1,134 / 1,264
最果村ベルカシェット、永遠の絆を紡ぐ物編
48.貴方が心を揺さぶる限り1
しおりを挟む◆
「っ、いだっ!」
「もーツカサ君、動いちゃ駄目だってばっ! そんなに動いたら布がズレて丸出しの直肉に貼り付いちゃうよ?」
「じっ、じかにくって言うな……」
地下から焦げた匂いが漂う、レッドの別荘の居間。
そこで俺は大人しくソファに座り、ブラックに甲斐甲斐しく手当てをされていた。
正直自分一人でも出来るんだが、こればかりは仕方がない。機嫌が悪いブラックを宥めるには、こうして身を任せる他なかったのである。
……まあ、かなり痛むしあんまり体を動かせなかったから、助かるんだけどさ。
でも一人で出来るのに、人形みたいにアレコレやられるってのは慣れないなぁ。
「まったくもう、無茶するんだから……。アレでツカサ君が死んじゃってたら、余計に事態がこじれてたんだからね!? そんで何をするかと思ったら、よりにもよってあんなクソガキを……」
ブツブツと言いつつも、ブラックは俺の頬や額に柔らかい布を張り付けたり、体の様々な所に広がっている醜い火傷の痕を包帯で隠していく。
下着一丁と言う姿で格好が付かなかったが、まあ全身が酷いザマなんだから、裸で治療されるのは仕方ない。指輪のおかげでなんとか耐えられたけど、なんかもう言い表すのも酷い程の状態だもんな……。
たぶん、俺が黒曜の使者だからって事も有るんだろうけど、この状態だと普通なら全治何か月ってレベルの大火傷だ。ピンシャンしてる方がおかしいだろう。
……そのおかしい状態を何も気にせずに受け入れてる俺もどうかと思うが、まあ異世界だし、そんな所を気にする方がおかしいのかも知れない。良く考えたら俺の世界とは色んな仕組みが違う訳だしな……火傷だって“異世界火傷”なんだろう。
つーか普通ならエグい大火傷があちこちに出来る状態なら、俺の喉も熱でダメになってたっておかしくなかったんだよな。うん、やっぱ異世界火傷だコレ。
色々思う所は有るが、まあ、動けないって訳じゃないのは良かったかな。
「にしても……ツカサ君の火傷、治る気配が無いね」
「ん?」
「左腕の火傷もそうだけど……ツカサ君の火傷、他の傷と違って全然治ってる気配がないんだよ。他の怪我だったら、もう傷が変化し始めても良い頃なのにさ」
俺の腕をぐるぐると包帯で巻きながら、ブラックはブツブツ呟く。
よく解らないけど、そういうものなのだろうか。
「治ってない……ようにみえる?」
問いかけると、ブラックは少々ヒゲが濃くなった顔で眉根を寄せながら頷いた。
「うん……。ずっと前から気になってたんだけど……ツカサ君ってさ、基本的に酷い怪我をしても三日四日で完全に完治して、傷痕すらない状態になっちゃうでしょ? 僕のキスの痕だってすぐ消えちゃうし」
「う゛……」
「それなのに、あのクソガキの火傷の痕はずっと残ってた。何日経っても消えずに、ツカサ君の体にずっと残ってて……それが嫌で嫌で仕方なかったんだけど、よくよく考えると……これ、やっぱりグリモアの力なのかなって思って」
「えっ……グリモアの……?」
思わずマヌケ面で聞き返してしまったが、真剣な表情のブラックは俺の腕の包帯をじっと見つめて、ゾリゾリと顎を擦る。
その様はいつになく真面目な表情で……その……何故かどきっとしてしまったが、いつも以上に小汚い感じにヒゲが伸びてるってのに何を考えてるんだ俺は。
そんな場合じゃないだろうと堪えると、ブラックは冷静な眼差しで前からある火傷の痕をじぃっと見やった。
「……その、前にあのキュウマって奴が『グリモアだけがツカサ君を殺せる』って言ってたけどさ……もしかして、こう言う事なのかなと……」
「こう言う事って……グリモアが付けた傷は完治しないってこと……?」
完治しない傷を与えられるから、累積ダメージで殺せるみたいな話なのかな。
いやでも、ブラックがつけたキスマークはすぐに消えたって言ってたし、そういう事でもないような気が……。うーん……どういう事だ?
よく解らなくなってきて首を傾げると、ブラックは親指でヒゲを撫でた。
「まだ確かな事は言えないけど……グリモアの術だけでツカサ君が傷付くって訳じゃないんじゃないかな……。何でそう思うのかは、説明できないけど……」
「なに、また隠し事?」
「そ、そーゆーワケじゃ無いんだけど……」
さっきまで確信めいた口調だったのに、すぐに顔が崩れる。
やっぱり何か隠してるようだ。まあでも、それを聞いても俺は「そうなんだぁ」ってアホみたいな返し方しか出来ないしな。確信が持てるまで泳がせておこう。
「とにかく……ええと、で、結局ナニが言いたかったんだっけ?」
「ああ、えっとね……だから、この傷……もしかしたら治らないかもって……」
「…………」
あ、そっか。左腕にはずっと火傷の痕が残ってたんだから、この体中の包帯の下の傷だってこんな風に痛々しい痕になっちまうかもしれないのか……。
そうなると、俺ってば歴戦の戦士みたい……とは行かないか。
俺程度だと女の子に更にモテなくなっちゃうのかな、それは嫌だな。っていうか、それより……ブラックは、どう思うんだろう。
…………もしかしたら……嫌、かな。
服脱がせて、こんな酷い体見たら……もう、俺のこと、触れたくなくなるのかな。
……ブラックはえっちな事好きだもんな。レッドの炎で負った火傷だらけになった俺なんて、見たらイライラするから興味を失くすかもしれない。
…………それは……そう、なったら……。
「……治らなかったら……いや……か……?」
「え?」
あ……や、やだ、俺、何言ってんだ。
そんな別に、ブラックのこと疑う訳じゃないし、その、俺達ちゃんと……指輪とかで、約束……したし……。でも、その、許容範囲ってあるじゃん。
ブラックは俺の肌がどうのこうのって言ってたし、だから、もしかしたら……。
「あっ、つ、ツカサ君なに泣いてるの!? 僕なんかした!?」
「えっ!? うっ、うわあ! ちっ、違うっ泣いてないっこれは違うから!」
わーっ馬鹿馬鹿馬鹿俺の馬鹿野郎!!
なんでポロッと行っちゃうんだよ俺は乙女か!!
違うっ、こんなこれ見よがしに泣いて見せたいんじゃないんだってば!
ああもう馬鹿、俺の馬鹿、クソ野郎!!
「……そっか。ツカサ君、そっかぁ……あは……馬鹿だなぁ……」
「うっ、うぅっ!?」
顔を見せないように慌てて体を捻ろうとした俺に、ブラックは変な声を出しながら圧し掛かって来る。そうなると、もう、動けなくて。
怪我人になんて事してんだと喚きそうになったけど、その前にブラックは俺の頬に手をやって強引に自分の方を向かせると、口に軽くキスをした。
「っ……!!」
思わず、言葉を失う。
じわじわと目の奥が熱くなって、頬まで熱で痛くなってきた。
それがどう言うことか解ってしまっている俺は、キスくらいで簡単に赤くなってしまう自分が恥ずかしくて戦慄いてしまうが、ブラックは嬉しそうな顔をしながら顔を突き合わせて来た。
「ツカサ君たら、お馬鹿さんで可愛いなぁ……。僕がこの程度の傷でツカサ君のこと手放すと思う……? そんなの僕が許さないよ……。ツカサ君は僕の婚約者なんだ。僕と永遠の愛を誓い合ったんだよ? その約束は、もう誰にも破る事なんて出来ないんだからね…………ふふっ……ツカサ君がどんなになっても、ツカサ君は、もう僕のモノなんだ。こんな傷、僕がいつか上書きしてあげる……だから、問題ないよ……」
「っ……ん、っ……」
また、キスをされる。
今度は唇を舌でなぞられて、合わせ目にそのぬめる舌を差し込まれた。
「んぅ……ぅ……」
こんな所で、こんなに長くキスをするなんて、とんでもない。
ブラックを引き剥がそうと服を掴むけど、縋っていると勘違いされたのかより深く舌を差し込まれて俺は思わずのけぞってしまった。
「っふ……ぅ、ん……んん……っ!」
「はぁ……は……ふ……」
生暖かい舌が、歯列をなぞって上顎を擽る。
恥ずかしい。舌で口の中を触れられるたびに、体が反応してしまう。
何度もしてるのに、ブラックに深いキスをされると、何度でもこうやって敏感に体が動いてしまって。……恥ずかしい。だけど、心が疼いて、熱くて。
