回は結構早く進めたらしい。
早速ヒルダさんの執事に事情を話して通して貰うと、俺達は執務室で忙しく書類を見比べているヒルダさんに会う事となった。
「あの……すみません、忙しい時に……」
思わず謝った俺に、ヒルダさんは構わないと微笑む。
だけど、やっぱりその顔には少し疲れが見えていた。……今回は約束だけを取り付けて、次の日に来た方が良かったんじゃないだろうか。
でも、俺達だって早く帰らないとエメロードさんの容体が気になるし……凄く申し訳なかったけど、俺達は王様からの書簡を見せて、彼女にイスタ火山を調査するための許可をくれないかと説明した。
ヒルダさんは曖昧な説明に最初は訝しんだものの、王の命令と言う事とラスターが同行していることに事の重大さを感じたのか、ヒルダさんは何も言わずに許可してくれた。ただ、調査が長引くようなら、二日にいっぺんはゴシキ温泉郷に戻って来て、結果を報告して欲しいという事は約束させられたが。
まあ、そうだよな。
大事に守っている場所に領民でも無い俺達がずかずか入るんだから、それくらいは仕方がないだろう。調査の真実を明かせない以上、その他の事については誠実に対応しなければならない。ヒルダさんの心労を増やさないためにもな。
そんな事を話している内に夕方になり、今日の所はヒルダさんの屋敷に一泊する事になったのだが……。
「……藁のベッドから一転、羽毛のベッドか……」
目の前にあるのは、天蓋付きのお客様には豪華すぎるベッドだ。
部屋も「さすが貴族の屋敷」と言わんばかりの品の良い調度品に満ちていて、昨日まで質素な宿屋に泊まっていたのが嘘のような光景だった。
うーん凄いな、グレードアップが過ぎて体が付いて行かないぞ。
今回も一人一部屋という贅沢な待遇はとてもありがたいとは思ったけど、こうも急にグレードアップするとちょっと体がついていかないな……。
これに慣れてしまったら、イスタ火山での野宿がキツくならないだろうか。
「うーん……ちょっと睡眠時間を減らしてみるか。そしたら野宿でもぐっすり眠れるかもだし。じゃあ、その間になにしようかな……あ、そうだ。ヒルダさん、まだ起きてたりするのかな」
夕食までご馳走して貰ったけど、ヒルダさんは何だかまだ仕事が有るみたいだったから……恐らく今も執務室に居るはずだよな。
…………一晩泊めて貰ってるお礼に、何か夜食でも作れないかな。
それだけじゃお礼にはならないかも知れないけど、やれることはやっておきたい。
よし、そうと決まったらまずメイドさんか執事を探そう。
台所を借りて良いか聞いておかねば。
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