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最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
30.自分がまともであると断定する根拠とは
しおりを挟む居間の暖炉の前に立たされ、その真正面の豪奢なソファにレッドが座る。
だけど相手の表情は固く、明らかに俺を疑うような目つきで見つめていた。
……やはり、どうあっても、こちらの感情の真偽を確かめたいらしい。
俺が本当に“都合よくブラックの事を忘れている”のかどうかを。
にしたって、なんで結局こんな方法になるんだろう。
レッドの目の前で服を脱いで見せて、俺がレッドの事を嫌がってないって確かめるだなんて……。ああ、本当に憂鬱だ。俺なんでこんな事してるんだろう。
こういうのは自分がやっても萌えないのに……。
「で……では……脱いで、貰おうか」
ぎこちないレッドの声に押されて、俺は頷く。
逃げられるもんなら逃げたいけど、今はそんな事は出来ない。
ブラックの事を思うなら、ここでまごまごしている訳には行かなかった。
なんとかして、レッドを認めさせなくては。俺は靴を舐める行為ぐらいなんてことないと思うレベルのプライドの低さなんだから、レッドの前で全裸になるんだってきっと出来るはず。俺は男だ。他人に見せて恥ずかしい所なんて何も無いんだから。
大体、記憶を失ってた頃はレッドと一緒に風呂に入ってたじゃないか。
部屋で自分一人が全裸になる事ぐらいがなんだっての。
「じゃあ……脱ぎ、ます……」
ああもう、うだうだした返事の自分が鬱陶しい。
脱ごうと決めた癖になんだこの思いきりのなさは。
ブラックのためにレッドの誤解を解く手がかりを掴もうと決めたんだから、ここで踏んばらなきゃそれこそ男が廃る。
息を吸って気合を入れると、俺はまず上着を脱ぐことにした。
「…………」
上着はいい。恥ずかしがるような部分は無いからな。
散々確認したけど、ブラックのイタズラの痕が無いのは確認済みだ。
レッドもそこで俺が拒否をするとは考えていなかったのか、当然のような顔をして俺がシャツを脱いで地面に置く様を眺めていた。
色々ツッコミたいが、まあ、仕方ない。約束したのは俺だし……。
………………。
ええいもう、色々考えるよりさっさと脱いで済ませちまった方が良いよな!
どうせ俺はレッドに体を触られまくってるし、色んな所を見られてしまってるワケだし、今更恥ずかしがる事なんてないじゃないか。迷う事なんて無いぞ俺!
ブラックの為にも、ここはなんとしても切り抜けなければ。
そう思い自分を奮い立たせて、俺はズボンに手をかけると下着ごと一気にずりおろし、レッドの目の前で全裸になって見せた。
……しかしやっぱり恥ずかしかったので、ズボンを足から抜き出すまでは体を折り曲げて、出来るだけ急所が見えないようにしてしまったが……。
「ングッ……」
そんな俺の様子を見て、レッドはなんだか変な声を出す。
なんだろう。怒ったんだろうか。それとも、俺が正気に戻っていると見破られたとか……。どうしようめっちゃレッドを見るのが怖い。これで冷たい目でも向けられてたらどうしよう。脱ぎ損どころの話じゃないぞ。でも、俺に「もう良い」とか言って来ないなら、まだ大丈夫なのかな。
どういう目で見られても結局怖いのは変わりがないけど、それでもここまで脱いでしまった以上、もう後は勇気を出して頭を上げるしかないんだ。
……ああもう、今更だけどなんでこんなアホみたいな事になっちゃったんだろう。
もうちょっと良い案が有ったんじゃないのかなと内心落ち込みつつ、顔を上げる。
――と、
「っ……」
ソファに座ったレッドの表情が、明らかに先程と違うのを見て、俺は思わず言葉を失ってしまった。だって、その顔は尋常じゃ無かったからだ。
目を爛々とさせて俺を凝視しているレッドのその顔は、その……まるで……。
なんていうか、こう言う事言うと見も蓋も無いんだけど……エロ本を見て興奮する顔と言うか……とにかく、普通の顔じゃなくて。
そりゃ、レッドは俺の事が好き……らしいし……記憶が無い時に散々えっちな事もして来たんだから、俺に対してブラックと同じような気持ちを持ってる事は知ってる。正常になった今の俺からすれば、何で俺なんだと言う気持ちは拭えないが。
