1,110 / 1,264
最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
29.正常と異常の狭間で1
しおりを挟む自分の記憶の他に、自分がやったこととは全く思えないけれど“俺の記憶だ”と認識できて、尚且つ鮮明に思い出せる記憶がある。
俺としては夢の中の出来事だったみたいで、とても信じられなかったけど……実際目の前にブラックが居て、自分の体にえっちした痕跡があるんだから、現実だと認めなければ仕方がない。
あまり思い出したくないが、俺がレッドに“支配”されて恋人だと思い込んでいたのも真実で、ブラックに樵小屋で無理矢理えっちさせられたのも事実なのだ。久しぶりのケツの痛さを思い知れば、それが嘘だとは言えなかった。
……つーかこれ強姦だからな。俺がブラックと、その……こ、恋人だから、今回の一件も「このクソオヤジめ」みたいな感覚で許せるけど、これで俺が記憶が戻らないままでガチ強姦のあと肉奴隷にでもされてたら、トラウマどころの騒ぎじゃ無かったんだからな。本当にエロマンガみたいな展開になってたんだからな!?
っていうかさあ! そりゃアンタの顔はムカつくくらいイケメンだけど、無精髭だらけでしかも完全に正気じゃない目つきで強姦されたら、アンタそのまんま「盗賊のお頭に攫われて強姦された村娘」シチュだからね!?
俺は娘じゃないけどそのまんまだしそうなったら犯罪者なんだからな!!
まったく、本当にブラックの野郎、めちゃくちゃやりやがって……。
…………ま、まあでも……その……俺の事をずっと探してくれたんだし……えっちした事で、俺の“支配”が変な感じになって記憶も戻ったんだと思うし……。
お、思い出せたんだから、良いよな。ブラックが変態で強姦魔なのは今に始まった事じゃないし、それに…………こういうのするの、俺とだけ、らしいし……。
それはともかく!
俺が記憶を取り戻した上に、目の色が変な感じになってるってのはヤバい。
ブラックに言われて初めて気づいたけど、俺ってグリモアに“支配”されている時は瞳の色が“支配”したグリモアの属性の色に変わるらしいんだよな。ブラックが言うには、レッドは炎の属性だから赤色で、ブラックだったら紫になるらしい。
そういえば、レッドに“支配”されている時に鏡を見て、瞳が赤い自分をみたような気もする。こんな風に記憶が復活しなければ絶対見られなかったよな。
今まで何度か“支配”されてたみたいだけど、俺はその間の事を覚えていられないみたいだしな……。まったく、今更ながら文明の神・アスカーの置き土産ってのが凄く厄介な物だったんだと思い知らされてるよ。
神様ってのは大体が良い事と悪い事の両方をやってるもんだが、元は俺と同じ世界の人間だったらしいアスカーは、本当に極端すぎる。
確定は出来ないけど、今この世界に存在している魔法……曜術は恐らくアスカーが作り上げたモノだろうし、国家が生まれる基礎を作ったのもあの神様だ。
だけど、人を見下し敵を徹底的に排除しようとした恐ろしさは、今も呪いのように俺達を苦しめている。支配なんて呪いが無ければ、今頃俺は普通にブラック達と旅をしていたかもしれないのに……。
「…………まあ、結果的に敵の懐に入り込めたし、今のところクロッコの陰も全然見当たらないし……禍根を断ち切るなら絶好のチャンスだよな……」
行きとは打って変わって、ブドウや野イチゴがたくさん詰め込まれたバスケットを抱えながら、俺はブツブツ呟きつつ森を歩く。
あれから一時間ぐらいブラックと話し合ったが、やっぱり今はレッドの所に帰るのが最適ではないかと言う結論になって、俺は家路を急いでいるのだ。
そう、この変な瞳のままで。
……なんでそんな事をするのかと言うと、それは色々と事情があるからだ。
端的に言うと、このまま逃げるのは奴隷の首輪の制限でダメだし、今の状態がそもそもおかしいからレッドと離れるのは危ないかもしれないし、それになにより、あのクロッコという諸悪の根源がいない状態でレッドの事を探れるのだ。
しかも、あの別荘はレッドの過去に関する手がかりが詰め込まれている。
今のこのチャンスを利用しない選択肢は無かった。
「しかし……俺一人で出来るかなあ……」
自分からブラックに「親の仇という誤解を解く証拠があるかもしれないから」とか言って、納得して貰ったんだけど……なんとも心配だ。
つーか良く考えたら俺って今記憶が混在してる状態だし、いつ失敗をやらかしてもおかしくないんだよな。今の俺じゃ、うっかりレッドを拒否しかねないし……。
「…………不安だ……」
ブラックには心配させないようにと明るく振る舞ったけど、凄く不安だ……。
俺の中にはレッドと過ごした時間があって、確かにレッドの事を憎み切れない記憶が有るんだけど……でもだからって、その短い間の記憶が俺の十七年培ってきた物に勝てるかどうかは分からない。
十七年生きて来て、俺は最終的にブラックと一緒に居る事を選んだんだ。
支配されていた間の記憶が、その思いを凌駕するほどのものかと言われれば……レッドと暮らした期間は、あまりにも短く曖昧で。
記憶が無くなった時と一緒の行動を出来るかと言われたら、自信が無かった。
……でも、本当の事を言うと、不安はそれだけじゃなくて。
ブラックには言えなかったけど……困った事に、支配されていた間に俺がレッドに抱いていた感情は、無くなっていなかった。
俺は、レッドに対して抱いていた「役に立ちたい」とか「ずっとそばにいたい」という気持ちを、完全に切り捨てる事が出来ていなかったのだ。
「マジでわけわかんねぇ……」
本当に、自分でも理解出来ない。
たかが数日一緒に過ごしたからって、恋人ごっこをしたからって、あんな……あんな、悲しい過去を聞かされたからって……なんでここまでレッドに入れ込めるのか、意味が解らなかった。
だけど、そう思っても俺の中の「記憶喪失だった時の思い」は、消えなくて。
それどころか、感情が鮮明に戻った今は、レッドの辛そうな表情を思い出しては心が痛むような有様だった。
……こんなの、ありえない。変だ。なんでこうなっちまったんだろう。
俺は、レッドに“支配”されて何もかもを奪われたんじゃなかったのかよ。
なのにどうして、俺はレッドを憎む以外の感情を抱いているんだろう。
「感情は、支配の影響を受けなかったのかな……」
呟くけど、森の中では誰も返事をしてはくれない。
レッドが何を言って”支配”したのかは解らないけど、でも、俺が感情すらも失ってアイツに世話をされていた間に抱いた感情は、支配とは関係ないって事なのかな。
赤い瞳の時の俺は、感情が無いなりに、レッドを思ってたって事なんだろうか。
じゃあ、今までの気持ちは、レッドが操った物じゃないのか?
だから俺は……今でも、レッドの事を……。
「…………」
変。やっぱり、変だよ。こんなの絶対違う。
あんなに嫌いだって思ってたのに、敵だって考えてたのに、何で記憶を失った俺はレッドの事を守ろうとか一生懸命喜ばせようとか思ってたんだろう。
俺は、ブラックや大事な人達を傷付けるレッドが大嫌いだったのに。
顔も見たくなかったし、二度と会いたくなんてなかったのに。
それに、俺が記憶を失ったのだって、レッド達が俺に何かをしたんだ。
だから、いくつかの情報があるのに感情も記憶も無いなんて変な状態になって、俺自身も何がおかしいのかすら解らないまま、レッドの言う事を素直に聞いて……。
「…………でも……」
でも……俺が記憶を失っている間、レッドは俺に対して優しくしてくれた。
俺が怖いと思わないように、夜の事もお互いのイチモツを触り合う程度で、俺の尻にすらまだ到達してないレベルだったんだ。
もし俺が同じ立場で、自分好みの美少女が言う事を聞いてくれるようになったら、恐らく悪い事と知りながらも一線を越えていただろう。
だってそうした方が、より早く意中の相手を略奪できるもんな。
今流行の寝取りモノって奴だ。なのに、レッドはそうしなかった。
いや……出来なかったのかな……。
そう言えば、あの【工場】でもレッドは俺を“支配”して犯そうとはしなかったし、クロッコからの誘惑にも怒ってたような気がしたし……。もしかして、そう言う所は臆病って言うか……感覚がまともなのかな。
だから、俺を“支配”しても、強引に自分の物に出来なかったとか……。
いや、しかし、だからと言ってブラック達に酷い事をしたのは許せないぞ。
クロッコに肩入れしてたのだって怒ってるんだからな俺は。
でも記憶を失っていた時の俺はレッドに良い感情を抱いてたし、あんな過去の話を聞くと、さすがに俺も同情してしまうって言うかうーん……。
「ああもう解らん!! と、とにかく、俺が記憶を取り戻したってのはバレないようにしなきゃ……。近くにブラックがいるって事を知られたら、それも厄介だし……」
一応体も洗ったし服も乾かしたし、なんならブドウとかイチゴみたいな果実を摘んで良い匂いすら纏わせてるわけだから、なんとかなるだろうけど不安だ。
俺、いざという時に限ってポカをやらかすからなあ……。
「でも、とにかくやるっきゃない……!」
いざとなったら、ブラックが持って来てくれた指輪が守ってくれる!
……とか、ブラックが言っていたから……きっと、何とかなるはず!
そう意気込んで、俺はレッドと対峙すべく彼が待つ別荘へと歩き出したのだった。
→
※特に何も進んでなくてごめんなさいです…次回は進むよ!
25
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる