異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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暗黒都市ガルデピュタン、消えぬ縛鎖の因業編

8.憶測も信頼も一方的な物

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 安そうな奴隷って何だ。
 つーか、何でこんな事を言われなきゃいけないんだ?

 ちょっとワケが解らなくて混乱していると、イケメンを鼻にかけたファンタジーな髪色の二人は、宝石入りの豪華な首輪を見せびらかしつつ俺を値踏みして来る。

「この首輪使い古しの奴じゃん。もしかしてお前、労働用でも最低の等級?」
「黒髪とか初めてみた~。すっげーボサボサで艶もなさそ~。愛玩用とか絶対ありえなさげなんですけど~あははっ! ってか、なんかコイツ臭そうじゃね?」
「綺麗にして貰ってなさそー。小間使いにしても服装質素過ぎだし、愛玩用とか本当ありえねー! 半ズボンとかダサすぎだし、あはははっ」

 こ、こいつら……なんてありがちな新人いびりを……。

 いやまあそりゃ俺の髪はお元気ですよ。くせっ毛とまでは行かないけど、サラサラじゃないし猫っ毛ですよ。臭いのはまあ風呂入れて貰ってないし、水で体をくのも限界があるし……なにより石鹸ないんだもん、そら風呂に毎日入ってそうなアンタ達と比べたら臭いでしょうよ。でもさ、男って汗臭いのがデフォルトだろ。

 男だが女を目指してるってんなら何も言わないけど、普通の事をそんな風に面白い事みたいに笑われるのは不愉快だぞ。
 お前らだって男だろうがっ、つーか初対面の相手に臭いとか言うな!
 そもそも俺は毎日体拭いてるから臭くねっつの!

「でも十二歳くらいだろうし仕方なくね? ちんちくりんのイモみたいなのでも」
「そうだね~。これじゃ成長しても期待できなさそうだけどね~」
「俺は十七歳だ!!」

 ちんちくりんのイモ容姿と言われるのはもう別に良い、この世界は美形が多すぎるから、俺の顔がそう思われたって仕方がないのは覚悟していた。
 だがな、年齢誤認だけは我慢出来ん。
 俺のどこがガキだってんだー! がーっ、こんちくしょー!!

 ふざけんなと怒った俺に、無駄にイケメンな二人組は顔を見合わせると、苦労した事もなさそうな綺麗な手で口を隠しながらクスクスと笑った。

「しつけも最悪なんですけど~。これホントに奴隷? 罪人とかじゃなくて?」
「こんなの連れ歩いてんだから、成金なりきんガストンも遂にヤキが回って来たって事かな。あはは、まあご主人様を見殺しにして帰って来たクズだし、全然同情しないけどぉ」
「見殺し……?」

 何それ、全然聞いてないんだけど。
 思わず問い返すと、チャラチャラした二人は顔を見合わせて、それから意地が悪い笑みを浮かべながら俺にずいっと顔を近付けて来た。

「知らないんだ。信頼されてないとか可哀想~」
「でもまあ、僕達はあんな下品な成金と違うから教えてあげるよ」
「う……」

 嫌な予感しかしない。というか、教えてあげると言っている時点で、彼らにとっては面白い話である事に違いないんだろう。不都合なら教えようと思わないんだから。
 でも、俺は知りたかった。

 だってあの人、悪ぶってるけど鬼畜な悪人には絶対になれない人だよ。
 不機嫌になって俺にゲンコツを喰らわせることは有るけど、それ以上の暴力なんて振るった事無いし、何より……火傷の痕が目立つ俺を放り出そうとしないで、真面目にどう価値を付けようって考えてるような人だし……。
 とにかく、そんな人が知り合いを見殺しになんて出来っこないって絶対。
 そうなったんだとしても、何か理由があるはずだ。

 ……そりゃ、俺は商品でしかないし、信用されていないかも知れないけどさ、でもだからって、助けてくれた人が悪く言われるのは見過ごしていられない。
 何より、ここまで聞かされてモヤモヤしているだけなんて、我慢出来なかった。
 自分でも不思議だけど、ガストンさんが悪く言われるのが凄く嫌だったんだ。

 そんな俺に、二人はニヤニヤした顔で説明しだした。

「数日前の話なんだけどぉ、ウチのご主人様とあの成金が、新しい奴隷を仕入れる為に、ウチのを何人かを連れて馬車で移動してたんだって。でもさ、ガルデピュタンの周辺って盗賊とか多くて治安悪くってさ~」
「だから運悪く“入らずの森”ってトコで盗賊に出くわしちゃって、有り金をぜ~んぶ奪われたうえに、ウチの奴隷も殺されたり取られたりしたらしくてねえ」
「そ……そんなの、ガストンさんのせいじゃないだろ……」

 どうせ、ガストンさんだけ逃げたのが気に入らないって言いたいんだろ。
 でも仕方ないじゃないか。そんなの緊急避難だろ?
 あの人は曜術を使えるけど、それも攻撃に使えるほど強い物じゃないみたいだし、俺より体格が良いと言ったって一般人とほとんど変わらないんだ。

 なのに、ファンタジー名物の異様に強い盗賊集団に出くわしたんだから、そりゃ戦う事も出来ずに逃げたって仕方ないだろう。一般人に暴力集団に立ち向かえってのが無茶だよ。殺された人達の事を悔やむのは当然だけど……だからって相手に敵わないって解り切ってる人が逃げたのを恨むのは、筋違いだろうに。
 それとも、無駄な事をして一緒に死ねって言いたいのか。そんなの横暴だ。

 理不尽な二人の怒りにこっちまでイライラとしていると、相手は俺が言いたい事を察したのか、片眉を上げて挑発するように俺の鼻先に指を突き付けて来た。

「はぁ~? フツーにアイツのせいなんですけど? 一人で逃げずにボク達のご主人様も連れて逃げてくれたらご主人様も助かったんじゃないのぉ?」
「詳しい状況はアイツしか知らないからって、ウソをついてる可能性もあるしなァ。盗賊に襲われて、自分達の奴隷すら見捨てて逃げたのを隠してるだけだろ」
「そっ、そんなこと……!」
「なんでそう言いきれるのさ」

 反論しようとして、封殺される。
 ……なんでと言われても、自分の主観から来る予想しか出来なかったから。

 そう。俺は結局、ガストンさんの事をほとんど知らない。こういう人なんだろうなってぐらいしか解らないんだ。だから、あの人が見捨てて逃げたりして無いという証拠は俺の中には何も無かった。

「ほーら言い出せない。当たり前だよなあ、お前信用されてなさそうだもん」
「等級が最低な奴隷って信用も信頼もされてないもんね~。こんなみすぼらしい恰好してるし、華もないし、首輪すら他の奴隷のお下がりだし。ウソの言い訳すら教えて貰ってないなんて、可哀想な底辺奴隷だなー。はははっ」

 クスクスと笑いながら、俺を言葉の針で刺してくる二人。
 ……そりゃ、信用されてないだろうさ。だって俺、数日一緒に暮らしただけだし。ガストンさんにとっての俺は、いつか売るために用意してるコマみたいなもんだし。そんな物に、信頼なんて寄せる訳が無いじゃないか。

 この館にずっといて可愛がられているんだろう、綺麗なアンタ達から見れば、それなりのシンプルな服装をしている俺は滑稽なのかも知れない。
 だけど、だからってもう信頼しないなんて言えないよ。そんな風に人に何かを言われてすぐに信用しなくなってしまったら、俺はただの流され屋だ。

 確証のない事で態度をすぐに変えるなんて、義理も人情もないじゃないか。
 それに何より、ガストンさんが俺を連れ帰って、嫌なことなんて何もせずに手当をしてくれたのは事実なんだ。そんな人を疑うなんてしたくない。
 いや、俺には出来ない。

 自分の心の中にある“ガストンさんへの信頼”を、裏切りたくなかった。

「……アンタ達がなんて言おうが、俺は自分の信じたいものを信じる」
「は?」
「勝手に逃げたって言うけどさ、それもアンタ達の想像だろ? ガストンさんは何も言わないけど、アンタ達のご主人様を助けようと必死になったかも知れないじゃないか。そっちこそ、憶測だけで物を言わない方が良いよ」

 嫌いなモノを憶測で語るってのは、誰にでもある事だと思うけど……でも、それを得意げに他人に言ったりするのは違うだろう。
 間違ってた時に恥をかくのは自分だし、自分が嫌いな人を慕ってる奴に罵詈雑言をぶつけたってそんなの平行線以外にはなりようもないんだから。嫌うなら嫌うで良いけど、わざわざ俺に言いに来て喧嘩の種を生もうとするのは流石に意味が解らない。

 俺からすれば、アンタ達の方がよっぽどタチ悪いよ。

 思っても言わないようにぐっと堪えて目の前のいけ好かない奴らを睨み付けると、俺の顔はよっぽど判り易いのか、二人ともどこか怒りを含んだ表情に顔を歪めた。

「なにコイツ。主人が主人なら奴隷も奴隷なんですけど」
「ウッザ。僕らの家に勝手にあがりこんどいて何様のつもり?」
「招かれても居ないクズ奴隷のくせに、人の家に入ってきてんじゃねーよ!」
「ッ!?」

 ぱん、と何か乾いた音がして、視界が急に横を向く。
 次第に頬がジンジンと痛くなったが、その事に気付く前に俺は自分よりも背の高い二人の奴隷たちにシャツのえりを引っ張られて、そのまま外に放り出されてしまった。

「いっ、て!!」

 強引に出されたもんだから、そのまま飛んで腹ばいに地面にぶつかってしまう。
 同時にやっと頬を平手打ちされたんだと理解して、俺は左頬を抑えながらよろりと起き上がってその場に座った。