いやだって、変態のブラックや義理人情に厚くてちょっと変なクロウは解るけどさ、レッドは普通のイケメンじゃん。普通にしてたら絶対女にモテるじゃん。
俺からすると、俺に欲情する意味が解らないんだよ。
今じゃいけ好かない奴だけど、初対面の時は本当にどっかの冒険漫画の勇者みたいだなあって思ったし、家柄も顔も性格も、ブラックの事が絡みさえしなければ普通に完璧なんだ。あまり褒めたくないが、真実だから仕方ない。
とにかく。そんなレッドであれば、恋人なんてよりどりみどりだろうに。
なのに俺に執着するなんて、おかしい。だから、凄く違和感があるんだよ。
俺に心を動かされた事が有ったのだとしても、レッドはブラックを物凄く憎んでるんだし、俺がその仇の恋人だと知ったら普通は手を引くだろう。レッドのあの苛烈な怒りようからすると、ブラックと俺を両方滅そうとしてもおかしくなかったはずだ。
それなのに、レッドは俺を何度も攫おうとした。
攫って、仇の恋人なのに優しくしようとして、自分の物にしようとした。
…………そんなの、絶対変じゃん。
良く知りもしない仇の連れ合いを奪うのに躍起になっているなんて、仇討ちをすると言う目的からは大きく外れてるじゃないか。ブラックを殺すよりも俺を手に入れる事を優先するなんて、俺からすれば意味が解らない行動でしかない。
もしこれが計画の一端だったとしても、懐柔して自分の手の内に引き入れるより、殺してしまった方がずっと簡単じゃないか。
……まあそれも、現実的な計画じゃないけど……。
ブラックは俺に優しいが、だからと言って俺がレッドに人質に取られて怯むような弱気なオッサンじゃない。何が有益で無益かをちゃんと判断できる。必要ならば、俺を一度殺させもするだろう。俺が死なないのは知ってる訳だしな。
とにかく、自分に非が出来るような展開にはしないはず。
レッドだって、ブラックが賢い奴である事は解ってるはずだ。
こんな事をして俺を引きいれたって、レッドには利益が無いってのに。
ま、まあ、だからって、ブラックが俺をないがしろにする訳じゃないけどな。
俺を殺せば、ブラックも一応怒るぐらいはしてくれると……思うし……。
そ、それは置いといて。
結局、俺を追いかけるだけの理由が無いんだ。だったらもう、レッドが俺を攫った理由は「本当に俺を手に入れたかっただけ」になるんだけど、俺には何故そうなるのかが本当に理解出来なくて……。
だって俺、レッドにしてみれば最初から敵の恋人で接点少ないじゃん。
それどころか、憎い奴を大事に想ってる鬱陶しい奴だと思われてもおかしくない。
なのに、あの【工場】でも、ここでも、俺にずっと優しくして……今も、興奮してますって言う顔を見せつけて来るなんて、絶対おかしい。
レッドが俺に執着して恋人にしたいと思っている理由は、計画の為の「フリ」じゃないのかよ。ブラックに対しての対抗心からじゃないのかよ。なんでこんな事で一々興奮するんだよお前は。
どうしてブラックの敵なら敵だって、徹底してくれないんだよ。
何故俺に執着するんだ。自分で“支配”して記憶を奪ったくせに、なんで俺を一から育てるような真似をしたんだ。
一度でも殺していれば……俺だって、アンタを完全な敵だって思いきれたのに。
「…………っ」
だから、こんな風に欲情したような顔をされると、頭が掻き乱される。
俺の中のレッドの認識と、レッドが俺にする事が酷い差を生じさせて、相手の事を甘く見ようとしてしまうんだ。それじゃ駄目なのに。ブラックのためなら、レッドを完全に叩きのめす事も考えなきゃ行けないのに。
今だって、ブラックの為にレッドを騙そうと思って……恥も外聞も無く、全裸になってレッドに見せつけているってのに俺は……素直に欲情したような顔を見せるレッドの事を、見下し嘲笑う事も出来ずに……顔が、熱くなってしまっていた。
「ぅ……あ、あんまり、見ないで……」
こんなのおかしい。変だよ。
大嫌いな奴に裸を見られたって、何とも思わないだろ。むしろ、弱みを握られたかも知れないと思って警戒するのが普通だ。
それなのに、恥ずかしがってるだなんて。
でもそう思えば思うほど顔が熱くなってしまって、体も火照って来る。
思わず股間を隠してしまったけど、それでもレッドは何も言わずに、俺の事を食い入るような目で凝視していた。
