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空中都市ディルム、繋ぐ手は闇の行先編
51.束の間の喜びなら1
しおりを挟む【移送】――。
一言で表現されるとどんな物なのかよく判らない特技に思えるが、その真価を知ると、今までの不可解さが一気に解消されて俺達は絶句してしまった。
移送は、主な能力として“あらかじめ指定した二つの位置”にある“任意の物体”を、入れ替える力を持つ。つまり、SF映画で良く見る転送装置のような能力だ。
エメロードさんが言うには、ある程度の制限が有って物資輸送には向いていないと聞いたとの事だったが、しかしそれでもクロッコのその能力が脅威である事に変わりは無かった。だって、俺達はその能力を嫌と言うほど味わって来たんだから。
クロッコがブラックの所へ簡単に行き来できたのは、その能力を上手く使って指定位置にある存在を入れ替えながら移動して来たからだ。
鉱山で痕跡を残さず消えたのも、プレインであれほど早く首都のディーロスフィアに到着して虐殺を行えたのも、これで全部説明が付く。イスタ火山での騒動は、何か別のものが関係あるような気もするが……とにかく、あの男が伝令係に選ばれた訳も納得だった。
エメロードさんが言うには「この能力は近しい者にしか明かしていない」との事だったので、知っているのは片手で数えるほどしかいないらしい。
だけど、彼女が見たクロッコの特技は、それでも充分に恐ろしい物だった。
二つの位置、というと相互間の移動しか出来ないと思いがちだが、クロッコの能力の場合はそうではない。予めマーキングしておいた場所に、例えば蜜柑を一個でも置いておく事で、そこと別の場所のモノを入れ替える事が出来るのだ。
後はその場所を記憶していさえすれば、それらは無限の移動場所となる。しかも、話を聞く限りでは、許容限界があるというだけで、人二人くらいは移動させられるのだという事だった。レッドが一緒に消えたのも、移送の力によるものだったのだ。
イスタ火山で【白煙壁】を使ったのは、煙幕を張る行為により「徒歩で逃げた」と錯覚させる目的があったんだろうな。事実、俺達はそうだと思ってたし、クロッコ達がどうやってダンジョンに入り込む事が出来たのかも判って無かったんだから。
でも、今ならどうやってアイツらがダンジョンに忍び込めたのか解る。
あれは多分、あらかじめヒルダさんに何かを持たせておいて、そこに自分自身を【移送】したのだろう。でなければ、あの時点でダンジョンに入る事はできない。
……となると、クロッコの【移送】のルールがそれなりに解って来る。
つまり、アイツの特技である“二つの物の位置を入れ替える”というものは、ただ単に物を設置するのではなく、例えば何かのマークや特定の物を置く事で、その位置を認識して物を移動させる事が出来る……という事なのではないだろうか。
つまり、“なんらかの目印”を用意して、そこに“物を置く”という行為を行わなければ【移送】の下準備は完了しないのだ。
だから、クロッコは今までイスタ火山のダンジョンに入る事が出来なかった。
ヒルダさんが入って来て初めて現れたのは、そう言う事だったのだろう。
俺達のその予想は、エメロードさんの話の後に確かなものとなった。
エメロードさんと話した後、クロッコについての手がかりが無いか真宮の執務室を調べようという話になって、あの剣が突然出現した壁をよく確かめたら……そこに、紋様のような印が書かれた呪符が張り付けられているのが見つかったのだ。
怒り心頭のラセットが危うくその札を破りそうになったが押し留め、とにかく他に呪符があったら危ないという事で、王宮内を総出で探して貰うことになった。
……と、出るわ出るわ。本当に色んな所から、飴玉くらいの大きさの石が括りつけられた呪符がわんさか出て来たのである。
これによって、クロッコが本当にいたるところで【移送】を使っていた事が解り、王宮の神族達は震撼していたが……でも、予想が当たってくれて良かったと思う。
だってさ、もしこれで予想が外れていたら、クロッコの特技はマジで壁なんて関係なくすり抜けられちゃうレベルのモンだって事になってたワケだし……。
…………まさか、この大量の呪符すらフェイクだって事はないよな……?
ないと信じたいが……今は、予想を信じるしかないか。
俺達は真宮のガサ入れを手伝っただけだが、あそこで入ってくる情報だけでも相当の数の呪符が見つかってたみたいだし……今もきっと王宮は大騒ぎなんだろうなあ。後は自分達でやるからと、俺達三人組はバリーウッドさんとラセットに追い出され、すごすごと別荘に戻って来たので、想像する事しか出来ないのだが。
「……それにしても……凄い事になっちゃったなぁ」
ちくちくと部屋で一人縫い物をしながら、しみじみ考える。
ぶっちゃけた話、なんだか実感が湧かない。
エメロードさんがクロッコの共犯者で、クロッコはギアルギンで、そのギアルギンにはテレポート並の特殊能力が有って、俺は今までそんな奴に敬語を使っていたワケで…………ああ、思い返してもムカムカする。
なんで俺はあんな最低な奴に敬語を使ってたんだ。
アイツを信用しちゃってた俺がホントにバカみたいだ。あの野郎、きっと、アホ面ひっさげて仲良くしようとしてた俺を見て内心笑ってやがったに違いない。
そんな事にも気付かずに俺はヘラヘラとおぉお……!
「あーっもーっ今思い出してもイライラするぅう!」
なーにが真実を知っても幸せにならないだ!
そりゃそうだろうよ、お前がギアルギンなら真実は最悪な物だ。でもそれは、真実にショックを受ける要素が入ってるというだけで、ガッカリした要素ってのはギアルギンの正体がアンタだったって事に変わりは無いだろう。
真実を知ること自体が悪いんじゃない。悪意のある真実を持っている奴が悪いだけであって、真実を知る事が辛いって事にはならないだろう。
俺がショックを受ける真実ってのは、知らなきゃ良かったってのは……
……ええと……自己再生能力は、最初は知って後悔したけど今は有益な力だなって思ってるし、今まで知った事だって、知らないよりは知れて良かった事ばっかだったから……うーん……何も良い要素が無い真実って、どんなのかな……。
俺がショックを受ける真実って、なんだろう。
……ブラックが、別の誰かを本気で好きになったのを隠してた時……とか?
「…………だーっ! そういうんじゃなくて!!」
違う違う、何考えてんだ俺は!
今はそんなこと考えてる場合じゃなく……と、とにかくあれだ。これで、クロッコの【移送】は一時的に封じる事が出来たはずだけど……なんだか不安だなあ。
アドニスの【異空間結合】と比べるとクロッコの【移送】は見劣りするが、でも、脅威じゃないと断じる事は出来ない。
エメロードさんは「あくまでも自分が見た範囲の事でしかない」と言っていたので、もしかしたら他に隠し玉も有るのかも知れないし……でも、俺達にはこれ以上の自衛は出来っこない訳だから、悩んでも無駄なのかなあ……。
チート能力に怯える敵って、こんな気持ちなんだろうか。
可能性を潰しても潰しても、相手がその予想を軽々と越えて来ちゃうかもしれないと考えてしまう。そんな奴を相手にしなきゃいけないんだから、そりゃ発狂したって仕方ないのかも知れない。
クロッコの能力って、そのくらい凶悪だもんな……。
「でも、どうしようもないか……。呪符が鍵だって信じるしかないよな……そうだと割り切らないと、先に進めないし」
とにかく今は、休めるだけ休んでおこう。
エメロードさんの処遇については、クロッコの件が片付かないと会議をする事すら出来ないみたいだし、シアンさんも容疑は晴れたけど「襲撃されたら危険だから」と未だに鳥籠に軟禁されてるんだ。それに、エネさんも見つからないし……何かコトが起こるまでは、しっかり休んでおかないとな。
「しかし……エネさん、無事だと良いんだけどなあ……」
針を抜き、布に差し入れ、糸を縫い込みながら考える。
別荘に戻ると、何故かブラックは「部屋に戻るね」と速攻で自室に戻ってしまい、クロウは眠たいので寝ると部屋に行ってしまったので、俺は気兼ねなくブラックへのプレゼントをチクチク縫っている訳だが……やっぱりなんだか落ち着かない。
クロッコは逃げたってのに、どうしてエネさんは見つからないんだろう。皆が島中を何度も探してる訳だから、見つかっても良いはずなんだけどな。
アイツがエネさんの事を持ち出さなかったって事は、人質みたいな使い方をしようと思ってる訳じゃないとは思うんだけど、それならそれでとても危険だ。人質ってのは生きているから価値が有るんであって、それ以外の理由で捕まえたのなら……命の保証は出来ないんだ。
あの卑劣漢がエネさんをどう扱っているのか心配になるけど、さすがに身内には、酷い事はしてないよな?
でもエメロードさんは殺そうとしたし……あぁあ……不安だ……。
「…………あっ」
手の中にあった布が、いつの間にか終点にまでたどり着いている。
気が付けば、糸を縫い込んだバンダナはもうどこにも隙間は無い。空に透かすと、陽の光にうっすらと七色の輝きを放っていた。
「お……おお……ついに完成した……」
落ち着いた色の布なのに、光に透かしたらこんなにキラキラするなんて。
ただ無心で縫ってたけど完成するとこんなにすごい感じになるんだな……。
「……こ、これを、あとは……ブラックに、ぷ、ぷ、ぷれぜんと……」
プレゼント、する……。……プレゼントって……ど、どうすればいいのかな。
普通に渡して良いの? でも普通ってどんなの?
恋人になったらどうやって渡せばいいんだ。やっぱり何か綺麗に飾って渡さなきゃダメなのかな? ああもう解らん、どうしたらいいのか解らん!
男にやるんでもラッピングしたほうが良いのか!?
でも、ラッピングしてもどうやって渡せばいいんだ。
やっぱり雰囲気とかも大事にした方が良いのかな。何か良い感じの場所をリサーチした方がいい? こ、恋人らしくしてからの初めてのプレゼントなんだし、ちゃんと記念に残るようにしたほうが……で、でも、そんなのは男らしくないのかな。普通に渡した方が日常感とかあるし変に格好つけてなくてスマートかもしれないし……。
「う、うう……ちっ、違う、今はそんなこと考えてる場合じゃなくてっ!」
いっ、いかんいかん!
こんな状況で何を考えてるんだ俺は!
さっきエネさんの事を心配したばっかりじゃないか。どうかしてるぞ!
くそっ、駄目だ、一人でいるとまた色々考えてしまう。
「ぐぬぬ……散歩でもして頭を冷やすか……」
今の状況じゃ完成したって渡すタイミングが掴めないもんな……。
とりあえずブラックに気付かれないようにバッグに入れておこう。
「しかし、こうなるとやる事が無くなっちゃったな」
読書をしても良いんだが、出し入れするにはこの部屋はちょっと豪華すぎる。
本の入った木箱をスクナビナッツから出した時に、不具合で箱が飛んで調度品などを壊してしまったら、どんだけ弁償すればいいのか考えもつかない。
ブラックは何か用事が有りそうだし……エーリカさんに何か手伝えないか聞きに行ってみようかな。家事でもしていた方が気が紛れるだろう。
そう考えて部屋から出ようとすると。
「ツカサ君っ!」
ノックもせずに誰かが入って来て、そのまま駆け寄ってきた。
こんな無遠慮な事をするのは一人しかいない。
「なんだよブラック、ノックもせずに……」
ノックぐらいしろと怒るが、ブラックはそんな事など気にもせず人懐っこい笑みを浮かべながら近付いて来る。何か機嫌が良くなる事でもあったのだろうかと思ったら、ブラックは俺の手を掴んでぐいぐいと引っ張り出した。
「ねえねえツカサ君、今からデートしよ!」
「で、デート!? お前今の状況解ってる!?」
エネさんも見つからないしクロッコの消息が分からなくて厳戒態勢だし、そのうえエメロードさんもまだ本調子じゃないんだぞ。この状態で何をデートが出来ようか。
さすがに不謹慎じゃないかとブラックを諫めるが、当の本人は何が不謹慎なのかと言わんばかりに首を傾げて、少し口を尖らせた。
「僕達には何もするなって言ってるんだから、別に良いんじゃない? 放っておく方が悪いんだよ。指示をくれるなら的確に指示してくれないとねえ」
「そ、そんな屁理屈……」
「屁理屈でも良いよぉ! ツカサ君だって、ずーっとゴタゴタ続きで息を吐くヒマも無かったでしょ? だからさ、気分転換がてらデートしようよぉ。ねっ」
「ううむ……」
確かに俺も今さっきそんな事を考えていたけど、でもデートはどうなんだ。
別にブラックとデートするのが嫌なんじゃなくて、時と場合と場所によりってのがあるワケでな。俺達だけが楽しんで良いのかって問題もあるし……。
どうすべきかと悩んでいると、不意にブラックが真面目な声で呟いた。
「見せたいものがあるんだよ」
「え?」
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「ツカサ君に見せたいんだ……だから……ね?」
見せたいものが有るからデートするのか?
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「付いて来て、くれるよね」
そう言いながら、ブラックは俺の顎を優しく指で上向かせる。
キスでもされるんじゃないかと思って少しドキッとしてしまった俺に、ブラックは嬉しそうに微笑むと、頬に軽く口付けた。
「行こっ」
笑顔でそう言われて手を繋がれると……どうにも、拒否する事が出来なかった。
………ま……まあ、良いか……。
どうせ散歩する事も考えてたんだし、一人でいるよりはマシだろうしな。
→
※またもや遅れて申し訳ない……
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