「っ、たたた……。滅茶苦茶やるよなアイツら……悪い方の女性メンタルかよ……」

 女性みんながああではないのは知っているが、女々しいと言わざるを得ない。
 いや、人を引っ叩いて放り出すのはある意味男らしいのかな……なんにせよ、俺は嫌がらせ的な事をされてしまったらしい。
 ……まあ、玄関の外で待ってればいいだけなんで別に良いんだけど。

「はぁ……。よいしょっと」

 それよりも心配なのは……服の全面を派手に汚してしまったって事だ。パンパンと払っても中々落ちないんだけど、これガストンさんに怒られやしないだろうか……。
 シャツは柔らかくて気持ち良い感触だったから結構いい素材だろうし、何よりこれ以上商品価値が下がったら、今度こそ捨てられてしまうかも知れない。

「……いや、捨てられた方が都合が良いのか?」

 ガストンさんの事だから殺したりはしないだろうけど、しかし見捨てられて【黒狼館】から追い出されるのは嫌だな。この街で衣食住を失うのはかなり危険そうだし……何より、俺一人でここを脱出できる気がしない。
 いくらガストンさんが悪人に成りきれない人だとは言っても、あの人の商人としての考え方は真っ当だ。要らないと判断すれば、即切り捨てる事もきっとあるだろう。だから奴隷置き場で待機してる奴隷も少ないんだろうし……。

 こうなったら、失望されないようにしないとな。とりあえず、戻って来たら外で待っていた事への謝罪をして、服の事を詫びなければ。
 ……まあ、俺が悪いんじゃないのに謝るってのもおかしな話だけど。

 そんな風に、服を気にしてうつむいていると。

「よぉ、お前ナニしてんだ?」

 不意に声を掛けられて、声がした方を見やる。
 そこには、いかにもガラが悪そうな体格のいい男がいて、ニヤニヤしながらこっちをジロジロと見て来ていた。

 なんか視線が嫌だ。上から下まで舐めるように見る仕草とか、値踏みしてる感じの視線にしか思えないんだけど、他に意味があるのか。気さくに話しかけて来てくれたのは嬉しいが、俺のチート小説からの経験則だとヤバい人のような気がする。

 だって、こういう時に呼びかけて来るのって大抵悪い人だろ? 今は金目の物とか持ってないから良いけど、でもこの街じゃ最悪刺されて死ぬっぽいからなあ。
 金は持ってないけど油断は禁物だ。うっかり刺されて死ぬとか冗談じゃない。

 じりじりと近寄ってくるガラの悪い男を警戒し、ドアに思い切り背中を付けると、相手は薄く笑みを浮かべて一気に歩幅を勧めて来た。

「お前奴隷だろ? いくらだ」
「……え?」

 いくらって、なに。俺はイクラじゃないですよツカサですよ。
 ……じゃなくて。いかんぞ現実逃避は。「いくらだ」の意味は俺でも解るわ。
 要するにそれって、俺が立ちんぼ……街頭に立ってえっちな事をしつつ金を稼ぐ人に見られてるってことじゃないか。冗談じゃない。

 ええと、まずいつもの態度で接して、俺はそんな職業ではないと説明しなければ。
 いくらガラの悪い人だからって、人の話を聞かないって事は無いはず。
 だったら、こんな怖い人にも真面目に接さねば。

「おい、いくらだって訊いてんだろ。銅貨三枚か? 満足させてくれるんなら、銀貨一枚で手を売ってやっても良いぜ」
「あ、あの、俺そう言う職業じゃなくて、ご主人様を外で待ってるだけで……」
「何だお前新人かよ。……へへっ、ますます飢えて来たぜ……大丈夫だよ、ご主人様の所から離れたりはしねえ、路地裏で可愛がってやんよ」
「えっあ、ちょっと待って、今のはそういう事じゃなく……」

 違う違うそうじゃない。俺そういう職業じゃないんだってば。
 ちょっとこのお兄さんおかしいぞ。もしかして話が通じないタイプ?
 こんな人に掴まったら、タダじゃすまない。

 ――とにかく逃げるか、さもなくば説得せねば。
 どっちにしろ無理ゲーだがやるほかない。しかし相手は俺の予想を裏切って来て、今度は俺の脇腹をぐっと鷲掴み引っ張り上げて来た。

「うわあぁ!?」
「金は後払いでいいよな? はぁー楽しみだぜ」
「ちょっ、なっ、ま、待って、待ってってば! 俺そんなつもりで立ってたんじゃ……!」
「さあさ、早く行って済ませようぜぇ?」

 男はニヤニヤした笑みを深くして、俺を強引にどこかへ連れ去ろうとする。
 必死に体を動かし抵抗しようとするけど、男の手は俺を離すどころか肉に食い込むほどに強く掴んできて、桃羽鳥の館から離れて行ってしまう。

 助けを呼ぶように大声で「やめろ」と言うが、どうする事も出来なかった。











 
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