ブラックみたいな、獰猛な目つきで。
「ツカサ……っ。手……手を、外せ」
「う、うぅ……」
「悪いようにはしない、本当だ」
近付いてきたレッドは、優しく手首を握って俺の手を退けようとする。
いつもなら「ふざけるな!」と手を叩き落としてる所だろうに、こんな恥ずかしい恰好の俺を、跪いたレッドが見上げているんだと思うと、体が動かなくて。
レッドの手がゆっくりと俺の手の覆いを剥いで行くのを、見守るしかない。
だけどもう顔は痛いくらいに熱くて、屈辱とかそう言うんじゃなく、ただただ恥ずかしくて。……ああ、そう言えば、風呂場以外の明るい場所で裸になって、レッドにじっくりと観察されるのはこれが初めてだ。そう思うと、余計に目頭が熱くなってしまって涙が出そうだった。
ブラックやクロウに観察されるのも、未だに恥ずかしいってのに。
だけど、レッドに見られるのは自分と年が近い美形という事も相まって、ブラック達に裸を観察される時の恥ずかしさとは違う感情が湧きあがってくる。
自分と年が近い奴に興奮されてるという事が、こんなに辛いと思わなかった。妙な悔しさと生々しさが一気に襲ってきて、逃げ出したくてたまらなくなる。
もしかして、俺にも一応プライドがあったのだろうか。
同年代に興奮されているのを侮られていると感じて、悔しいんだろうか。
そう思うと一層自分が恥ずかしくて、俺は視界が水で歪むのを止めようと目を細め必死にその事に耐えるしかなかった。
だけどレッドは、そんな俺の事などお構いなしに、露わになった股間を文字通り「じっくり」と観察して、時折無意識に息を吹きかけて来る。
「明るい場所で改めて見ると……つ、ツカサのココは、本当に幼いな……」
「ぅ……」
「お前は十七歳と言っていたが……本当、なのか……?」
「わ……わるいかよ……!」
もう何だか訳が解らなくなってきて、思わず素でそう答えてしまう。
だけどレッドはその答えの何に興奮したのか、俺の股間や太腿に熱い息を思いきり吹きかけてきやがった。
「やはり、信じられないな……。十七歳なんて、もう大人の体格でしかないのに……ツカサはどこもかしこも子供のままで毛も生えていない……」
「……そんなこと、言うな……!」
「あっ……そ、その……褒めてるんだぞ? こんなに無垢な体をした十七歳なんて、まずこの世界では見つからない。ツカサは特別なんだ」
「嬉しくない……」
ブラックとかにも似たような事を言われたけど、全然嬉しくないんですけど。
っていうかさあもう、気にしてるのに毛が無い事を強調しないでくれる!?
それ喜ばしいコトじゃねーから! 周囲にモジャモジャしたオッサンがいるから、尚更コンプレックスなんだからな!!
思わず顔を顰めてレッドを睨むと、相手は苦笑した。
「ああ、すまんすまん。そうだな、ツカサは男の子だから嫌だよな」
「…………」
「そう怒るな。せっかく……その……記憶も、少し戻ったんだし……」
「…………まだ不安?」
不機嫌な顔のままで聞くと、レッドは確かに「不安だ」というような顔をしていたが、緩く首を振って俺の手を握った。
「……いや、もういい。ツカサは、俺を恋人だと思ってくれるんだろう?」
頷くと、レッドは立ち上がって俺の事をぎゅっと抱きしめて来た。
裸の胸に服が擦れて、少しびくついてしまう。だけどそれに構わず、レッドは俺の髪に顔を埋めて背中に手を這わせた。
「なら、いい。……お前がそう思って一緒に居てくれるなら……それで満足だ」
先程の疑いを持ったような声は何処へ行ったのか、とても嬉しそうだ。
……一応は、俺の事を認めてくれたって事なのかな。
記憶を取り戻してもこんな風に素直に抱かれているから、ブラックの事を思い出していないと判断してくれたんだろうか。それなら、ありがたいんだけど……。
「…………」
でも、俺、やっぱりどっかおかしいのかも知れない。
だって……こんな風に触られて、背中も撫で回されて、その事には確かに嫌悪感を感じているはずなのに……――
確かに、レッドの手に背筋が痺れる感覚を感じていたんだから。
→
※近所でヤバい騒ぎが有って更新が遅れました…すみません…_| ̄|○
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