ブラックに抱き寄せられて、深く貪られる。酷く肌に触るヒゲが痛くてくすぐったくて、だけどそれ以上に体の芯が熱くなるようでたまらなかった。
でも、これは。これは……いつもとは、違って。
あんな、恋人に向けてか所有物に向けてかも分からないような台詞を言われたのに……心の中が、あったかくて。とても……安心して。
「ぶら、っく……ん……ぅ……っう……」
「ツカサ君……っ、はぁっ、あ……好き……好きだよ……絶対離さないからね……」
好きだと言われる度に、体が熱くなる。
触れられるところ全てが痺れて、だけどそれは痛みではない甘い感覚で。
今さっきまでの苦痛が、全部消えて行くみたいだった。
「んっ、ん……ツカサ君……っ、ん……ぷはっ……あ、あはっ、あは……ぼ、僕、勃っちゃった……ね、セックスしよ……?」
「ん゛ん!? ばっ、馬鹿! 今そんな場合じゃないだろ!?」
「えぇ~。あのクソガキの事なんて、どうでもいいじゃん。むしろ地下室に閉じ込めてもう二度と出て来られないようにしよ? ねっ、僕達は邪魔者がいなくなって幸せになれるし、あのクソガキも始末で来て一石二鳥だよっ!」
「バカー!!」
この外道っ、おたんちん!!
せっかくいい雰囲気になったと思ったら何とんでもない事いってんだよお前!
そっ、そうだ。俺はまだやらなきゃ行けないコトが有るんだ、ブラックのスケベ心に流されてる訳には行かない。早く脱出しなければ!!
「ああんツカサ君暴れちゃだめだよぉ」
「阿呆! こういうのはちゃんとケア……えっと、最後まで付き合わなきゃいけないんだってば! こんな所でイチャついてる場合じゃないんだって……」
「……またあのガキの所にいくの?」
俺の次の行動を読み取ってか、ブラックが不機嫌そうな顔をする。
そりゃ、まあ、俺は「レッドの話を聞く」って言ったんだし、そこはやらないと。
ブラックにもそれは話したはずなんだけどな……。
とは言え、ブラックが不機嫌になるのも仕方がないとは思う訳で。
「…………お、終わったら……アンタのこと構うから……」
「いーや、まだ足りないね。ツカサ君は、僕が怒るって言ってもあのクソガキの所に行っちゃったんだから、責任とって貰わないと」
「責任って……どうすりゃいいんだよ」
訊くと、ブラックは意地の悪い猫のように目を細めて笑って、鼻がくっつくほど顔を近付けて俺をじいっと見つめた。
「……ここを離れる事になったら、僕の気の済むまで言う通りにして貰うよ。絶対にイヤとは言わせない。それを約束できるんだったら……我慢してあげる」
「…………わかった」
どうせ、了承させられるんだ。悩んだって無駄だろう。
……何を「イヤ」と言わせないのかが凄く気になったけど……どうせ拒否したって酷い事になるんだから、今の内から殊勝にしておくほうが良いだろう。
嫌な予感しかしないけど、もう俺にはどうする事も出来なかった。
ブラックの機嫌を取らない限りは、レッドのことを気にする事も難しいんだから。
「ほんとだよ。約束だからね」
「わ、解ってるってば……。じゃあ、ちょっと行ってくる」
ブラックを押しのけると、思ったよりも簡単に退いてくれる。
その素直さがちょっと不気味だったけど、俺はゆっくりと立ち上がった。
……うん、なんとか歩けるみたいだ。
「ツカサ君、襲われそうになったらすぐに叫ぶんだよ。それか指輪に祈るんだよ」
「ええいもうそういうのは心配ないってば!」
ったく、一々スケベな方向にばっかり考えやがって。
今のレッドはそういう事は出来ないから大丈夫だってば。
だって、アイツ……落ち着いてからはずっと、地下室に籠って、燃え残ってる物を調べてるんだから。
「あんまり部屋とか散らかすなよ」
「はぁーい」
信用出来ないなぁ……。
まあでも、いつまでもこうしていても仕方ない。
とにかく俺は、約束を果たしに行かなければ。
気を取り直してそう決心すると、俺は服を着てレッドの元へと向かったのだった。
→
23
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる